『益虫みたいなもんだろ?』
筆が進んだのでもう一本
「さて、この家に住むにあたっていくつかの注意や約束方がある。ソレについてまずは話しておこう」
晩御飯(親父は米抜きオムライス)を終えて洗い物をする前に話を切り出す。
「食器とお風呂を私たちが洗うんですよね!」
金の方がお代わりのチキンライスを頬張りながら言う。
銀よりも金の方がよく食べるみたいだ。
「ソレ以外にもだ。まあ、何かあったらその都度注意すればいい奴とかは置いといて言っとかなきゃいけない事が幾つかある」
真剣な話に銀の方が唾を飲む。
金の方はチキンライスを飲み込んでる。
「後で案内するけど倉庫代わりに使ってる部屋がある。重いモノや親父のお土産でごちゃついていて奥の方は危ないから、入っても良いけど気を付けるように」
「何が有るんです?」
「あー・・・夏用の布団とか、バーベキューセットとか、ああ、親父が送ってきたお不思議な道具とかあるぞ」
色んな民族の儀式用に使うものとか、外国の変なおもちゃとか見ると親父は人望があるんだなというのがよくわかる。
趣味も悪いわけではないので部屋の内装の大半にそういったお土産の品を飾ったりしているし。
「まあ、明日辺りに倉庫整理兼ねてなんか部屋に飾りたいモノとかあったら飾ってもいいぞ。お面とかお面とかお面とかあるぞ」
「いや、お面はチョット・・・」
まあ、俺もお面は一枚とかならともかく大量に飾りたいモノじゃないからなぁ・・・
「じゃあ次、夜中に起きてトイレに行く、水を飲むという事もあるかも知れんがその際に其処にある人形を踏まないようにな」
棚の上にある人形を指差して言う。
冬だからモコモコした服を着ている。
「え?」
「基本的には彼処に戻るけど離れた所とかでよく転がってるから、踏まないように気をつけてそのまま放っておいていいぞ」
確かアレも親父からの郵便物だったか?
最初は動いている事に驚いたけど、動いている以外に何かあったりとか無かったし、面倒だからお祓いとか行ってないんだよなー。
「おい、お前いつの間にあんなものを迎え入れたんだ?」
「は?親父が郵便で送りつけたんだろ?」
「いや、俺は人形の贈り物は一つもしてないぞ。しかもあんな・・・」
「まあいいや、えっと次に「いや、全然良くないからな!」
えー、どうでも良くないか?
あ、人形が落ちた。
大声に驚きでもしたのか?
「別に良いだろ、悪い事なんて・・・あー、一回踏んずけた時翌朝髪が首に巻きついてたぐらいだし」
解くの面倒だし、容赦無く切った後に洗剤で溶かしたけど。
次やったらパッツンかバリカンって言ったら枕元にに立つぐらいには落ち着いたし。
ん?親父が頭を抱えて、金と銀が信じられないもの見る目見てるが・・・はて?
「なあ、人形供養とかお祓いとかにはいかなかったのか?」
「やだよ面倒くさい。別に何かあるわけでもないし、むしろ解れた服とか縫ってくれたりするし益虫みたいなもんだろ?」
ボタンぐらいなら縫い直せるけど、裾とかは綺麗に縫えないからな。
正直使えれば何でもいい感じはあるが、綺麗にできるというのは素直にすごいと思う。
「黄金、この人やっぱりおかしいよ」
「この人を敵に回さなくてよかったねお姉ちゃん」
双子が俺を変人扱いしてくることが解せない。
本人としては虫扱いはちょっとだけ納得のいかないところだったけれども、改めて追い出す気がこれっぽっちもないと言われた事には安心した人形なのであった。