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ときめきメモリアル ~パグアクスはかく語りき~ 他1本



 世界最大最強国家ウィズ王国。


 神に選ばれた傑物、初代国王リクス・バージシナが原初の貴族の始祖たちを率いて統一戦争に勝利し建国した国家。


 その首都に君臨する王国城、城内を颯爽と歩く1人の男。


「ほら! 見てみて! パグアクス息よ!」


 彼を見た王国府の女子職員が隣にいた女子職員2人に話しかける。



「やった、朝から運がいい!」

「もうさ、カッコいいを通り越して綺麗! だよね!」

「先日もあのムリラ嬢のお茶会の誘いも断ったって!」

「ムリラ嬢って、あの女ぶりっ子じゃん、そこを見破るなんて、流石中身もイケメンよね!」



 その時だった、パグアクスの前方に書類をたくさん持った女子職員が危なっかしい足取りで近づいてきて、彼の前でバランスを崩してしまった。


「あ……」


 誰の声だろうか、その書類がパグアクスに向かって崩れる。このままでは相手に粗相をしてしまう、ただの相手ではない、国家の重鎮相手だ。


 パグアクスは、それに動揺することなく、崩れる寸前の書類、ではなく。


 女性職員を受け止めた。


 しく体勢を立て直してあげると、そのまま手際よく散らばった書類を集めると手渡す。


「大丈夫かい?」


「は、はい、ありがとう、ございます」


 その自然な振る舞いに、そのまま見惚れてぼんやりと頷く女性職員。


「危ないよ、気を付けてね」


 爽やかな風をまといその場を歩き出す。



「「「きゃあー!! かっこいい!!」」」



 黄色い声を背に歩き出す彼は、これからある場所に向かう。


 ある場所とは貴族御用達の高級リゾート都市エナロア。


 彼は王の秘書という国家の使命と同等の使命を帯びており、そのために本来なら7日で終わる分量の仕事をわずか4日で終わらせたのだ。


 その使命とは。


 おもむろにセレナの写真(盗撮)を取り出す。



(愛しのセレナ、君のことは俺が守る!! 愛の戦士として!!!)



 なお、一応解説しておくが、セレナが誰かに狙われているとか、そういった事実は全くない、現在特段に守る必要性はないことを申し添えて置く。


 原初の貴族随一の美形一家、シレーゼ・ディオユシル家。


 その次期当主である、パグアクス・シレーゼ・ディオユシル・ロロス。


 地位と名誉と財産と能力と容姿、およそ男が望むであろう全てを持つ男。



 この物語は、男が望むであろうモノを全て持ちながら、その全てを台無しにする中性系知的系眼鏡系、安心と信頼の不憫ストーカー美男子、パグアクス息の愛の1人物語である。



:ときめきメモリアル ~パグアクスはかく語りき~:



第一話:パグアクスと髪留め



 エナロア都市。


 格付けは3等、貴族の別荘とその使用人たちの居住区及びで構成される高級リゾート都市、ここに別荘を持つことは一流貴族のステータスの一つ。


 パグアクスの実妹であるクォナはここのカントリーハウスを拠点として活動している。


 そのカントリーハウスの中でパグアクスは、壁に寄りかかり物思いにふけっていた。


Q「何を考えているんですか?」


「もちろんセレナのことだ。それにしても、こんな近くにいるのに想いが届かないのは、もどかしいものだな」


Q「お辛いですね、そんな彼女自身も、そういった気持ちには疎いみたいですし」


「ふっ、まさにそれは彼女の清純さの象徴だよ、おっと、彼女の美しさを言葉で表現すると、その時点で全ての言葉が陳腐なものへと成り果てる、だがまあ、全ての美を超越せしもの、と表現しておこう、っと、失礼」


