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どうしよう。今、とっても不味い状況になってきてるんじゃないの?何だかゲームの“エリザベス”通りの展開になってきている気がする。“エリザベス”と“私”の違いってなんだろう。
まず“エリザベス”は、
《ジルベルト様に一目惚れして無理やり婚約する》
《ジルベルト様に会いに毎日王宮に通うが、嫌がられて会えない》
《隣国の王子に色目を使って婚約者の座を狙う》
対して“私”は、
〈殿下に無理やり婚約させられる〉
〈殿下に脅されて毎日王宮に通うが、地下牢滞在中で会えない〉
〈殿下に隣国の王子の接待役(お見合い相手)を命じられる〉
一部だけ見れば同じ状況だよね、
“無理やり婚約”
“毎日王宮に通うも会えない”
“隣国の王子の見合い相手(婚約者の座を狙う?)”
て言うか、全部殿下のせいだよ。私は婚約したくなかったし、王宮にも行きたくなかった。それに、本来なら婚約者がいるから王子の接待役に選ばれる訳もなかったのに。“エリザベス”もジルベルト様が好きだったのに何で王子を狙ったの?
何だか泣きたくなってきた。全然望んでないのに“エリザベス”と同じ様な行動になってゲーム通り進んで、このままだと処刑へまっしぐらだよ。
殿下と距離を置きたいけど、殿下の呼び出しを断ると即没落しそうだから断れない。唯一の救いはジルベルト様と会っていないこと。
このまま会わずにゲームがスタートすれば何かが変わるんじゃないかな。“エリザベス”はジルベルト様が好きだったけど私は何とも思っていない。さすがに殿下も人の心までは操れない筈・・・多分。
幸いなことにその後、殿下の無茶な要求はなくジルベルト様とも会うことなく穏やかな日々が続いた。
ゲームスタートまで1年を切ったある日、フィリア様が体調を崩された。なんでも殿下の目の前で具合が悪くなったそうで、今殿下は必死に国内外の治癒魔法使いを集めているらしい。
フィリア様と言えば何時からか治癒魔法の勉強に力を入れていて今や国一番の治癒魔法使いなのだが、国一番の治癒魔法使いでもやはり自分の病は治せないものなのかと思っていたところへ殿下から呼び出しがかかった。
殿下の呼び出しなんて、嫌な予感しかしない。ろくでもないことに決まっている。きっと私を“エリザベス”に近付ける何かがあるに違いない。
不満たらたらで着いた王宮で見たものはいつになく憔悴した殿下の姿であった。
「殿下?」
「あぁエリザベス、確か君も治癒魔法が使えたね?」
「はい、一応使えます」
一応とは言ったが恐らくこの国の治癒魔法使いの中で五本の指に入るレベルと自負している。前世を思い出した私は、密かに魔法がある世界に歓喜し、中二病よろしくあらゆる魔法を覚えたのだ。悪役令嬢らしくハイスペックだった私は、攻撃・治癒共にかなりの腕前になった。
「フィーの体調が良くならないんだ。最近は会うこともままならない」
「!!そんなにお悪いんですか」
「大公は大丈夫だと言うがフィーに会わせてもらえないし、治癒魔法使いの治療も断られてね」
「そうなんですか」
「だから君もすぐに大公家に行けるようここに部屋を用意させたから」
「は?」
え?殿下は突然何を言い出すの、部屋を用意させたって何?
「殿下、仰る意味がわかりません」
「他の治癒魔法使い達には騎士団の寮を使わせているんだけど、君もそっちが良かったかな」
「いえ、そうではなく家に帰してもらえないのですか」
ふふん、私も成長したのよ。脅しになんてそう簡単に屈しないんだから。
「フィリアに何かあった時すぐに対応出来るよう治癒魔法使い達は王宮に留めているんだ」
「え?か、監禁・・・」
「監禁だなんて人聞きの悪い。彼らはちゃんと王宮で雇用してるんだよ。城下に治療院も作らせているし、フィリアが治るまで一時的に王宮にいてもらうだけだよ」
「そうですか。私は雇われていませんから家に帰りますね」
「・・・エリザベス」
な、なんだか部屋の温度が一気に下がった感じがする。背筋がゾクゾクしてきた。でも、負けるもんか。
「フィリア様に何かありましたら、我が家からすぐに駆けつけますのでこれで失礼させていただきます」
礼をとり帰ろうとすると再び殿下に名前を呼ばれる。
「エリザベス」
部屋の温度が更に下がりあちこちが氷出した。
あれ?私の名前に魔法効果あったかな。うわっ、扉まで氷ってる。どうしよう、氷無効や転移魔法を使えば帰れるけど殿下は私を帰すつもりはなさそうだし、無理やり帰れば後が怖い。うぅ、帰りたいというかここから逃げ出したいけど仕様がない。
「殿下。やはりこちらに滞在させていただけますでしょうか」
「勿論だよ、すぐに部屋に案内させよう」
そう言い殿下がニッコリ微笑むと一瞬の内に部屋の温度が元に戻った。
案内を待つ間に考える。
“エリザベス”のエピソード何があったかな。