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短編集:色々なことをしたりしなかったり




 ここはエナロア都市、上流階級御用達の別荘都市。ここに家を構えるのは一流のステータスの証の一つである。


 クォナは、孤児院の運営に都合がいいので、何かと目立つ身動きが取りづらい首都の本宅ではなく、交通の便も良いここを活動拠点としていた。


 ちなみに神楽坂がドゥシュメシア・イエグアニート家当主としての打ち合わせがあり、来訪していた時のことである。




::::シレーゼ・ディオユシル家の一幕::::



「クォナ、入るよ~」


 セレナがベッドのシーツを持ってクォナの部屋の中に入った先、クォナは椅子に座り本を読んでいた。


「あら、今度も恋愛小説?」


 セレナの問いかけにクォナは「んー」と一呼吸置くと答える。


「そうね、恋愛小説には違いないけど、これはちょっと違うのよ」


「え?」


「これはね、男性向けの恋愛小説なのよ」


「男性向け? というと……」


 というセレナにクォナは、登場人物の主人公の説明をする。


主人公

・容姿も学力も平凡で女心に鈍感でヘタレな、何処にでもいる普通の冴えない男子。


「あー、なるほど、ってこの主人公が中尉って違くない?」


「え?」


「女心に鈍感でヘタレはともかく、意外と頼りがいがあるし、優しいし、人の中身もしっかりと見れる人だし、それに、容姿は冴えないとかあるけどさ、まあ全然美男子じゃないけど、ほんの少しだけカッコいいじゃない?」


「…………」


「クォナ?」


「……ええ、そうね、私もそう思うわ、というわけで! これを恋愛研究の資料として使おうと思っているのよ!」


「恋愛研究の資料?」


「そう! 男性向けの女性は云わば男性にとっての理想の女性像! それに近づくことがご主人様を手に入れる第一歩だと思うの!!」


「ふぅん」


 上流の至宝と呼ばれ、それこそ男の理想の体現した女性とまで呼ばれた友人が、好きな男に振り向いてもらいたいがための恋愛研究か。


「アンタも真っ当に恋する乙女をしているってことね、いいよ、付き合ってあげる」


「感謝しますわ! 持つべきものは親友ね! 既にこの本から要件はピックアップしてあるわ! さあ! 検証開始よ!」



① 当然のように美少女



「ドヤァ」


「おい! 言っておくが、そういうのは女だけじゃなくて男にも嫌われるんだからな!」


「まずは第一段階をクリア! さて次ですわ!」


(クリア……)



② 不自然なほどに美男子に興味が無い



「ドヤァ」


「うーーーーん、まあ、うーーーん、確かに、まあ、うーーーん」


「これもクリア! さあ次ですわ!」


「クリアかー、うーーーん」



③ 可愛くヤキモチを焼く



例:「また他の女にデレデレして~、もー、ポカポカ」


「ドヤァ」


「いやいやいや!! これは違うだろ!! アンタ先日中尉がいかがわしい本を持っているって騒いだ時に、アンタ中尉の記憶を」


「さあ次でラストですわ!!」


「聞けよ人の話!!」



④ 他に女がいてもしょうがないもん、みんなで幸せになろうね



「もちろん大丈夫ヨ! ご主人様モ! みんなモ! みんな幸セ! とってもいいこト!!」


「こえーよ!! 目のハイライトが消えた状態でテンション上げるとすげーこえーよ!! って、普通に他に女は駄目だろ! これはクリアしなくてもいいんじゃないか?」


「まあなんてことでしょう! 既に理想の女性の要件を満たしていたなんて! さあ後は「浮気を許す」とご主人様に告げればパージェクト! 待っていてくださいませご主人様! ただいま貴方のクォナが参りますわ!!」


「おーーい!!」


 と颯爽と神楽坂がいる居室へ消えたのであった。


「まったく、恋愛研究も何も私いらないじゃん、って、浮気を許すって、クォナは男性向けの恋愛小説とか言っていたけど、どんな小説をモデルにしたんだよ」


 と小説を手に取り表紙を見る。


タイトル:平凡な俺がいつの間にかハーレム状態になってた件について


「…………………………………………」


あらすじ:容姿もさえない、勉強も平凡、運動もパッとしない、そんな僕が普通の高等学院に入学した途端、個性的な女の子に囲まれてびっくり大変、ボクの学院生活これからどうなっちゃうの~。


「……………………………………………………………………………………」


メインヒロイン(不自然なほどに全員美少女)

・しっかり者だけど恋には奥手な学級委員長。 ←セルカ街長と赤ペンで書かれている

・きさくで話しやすいクラスメイト。 ←アイカ少尉と赤ペンで書かれている

・癒し系グラマー美人の先輩。 ←ウィズ神と赤ペンで書いてある。

・身分を隠しているけど実は貴族令嬢。 ←ここに赤ペンで◎が付いている。


サブヒロイン(くどいようだが全員美少女)