 そのまま物陰から首だけを出して日記を取り出して何かを書いている。


Q「それは何ですか?」


 その問いに澄ました顔でぱたんと閉じると口元に近づける。


「これは、セレナ日記、セレナの過去を10分刻みで把握する、愛の未来日記」


Q「そんな我妻由乃を当然のごとく出さないでください」


「? がさいゆの?」


Q「まあ、その、創作物語の登場人物の名前、です」


「そうなのか、よくわからんが、何故か親近感を覚える名だ、覚えておこう、むっ!」


 ここで再び首を出してそのまま物陰からのぞく。


Q「どうしました? まだ10分経っていませんが」


「いや、セレナ周囲に男の気配があったから確認したが、クォナ騎士団だった、良かった」


Q「クォナ騎士団はいいんですか?」


「ギリギリセーフだ、奴らは妹しか見ていないからな、とはいえこの間、セレナを貶めた騎士団員がいたがな、そいつらの今後は……ふふっ」


Q「怖いんですけど」


「大丈夫だよ、大丈夫」


 パグアクスは、恍惚な表情を浮かべて両手で両頬を包み込む。


「セレナは、はぁ、俺が守ってあげる、ね、セレナ」


Q「だから我妻由乃は出さないでください、割と洒落にならないレベルでのヤンデレなので、作品は面白くて好きなんですけどね、個人的に」





 そんな不憫ストーカーに加えてヤンデレ美男子は、使命の続きがあると言い残してその場を後にしたパグアクスはある場所にいた。


Q「セレナのことは見なくていいのですか?」


「ああ、彼女は今、クォナの所掌事務を処理しているんだ。この場合は自室にこもりきりで出てこない、機密書類も多く扱うから彼女の自室は自動施錠になっている。その間は誰でも入れないから安全、こっちも安心だ、愛の戦士のつかの間の休息というやつだ、ふっ」


Q「なるほど、まあそれはいいんですが」


「なんだね?」


Q「いや、「なんだね?」じゃなくて……」


 そう、それは大した、いや相当な問題ではあるが、それは置いておくとして、問題なのは今パグアクスがいる場所である、その場所とは。


Q「どうしてクォナの部屋のにいるんですか?」


 そう、クォナの部屋なのである。


Q「しかも無許可ですよね? いくら妹でも一言ぐらい断らないと」


「なんだ、そんなことか、そうだな、まず本来ならセレナの部屋の自動施錠は俺なら簡単に開錠することができる、ここまではいいか?」


Q「ちょっと待ってください、よくありません、さっきのセレナが安全という話が根底か覆ったじゃないですか」


「? 開錠できるのは私だけだぞ? それに開錠パターンを見つけるのに一か月もかかったから大丈夫だ」


Q「大丈夫の意味ってなんでしたっけ」


「続けるぞ、といっても理由は単純、セレナの部屋に私がいたら言い訳ができないだろう? 妹なら見つかっても怒られるだけで済むからな、ここだよここ」←指先でこめかみをつつく。


Q「…………」


「はうわ!!」


 突然跳ね上がるように、クォナの鏡台にまでダバダバと駆け寄るパグアクスはある物を手に取るとわなわなと震える。


 彼が手に持っているものは髪留めだった。


Q「それはクォナの髪留めですか?」


「君の目は節穴か!! どうしてこれがセレナの物であるというのが一発で分からないんだ!! これはセレナが120日前に首都の雑貨屋で買ったお気に入りの髪留めだ!! それぐらい常識だろう!!」


Q「すみません」


「まあいい、いいか、女性にとって髪は命、髪留めはその命をつなぎとめる、神聖なものだ、男にとって女の髪は絶対不可侵であり(以下略)」


Q「そのとおりだと思います(棒)、ちなみに髪留めがどうしてここにあるんでしょう?」


「セレナ、シベリア、リコがプライベートでは親友であることは知っているな? その中で一番付き合いが長いのがセレナでな、よく2人で女子トークをしているのだ、この間は2人で色々な話をしてて、好きな小説の話をしていたのだよ、その時に忘れたものだ」


