003
教室は階段状の座席と机のセットになっていて、声はあらゆる所に聞こえる様に工夫が凝らされていた。
私服の生徒だらけで、統一感はあまり無い。上流階級の生徒の綺麗でフォーマルなフリルブラウスやドレス。その他は市販の普段着から自作の服まで色々だ。
私は母の作った紺と白の落ち着いたワンピースを何着か着まわしている。服で悪目立ちをしないことで身長で目立っている分を帳消しにしているつもりだ。
教室の一番前の端に座って課題のノートを読み返す。次第に教室は満たされていつも通り同じ時刻に仲良しの二人組が私の隣に座って軽い挨拶を交わした。
結局、今日も変わりない自分に溜息が出る。折れた針で糸を縫い付けることはできない。きっとそう言うことだ。
「今日は新入生を紹介します」
入ってきた担任の先生はいつも通りでは無かった。
出席の確認の前にそんな事を言い出す。
教室には先生の呼ぶ声と共に、一人の女性が入ってくる。
黒い艶々の長い髪、透き通る様な滑らかな肌。泣き黒子が儚い女性が教室に立った。男も女も関係なく見惚れる美しさと儚さが有る。
「――初めまして。
ウチはカノン・トウドウインと申します、以後よしなにお願い致します――」
シンとした空気の中、妙な訛りと共に儚い声が聞こえる。拍手と共に迎えられ空いている席にと勧められ、キョロキョロと周りを見回して自分と目が合った。
何となく目を離せなくて暫く見つめ合うと彼女がにっこりと笑う。
「隣、開けてもらって良いですか?」
「ぴっ!? は、はいっどうぞっ」
ニコニコと話しかけてくる彼女に頷く。濃い紫の瞳は吸い込まれそうなほど綺麗である。顔を赤くしていそいそと移動して彼女に座ってもらう。
長らく開けていた一人分の隙間に彼女を座らせる。端席は体の大きさの関係で譲れない。
「教科書、見せてもらって良いですか?
今日はまだ用意出来てなぁて……んんっ、なくて」
「は、はいっ、どうぞ。あの、汚くてすみません」
「え? そんな事無いんやけど……。
あ、可愛いわぁ」
「はぁ、まぁ、すみません……」
「覚え易うてええわぁ……あ、いいですわ」
ワンポイントに書き込んで置いたひよこと下線に早速視線を奪われて反応するカノンにしどろもどろに対応する。
「はっ。ウチたらはしゃいでもて。御免なぁ。
お名前聞いてよろしおす?」
そんな自分の様子に彼女も照れてしまって妙な空気になる。
「フィーフィー・コーカットです」
「かわえぇお名前どすなぁ」
口元に手を当ててにこりと言う。少し気にしている事に触れられたが、あまり嫌な気分にはならなかった。それは正直な言葉で嫌味がない。気恥ずかしさに微笑んで教科書をめくる。
彼女は気さくに話しかけてくる。訛りの入った言葉を気にしているらしくしきりに直そうとするので「可愛いですよ」と言うと照れてしまった。その反応に釣られて照れていると変なふうに笑ってしまって先生に注意される。
授業の間は時折そんなフワフワした会話をして休み時間に女の子に囲まれる。
綺麗な髪や仕立ての良い服の彼女の事が気になるらしい。
誰とでも話せる彼女とは違い、数ヶ月一人だった自分には辛い空間が出来上がる。空気に徹しながら休憩出来ない時間を過ごして次の授業となった。
ブレイズアーチという街は元々は鉱山で栄えた街だ。山のいたる所に廃坑があって、今は危ないので立ち入り禁止になっている。
廃坑の後に街は縮小の一途を辿り、宿街として細々として居た時に大災害が起きた。
白日の大地割れ。一キロ以上の深さからまっすぐに割れたのだ。
南の街ソードリアス近くの海からブレイズアーチの手前までの大地割れ。とても巨大な地割れが起きた。その日空は真っ白に染まり、白日の大地割れと言われている。
廃坑の中では崩落などが起きた様だが街としては大きな被害は無かった。寧ろそれからのブレイズアーチは大躍進した。
まず南のソードリアスから西方面への陸路にはブレイズアーチを経由する必要が出て人の往来が増えた。ブレイズアーチが出口になっている地割れには遺跡に当たっている場所もあるらしく、ビックスさんの様な探索者が現れて調査をしていく。その際の拠点がこの街だ。街では盗掘屋だの何だのと呼ばれているがかなり深い場所に歩いて行かないといけないし強い魔物も現れる。
何が発掘されているのかと言えば――、不思議な木偶人形などである。その仕組みに付いては研究が進んで数個複製されこの街で活躍している。
それは色んな国が注目しており、学校にはたくさんの国から人が集まる。
黒髪の彼女もそんな人の流れに飲まれてここに来た様だ。
