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王太子殿下とフィリア様の婚約が発表された。


国中がお祝いムードで溢れるなか、私はとある令嬢のお茶会に招待されていた。


「とうとう王太子殿下の想いが通じたのですね」

「きっとフィリア様もきっかけを待っておられたのよ」

「あんなに愛されていて、本当にうらやましいですわ」


巷では、病に倒れたフィリア様とそれを治す為に奔走する殿下の恋物語で持ちきりだが、王宮に拘束されていた身とすれば、素直に祝福できない。複雑な気持ちでいると声をかけられた。


「エリザベス様とジルベルト様はどうなのですか?」


婚約してから幾度となくされてきた質問。それに対する私の答えはいつも決まっている。


「私とジルベルト様の婚約は王家の指示ですもの。素敵な恋物語なんてありませんわ」

「そうね学園でジルベルト様が誰かと恋に落ちたら喜んで身を引くわ」

「平民でも構いません。何ならお父様に頼んで家の養女になれば良いのよ」


取り巻きなんて作っていないけれど、万が一彼女達が「エリザベス様の為に…」「平民のクセに…」等とヒロインをいじめると処刑へ一直線なので、望んだ婚約ではないこと、ジルベルト様の恋を応援することを強調してきた。


幸いなことに、貴族は政略結婚が当たり前なので皆そんなものかと納得していた。


「でもあんなに素敵なのですもの、少しぐら「ありません」……そうですか」


危ない危ない。最近のお祝いムードの影響か、間もなくゲームが始まる影響か、みんな私とジルベルト様の色恋を期待している。この場にはいないが、若干一名明らかにおかしな言動をする者までいる。


とにかくこういう時は話題を変えるに限る。


「メアリーはどうなの?」


メアリーはカルセドニー子爵家の令嬢で攻略対象者の一人である騎士団長子息の幼なじみ兼婚約者。

彼女の結末はハッピーで修道院行き。ノーマル・バッドではそのまま結婚する。いじめの内容は同じなのに処刑しかない私とは偉い違いである。


「私も何もありませんわ。ジェームスは私より剣の稽古に夢中なの」

「まぁ、やはりお父様の後を追って騎士団に入られるのかしら」

「騎士団と言えば新しく入られた方をご存じ?」


上手い具合に、話題がそれていく。


彼女達は移り気で、騎士団の話をしていたかと思えば、街で話題のお店の話になり、幾つかの話題を経て今は初恋について話している。


「メアリーはジェームス様が初恋なの?」


ちょうど良い機会なのでメアリーに話を振ってみる。他のゲームキャラ達がゲーム通りなのか気になっていたのだ。


確か騎士団長子息ルートの内容は、こんな感じだったはず。


『騎士団長子息ジェームスとメアリーは幼なじみで幼い頃から婚約している。

メアリーはジェームスを愛していたが、幼い頃から共にいるメアリーをジェームスは妹以上に見れないでいた。

そんな中、騎士団長である父と自分との実力差に悩み、周囲からの団長の息子なのだからというプレッシャーに押し潰されようとしていたジェームスがヒロインと出合い、「あなたはあなたでいいんですよ」と言うヒロインに心救われ恋に落ちる。

幼い頃からジェームスを愛していたメアリーは、ジェームスを奪ったヒロインを憎み、妨害(いじめ)を始める。』


さて、メアリーはやっぱりジェームスが好きなのかな?


「…はい」


メアリーは顔を真っ赤にさせ恥ずかしそうに頷いた。


「まぁ、好きな方と婚約なんてうらやましいですわ。ジェームス様もやはり同じ気持ちですの?」


意地悪な質問だとは思うけど許してほしい。ジェームスとの関係が知りたいのだ。


「いえ、ジェームスの気持ちはわかりません」


ちょっと寂しそうに答えるメアリーに心が痛んだ。


そんな私に罰が当たる。


「エリザベス様の初恋はジルベルト様ですよね?」


「まさか!違いますわ!」


え?散々政略結婚を強調してきたのに何を言い出すの?


「まぁ、照れていらっしゃるの?」


いえいえいえ、全然違います。何故そう思うのですか?


「本当に違います。私の初恋の人は……」


「「「キャー!!」」」


お茶会会場に令嬢達の悲鳴が響き渡る。


えっと、それは私の背後に現れた変質者に対する恐怖の悲鳴ですよね?間違っても私を背後から抱き締め、首筋に口付けを落とす行為を見ての歓喜の悲鳴ではないですよね?


「ジルベルト様、ようこそ我が家に」


「突然の訪問で申し訳ない。エリザベスを迎えに来たんだが連れて帰っていいか?」


「もちろんでございます」


茫然自失としている間に私の身柄は変質者、もといジルベルト様に引き渡されることとなった。そして再びあがる黄色い悲鳴。


「「「キャー!!!」」」


ジルベルト様が椅子に座る私をヒョイと持ち上げたのだ。お姫様抱っこの形になったところで、額にキスをするおまけ付きだ。


令嬢達は一様にキラキラした瞳でこちらを見ている。羞恥に耐えられなくなった私は、思わずジルベルト様にすがりついて顔を隠した。


「「「キャー!!!!!」」」


今日一番の悲鳴があがる。令嬢達の興奮は最高潮だ。そこかしこで「ラブラブね」「お似合いね」「熱々ね」等と聞こえてくる。


失敗した、なんでジルベルト様にすがりついちゃったんだろう、抵抗しなくちゃいけなかったのに・・・。


もう、「望まない婚約」と言っても誰も信じないだろう状況に絶望し、それが更に令嬢達を煽る行為だったとは思わず、力なく項垂れジルベルト様に身を委ねたのだった。

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