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ゲームの「エリザベス」はジルベルト様に一目惚れして婚約を結んだ後、嫌がられても王宮のジルベルト様の元へ毎日のように通っていた。
うん、王宮には通わない。私はジルベルト様のこと好きじゃないし、将来ジルベルト様に惚れていてヒロインに嫉妬していじめたと思われたら困る。ヒロインをいじめる気もないし、むしろヒロインとは絶対接しないようにしないと処刑されちゃう。
この婚約は義務。貴族として王家の命令に従って婚約した、そこには恋も愛もない。そんなスタンスでいこう。幸い近々王宮でお茶会が開催される。その場でジルベルト様と冷えきった義務だけの挨拶を交わせば周囲もそう思うだろう。ジルベルト様だってこの婚約を快く思っていないだろうし。
其にしても、フィリア様が王宮でお茶会を開くなんて意外。でも、王宮だと男の子達も参加出来るのかな。大公家で開催だと殿下が圧力かけてて男の子達参加出来ないんだよね。出来るだけ多くの人にジルベルト様とは仕方なく婚約したとわかってもらいたいんだけど・・・
王宮のお茶会は男の子達も参加していて賑わっていたが、肝心のジルベルト様が見当たらない。
ジルベルト様一体どこに居るんだろう?あんまり捜して執着していると思われたら困るし、もう放って置こうかな。
キョロキョロ辺りを見回していたらフィリア様が騎士団長子息と魔術師団長子息に声を掛けようとしていた。
あの二人って攻略対象者だ。そうだ、あの二人のうちのどっちかがヒロインとくっつけば私の処刑は回避出来るんじゃない?後で声掛けてみよう。
「────私が退出の許可を与えよう。早く帰りたまえ!」
うわっ、殿下が追い出しちゃった。ああフィリア様ちょっと悲しそうな顔してる。でも困ったな、一応婚約者がいるから気軽に男の子達をお茶会に呼べないんだけど、まぁ良いか今度お茶会に呼ぼう。
数日後、私は王太子殿下に呼び出された。
「エリザベス、婚約者がいるのに他の男性に声を掛けようなんて感心しないな」
!?何でバレてるの?まだ招待状も出していないのに。内心ドキドキしながら白を切る。
「殿下。恐れながら何の事だか解りかねます」
「ふ~ん、まぁいいけど。私のフィリアが君とジルベルトの仲を心配しているみたいだから今後の行動には気を付けたまえ」
“私の”って殿下、フィリア様との婚約はまだですよね?でも、フィリア様が心配しているって、ちょっと不味い気がする。
「最近王宮も老朽化してきてね、地下牢なんてすきま風が酷いらしいんだ」
な、何で地下牢の話を?
「そ、そうなんですか。大変ですね」
「うん、だから今度誰かに暫く牢生活を体験して検証して貰おうかと思っているんだ」
「!?。そ、そうなんですか。あ、あの私この後ジルベルト様にご挨拶して帰ろうかと思います。」
「そう?ジルベルトの所でゆっくりしていくといいよ。やっぱり婚約者とは仲良くしないとね」
「はい、もちろんです」
「今日はわざわざ悪かったね。公爵にもよろしく言っておいてくれ」
ジルベルト様と仲良くしないと牢に入れられるんですね、私かお父様が・・・
さらに数日後フィリア様が訪ねてきた。
「ジルベルト様との婚約聞いたわ、エリザベスはどう思っているの?」
嫌に決まっている。けれど正直に言えば恐らく地下牢行きだ。ここは喜んでいると信じてもらわないと。
「王子様ヲオ慕イ申シテオリマス」
ふふっ驚いた顔をされているわ、やっぱり嫌がっていると思われてたのね、危ないところだった。
「えっと、王子と仲良く出来そう?」
「勿論デゴザイマス」
ちょっとメイド達、私に同情してくれるのはありがたいけど、気の毒そうな顔をしてこちらを見ないで。私のこの名演技が台無しになるじゃない。
「………」
「………」
暫くじっと見つめられたけれど、信じてもらえたみたい。それ以上何も言わずに帰られた。
「エリザベス!今日フィリア様が来られたのか?」
「ジルベルト様との婚約を気にされたみたいですけど、大丈夫です。私の言葉にすっかり安心して帰られました」
地下牢行きは回避出来たから安心して下さいという意味を込めてにっこりすると、お父様は青い顔をして書斎に籠ってどこかに手紙を書いていた。
まあとにかく、未来の危機より現在の危機を回避するためジルベルト様に会いに王宮に行った。
「今日もお会いできないんですか?」
「はい。せっかく来ていただいたのに申し訳ございません」
ジルベルト様に会いに行くも会えない日々が続く。嫌だな、これじゃあゲームの「エリザベス」みたい。
「あの、ジルベルト様が会いたくないと言われているんですか?」
それだったら私は悪くない、殿下に私は仲良くしようとしているのにジルベルト様が拒絶してるって伝えてもらわないと。
そう思いながら侍従を見ると忙しなく視線をさ迷わせている。
「いえ王子は現在王宮の改修に携わっておられてお忙しいのです」
王宮の改修?まさか・・・「地下牢?」
「!!」
ボソッと呟いた私の言葉に侍従が固まる。えっ?本当に地下牢にいるの?ジルベルト様何しちゃったの?それはともかく、
「あ、あの私はジルベルト様と仲良くしようと会いに来ていると王太子殿下に伝えて下さい。くれぐれも、くれぐれも!宜しくお伝え下さい」
「か、畏まりました」
侍従は青い顔をしながら何度も頷いた。
それにしてもジルベルト様は何をして地下牢に入れられたんだろう。いつ出てくるんだろう、暫く王宮に来なくてもいいかな、なんて考えていたら馬車乗り場でフィリア様に会った。
「エリザベス久し振りね、今日はどうしたの?」
「ジルベルト様に会いに来たんですがお忙しい様でお会いできませんでした」
「まぁエリザベスも会えないの?私もお会いしたかったのにいつ来ても全然お会い出来ないの。アル兄様が邪魔してるのかと思っていたけど、婚約者の貴女も会えないなんて本当にお忙しいのね」
「……ソウデスネ」
何だかジルベルト様が不憫に思えてきた。