Q「一緒に部屋でクォナ達と話すなんて、仲がいいんですね」


「そそそそそんなことできないだろうが!! タンスに隠れてこっそりと聞き耳を立てていたんだよ!! それぐらい察したまえ!!!」


Q「すみません、超能力者ではないので」


「まったく、まあ要はこれを取りに来たのだよ」


 そのまま髪留めをポケットの中に入れるパグアクス。


Q「取りに来たって、彼女に届けてあげるんですか? それだとこの部屋に入ったのがばれてしまうと思うのですが?」


「………………え?」


Q「…………」


「…………」


Q「…………」


「…………」


Q「……まさか」


「なななな何を言っているのだね!! わわわわ私は偉大なる初代国王リクス・バージシナに仕えし24人の1人! めめめめ滅私奉王を実現させた」


Q「ここは始祖様も出すタイミングではないですし、始祖様も困るかと、って分かりました、分かりましたから、元の場所に戻しておきましょうね」



第二話:パグアクスとエプロン



 世界最大最強国家ウィズ王国の首都、ウィズ王国城。


 城内の廊下を颯爽と歩く1人の男。


「ねえ見てみて! パグアクス息よ!」

「いつ見ても美しいわ!」

「私、誘われたら断れないかも!」


 そんな王国府職員3人組の黄色い声援を受けて、彼はにっこりとほほ笑む。


「「「きゃあ~!!!」」」


 地位と名誉と能力、そして異性を魅了する容姿。


 男が望むであろう全てを持つ男。


(すまないセレナ、愛の戦士として、先日、君の私物を手に入れることができなかった俺を許して欲しい)



 この物語は、男が望むであろうモノを全て持ちながら、その全てを台無しにする中性的知的眼鏡系、安心と信頼の不憫ストーカー美男子、パグアクス息の愛の1人物語である。



――エナロア都市



 朝、彼はクォナ自室にいた。(当然のごとく無断)。


Q「おはようございます、精が出ますね」


「うむ、おはよう」


Q「秘書としての業務もこなしながらの愛の戦士、二足の草鞋は大変ですね」


「なんてことはないさ、セレナを守る、それが仕事と同じぐらい大事なことだからな」


Q「守る、そうえいば特段誰かに狙われているという話は聞いていませんが、誰から守っているのですか?」


「今のところは大丈夫なようだが、昨今ストーカー事件も多いだろう?」


Q「うーーーん、そうですねー、多いと言えば多いですかねー」


「そういった輩は絶対にいなくならない、だからそういった輩から彼女を守らなければならないのだ。全く、それにしてもストーカーとは男の風上にもおけない下劣な存在だ、そうは思わないかね?」


Q「そうですねーーーー、まあーーー、ほらーーーー、えーっと、ストーカーって、自分がストーカーって自覚はないですからねーーーーー」


「そのとおり!! それがストーカー事件で一番怖いところだ! だから取り返しがつかないことが起きる前に先手を打つのは当たり前だ!」


Q「流石ですね」←諦めた


「ってはうわ!!」


 そのままダバダバと走ると、あるものを持ちだしてわなわなと震える。


「これは!! エプロン!!!」


Q「誰のですかね?」


「馬鹿野郎!! このシミは3日前! このシミは7日前! このシミは13日前の料理の時に着いたものだ! この三つで複合すればセレナだという事は容易に分かる! その程度の観察眼も持っていないのか!!」


Q「すみません、シミまではちょっと見てなくて」


「エプロン、それは女の純白の鎧、清純の象徴、癒し尽くされる、天使の衣」


Q「そのとおりだと思います(棒)」


「さてと」


 パグアクスは、そのまま手に持つと顔に近づける。


Q「ちょっと待ってください、何をするつもりですか? まさか匂いを嗅ぐつもりですか?」


「そんなことをするか! 食べるんだよ!! 分かれよ!!」


Q「分かれません、どうしたんですか、エプロンは食べ物ではありませんよ?」


「当たり前だ、エプロンが食べ物のわけないだろう?」


Q「はい、ですから食べるのはよした方が」


「食べると言っても正確には咀嚼するだけだが?」


Q「咀嚼するだけだが? ってこっちが変な事を言っているように言わないでください、

アウツです」


「?? ちゃんと洗濯するぞ??」


Q「アウツです、いや、だから、ちょっと! アウツですって!! 駄目だから!! エプロンを食べるな!!!」



第三話:パグアクス息と靴下



 ここは世界最大最強国家ウィズ王国、その首都にある王国城。


「ほら! 見てパグアクス息よ!!」

「やだ! 化粧が崩れていないかしら!!」

「パグアクス息なら、私、あげちゃう!!」


 これは男のなら望む(以下略)