算術、語学は必修。歴史学、地理学は選択。それに学科必修科目があり、法政科は法政学、商業科は商業学及び簿記、裁縫科は裁縫学及び加工実習、工業科は鉱物学及び製錬鍛治。三時間が最低拘束時間となる。その後の一時間に各学科の補講時間があり、最も人の多い時間だ。この一時間は人数制限が掛かっている早い者勝ちの授業だ。
数日を過ごし私の隣に定着したトウドウインさんは普段は大人しい人で、周りの人も物珍しさが薄れて日常の中に入ってきた。
板書も終え、帰り支度をしていた私の隣で同じく彼女も鞄を持って立ち上がる。
「フィーはんフィーはん」
ツイツイと肘の辺りに引っ張られる感触を感じる。
振り返ると上目遣いのカノンと目が合った。
「学校案内して欲しいどす」
「え? 私がですか?」
と言うか数日経って誰も教えて無いのか。放課後はよく他の女の子たちに連れ去られていたのだけれど。
「ダメやろか?」
「いえ、構いませんよ。ですが……。私といるとより目立ってしまうと言うか……」
私の言い訳に首を傾げるとにこりと笑う。
「関係あらへんよ。行こ行こ」
「ああっ、わかりましたって、押さないでっ」
案外強引に連れ出され案内を開始する。考えてみれば黒髪の美人の方が目立つのでより私が目立つ分は彼女に吸い込まれるだろう。
彼女の歩調に合わせてゆっくりと歩いて回る。
校舎、被服実習室、鍛治実習場、調理実習室、集会場、食堂。
そして――。
「ここがヴァルキリーダンスに使われる会場です」
学校からは少し離れる。と言うのも、採石場の跡地を改造した会場は町からも離れた場所にあって、普段人が立ち入ることはあまり無い。
「えろう広い場所どすなぁ」
「元々採石場だった所をお祭り会場にした場所ですからね。
あと、練習試合なんかもやるみたいです」
すでにちらほらと人影はある。
華美な衣装を仕立てているがどれも動いている様子はない。
装備の確認のためにドワーフや、鬼人の人達も居る。大体は一番近い体型の人が試着するものだ。貴族系、名商家の人はその為に従者を連れて来ていたりもするくらいだ。
「色んな方がおるんどすなぁ」
「まぁ最近増えて来た感じですけどね。
施設としてはこんな所です。トウドウインさん、他に気になるものとかありますか?」
「フィーはんの他人行儀が気になるわぁ」
「え? え? いや、でも……」
「ダメどす? お名前呼びの文化なんやろ?」
くっ、可愛い。上目遣いは本当に狡い。私には一生出来ないのに。可愛くもないからやらないけれど。
「ダメじゃないですけど……じゃあカノンさん」
「うふふ、ほなそっからいきまひょか」
思ったよりもパワフルな人だ。母親に似たパワーを感じるがそれは失礼なので言わないでおこう。
今日の黒髪は頭の後ろで纏められており、前髪は横に流している。カンザシという髪飾りが揺れ、笑顔の眩しい丸顔には垂れ気味の大きな目。小さな唇はみずみずしく笑みを湛える。スレンダーな体型だが仕草が可愛らしくドキドキする。素直に可愛い女の子だ。
男の子達が早速口説きに来ていたのには少し驚いた。しかもそれらを捌くのも慣れたものである様だ。
きっと興味本位で私に声をかけて居るのだろう。なんとなく別世界の人としての一線は消せないままその日の案内は終わった。
本日の受講終わりなので帰ってから食事にしようと思っていた。
「フィーはん、帰りはるん?」
「うん、お昼は帰ってから食べるの。
何も持ってないし」
少し意識して口調を砕けさせる。同い年で仲良くなれるならそうした方がいいのだろうし、彼女のことは苦手では無い。
「あ。フィーはん家見て見たいなぁ、仕立屋さんなんやろ?」
「え、あ、うん。面白くはないと思うよ?」
その返事を来ても良いと受け取って、彼女はにっこり微笑む。
「それはウチが決めるんどすぅ。ほな行きまひょかっ」
背中を押されながら校門を出て行く。
ああ、みんなの視線が痛い。そんなことを思いながら帰途に着いた。
「おかえり。あら?」
「ただいま。ちょっとお客さん」
「わぁ……雰囲気ありますなぁ。
こんにちはぁ。ウチはカノン言いますぅ」
「あらぁ。随分可愛いお友達ねぇ。
いらっしゃい。汚いところでごめんなさいね」
「いえそんな事ありまへん。お店見せてもろてええですか?」
「ええ。もちろん」
「おおきに、ありがとうございます!」
その言葉と同時にウキウキとした足取りで店内を見始める。埃なんかは溜まらないように毎日区画ごとに掃除をする。
「あら、この辺の織物、錦の淡物どす? 見たことあるんやけど」
「え、アワモノ?」
「東国のブランドものよ」
「なんでそんなのがウチに置いてあるの……」
「たまに来るのよ。カノンちゃん見たいな東国生まれの人」
