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用意されていたのは庭園に面した日当たりの良い、他国の王族が来国した際に利用される部屋だった。


こんなに良い部屋、本当に使っていいのかな。いや、陛下に滞在の挨拶にいった時“息子がすまない”みたいな目で見られたから大丈夫だろうけど。陛下も殿下を止めてくれたらいいのに弱味でも握られているのか殿下に逆らえないみたい。


それよりも、何度考えても“エリザベス”のエピソードが思い付かない。スチルが売りでストーリーは単純なゲームだったから、過去エピソードは攻略キャラもライバルキャラも2、3個で、ヒロインをいじめるのなんてキャラが変わるだけで内容は同じだった。“エリザベス”の過去エピソードは《婚約》《王宮通い》《隣国王子》の3つで終わりのはず。


思い過ごしなのかな。殿下は本当にフィリア様が心配で治癒魔法使い達を王宮に留め置いておきたくて、私もその中の一人で強引に引き止めただけで・・・、でも何かが引っ掛かって納得出来ないんだよね。


王宮滞在中は自由にして良いとのことで、私は警戒しつつも、大半を図書室と庭園で過ごしていた。他の治癒魔法使い達はどうしているのかと尋ねたら、彼らは仕事をしているそうだ。一応私は客人で、彼らは雇用されているので扱いが違うらしい。折角なので顔合わせをということで彼らに会いに行った。


殿下に連れられ部屋に入ると彼らは一様に動きを止め青い顔をして怯えた目でこちらを見つめてきた。


「殿下?何だか皆様の顔色がお悪いようですが?」


「そうだね。自分を治せばいいのに自分で自分に魔法がかけられないって、本当に治癒魔法は不便だよね。ねぇ君たちもそう思うだろう?」


殿下に呼び掛けられた彼らは青い顔を更に青ざめさせて必死に同意してきた。


「はい。そう思います」

「殿下の仰る通りです」

「仰せの通りでございます」

「殿下の言葉は絶対です」

「殿下には逆らいません」

「コオリコワイ」

「王太子殿下バンザイ」


・・・途中からおかしい。殿下、一体彼らに何をしたんですか。それにそういう意味で言ったのではありませんよ。


うろんな目で殿下を見ていると、殿下はスッと目をすがめてこちらを見てきた。


「エリザベス、言いたいことがあるなら言いなさい」


「イイエ、ナニモアリマセン」


シラ~っと殿下から目を反らすと相変わらず怯えた様子の治癒魔法使い達が目に入った。う~ん、さっき気になる言葉があったんだよね。


「殿下、少し彼らとお話ししてもよろしいでしょうか?」


「構わないよ。何なら君も一緒に働いてもいいんだよ」


「いえ、それは結構です」


間髪入れず断ると治癒魔法使い達がざわざわしだした。


「断ったぞ」

「あの殿下に逆らうとは」

「魔王が怖くないのか」

「勇者だ」


え~と、こっそり言っているけど全部聴こえていますよ。もちろん殿下にも。


けれど殿下は何も言わず彼らをチラッと見ただけで部屋を後にした。見られた彼らは石像のように固まっていたけど・・・。


数分後お茶の用意も整って動き出した彼らと話した結果、やはり殿下に脅されたようだった。雇用条件が良くて喜んで来たそうだがそのまま王宮に留まるように言われ、帰ろうとしたら偉い目にあったらしい。その事がトラウマになり、現状に満足していて不満はないが殿下を見ると怯えてしまうのだという。そんな彼らと話してみて私はすっかり安心していた。


良かった、私だけじゃなかったんだ。皆強引に引き止められてたんだ。やっぱり“エリザベス”は関係なくて殿下はフィリア様の為に治癒魔法使いを王宮に置いておきたかったのね。


“エリザベス”とは関係ないと安心しきった私は、相変わらず図書室と庭園で1日を過ごし、たまに治癒魔法使い達から殿下への愚痴を聞かされたり殿下から守ってくれと頼まれたりしていた。


そんな日々が続いたある日、私は図書室から借りた本を読みながら庭園を歩いていた。はしたない行為だったが、この庭園は部屋のテラスから出入りできて立ち入れるのは部屋の客人と王族だけというプライベート庭園で、誰かに見咎められることもないし私が滞在してから気を使って王族が来ることもなかったので自由に過ごしていたのだ。


庭園の中には芝生が広がり大きな木が聳え立つ読書やお昼寝にピッタリの場所があり、そこを目指して歩いていた私は本に夢中で足下を見ておらず、木の側に来たとき何かに躓いて転んだ。


「きゃっ!」

「うわっ」


地面にぶつかると思っていた私は、何かを下敷きにし何かに抱き締められていた。


恐る恐る顔をあげて見たものは、輝く金の髪にこちらを見つめる透き通るような碧眼。


あぁゲームより精悍な顔つきですね、なんて暢気に思ったりして。そうだよ、王宮にはこの人がいるんだった。



ジルベルト様!忘れてた!!



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