――エナロア都市



 クォナ自室にて(無断)。


Q「おはようございます」


「うむ……」


 何処か顔色が優れないパグアクス息。


Q「大分お疲れのようですね?」


「ああ、三日連続の徹夜は流石に堪えるよ」


Q「三日連続、次期国王の秘書となれば、業務量が多いのですね、他人に任せるわけにもいかないことも多いでしょうし」


「? 仕事は滞りなく終わらせたぞ? 仕事に長時間をかけるのは3流、短時間で終わらせることが一流の仕事人だ」


Q「なら、何故三日連続も?」


「セレナの自室の前で寝ずの番をしていてな、まあ疲れているが、心地よい達成感が身を包むよ」


Q「そんな綺麗な目をして言われると、なんか正しいことをしているような気がしてきました」


「それに前にも言ったが彼女を見張ればストーカーが来たときにすぐに対処ができるだろう?」


Q「そうですね、ストーカーって怖いですね(諦観)」


「ってはうわ!!」


 と再びダバダバとクォナの鏡台付近まで走るとある物を取り上げる。


「これは、靴下!!」


Q「…………念のため聞きますが、それは誰の物なんですか?」


「いや、流石にこれだけだと分からない」


Q「え!? なんか凄い理由つけて「なんでお前分からないんだよ!」って言い出すと思った!!」


「セレナは正真正銘、上流の一員ではあるのだが、侍女という立場が優先されるからな、華美なものは着用は許されなく、デザインも統一されている。故に侍女たち3人のうち誰のかだとは思うんだがな、とはいえ、このまま手をこまねいてもしょうがないか、だからあれしかないか」


Q「まさか食べるつもりじゃないでしょうね?」


「は? 靴下を食べるって、大丈夫か?」


Q「…………」


「その考え方はどうかと思うぞ、まったく」


 とおもむろにクォナのベッドに腰を掛けると軽く足を上げて靴下を。


Q「いやいやいやいや、何をしているんですか?」


「何って、さっきも言ったが、これでセレナの物だと分かるんだよ」


Q「いやいやいやいやいやいやいやいや、分からないでしょう? 履きたいだけでしょう?」


「おい、人をそんな変態のように言うな、まあこればっかりは説明するのは難しいか、感覚的なものもおおいからな」


Q「そうですか、分かりましたからやめましょう、だから、ほら! 辞めろっての!!」



第四話:パグアクスと歯ブラシ



 この物語は(以下略)。


―クォナ自室(無断)


Q「おはようございます」


「ああ、今日もいい朝だな、すぅーーー」←ハンカチを手元にあてている


Q「…………」


「これか? 大丈夫だ、安心しろ」


Q「…………」


「どうした?」


Q「いえ、ですから、どう安心すればいいのかの続きを」


「はうわああぁあ!! ピコーーンきたあああ!!!!」


 今までにない一際大きな声で、ダバダバと今度は洗面所に入る。


「これは!! きた!!! ついに!!!!」


 掲げるように手に持ったのは歯ブラシだった。


「歯ブラシ!! セレナの!! 歯ブラシ!! セレナノ!! ハブレシ!! シェレナノ!! ヒャブレシ!! モウ!! モウ!!!」


Q「落ち着いてください」


「いただきまーう!!」


Q「おいいぃぃ!!! 問答無用で口に入れようとするな!! 辞めろっての!! こらあああ!!!」



最終回:パグアクスと下着



ドドドドドドド!! ←2人で走っている


「うおおおおおおおおああぁぁ!!!」


Q「どおおおりやあああああぁぁぁぁぁ!!」


2人して脱衣所に入る。


Q「セイハアアアァァァーーー!!!」←間一髪で脱衣所のブラを奪い取る


「ダアアアアアァァァァァ!!! ちくしょおおおぉぉぉ!!!」←両膝をついて絶叫


Q「シャアアアアアア!! ダラアアッァァァアア!!」←片手に持ち、掲げる


「食ううううわあああああせええええろろろおぉぉぉ!!!」←ルパンダイブ


Q「めええぇぇぇん!!」←軍刀で脳天を打ち付ける


「きゅう」


 パッタリと倒れるパグアクス。


Q「はあ、はあ、はあ、ふいー、やっと静かになったか、最初からこうすれば早かったね、もう、ほんとに、この人は」


 パグアクスを失神させた直後、自室の扉が開き、クォナとシベリアとリコが入ってきた。


「申し訳ありません、ご主人様、身内の恥の尻拭いを押し付けてしまって」


 とQこと俺、神楽坂に話しかける。


「いいよ別に、王子からも言われたし、あのさ、余計なお世話だと思うんだけど、次期当主がこんなんでシレーゼ・ディオユシル家は大丈夫なの?」


「これでも外面は完璧なのです、仕事ぶりも王子は高く評価されておられます」


「ああ、確かに仕事は申し分ないとか言っていたよな、若干保守的すぎるきらいはあるとか言っていたけど」


「まったく、我が兄ながら、もう少し控えることを覚えた方がいいと存じますわ」


(やっぱり兄妹だよなぁ、言わんけど)