「ウチの故郷わかりはるん?」
「ええ。東国、千の都でしょ?」
「博識なお母様なんやなぁ」
「ふふ、でも、遠い所から来たのね。時間掛かったでしょ」
「いやぁ、凄い陰陽師はんが、母の知り合いで。アレヨアレヨと言う間に話が決まって、ひとっ飛びやったんどす」
「あたしには何が起きたかわからないけど凄いのね」
「ウチにもこれ以上聞かれても分からへんことだらけで申し訳ないどす」
「ううん。誰にでも専門外はあるわ」
何だか仲良くなっていく母に少し任せることにして食事を作りにいく。お客がいるのでちゃんとした物を作らなければとも思うが材料的に余り良いものは作れない。努力はしよう。
娘の友達は娘のようなもの。話は留まるところを知らない。
「ウチの子、仕事以外鈍臭いから迷惑をかけてないかしら」
「いえいえ、ウチは色々良くしてもろて助かっとります。これから仲良うなりたいと思うとるんです。
こう、ニャンコはん追いかけとるような……」
「あの子昔から引っ込み思案なのよねー。
気長に付き合ったくれれば嬉しいんだけど」
「それなら得意やわ、頑張りますー」
「弱虫だけどいい子なのよ。弱虫だけど」
本当ならあそこに居ることも無いだろう。
「そんなことあらへんと思いますけど」
「あら、どうしてかしら」
「なんとなく……あの子は弱いんやのおて、考えすぎなんやと思います。
教科書の書き込みも的確やし、板書も凄い取りはって、大変やなぁって。
要領が悪くて自信持てへんのかなぁって。
正直ゆうて、あん中で一番常識あると思いますよ。
礼儀正しいし、根掘り葉掘り聞いてけえへんし。
他の人はほんま酷うて貧乏人に近づくとうつるとか本気でゆうてるし……」
少し辟易とした様子でカノンは小さくため息をついた。
数日でフィーフィーの置かれている状況は理解した。静かなイジメの的になってしまっている。
関わらない事が良いフィルターになっていて、直接的な事態は起きていないようだ。
「貴女みたいな子がそうなら、あの子もかなり溜め込んでるんでしょうねぇ。
なんでも言ってって言うんだけど、年頃だしなかなかねえ」
普通の親としての悩み事。とはいえ人にとって意地を張るのも必要な事である。頑張ると言っていることをわざわざやめさせるわけにも行かないのだ。
この加減が本当に難しく、甘やかすのも折るのも駄目と来たものだ。
「食事の用意できたよー」
その声に話をやめるまで延々と話し続けてしまった。
「わあ、綺麗どすなぁ、フィーはん、お料理も上手なんやなぁ」
「あはは、大袈裟だなぁ」
趣向を凝らした昼食は三十分程で出来上がり、フィーフィーが二人を呼んでお店はお昼休憩となった。
美味しい料理に舌鼓を打ちながら、二人の仕立屋の話を聞く。
フィーフィーは幼くから母の仕事を手伝う事にした。口にしたことはないが、尊敬する対象であるし、何よりその仕事への誇りを感じる。だからやりたいと思ったのだ。
故にヴァルキリーダンスに興味を持つのも必然だったと言える。未来のために彼女は学校へ通う事になった。
この親子はお互いの為を思い合いながら毎日を過ごしている。
豊かでも貧しくもなく、しかし親子の愛が存在する。暖かい場所で有る。
「ウチは親が厳しいから、こないに仲良おないなぁ」
「女二人だし遠慮はなくなるわねぇ」
「あ、それはある」
和気藹々、姦しいおしゃべりをしながら食事は進む。
一時間の休憩の後にお母さんはお店を開けに戻る事になった。
「この子凝り性なのよね〜。後で部屋に突撃するといいわ」
「せ、せめて片付ける時間を!」
「日頃から綺麗にしなさいって言ってるのにー」
「だって!」
「仲良しさんどすなぁ」
いつもの親子の会話だが、それが面白かったようでクスクスと笑われる。やはりお嬢様なのだろう、彼女の笑い方や食べ方には気品がある。
そんな人をこんな狭い家の中のしかも私の部屋なんて案内出来ない。
そうは言っていてもこの後の予定も無いのでと雪崩れ込まれる。窓を開けてバタバタとしている中、不思議そうに部屋を見回していた。
「洋室どすなぁ。ベッドも大きいわぁ」
「はぁはぁ、ベッドは私が大きいから」
「可愛え人形もいっぱいやなぁ。というか、もしかして全部作ってはります?」
「あはは……」
ほぼ自作のカーテンやカーペット。そして人形達なのだが笑って誤魔化しておく。
その中の自信作の大きなクマの人形を気に入って抱き込んで満足げに足を揺らす。
友人はいないわけじゃ無い。町商会の寄り合いにはよく喋る八百屋のメリリーや靴屋のマルベク、花屋のミリーナや肉屋のムットスなど、歳の近い友人は沢山いる。
