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『エリザベス・サファイア!君との婚約は破棄する!!』
金髪碧眼の“ザ・王子様”といった風貌の男が叫んでいる。
傍らにはピンク色のふわふわツインテールに青い目をウルウルさせた儚げな少女と二人を守るように数人の男が立っていた。
突然の事に周囲は戸惑いながらも当事者たちを遠巻きにしながら、興味津々という感じで見ていた。
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「・・・・・!?」
不意に意識が浮上し目が覚めた。
えっ?今のって?
辺りを見渡せば、いつもの自分の寝台で間違いない。ドキドキする胸を押さえながら、深くため息をついた。
どうしよう、ここって【君は僕の宝石】の世界だ。
私の名前はエリザベス・サファイア。サファイア公爵家の一人娘として、蝶よ花よと育てられてきた。そんな私は、どうやら乙女ゲームの世界に所謂転生をしたみたい。
きっかけは昨日王宮でおこなわれた第二王子ジルベルト様主催の初めてのお茶会。
私は初めてお会いしたジルベルト様に見惚れていた。肩までのばされたサラサラの金髪に、透き通るような碧眼に見つめられ心が浮き立つ。
なんとかお近づきになりたい私はジルベルト様に色々話しかけた。そのうち回りのみんなが、この前家で開催したお茶会の話をしだした。それがジルベルト様の逆鱗に触れたみたいで、ジルベルト様が怒りだした。
「何だそれは、俺は知らないぞ!!」
「大体、俺は一度も茶会に呼ばれたことが無いぞ」
え~!?そんなの当たり前じゃない。ジルベルト様とは今日が初対面なんだもん。面識が無いのに王族に招待状なんて出したら不敬罪だよ。常識だよ、ジルベルト様知らないの?
みんなもジルベルト様に説明しようとしているけどうまく伝わらない。そのうちジルベルト様がフィリア様に詰め寄った。
フィリア様は大公家の第三子で王位継承権第五位を持ち、王太子アルベルト様に溺愛されているお方で、フィリア様に手を出せば二度と日の目を見られないと噂されている。そんなフィリア様に詰め寄るなんて・・・
「お前かっ!」
ジルベルト様がフィリア様に呼び掛けた瞬間脳裏に見たことの無い映像が浮かんできた。
「誰もこの俺を呼ばないのはお前の差し金か!?」
『─────していたのは貴様の差し金だろう!!』
「お前は以前から────」
『君は前から────』
「─────相応しくない」
『─────相応しくない』
「お前との婚約は破棄する!!」
『君との婚約は破棄する!!』
ジルベルト様の言葉と映像が交差し、頭がズキズキする。痛む頭を押さえながらも思う。
フィリア様を婚約者だなんて、ジルベルト様はなんと命知らずなことを言うの?
その後のお茶会は頭痛が酷くてよく覚えていない。気が付けば自分の寝台で目を覚まし前世を思い出したのだった。
あー何でこんなことに?
【君は僕の宝石】はスチルが売りの乙女ゲームだった。
所謂テンプレ乙女ゲームで、突然魔力に目覚めたヒロインが魔法学園に編入した所からゲームは始まる。
攻略対象者は第二王子、騎士団長子息、魔術師団長子息、宰相子息の4人。攻略対象にはそれぞれライバルとなる婚約者がいて、ライバルの妨害を受けつつ攻略を進めていく。エンドは3種類、ハッピーエンド、ノーマルエンド、バッドエンドで、ハッピーが結婚、ノーマルが友人、バッドが失恋。隠しキャラはおらず4人を全エンド攻略すると逆ハーエンドが解放される。
そのライバルの一人が「エリザベス・サファイア」。第二王子の婚約者としてヒロインをいじめ倒す。エンドに関わらずヒロインをいじめた罪で「エリザベス・サファイア」は処刑される。
「エリザベス・サファイア」つまり私だけど、処刑なんて冗談じゃない、絶対回避してみせる。
確かジルベルト様との婚約は昨日のお茶会で一目惚れした私がお父様に頼み込んで婚約を結んでもらう。
うん、良かった、婚約をお願いする前に思い出して。絶対に婚約をお願いしたりしない。ジルベルト様はフィリア様を婚約者だと思ってたし、ふふっ案外簡単に処刑回避出来そう。
なんて思っていたのに・・・
「えっ!何故ですか?どうして私がジルベルト様と婚約しなければいけないんですか?断って下さい!」
お父様に呼ばれた私はジルベルト様と婚約したことを告げられた。まさかこれがゲームの強制力というものなの?
「断ることなどできん。すでに婚約誓約書も提出済みでこれは決定事項だ」
「!?こ、婚約誓約書っていつの間に?だってジルベルト様と婚約なんて、そんなお話し今まで一度も有りませんでしたよね」
「昨日王家よりお話しを頂いた」
「昨日?どうしてそれで婚約が成立してるんですか!!」
「エリザベス、はっきり言おう。この婚約は王太子殿下が決定されたことだ。断れば我が家は取り潰された」
「!!」
なんてこと!!ゲームじゃなく殿下の強制力だった!!これはあれ?あれのせい?ジルベルト様がフィリア様を婚約者と言ったから?
フィリア様と殿下はまだ婚約していない上に、実はフィリア様の婚約者候補筆頭は年が近いという理由でジルベルト様だった。きっと焦った殿下が邪魔なジルベルト様に婚約者をあてがったんだ。
とんだとばっちり!でも何で私?やっぱりゲームの強制力か!
「とにかくこの婚約は覆らん。お前も諦めて受け入れなさい」
「……わかりました」
殿下が絡んでいる以上もうどうすることも出来ない。後は今後ジルベルト様とどう接するか、私は考えを巡らせた。