「アガガガガ!!」←アイアンクローをされている


「もう、ですからコレと一緒にしないでくださいませ♪」


「いちち、ってさ、今更だけどさ、妹として何とかできないの?」


「妹の親友の下着に手を出そうとしたり、歯ブラシを問答無用で口に突っ込もうとしたり、もう矯正は不可能かと存じますわ」


「うん、そうだね、ごめんね、それと、セレナの私物管理もちゃんとした方がいいと思うんの、色々忘れすぎだと思うの」


「ま、それについては私も含めて注意しておきますわ、セレナもプライベートだとうっかり者なので」


「ああ、うん」


 最後にじっと何故か幸せそうな顔をして失神しているパグアクスを見る。


「むにゃむにゃ、セレナ、やっと、俺の気持ちに、ああちがう、その子は関係ないの、そう好きな人がいるんだ、いや、だからその子でもないの、俺の君への好きな気持ちなんだ、え? 聞こえない? 違う、そうじゃなくて、君のことが好きなんだ、ってなんでいきなり暴れ馬が?」


「夢の中でもラノベ主人公してんのかセレナは」


 せめて夢の中ぐらいは、うまくいけばいいのにね。


「なあ、クォナ、いっそのことクォナが伝えたらどうだ? 俺でもいいんだけどさ、進まないと多分ダメな感じが……」


「自分の気持ちは絶対に自分で伝えると譲りませんの」


「……ああ、まあ、気持ちはわかる、か」


 個人的には上手くいってほしい……。


「むにゃむにゃ、歯ブラシ、うまうま」


「うん、やっぱり駄目だこの人」



:おしまい:



――前回投稿「はるかに遠き、夢の形見は…」のおまけ



 初めての出会いの後、リクスとリクスの想い人であるユナの住む場所、フェンイア街へ行く道中でのこと。


「なあウィズ」


「ん?」


「お願いがあるんだけど」


「ああ、デートの練習に付き合ってくれって言うんでしょ? そろそろ言い出すと思っていたわ、厳しくいくからそのつもりで」


「ちがーう、って誰がそんなこと頼むかよ、こうあれだよ、練習のデートとか頼むパターンだと、デートの練習をしているところをユナちゃんに見られて誤解されて」


「(笑)」


「こ、この、まあ、ごほん! ほら、さっきの占いの奴だよ! その、いつでもいいから、未来の平和な時代を見せてほしいんだよ」


「……平和な、時代? 平和って簡単に言うけど、また随分と大雑把というか、漠然としすぎているというか、如何様にでも解釈できるというか、意味あるのそれ?」


「あるよ、だって」


 俺はウィズに告げる。



「このアーティファクトを「人の理で使う」のなら、こういう お願い事が一番いいのさ」



「……そこはもう気づいていたんだ」


「まあな、というか実際に目の当たりにしてやっと理解できたといったほうがいいか、アーティファクトは、聞いていたとおり、人間が使うべきものじゃないってのは十分すぎるほどわかったからな」


「……どう使うべきじゃないと思う?」


 俺はウィズが持っているアーティファクトを指さす。



「例えばこのアーティファクトは「結果が出ない方がいい」んだよ」



 確定された予言レベルではなくても、ものすごく当たるレベルの占いってのは、それだけで人生を狂わせる。


 夢があって、それがかなわないという結果が出たら、もうそれは「ほぼ」かなわないのだ。


 これは当たる当たらないの話ではなく「神の理で出た結果」が人の心に及ぼす悪影響を考えればわかるだろう。


 人間にとって占いはやっぱり「当たるも八卦、当たらぬも八卦」レベルで信じるのが人間の理ということだ。


 そんな危険な物だけど……。


「わかったわ」


 ウィズはあっさりとアーティファクトを取り出す。


「…………」


「言ったでしょ、ディナレーテのアーティファクトの危険性はリクスの言ったとおりよ、だからあなたが使いたいといったのなら使うわ、もちろん私が駄目だと判断したら使わせないけどね」