しかし彼女らは学校に通うほどでは無い。買い物等の日常の中で顔を合わせて世間話はするが、その殆どは毎日の仕事に追われている。二足わらじのフィーフィーの方がはるかに大変だがそれが出来る環境である事は他の家にはない優遇点である。
自分は恵まれているのだろう。母と共働きながらも学校に通える。
周りには家柄の違う富裕層の人達ばかり。雰囲気も心のゆとりも違う。
「服飾科はお家のために通っとるんやね」
「そう……お母さんには少しでも楽してもらいたいし、お祭りにも出たかったし」
「――立派なことや。胸張ってええやないの」
「うん……」
「……せやなぁ。ウチらはまだ会ったばっかりやし、フィーはんが固いのも分からんでもないけど。
お世話になっとるんやし、なんや悩みがあるんやったら少しでも頼ってな?」
ほんの少し驚いてはにかんだように笑った。少しずつだがフィーフィーの雰囲気も軽いものになる。
きっとこんな事から友人になれるのだろう。
「……私は余り成績良くなくて。
もしかしたら次のテストで落第しちゃうかも……」
「え、そんな? フィーはん頑張ってるから一番なんとちゃう?」
「いや全然……」
「答案、見せてもろてええ?」
「う、うん」
フィーの答案を何気なく見て、問題と照らし合わせる。表情が厳しいのは良くない点数だからだろう。
「……フィーはん、全部ギリギリなんやなぁ」
「そうなんだよね……うう」
「でも、メモも取ってあるんやね」
「追試にはならなかったんだけど、先生忙しいから答え合わせ出来なくて」
ちょうど職員会議が近い時間で流れてしまった。そんな話に更に首を傾げてカノンは小さく首を振る。
「……そんな難かしゅう考えんでええって。もうちょっとやん」
「うん……折角ここまで頑張ったのに、負けたくないし……!」
「――フィーはんは、職人気質なお方やなぁ。出来へん言われると、よお突っかかるやろ」
「そ、そんな態度悪い事はしないよ。やって見ないとわかんない事って多いし……。
あ、でも服のことならなんでもやるよ。出来ないって言われるのは心外と言うか」
「ふふ、そう言うとこ好きやわ」
割とムキになって話してしまってハッとする。
クスクスと笑う彼女につられて、笑ってしまう。
彼女を見送って、仕事に戻る。
まだまだ明るい時間だからと言われ送ることは無かった。一応人通りの多い道を教えて彼女と別れた。そのあとはエプロンを着ていつもどおり。
しかし何処かで嬉しそうで仕事が捗るようである。そんなフィーに少し微笑んでいつも通りの仕事を始めた。
「フィー、倉庫にある布の在庫確認して夏用のここに出しといて」
「はーい。そろそろ大掃除と配置換えもしたいね」
「そうねぇ。今日はもう閉めちゃいましょうか!」
二人で腕をまくってそんな風に言って笑い出す。
気分良く私は倉庫へと乗り出した。
「ああ、与助、どない?
……そうなんやな、やっぱり……。
まぁ、知れとったことや。
裏が取れて良しとしよか。
ウチはどないするんか?
ほぉやなぁ……
味方にはなれんなぁ……」
先日のお礼がしたいと、彼女に言われ遠慮したがどうしてもと言うことでお邪魔することになった。
流石に仕事も有るので遊びに行くと言うのは少し辛い。しかし少し彼女の家も見てみたいと言う気持ちもある。
そんなことを思っていたらそのままその日に母とともに招待される事になった。
「なんか、凄いところに来ちゃったんだけど……」
「枯山水庭園なんて侘び寂びね。踏み込んじゃダメよ。見て楽しむものだから」
「なんで詳しいの……」
伝えられた住所の前で、母が目を輝かせる。意外に遠い所まで行った事が有る人で、異国の文化に詳しい。母曰く北でも南でも最後は雪国らしい。どこまで本当なのかは分からないが。
波と松のジブさを語る母のところにカラコロと木の足音が鳴り響く。
「ようこそおいでやす〜」
「こんばんわカノンさん」
「こんばんわ。私まで招待してくれてありがとね」
「いえいえ。ウチもご馳走になりましたし。
まぁ、立ち話もなんやし、中へどうぞ〜」
「ここら辺やと山の料理ばかりやさかい、海ものの料理を用意させて貰うてます。
苦手なもんあったら言うてくださいな」
本当は新鮮なうちに生で食べる刺身などを作りたかったのだが、流石に大陸内なので煮たり焼いたりした物が主だった。
まさにその料理に舌鼓を打ち、母と一緒にペロリと平らげた。下処理も盛り付けもしっかりされていて、見ても食べても満足感がある。これが普通の食卓らしく宴会用に出来ないことを謝られた。まったくそれを気にする必要はないと力説して、笑われてしまう。
食後にお風呂に入っていくことを勧められ、母と二人で長い廊下を渡って浴場に向かう。
「温泉だわ」
