『早くしないと右足の脛毛根死滅する呪い掛けるぞ』
作品タイトル自体は仮名
良いのが思いついたら変える。絶対変える。きっと変える。変えれると・・・いいなぁ。(諦め)
「うげぇ・・・雪が降ってる・・・どおりで寒いわけだ」
その日はしんしんと雪が降っていた。
淡雪なのかアスファルトの上に積もるような気配は無く、そんな雪のせいなのか昼近くにも関わらず外で遊ぶ子供の姿も見えない。
「春・・・早く来ないかなぁ・・・」
今日は学校もバイトも無いし、寒いから布団に戻って惰性に一日を過ごそうと決めたも束の間、無情にも鳴るインターホン。
「誰だこんな寒い日の朝に訪ねてくる奴は・・・」
床にほったらかしにしていた褞袍を羽織って、玄関の覗き穴から外を窺う。
どうやら一抱えもある段ボールを抱えた動物印の郵便配達だった。仕事とはいえ、こんな寒い中大変そうだな。それも含めての仕事かもしれんが。
ドアを開け、伝票に判子を押し、荷物を受け取――――重い!
なんとか後ろに踏み止まったが、なんだこれ。物凄く重いぞ!
心配そうにする配達員にお礼を言ってドアを閉める。
一度下ろしたら持ち上げられない気がしたので、一旦扉だけを閉め鍵を閉めないまま部屋まで戻る。・・・鍵を閉めないのは少し不安になるが、玄関に大きな荷物があって邪魔になるよりはマシだ。多分。
部屋に戻り、段ボールを出来るだけ静かに床に置く。
いや、『割れ物注意』や『取扱注意』のマークが無いから大丈夫だとは思うのだけれど、何というか・・・異様に重たいモノって乱暴に扱いづらく無いか?俺だけかね。
「しかし、こんなに重いって何が入っているんだ?」
宛先は・・・国際便でクソ親父か。
また、どっかの民族や部族から貰った儀式用のお面でも詰め合わせて来たのか?
それとも、どっかの廃墟から曰く付きの品でも拾ってきたのか?
まあ、いい・・・考えるのは中身を見てからでも遅くない。そのまえに家の鍵を―――
――――ガチャ
玄関のドアが開く音がした。
現在ほぼ一人暮らしのこの家にドアを開けるような親兄弟等の、人間は居ない。
学校の友人も、家の位置を教えた友人自体居ないので此れも無い。
よって不法侵入者。
警察への届けは出さない。信用出来ないから。
だから・・・此処で始末する。
防災セットのカバンに入れてあったバールを手に取る。
本来は倒れた家具を退かしたり歪んだ扉を破壊したりするための物だが・・・
今回はこの家のジャマモノを退かすために使用するとしよう。
扉近くの入って死角に成りそうな場所に隠れる。
床が軋む音がする・・・息を殺し、気配を殺す。
ギッ・・・ギュィッ・・・チュミミ~ン・・・
なんか床が軋む音以外の謎な音がするんですけれど?!
しかもなんか、工具っぽい音って感じよりも生き物の鳴き声っぽい雰囲気だったんだけど?!
え?マジで何が侵入してきてるのコレ?
傍に立つ感じの何かでも連れた人でも来てるのか?
通常の方法では追い返せる自信が一気に無くなって来たのだが・・・
ギッ・・・・・・ガチャ・・・
ええい、ままよ!
これが手加減だ!
扉から出てきた人物の鳩尾を狙って全力で突きを放つ。
がたいの良いと思われる、薄汚い恰好をした―――――父親へ。
「ごっ・・・ぉぉぉぉぉ・・・」
「なに腹押さえてんだクソ親父。腹下してんならさっさとトイレ行ってくれよ」
居間で下痢漏らすとか勘弁して欲しい。
腹を抱える親父を放置して玄関のカギを閉める。
「お前のせいだろうがぁぁぁ・・・」
「恨みがましい声を出すのは良いが、人の家にインターホン鳴らさずに入ってくる不審者にはぴったりの末路だと思うぞ」
「それが、我が家に帰ってきた父親への態度かぁぁぁぁ・・・」
「年に一回家に帰って来るかどうかの放浪親父が言えるセリフじゃねぇよ。帰ってくるなら一本電話入れるとかしろって毎回言ってるだろ」
墓参りの為に年に数回は日本に帰ってきて居るらしいがこの家に帰って来るのは本当に稀だ。
溜息を一つ付き、バールを防災カバンへしまい直す。
「で?いきなり帰ってきてどうしたんだよ。お盆は四か月前に終わったぞ」
「母さんの墓参りじゃねぇよ。いや行くけどな」
それよりと親父は腹を抱えながら立ち上がり今届いたばかりの荷物を指差して、カバンから紙束を取り出した。
急なエンカウントに驚いてたがそもそもドアの鍵を閉められなかった原因はこれのせいなんだよな。
「そろそろそいつが着く頃だと思ってな。急い送ったもんだから説明書入れるの忘れてたんだよ」
「なんだよ、そんなに危険な物を送り付けたのか?しかもわざわざ手紙の為だけに帰国?」
「いや?これをお前に渡すという建前で母さんの墓参りに来たに決まってるだろ」
「だろうよ」
息子である俺が言うのもなんだがこの親父は母さんにゾッコンラブ(死語)だったらしいのだ。
それこそ母さんが死ぬほんの少し前まで毎年のように新婚旅行に行って居た位なのだから。・・・新婚旅行何年目とかって冷静に考えると凄く可笑しな話だよな。
「で?結局何を送りつけてきたんだ?」
「まあ、待て。それは開けてからのお楽しみだ」
「勿体ぶってんじゃねぇよ。早くしないと右足の脛毛根死滅する呪い掛けるぞ」
「やめろ。お前の呪いは地味なくせに妙に効き目があんだよ・・・」
確か前来た時、掃除したばかりの玄関を早速泥で汚された事にイラついて「次の飛行機で目を開けながら静かに眠る脂ぎった不気味だけど滅茶苦茶紳士的なオッサンの隣になればいい」とか対応に困る事を言った気がする。この様子だと実際その通りに近しい事があったらしい。
ハハッ、ざまぁ。
「勿体ぶった訳じゃ無くて、見た方が早いんだよ。ほれ、いいから開けてみろ」
「ロクなもんじゃなかったらその口に味の素ぶち込むからな」
「ヤメロー!死にたくなーい!」
騒ぎ立てている親父を無視してダンボールを開封する。
重量はかなりのモノだった上に、親父がわざわざ(建前としてだが)手紙を届けに来るためだけに帰宅したのだ。それはもう大層な物か危険物が入っているのだろう。
「アバダ ケダブラ・・・っと」
中身は・・・なんだこれ。
中には女の子二人が抱き合うようにして体を丸くして眠っていた。
ダンボールで人を運んでいる時点で事件なのに、そのうえ幼女になると闇の深さがががが・・・