「……そっか、ならそれでよろしくな」


「あら、そっちもあっさりしているのね」


「まあ重く考えてもしょうがないだろ、ひょっとしたらさ、ウィズが言った、偉大な人物の下足番じゃなくて、ほんとの歴史に名を残す人物になるかもしれないだろ?」


 俺の言葉にウィズはくすっと笑う。


「確かに不確定なゆらぎがあるから、それに賭けてみるのもいいかもね」


 そんな軽口をたたきあう。


 実際は、そんな都合よくいかないのは分かっている。


 何故なら、遠い未来でも平和な未来があるのなら「それに全く俺が関係していなくても」映し出すという意味なのだから。


 だから本当に気休め程度、そんな占いに意味が無いと思うかもしれない。



 だが占い神の結果が出た以上、これから大陸全土を巻き込んだ戦争が起きるというのは確定しているということになる。



 それで沢山の人が死ぬこともまた確定している。



 何故ならこの世界で神の奇蹟は存在しても奇跡は存在しないのだから。



 ウィズは、何となく俺の意図を察したのか、何も言わずアーティファクトを操作すると。


「結果、出たよ、平和な時代は訪れるって結果がね」


「そっか、映像を見せてくれよ」


 2人してアーティファクトをのぞき込み、そこに映し出された世界、そこは知らない世界……ではなく。


「ゆ、ゆ」



「ユナちゃん!!??」



 間違いない、ちょうど30歳ぐらいか、そんな年齢のユナちゃんが出てきたのだ。


「はう! 年を重ねてますます美人に! しかも! しかもさ! これは!!」


(あれ? 遠い未来じゃないのかしら?)


「これってなんか肖像画だよな!!」


 そう、よくお偉いさんなんかが描かれている肖像画、しかもユナちゃんは豪華なドレスを着ている、いや、これはドレスというよりも。


「お妃様!! そんな感じ!! なあなあなあなあ!! これってさ!!」


 ユナちゃんと俺が結ばれる。


 そのユナちゃんが、なんか豪華なドレス来てお妃様、もしくはなんか貴族みたいな立場にいる。


 つまり……。


「ってことは俺もってこと!? でへへぇ! まああれですよ、男の甲斐性ってやつかな! 男子たる者これぐらいはやってのけないとね! えっへん!!」


「アンタ、さっき散々あんな風に言っておいて……」


「お!」


 映像がそのまま徐々にズームアウトしていく。


「こういう肖像画のパターンだと、隣には大体伴侶がいるよな! つまり! つまり!」


 自分で自分を指さす。


「そう!! 俺!!!」(ドヤァ)



――イケメンダンディが出てきた



「おいいぃぃぃ!!! 誰だよこれ!! 誰なの!! 俺と結ばれるんじゃなかったのかよ!! キーーー!!!」←ハンカチを噛んでいる


「なるほど、これがディナレーテのいった「不確定のゆらぎ」なのね、説明はされていたけどこんな身近な未来でもアイツの占いが外れるのね、悠久の時を生きる私でも「初めて」の出来事よ」


「お前は本当にさあ!!」


「そりゃあ、こんなダンディ大人の色気オーラが出ている男が王様か貴族か、まあ要はお金持ちなんでしょ? だったらしょうがないじゃないの」


「「だったらしょうがないじゃないの」じゃなーい! ユナちゃんはそんな女じゃないの!!」


「……アンタもそろそろ、女に夢を見すぎるのは辞めれば?」



――「…………リクス・バージシナ」



「ん? 今呼んだ?」


「いいえ、これからじゃない?」


 再び視線を画面に戻す。


 言い合いをしている間に画面は移り変わっていて。



 大講堂にて、天井の一段高いところにひときわ大きいユナちゃんとイケメンダンディの肖像画を中心に、なんかすごいデザインの紋章とそれと対となったこれまた偉そうな人物が描かれた一回り小さい肖像画が円形に並んでいた。