「温泉……!?」
「お作法が有るわ。気を付けて」
「ぴっ!?」
「ピヨピヨして来たわね。まずは掛け湯よー」
「ぴっ、掛け湯……!」
「まぁ、汚れを落としてから湯船に浸かるって言う習慣ね。体は先に洗うのよ」
ゆっくりやって見せてくれるのでそれに倣う。
二人で体を洗ってからの入浴だ。
体が大きくなってからは初めて両手両足の浸かる湯に入った。
「お邪魔します〜」
「わっ、カノンさん!?」
「大丈夫どす?」
「ええ、楽しんでるわ。凄いわねお風呂。
木枠がいい匂い」
「ヒノキ風呂どす。屋内に作るんに、これが一番ええて、職人さんが頑張ってくれはったんどす……。
それにしても……フィーはん、脱ぐと凄いどすなぁ」
「ぴっ! あんまり、見ないで、その、恥ずかしい……!」
「恥ずかしがることないで、大きいことはええことや。
……少しウチにも分けて欲しいもんどす」
残念そうに自分の胸元に手を当てる。お世辞にも大きいと言えない胸の彼女にかけてあげられる言葉があまりない。
「できるもんなら胸でも身長でも分けてあげたいよ、ほんと……」
「子供ができれば多少大きくなるけどね」
「フィーはん、まだ膨らむん?」
「もう十分だよぅ。うぅ」
「ウチの叔母様もそれは大きいお人でなぁ、フィーはんとええ勝負出来ると思うわ。
叔母様言うても、ウチと歳近い姉はんなんやけど」
「苦労を察するよ……」
「ふふ、まぁ、その人は体も心も大きゅうてなぁ。
少し前まで戦場で駆け回りよって、結婚なんかせぇへんって豪語しょったお人でな。
せやからうち、大きい人って憧れるわぁ」
「フィーとは真逆ねぇ」
「ぷくぷく……」
「ふふ、按摩師さんもおるさかい、養生していってな」
「マッサージも付いてるの? 凄いわねえ。また来たくなっちゃうわ」
「うふふ、いつ来てもろてもええですよ」
案外和気藹々と、話をする。
お風呂上がりに大きな布を渡され、どうやら服らしいと思った所で母がそれを口にする。
「そう言えば和服だったわね」
「和服って?」
「和服は東国の伝統衣装よ。
布を羽織って、帯で締める形の衣装で、重ね着が普通ね。体型はあまりわからないように基本大きめね」
「やっぱり詳しいんどすなぁ」
「重ねて綺麗な服が多いから凄い参考になるのよねえ。襟元なんか凄いのよ」
「へえー」
下着は来てしまって、浴衣を着せてもらう。ゆったりとしているが隙の多い服だ。大丈夫なのかと少し心配になる。
「これ、胸出過ぎない?」
「しっかり締めるのよ。左前はダメよ」
「この袖はなに?」
「ポケットよ」
「ポケットなの!? 大きくない!?」
「飾りなんだけど、結構もの入れる人多いのよね。
お財布とか」
「へえー。面白い文化」
「うーん……でもあれね。
あんたの体はやっぱ、服を選ぶわね。
この服こんなセクシーな服じゃないのにー」
「うう、着て来た服でいいっ」
どうも全体的に肉感的なフィーだとどうしても体全体の線に強調されてセクシー路線になる。体の線が分かりづらい服と聞いて少しときめいたが母の言葉にいそいそといつもの服に戻る。
似合う似合わないは大事だ。それが分からなければ無難に収まることも出来ないのだ。
マッサージに癒され、母がつやつやとして元気になる。そんな姿を見ると来てよかったなあと自分の方が嬉しくなった。
「じゃあ、あたしは帰るわ。仕事の途中だし」
「私も……」
「ほな、お土産出しまひょか」
「そんな、悪いわよ。お礼なら随分貰ったわ」
「いえいえ、折角なんで貰ってやってくださいな。
大したもんやありまへんけど」
致せりつくせりの時間はあっという間に過ぎて、手土産まで用意してもらう。中身はお茶と茶菓子だった。
「ほな、暗いんで気いつけて下さいな」
「色々ありがとう」
御礼を言うと少し視線を落としてから、彼女は何か呟いた。それに首を傾げながら彼女に見送られ、その豪邸を後にする。
「はあ、凄い所だった」
「ええ、そうねぇ。豪華な温泉宿だったわ」
「あれは家だよ……」
「そうなのよねぇ、それにあの子もしかして……まぁいいか」
「え、なに?」
「ま、ちゃんと仲良くなったらいつか服でも仕立ててあげなさいな」
「うん」
結局彼女が何者かは聞けなかった。良い所生まれの人なのは確定では有るのだがそれは分かり切って居たことでも有る。彼女に染み付く作法だけでもかなりの立場があるのだとうかがい知れた。
「与助か。どない?」
「見つけられませんでした。申し訳ありません」
「そか、ならええよ。謝る事やない。
二人は?」
「ご友人方は無事帰られました」
「ほか」
「……やはり此処にはもう……」
「まぁ、今年はあるし、地道に探そか」
「はっ」
