表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/30

27.町へ

「……ここまで来れば大丈夫だ」


 先頭を走っていた男が振り返りながらそう言って来る。村から逃げ出してから2時間近くは走り続けたか。男も一緒にいる女も辛そうだ。特に俺が担いでいるメリィもだ。


 ゾンビに噛まれて半ば食いちぎられた腕は、応急処置はしてあるが、このままだと切り落とさないといけなくなる。そうならないためには上位の薬がいるのだが、今は手持ちに無い。早いところ見つけなければ。


「それで、あなたたちは依頼を受けて来たの?」


「俺は違う。依頼を受けたのは逃げた男たちだ。彼女はそいつらに見捨てられた」


 別に今嘘をついても仕方がないから正直に話す。その間メリィを楽な体勢にするため寝転ばせる。顔が青いな。血の流しすぎか。


「その子、早く治療しないとまずいわね。ても、その傷を治す薬なんて……」


「……ああ、僕たちには無い。ただでさえみんな傷だらけだからな」


 2人はメリィを見てそう呟く。


「お前たちはあの村の人間か?」


 俺が尋ねると、2人は顔を見合わせてから頷く。男の方の名前はセリスというらしく、女の方はラディナというらしい。


 2人の話を聞くと、ゾンビは本当に突然現れたようだ。そいつらが現れるまでは普通の村も血の匂いが蔓延する死の村へと変わったらしい。


 中には腕利きもいたようだが、数の差には勝てずに殺されて奴らの仲間になったようだ。ただ、その腕利きたちが時間を稼いだお陰で村人の中で戦えなかった者たちは逃げる事が出来たようだ。


「僕たちはもう少しで見えて来る町でお世話になっているんだ。バーンド伯爵の町でね」


 村から逃げて来た彼らを受け入れたバーンド伯爵が、私兵を各村へと送ったらしい。その結果、いくつもの村がゾンビに襲われた事を知り、冒険者へと依頼したようだ。


「……ううっ……こ、こは?」


 そんな事を話していると、メリィが目を覚ました。額を汗で濡らして痛みで辛そうだが、意識はしっかりとしていた。


「大丈夫か? ……というのはおかしいけど、気分はどうだ?」


「……最悪ね。痛みと怠さで吐きそうよ」


 メリィはそう言うと、左腕を支えにして体を起こそうとする。俺が側で体を持ってあげると、ありがとう、とお礼を言い、腰のポーチを探り始めた。そして、取り出したのはエメラルド色した液体が入った瓶だった。


 そういえば彼女のポーチを漁るのを忘れていたな。メリィは包帯を剥がして、エメラルド色した液体、ポーションを振りかけた。


 少ししみるのか顔を歪ませるメリィ。しかし、少しずつ繋がる腕を見ればそれは些細な事だ。側で見ていたセリスたちは凄いと呟く。これは失敗したな。逃げるのに必死で彼女のポーチから探していなかった。早く探していたら、もっと前に治せていたのに。


「……ふぅ、これで大丈夫だわ。依頼で1本だけ貰っていて助かったわ」


 依頼というのはゾンビの方ではなくて、殺しの方だろうな。メリィは治った右腕を動かして問題ないかを確かめている。ただ、傷は治ったが、流した血が戻るわけではない。顔色が真っ青なのは変わらない。


「彼女の傷が治ったのなら進みましょう。ここで休むより町についてからの方が安全だし」


 ラディナの言葉にみんな頷く。森の中にいるよりかは断然安全だろう。血が無くまだふらつくメリィを支えて、森を抜ける。


 今目指している町は森を抜けたら直ぐに見つける事が出来るという。森ももうすぐに抜けるというからあと少しだろう。


 しばらく歩くと、話していた通り森が途切れて街道が見えてきた。この先には町が見えるという。街道が見えた事に足が速くなる2人を止める事は出来なかった。


 ……すぐに止まる事になってしまったが。


 2人は街道を出て町を見た瞬間止まってしまった。俺とメリィも気になったので直ぐに2人の元へ行き、2人の視線の先を見ると、確かに目指していた町があった。ただ普通の町と違っていたのだ。それは……大量のゾンビに囲まれている事だった。


 ここからでもわかるほどの量が町を囲う壁へと集まっている。門は当然閉められており、壁の上から戦える者が近寄らせないために攻撃をしているけど、数が圧倒的に違い過ぎる。


「……な、なんだよあれ……」


 かなりの量のゾンビに震える2人。それも仕方ない。メリィも固まってしまっている。


 だけど、これで確信した事がある。あのゾンビたちを操っている者がいる事を。こんな量のゾンビ、自然に発生するわけがないからな。


「メリィ、2人を頼む」


「えっ? あ、あなたはどうするの?」


「町に入ってみる」


 この元凶をどうにかしないとな。


 ◇◇◇


「……このような事は予定に無かったはずでは?」


「おや、ライハルト様。来ていらしたのですな」


「質問に答えろ」


「ライハルト様も見たでしょう。我がゾンビたちが次々と敵を倒し仲間を増やしていくのを。あのランクの高い冒険者ですらこの数には勝てなかった。これなら、町1つ襲っても負ける事はないと確信したのですよ」


「こんな事をすれば国が黙っていないぞ。今は隠れて少しずつ兵を増やすのが優先だと、あのお方から言われていたはずだが?」


「大丈夫ですよ。この町を落としたら直ぐに別の町へと向かいます。国が動く時にはもう止められなくなっているでしょう!」


「……忠告はしたぞ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