『青虫ども。飯の時間だ!』
「じゃあ、なんでだ?こんな幼気な少女達が明日には物言わぬ骸になってても構わないっていうのか?」
親父が少し棘のある言葉を吐いた。
でも、その棘も俺の良心には刺さらない。
「そんなの良くある事だろ。
そういうのじゃなくて、純粋に面倒を見るのが面倒なんだよ。
そもそも、親父が拾ってきたんだったら親父が面倒を見ろよ」
普通、それが道理だ。
子供じゃ無いんだから『可哀そう』という同情心で希望を持たせるのは残酷な事なんだから。
「だいた「「グギュルルルルルルルルル・・・・」」
俺が二日飯を抜いても聞こえないような腹の音が聞こえた。
音の発生源を向くと金の娘の方は強気に此方を睨んでいて、銀の娘の方は恥ずかしそうに顔をそらして耳もペタンと伏せていた。
あー・・・そういえばもう昼だったな。意識したら腹が減ってきた。
チッ、腹空かせてる子供の前で無関心に香りが高い飯を食えるだけのスルー力と非道さがあれば楽だったのに。
そんなクソどうでもいい苛立ちを隠し切れなかったのか此方を睨んでいた金の娘の目元にジワリと涙が滲んできていた。
はぁ・・・めんどくさ。
「おい其処の金と銀の」
いきなり呼ばれたからか二人の体がビクッっと震え金の方は目尻から涙が零れそうになっている。
睨みながら泣くって器用だな。
「食後に食器と風呂を洗うのを手伝うと言うのなら二人分の飯を出してやる。どうする」
「・・・ぇ?」
「後の労働の代わりに先払いで飯を提供してやると言っているんだ。飯が要らないんだったら別に良いが」「「い、いる!」」
「そうか」
若干食い気味に反応された。
よほど腹が減っていたのだろう。
しかし、我ながら面倒な事をするもんだ。
「おんやぁ~なんだかんだ言って優しいじゃないか~?」
「どうやら親父は肉なしの飯がいいらしいな」
「マジで勘弁して下さい」
一瞬で綺麗なフォームでの土下座。この素早いモーション俺でなきゃ見逃しちゃうね。
土下座している親父を放置して冷蔵庫の中身を確認する。
動画見て何となく釣られてノリで作ったチャーシュー1ブロック分、パック詰めの冷蔵ご飯数個、キャベツが1/4玉、ネギが1本、きゅうりの浅漬け、野菜ジュースが数パックにバター等各種調味料。
・・・・・・我ながら酷い冷蔵庫の中身だ。
独身貴族やってる人の冷蔵庫のほうがまだおつまみとか何か入ってるんじゃ無いだろうか。
あ、いや、まだ昨日はケーキとかオカズの残りとか入ってたからノーカンだな。
このまま米、チャーシュー、浅漬けを出すんでもいいんだが・・・せっかくだし一手間加えてチャーシューマヨ丼とかにするか。
冷蔵庫から取り出したご飯をレンジに入れ、チャーシューを切り分ける。
温めたご飯を適当な皿に盛りその上にチャーシューを乗っけて、マヨネーズなタレを少し混ぜてそれを掛ける。
最後に適当な大きさに千切った海苔を掛けて完成。
同じものを四つ作る。
「あ、奴等が箸が使えるのか聞くの忘れてた。・・・ま、いいや。
ほら、青虫ども。飯の時間だ!」
使えないなら、スプーンを出せばいいだけの問題だ。
机に丼と漬物容器を置く。
机のサイズが小さいから親父だけ机無しだ。
「なんで俺だけ・・・」
「スペースが足りないからだ諦めろ」
「だったらお前のスペースを譲れよ」
「そんな親父に朗報だ、先ほどの謝罪がなければ親父の飯は海苔を乗っけただけのご飯になってたぞ」
「より悪い状況になっていた事を教えられても全然うれしくないからな!」
まったく、照れ屋さんめ。
予想通り箸が使えなかった二人にスプーンを渡した以外には問題は特に起きなかった。
途中、少女達が何か泣きだしながら飯を食べすすめご飯を一杯ずつお代わりしたり、食べ終えた皿を片付けようとした時に何故か正座で食べていた親父の痺れた足に躓いたりとかあったが何の問題もなかった。俺のログには何もなかった。
さて、皿の洗い方も風呂の洗い方も知らなかった二人に洗剤とスポンジの使い方を教え台所から離れる。
包丁はもう洗ってしまってあるし、今日使った食器に金属製、陶器製のモノは使わなかったから漫画の様にしっちゃかめっちゃかに成っていても皿が割れる心配は無いだろう。
「癪だがあいつ等を労働力の代わりに住まわせる事は了承しよう。あいつ等の物覚えも悪くないみたいだしな」
「じゃ、そういう事で宜しく」
「よろしくじゃねぇよ糞親父。せめてどうして俺の所にあいつ等が連れて来られたのかぐらいは説明しろ」
「特に無いって言ったら?」
「そのいまだに痺れている足を重点的に攻撃し続けるが良いか?」
「有るから!有るからそれはやめろ!」
「ふう・・・もともと、あの子達と同じような境遇の子は他にも何人か居てな。
他の子は仲間や信頼できる人物が預かってくれたんだがな・・・預かってもらえた種族と別の種族を更に二人同時に預かれる場所が他になくてな」
「結果、預かる事が出来る人間以上にああいうのが居て余りが出たと」
「だいたいそうだが、余りなんて身も蓋もない言い方をするな、もう少しオブラートに包め」
「オブラート」
「違うそうじゃ・・・まって、どうやってんの?!」
「オブラート」
「まって、それで会話しないで。訳わからないとかいうレベルじゃないから」
まったく、注文の多い親父だな・・・
「ま、変な所に預けるぐらいなら家で預かろうって事になってな」
「それ、俺に負担が掛る事なんだが?」
「いやまあ・・・昔、犬や猫を飼いたがってたから人が一人二人増えても問題ないかなって」
「イヌ科の耳が生えてるとはいえ愛玩畜生と同列に考えるのはどうなんだよ」
しかも飼うって・・・一応これ全年齢なんだから、そんなエロゲやエロ本みたいな展開で使うような表現をされても・・・
「ま、いいや。それで?預かるって事は期限とか有るのか?」
「ああ、一応半年。半年経ってあの子達とお前に問題なしだったらそのまま在中。
一応、故郷を探しはするがほぼ手掛かりなしの状態だからな。
あ、一応だが両者合意の上なら別にヤってもいいからな?」
「ねーよ。ケモミミに琴線が触れない訳じゃ無いが、流石に手はださねーよ」
子供に手を出したら捕まる。紳士の合言葉はYESロリータ、NOタッチ。
俺は遠目から見て『あー、若いなー。元気だなー。眩しいなー。辛いなー』ってなる程度で十分だ。
「大丈夫、お父さんはお前がロリコンでも軽蔑はしないぞ」
「その理解を示したかのような的外れの目はやめろ」
まったく、ロリコンじゃない奴をロリコン扱いするとは何事か。
そんなくだらない話をしていると金髪の方の娘が居間に戻ってきた。
どうやら風呂の掃除は終わったようだ。
まあ、風呂の掃除といっても浴槽を重曹とスポンジで軽く磨いて流すだけの簡単なやつなんだけれど。
思うだけで行動に移さないなら何も考えてないのといっしょ。
あと、セラミック製の器はガラスの擦れる音やうっかり落としても破損しにくいのでおススメ。