問題があったことはわかっていた。本来なら誰かに相談すべきなのだが、その相談すべき相手が異常だった場合に封殺される。
「先生、採点間違ってはりますよ」
「は、私が間違いなど起こすわけないだろう」
フィーフィーとしては最後の試験のつもりで受けたそれで、事態は発覚した。
彼女はは言葉なく俯く。赤点の答案は無慈悲に彼女に突きつけられた。
「ウチとコーカットさんので、同じ答えで点数が違いうんです」
「私はこれから会議がある。話はその後だ」
聞く気もない、と言う態度を隠しもしないで、足早に立ち去る。
「ああ、やっぱり……」
「やっぱりって?」
「センセは黒やなぁ。
フィーはん、ちょお行こか。職員室」
「え、でも、会議だって」
「大丈夫大丈夫。全部証拠も配ってもろたし」
「え? え?」
目を白黒させる。
スタスタと歩き去る彼女を急いで追いかけた。
「全く、熱心だな?」
「教育者としての仕事やろ? センセやらんのやったら他に持っていきます」
「分かった分かった。
そこで待ってるんだ。解答用紙を持ってこよう」
「……ほんまですか?」
「ああ。実習室は人が来るだろうから、少し狭いが準備室だ」
「……分かりました」
そう言って、カノンは準備室へと入る。それに続いてフィーも入った。
それと共に静かに扉が閉められ、ガチッと音がする。
「あら?」
「カノンさん……なんかいまガチッて聞こえたんですけど」
立ち去って行く音だけが響いた。慌てて扉に取り付くが、中からも開けることはできないものとなっている。座学教室と実習室は別の棟になっており、職員室は実習棟を挟んで先となっている。
これは建築を行なった順番の問題で、初めは職員室が有る棟が座学棟だったが、人数の増加により新たに建設されたのだ。渡り廊下で繋がっており、一般生徒は放課後にあまり実習棟や職員室のある第一校舎には近寄らない。特に準備室は校舎の端に位置しており、作業室には多少人が居るがここまで人が来ることはない。
「と、閉じ込められた!?」
「やられたわ……!
誰か! 誰かおりませんか!?」
「ここ……倉庫だから術式組んであるんだ。
物凄く壊れづらくなるし、音漏れもし辛いやつ。
……閉じ込められたね」
「ホンマ腹立つわ」
「あはは……」
「おもろないやろこないな事」
「……でも、どうも出来ないよ。
笑うしかないかなって」
笑えたかどうかはわからないけど、悔しいとは思っていた。状況に少し頭が追いついて来て、現実的なことを言う彼女の言葉が刺さる。
「……フィーはんはええ人やな。
自分が痛いんは我慢できる。
正しいのは自分やのに相手の不正を許せるんや」
それは褒め言葉でも有るし、嫌味でもあったのだろう。争うのが嫌な臆病者なので有ると暗に言っている。
「その『ええ人』のままじゃ、この世界に潰される事になる。
ここだけのことやあらへんのよ。何処にでもある。ここはたっくさん人に触れる場所や。
人づての情報は幾らでも広がる。
自分だけならと思っとるんやろうけど、あんたさんが侮られたらそれは親御さんも同じ目で見られるしあんたさんの子供も、ずっとそんまま。
せやから、戦わなあかんのよ。
間違ったことを横行させたらそれもずっとそのまんまや」
「戦うってどうやって……」
「どんな人間でも人は人。味方増やして叫ぶんどす。
より強い人と仲ようなって、正しさで戦うんどす」
「でも……そう言うの私には出来ない……」
無理だ。此処に存在する壁はそういう類のものでは無い。垣根無く人を見る者が何人いるだろう。
頭を抱えて頭を振る。そんな私に少し屈んで、カノンは手を差し出した。
「ウチはちゃいますか?」
その手を見て涙ぐむ。
「ウチは、フィーはんの友達やあらへん?」
悲しそうな顔で少し手を引いたのに慌てて取り付く。
「友達だよ! 初めてここで出来た、たった一人の友達だよ……! でも」
でも、だからこそ。
彼女を巻き込むのは違う気がする。
この話は此処で終わっていいものだ。私が馬鹿だった。それだけの話。
でも努力が実らないのは――実らずとも無駄と言われるのは酷く悲しい。部屋で彼女に語った言葉は嘘じゃない。
「ほんならうちに任せとき。
ウチは往生際も悪いし、全然ええ人やないけど。
すっごい我儘やし、すっごい短気やの。
怒るぐらいなんぼのもんでもないわ」
「っカノンちゃんはいい人だよ」
「ウチはええ人するんを選んどるだけどす。
ほんにやな女やわ」
「私も、みんなにいい顔できてるわけじゃないよ」
「でも嫌われんように言いたい事言ったりせんやろ?
ウチは全部言うてまうから。よぉ目の敵にされよったで」
「心配してくれてるだけなのに?
