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19.治療

「ほ〜ら、さっさと言ったお金額払って〜。払った人から治療していくから〜」


 間延びした口調で気怠そうにする女性。診てもらった人たちは払わなければ治療して貰えないのを知っているため、みんな黙って払っていく。


 そして払った者から魔法で治療をしていく。燃えるような赤い髪をしており、胸元はぱっくりと開き、すらりと細い足が見えるほどのスリットがはいっている真っ赤なドレスを着た女性。第5師団団長、メルカディエ・バルハラート。


 アルフレイド王国だけで無く、他国からも彼女に治療を頼みに来るほどの腕前を持つ世界最高峰の治療師だ。彼女が考案した『オペ』と言う人体を切り、体内の悪くなった箇所を直接切るという今までの常識ではあり得ない方法を発見した人だ。


 初めは悪魔や魔女と言われていたが、もう助かる見込みのないと言われた他国の王を治療してから見方が変わった。当然、その国も反発したのだが


「どうせ死ぬ命、私が有効に使ってあげるよ〜」


 とか、威圧しながら言ったとか。あいつの武勇伝の1つだ。そのおかげで今でも現役で王をやっているとか。


 それから、彼女に対する見方が変わって、アルフレイド陛下が、かなりの大金を払って師団長として雇ったらしい。それが10年ほど前って話だ。


 メルカディエは並ぶ怪我人たちを手でポンと叩くだけで、傷を治していく。普通ではあり得ないほどの速さだが、現実に目の前で起きている。


 そして30分もしない内に屋敷にいた怪我人を全て治療してしまった。大小関わらずに。治療してもらった人たちはメルカディエにそれぞれ感謝を述べて屋敷から出ていく。


 怪我が治った人たちが屋敷から出て、部屋の中はかなり広く感じる中、メルカディエは背中を伸ばす。背中を伸ばすと当然胸を強調するように逸らすため、男たちは胸に釘付けに。


 見られている事に気が付いているメルカディエは男たちを挑発するようにソファに座り大きく足を組む。何をしているんだあいつは。


「わ、わわぁ〜、とても綺麗な人ですね〜!」


 メルカディエの悩ましい格好を見て目をキラキラとさせるメルル。確かにスタイルは良くて容姿も良いからな。見惚れるのはわかるけど、あれを憧れちゃあ駄目だからな。メルルがあんな格好するのは想像出来ないけど。


 そして、メルルのそんな声が聞こえたのか、こちらを見て来るメルカディエ。声の元であるメルルを見てから、隣に立つ俺を見る。


 俺の体を下から上までくまなくじっくりと観ると、ニヤリと微笑む。そしてそのままカツカツとこちらに歩いて来るメルカディエ。


「あなた、可愛いわね。連れて帰りたいぐらいだわ!」


 メルカディエはメルルの頭を優しく一撫でしてからギュッと強く抱きしめる。メルルはメルカディエの大きな胸に顔を埋める形になり、ジタバタとしていた。何してるんだお前らは。


 そして満足したのか物凄い笑顔でメルルを離すメルカディエ。メルルは胸に鼻も口も押さえられて呼吸が出来なかったようで、息を荒げている。少しして落ち着くと俺の後ろに隠れてしまった。


 そういえば、治療の時は平等だが、平時の時は可愛い女の子には目が無かったな。こいつの屋敷は全員が女で愛人という噂を聞いた事があるぐらいだからな。


「あらあら、逃げちゃった。少しやり過ぎちゃったわね。でも、あなたの体所々に歪みがあるわね。診てあげるから来なさい」


 ……メルカディエの言っている事は本当だろう。奴隷だった時の傷が体の中では残っているのか。メルルは不安そうに俺を見上げて来るが、俺は微笑みながら大丈夫だと思わせるように優しく頭を撫でる。


 恐る恐る俺の背中から出て来たメルルは、律儀にメルカディエに頭を下げる。メルカディエは嬉しそうにメルルを撫でながらも、じっくりとメルルの体を観察していく。


 気がつけば、メルシアさんたちも側にいて心配そうに見守っていた……グスタフお前その顔は……いや、やめておこう。関わるとこちらも巻き込まれる。俺はグスタフの腫れた左頬を無視してメルルたちの方を見る。


 メルカディエはメルルを診ながら体を触っていく。メルルはそれを擽ったそうにするが真剣な表情を浮かべているメルカディエを見ると、止める気にはならない。普段の姿で触っていたら変態にしか見えないが。


「あちこちの骨が歪んでるね〜。今はまだ体が小さいから問題は出てないけど、これから大きくなっていけばそれが原因で体がうまく動かなくなるかもね。運動するなら余計に」


 メルカディエはそう言いながら魔法をかけていく。メルルは痛むのか涙を流しながらも必死に耐えていた。メルシアさんは心配そうに見守る中、20分ほどかけてようやくメルカディエの治療は終わる。


 メルカディエは疲れた様子が全くなく、治療をされたメルルは痛みで気を失ったのか、ぐったりとしてメルカディエに抱きかかえられている。


「メルル!」


 メルシアさんは治療が終わったのを見計らってメルルの元へと駆け寄る。


「1週間ほどは激しい運動は無しね。今は骨が緩い状態だからまた歪んでも知らないわよ」


「あ、ありがとうございます! お、お代は……」


「んー、そうね……彼から貰うから良いわ」


 メルシアさんに尋ねられたメルカディエは俺を見てそんな事を言いやがった。当然、メルシアさんは関係無い俺が出て来て戸惑いの表情を見せるが、メルカディエはそれを無視して俺の手を掴み、屋敷の別の部屋まで引っ張っていく。


 俺は何も言わずにされるがままメルカディエの後をついていく。後ろでメルシアさんが叫ぶが、メルカディエは聞く耳を持たずに隣の部屋の扉を開ける。


 どうやら、この部屋はメルカディエの部屋みたいだ。結構豪華な調度品が飾られていた。


「ふぅ、今日は良い日だわ〜。かわい子ちゃんを遠慮無しに触れるし、昔出て行った息子にも会えたしね」


「……そんな事言っているのはあんただけだぞ? まあ、久し振りだな、メルカディエ」


「ふふっ、久し振りね、ヘル」

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