24.ローブの女
「……おいおい、なんであいつらが歩いているんだよ?」
自分勝手な主張しかしないイかれた男を殴って気絶させた翌日。イかれた男は間違いなくこの街の衛兵に連れて行かれたはずなのだが、なぜか堂々と街の真ん中を歩いていた。
奴らの事は噂になっているのは知っている、街の住民たちも知っているのも知っている。宿屋でも話題になっていたからな。
どういう理由で釈放されたかは知らないが、関わらないのが1番だ。さっさとこの街を出よう。少し情報を集めたかったが、別に次の街でも構わない。
俺はローブのフードを深く被り顔を見られないように道の端を歩く。昨日も見られてはいないだろうけど、念のためだ。
そのまま道の端を歩いて男たちが通り過ぎるのを待つ。チラッとそちらの方を見ると、昨日と変わった様子もなく歩く男に、その男に纏わりつく女たち。昨日の事はまるで忘れたかのようだ。
ただ、少し離れた位置にローブを羽織った女はジッと俺を見ていた……は? いくら気配を消していないからといっても、ここまでしっかりと見つかるほど、手は抜いてはいないはずだが、それに、昨日だって男を蹴った時だって仮面をつけていたし。
気のせいだと思い再び歩き出すと、後ろで男たちと話す女の声が聞こえてくる。聞こえてくるのは、少し用事が出来た、や、夜には戻る、など。嫌な予感しかしない。
俺は無視して歩いて行くと
「ちょっと待って」
と、予想通りに話しかけられた。やっぱり気づかれていたのかよ。ここまで来たら諦めるしかないな。振り返るとそこには男の仲間の1人のローブを羽織った女が立っていた。
昨日は離れてていてローブを羽織っていたため気が付かなかったが、昨日の仮面の男が俺だとわかった理由に合点がいった。
「魔眼持ちか」
「……知っているのね」
俺の言葉に女は右目を隠す。彼女は左右の目の色が違っていたのだ。左目は蒼色なのに右目が金色だった。女は俺の手を掴んで路地裏へと引っ張って行く。
そして、ある程度進んだところで手を離すと、被っていたフードを脱いだ。現れたのは銀髪の女性だった。歳は俺の2つか3つ上だろう。
「突然ごめんなさい。どうしてもレイルを倒したあなたと話がしたくて」
「レイル?」
突然知らない奴の名前が出て来たぞ。誰だ、レイルって? 不思議に思っていると、女は教えてくれたが、あのイかれた男の事だった。
「私の名前はメリィ。レイルたちと旅をしているの。私があなたに気が付いたのは、既に気づいていると思うけど、この目のおかげ。私の目は魔力を見る事が出来るの。だから、昨日お店にいた仮面の男とあなたが同じ魔力の色を持っているのに気が付いて話しかけさせてもらったのよ」
魔眼持ち。現れるのはかなり低い確率だが、目に特殊な力を持った者の事を言う。1番有名なのが破壊王だな。破滅の魔眼という視線を向けられるだけで、向けられた先のものが破壊されるというとんでもない魔眼持ちが昔いたらしい。
最後は視界を塞ぐ事で捕まえたらしいけど、その方法が死体を壁にするという残酷な方法で。その破壊王は当然死刑されたが、その方法も中々エグかったはずだ。
確か、誰も目を合わせたくないから、目隠しをして、両手両足を縛り、目隠しの上から二度と破滅の魔眼が現れないようにと目を抉り取り、潰したんだっけな。
それから、魔眼持ちは色々と忌避されている。この女も色々とあったのだろう。だから、普段はフードで顔を隠しているのだと思う。
しかし、まさか俺の認識を阻害するマントを羽織った状態でも魔力は見えるなんてな。魔眼持ちが少ないから助かったが、もし現役の時にいたら死んでいたかもな。
「それで俺に何の用だ。昨日のお礼参りか?」
「ち、違うわよ。ただ、お礼が言いたかったのと、少しお願いがあったの」
俺の言葉に慌てるメリィ。お礼はともかく、お願いって何だよ? 俺が訝しげに見ていると、まずはお礼を言ってきた。
「あなたが止めてくれなかったら、あの子の両親は殺されていたわ。本当にありがとう」
「そう思うなら、どうしてお前が止めなかった? 仲間のお前たちが止めればあんな事にはならなかったんじゃないのか?」
昨日の事を思い出して若干怒気を含めて言うと、メリィは体を縮こませる。だけど、俺から目を離す事は無かった。
「ごめんなさい。私も止めたいのだけど、レイルはあんなのだけど、かなりの実力を持っている。私が止めに入ったところで止められない。それに、私は反抗できない様にされているから」
そう言ってメリィが見せてきたのは左腕の甲にある紋章だった。これは……契約紋か。奴隷紋ほど縛られるものでは無いが、それでも内容次第ではかなり面倒なものになる。
まあ、契約紋に関しては契約する者同士、2人以上の同意がなければ発動しないが。しかし、また面倒なのに巻き込まれたな。