みんなカノンちゃんのことちゃんと知らなかったんだね」
時々回りくどい時はあるけど、彼女は誰かの進む道を遮りたいわけじゃ無い。分かる人に分かるヒントを教えるタイプだ。
その殆どは老婆心というか、根の人の良さから出て来るもので、やたらと確信を突くことから敬遠される事は多数ある。
そんな言葉にキョトンとした顔を見せて頬を赤らめた。
「……なんやろ。火照ってまうわぁ、見んといて」
あついあついとぱたぱたと手で顔を扇いだ。
すぐに胸に手をあててこほんと咳払いをする。
「とにかくここを出んとどうもならへん」
「でも此処には何もないし」
「この木偶人形さん使えんやろか」
「あれ? こんな所にマネキンなんてあったっけ」
「なんぞ、先輩方が片し忘れたとか?」
「ん……これ、すごい傷だらけ……。
ヴァルキリーダンス用かな。切り傷みたい」
「え、なんでそないなもんがこんなとこに……?
壊れとるんちゃう? あー、ボロボロや」
「そうなのかもね。なんか布が引っ掛かってるだけで可哀想。直そっか」
「え? いや、このマネキンで扉どついたらええやないの」
「だ、ダメだよ! 建物や扉は基本的に物理衝撃強化魔法かかってるんだから叩いたりするのに強いんだよ。水とかは案外簡単に入るんだけど。それに備品は大切にしないと!
多分表面はコーティングされてるから、整備したんだと思う。何か乾くの待ってたんじゃないかな」
予備室は大体の材料や機材の予備が収められた部屋である。
ミシンの類も新品に近いものが保存してあり、動作確認で開けてある程度のようだ。
「え、何しはるん?」
「取り敢えず同じ物作るよ」
「は?」
「ボロボロだと可哀想だし」
「そ、そないなことしとる場合とちゃうやろ」
既に仕事モードのフィーに呆れてため息をつく。
どうやら自分の顛末よりもこの物言わぬ木偶人形がボロボロの服を着ている事が問題だったらしい。
ガタガタと土台になる机を片付けて使うの布を選別する。
腕まくりをして、まるで仕事場であるかのような雰囲気になる。
彼女は根っからの職人なんだろう。
仕立屋をやっている事は偶然ではないと思えるくらい、真摯である。
元々布地が少ない物を使っていたので、作業はすぐであった。ものの数十分後には胸当てにパンツ、シャツ、スカートが仕上がる。
それを木偶人形に着せて、一旦満足した。なんと無く、気に入らないところを微修正して、上着も作る。
仕事の速さに感心を覚えつつ、ツンツンと腹回りに触ってフィーを振りかえらせる。
「ぴっ」
「ほなとっとと――」
カノンがそう言った直後、それは輝いた。
彼女は何かに押されてフィーの方に倒れる。フィーもカノンを受け止めて尻餅をついていた。
二人にはすぐに何が起きたかは分からなかったが、気づいた時には扉が吹き飛ばされていた。
ズレた眼鏡を直しながら、カノンに問う。
「へぁ、何……? だ、大丈夫?」
「ううん……ふかふか……これは……!?」
「!? か、カノンちゃん!?」
下敷きになってその上にカノンが倒れ込んだようだ。自分が上になってしまわず安心したが、胸を思い切りクッションにされてる上に揉みしだかれている。異性に揉まれるよりはマシではあるが恥ずかしいものは恥ずかしい。ばっと離れて胸を隠す。
「はっ、ウチは何を……! あら、開いとるやないの。何でやろ?」
「分かんない。え、動いたようには見えなかったけど……木偶人形のお陰かな……?」
「ほうなんかな? おおきになあ。フィーはんも、作った甲斐あったもんやな」
「か、簡単で真似で申し訳ない作りのものだけど……え? うーん」
「兎に角、急ご。ウチらはこの子をちゃんとした場所で戦わせてあげなな」
「うん」
二人で予備室を飛び出して走る。二人が走り去った部屋では木偶人形が静かに佇んでいた。
「――以上が、不良生徒です」
「ふむ……」
「やはり平民は質が悪いですな。入学規定を見直すべきです」
「……全てギリギリなんだな?」
「ええ、何度も丁寧に教えているというのに!」
「こちらの教科も同じです」
「私もです」
アーノルド・ライン・バートン校長は従軍経験のある貴族である。厳つい顔に白髪混じりの髭を蓄えた男性だが、その眼光の鋭さは衰えを知らない。彼がこの国で教育機関を起こした事には意味があり、高度な教育機関として有名となった今更に厳格に厳しく指導者たちを律して来た。
それはその会議の時間の遵守に始まり、報告の厳格化などに現れている。
「失礼します」
「な、何だ! 今は会議中だぞ!」
唐突に現れた彼女らに驚きが隠せない教師が声を上げる。
「採点ミスの直談判どす。
校長センセに見てもらおと思いまして」
「後にしろトウドウイン!」
「ほう。何か問題かな」
「こ、校長! そんな瑣末は後で私が……!」
「採点ミスを直してくれへんのです」
ざわ、とどよめきが広がる。
「どの教科かな?」
「実習以外全教科どす」
「その解答用紙を見せてもらおうか」
その言葉に進み出る。
「こちらどす」
「グレイス、回答用紙を」
「校長! これは、狡猾な罠です!!」
「何の話だねグレイス。もう一度言うぞ?