「………………エ゛?」


 その大講堂にはどう考えても貴族としか思えない人物数百人が座っており、おそらく王様か立ち上がり、片手をスッと挙げた時だった。


 凄い偉い人たちであろう貴族な人たちが一斉に席を外し前の床に全員跪く。


「………………エ゛エ゛?」


 そして立つことを許されているのは王様らしき中年の男と王子様らしき1人の若い男と宗教っぽい衣装を着た男1人と12名の男たちだけになる。


 その中で王がイケメンダンディとユナちゃんの肖像画と正対する。



――「神に選ばれし偉大の名を関する唯一の王、初代国王リクス・バージシナ、そしてその偉大を支えた初代王妃ユナ・ヒノアエルナ、2人を支えし24人の原初の貴族、その誇りと遺志と血を受け継ぐ我ら王家と原初の貴族12門、今年も参上できたことを、ここに報告申し上げます」



 と同時に全員が跪き、儀式が始まろうというところでブツッと映像が切れた。



 工工エエエエエ(´Д`)エエエエエ工工!! ←リクス



 いくらなんでも、これは……(チラッ)。←ウィズを見る


 ( ゜д゜) ←ウィズ


「引いてるーーー!!」


 って待てよ……。


 今思い出した、邪神が如何にして人を自分に取り込むかだ。


 まず邪神の恐ろしいところは、神の力を洗脳に「使わない点」にある。


 神の力を洗脳に使うのではなく、人を誘惑するために神の力を使ってくるのだ。その誘惑をするためにアーティファクトを使ったという記録も残っている。


ここでいう誘惑とは欲を指す。


 そして男の欲と言えば、地位と名誉は定番中の定番だ。


 自分が歴史に名を残し、後世の人たちから崇められる、か。なるほど、男を取り込むことを考えれば、有効な手段だと思うし、そのためにアーティファクトも使うこともあるかもしれない。


 やっぱりこいつはまさか……。


(じーーー)


 とジト目で何故か俯いているウィズに視線を移した時だった。



「ぶはーー!!」



 と大爆笑を始めた。


「いっひひひぃー!! 自分の肖像画見て! 誰って!? ぶふっ! そりゃそうよ! 見ても分からないもの! 肖像画なのに全然似てない! 似てなさすぎ! 何故なら肖像画の方が圧倒的にダンディだからです! やばい! おなか痛い! ひー、ひー! お腹痛い!! はーはー! あー、こんなに笑ったのは久しぶりよ! それにしてもリクスさ、アンタ肖像画作るのはいいけど、ちゃんと現実をデデデデデデデ!!」


「あのさ、ちょっと失礼なんじゃないかな、そんなに笑うことないと思うんだ、そりゃ美男子じゃないことぐらいの自覚はあるけどさ、そこはね、俺にだってプライドがあるんだぜ?」


「おい! だから女の顔! だからアンタはモテないの! ってわかったわかった、ごめんごめん、それにしても、これ……」


 まじまじとウィズはアーティファクトを見つめる。


「不確定の揺らぎか、なるほどねえ、時間がたてばたつほど、このアーティファクトの揺らぎは大きくなるってディナレーテは言っていたけど、こういうことなのね」


「待て、その理屈だと、今の映像が可能性事象の一つって説も否定されないか?」


「そこはまあ、ディナレーテの能力の「下位互換」だからね」


「なるほど、つまり「ファンタジー」ってことか、まあそうだよなぁと、納得してしまうのもあれだけど。まあでもそう考えれば悪くなかったな今の映像「偉大なる初代国王リクス・バージシナ(シャキーン)」みたいな」


「ぶふうっ! 肖像画を見て誰!? って、イダダダダダ!!」


「でもさ、その揺らぎがあったとしても結果が出たってことだよな?」


「結果?」


「平和な時代があるのかって占って、出たってことだよ、んでユナちゃんが出て来たってことも含めて、さ」


 漠然とした結果が出るにしても、あの映像は戦争がない世界ってことだ。


「そうね、そういうことね」


「なら、まあ、これから色々とあるんだろうよ、ってそろそろ行こうぜ、あそこにうっすら見えるのがフェンイアだよ、俺とユナちゃんがいるところ」


 と2人並んでフェンイアに向かうのであった。



:おしまい:





いつもの突発投稿です。


次回は、シリアス予定。


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