回答用紙を」
「……か、回答用紙は、ありません、私の頭の中にあるものです」
「では問題用紙を寄越したまえ。
君に全ての答えを言ってもらおう」
好都合と言わんばかりだ。
「問題用紙なら有りますので、これをどうぞ」
「おお、すまんな。用意がいいと助かる」
カノンの用意の良さに脂汗が止まらないと言うような真っ青な面持ちでグレイスは顔を下げ、忌々しげに彼女を睨む。
わからないと言う事も許されない。今しがた頭の中にあると言った。答案用紙は二つある。ほぼ満点のトウドウインの答案用紙と後半の全てを不正解としたコーカットの答案用紙。
「こ、校長! 私の言葉を信じてください!」
今期で大体平民と成績不振の人間を片付け、故国の人間を入れようとしていたところにコレだ。彼女自体も送られてきた人間だ。グレイスとしては気に入らないが彼女は隙のない人間だった。
彼女を尾行させた使用人が数人行方不明だ。情報はほぼ得られていない。
「信じよう。今間違えることは許さんぞ。
貴様は採点を終えた教師なのだからな?
第一問」
問題用紙を読み上げる校長。嘘がつけない呪いに掛かったかのように声を絞り出す。
ものの十分後にその一生のようにも思えた時間ののちにカラカラになった声で最後の答えをつげた。
そのまま他の先生にも確かめ、全員言葉を待つ。
「どう言うことだね?」
「……私はミドカルの子爵だぞ!
本来貴様などに従属するなど……!!」
「馬鹿者が。本校の教師は軍規に準ずる。特権階級は関係ない。
むしろ貴様らには導く者としての重い責任がある。
貴様らはこの国の教員になったのだからな。
事情聴取の後に軍事裁判が貴様らを裁く。
公私混同を含め厳罰を覚悟せよ」
「ま、待ってください!
これは、あの小娘に嵌められたのです!」
本性が見え隠れする言動に焦燥で何を言っているのか把握出来てないのだろう。見苦しくカノンを指差して言う。
その様子にため息をついて、校長は怒気をあらわにする。
「白々しい演技をやめるか。
貴様等は先月より監視されていた。
普段の振る舞いの全てをな。
貴様らも知っている通り、ここは教育機関と呼ばれているが――軍事施設の一つだ。
そして、軍属で有る私が此処にいる理由は貴様らは調べているはずだ。
一般市民を含めた教育施設、この試みはこの世界において初であり、グラネダ、クロスセラスの大国も協力は惜しまず投資してくれている。
内偵は既に調査を終え、君達のしでかした出来事は各国に通達されている。
君たちは子供達を陥れるばかりか、かの大国を敵に回しているのだ。
首を洗って沙汰を待て」
翌日は急に何人かの先生の担当が変わり、帰って来た解答の点数は跳ね上がっていた。校長自らの登壇と謝辞が述べられ全員の合計点数は壁に張り出される。
フィーフィーは上から三番目。カノンは一番上に名前が載っている。
「な、大丈夫やゆーたやろ?」
大きめの瞳でウインクする。
そう言う仕草がズルいほど似合う可愛さの彼女は見た目に似合わない剛毅さと強かさを持ち合わせている。
学校が終わり、下校の時間となる。と言っても急な人事変更の為の早上がりだ。あまりいいことでは無いが採用は急ぐとの事だ。
「はぁ、落第は免れたよ」
「ずっと不当だったんどすぅ。
フィーはんは前にあっとった問題をあえて間違ったんやし、ウチに教えたんやからほんまは一番やったのに」
「三番目でも十分だよ。でも今度は私が教えてもらわないと」
「うふふ。ウチの授業料は高いでぇ」
「有料!?」
友人とは一体。そんな風に思ったところで真剣な顔で両手を上げて彼女が言う。
「おっぱい枕か、なんなら揉ましてくれてもええどす」
わきわきと指を動かしながら近寄ってくる。反射的に胸を隠すように腕で覆う。
「やだよ!?」
服の上からだとどうしても分かりづらいがそれでも溢れる質量にゴクリとカノンが喉を鳴らす。
「な、な、もう一回だけっ! な? ウチ今回頑張ったやろ?」
どうやらどうしても触ってみたいものらしい。身長の関係上、目の前に顔と同じぐらいの膨らみがあるとどうしても気になってしまう。
「だ、だめっ」
「もがへんから」
「もぐ気あったの!? せめて公衆の面前ではやめて!」
「え。ほんなら……二人だけの時に、しっぽりと、な?」
「なんかえっちいんですけどー!」
「楽しみやなぁ」
足取り軽く歩き出す。
その様子に自分も胸を軽くして、彼女に続いた。
因みに、結局揉まれた。