・中性的なキャラを売りにするマイペース。 ←ルルト神と赤ペンで書いてある

・保健室のおっとり天然お姉さん。 ←メディと赤ペンで書いてある。


「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」


 パタッと本を閉じる。



「…………さて、仕事に戻るか」



―エナロア都市・神楽坂の居室



「ご主人様」


「やあ、クォナ、どうしたの?」


「私、考えを改めましたの」


「へ? なんの?」



「ご主人様が浮気をしても許そうと思いまして」



「…………え?」


 ベッドに寝っ転がって本を読んでいた神楽坂にクォナがズイと近づいてくる。


「私は間違っていましたノ、ほら、男の甲斐性ですもノ、それに理解を示さないなんテ、私はなんと狭量な女だったのでしょうカ」


「え? え?」


「ですけど、一つだけお願いがありますの、浮気をするにあたって、その相手についてですが、それはご主人様の仲間にして欲しいですの」


「え、え、え?」


「それはそうですわ、だって、どこの馬の骨ともわからない女では私のプライドが許せませんもの、別にこれぐらいはいいですわよね? 浮気を許すんですもの、それぐらいのわがままは許していただけると存じますもの、まあ、あれですわ、それでもですわ、それでもそれでもそれでもそれでも、そうだわ、一つ条件を加えましょう、他の女と夜を過ごす際には、片隅に私の存在を常に意識してほしいのですわ、うふふ、頭の中に私がいるとも知らずに、はっ! 愉快ですわ! ですが! 決して平気という訳ではありませんわ! クォナも辛いのです! だって!! だって!! クォナは!! クォナは!!! ご主人様が!! 他の女と!! 夜を過ごしていル!! それを想像するだけデ!!!」



「ああああ゛゛ーー!!! どうにかなってしまいそうですものおおぉぉ!!!!」



「ひ、ひ」


「ひーーーーーーーー!!!!!!!!」


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!! これが隠れて買った巨乳物のエロ本です!!!!」 ←土下座


「…………」


「なんだよう! なんだよう! 知ってたんだからこんな回りくどいことじゃなくて、直接言ってくデデデデデデデ!!!」←アイアンクローをされている


「また性懲りもなく巨乳物ですか、ご主人様、これはあれですか、私に対しての当てつけと解釈してよろしいですか?」


「ダダダダダ! 握力強い! 令嬢握力強い!!」



―クォナ自室



「セレナ、変なのよ、浮気を許すと言ったのに、ご主人様が何故か怯えてしまったの」


「いやいやいや!! 何もかも許してねーじゃねーか!!!!」




::::ラノベか! ラノベ主人公か!! ①::::



 クォナのカントリーハウス内、俺とセレナはクォナの自室へと向かうべく歩いている時だった。


「ん?」


 右に広がるサロンにクォナの騎士たちが数人程集まって俺たちと同じように雑談をしていたのだが。



「またあの、セレナが我らがクォナ嬢の忠誠を邪魔してきたぞ」

「またか、ただ無視も出来ないからな、我らがクォナ嬢の一番の親友だ、まあ不本意ではあるが、何かあれば守らなければならないが」


「ふん、ブスの嫉妬だろうがな」


「まあいいさ、我らがクォナ嬢はいつ危険にさらされるか分からない、訓練に勤しまないとな」



 と騎士たちは俺達に気付かず「さて訓練だ」だとセレナを貶めクォナを讃えながら意気揚々と通り過ぎて行った。


「…………」


「…………」


「セレナ」


「……なに?」


「あんなの気にすんなよ、お前はブスじゃない、むしろクォナとは違うタイプの美人さんだ。それと俺は騎士達よりもセレナの方がずっと優秀だし、頼りにしてる、そもそもお前は絶対にいい女だと思うぞ、世辞でも何でもなくな」


 俺の言葉にセレナはフフンと笑うと、指先で俺の胸元をつつく。


「ありがと中尉、だけどね、これぐらいで傷ついているようじゃ、クォナの侍女なんてやってられないんだよ」


 強い、いや、これは強くなったのだろう。露骨に比べられてもこの余裕か、俺だったら凹んで、こんなふうには振舞えないだろうな。


「凄いな、カッコいいよ」


 俺の言葉にニッコリと笑ってくれた時だった。


「かか、神楽坂の、いいい言うとおりだぞ!」


 と聞き覚えのある声が聞こえてきたので振り向くとそこには。


「パグアクス息?」


 そう、クォナの実兄、シレーゼ・ディオユシル家次期当主、パグアクス息がいた。ってなんでここにいるんだろう。


 俺の疑問をよそにパグアクス息は声を出す。


「そ、そ、その、セレナは、き、き、きれ、きれ」


(ん?)


「ブ、ブスなんかではないぞ!」


( ,,`・ω・´)ンンン? ←神楽坂


「え、えっと、その、どうも、ありがとうございま、す?」


 戸惑いながらも笑顔で返すセレナにパグアクス息は文字通り顔を真っ赤にさせながら、手をわちゃわちゃさせると。


「え、えーっと!! い、妹のことが心配で来たのだ!! んで!! たまたま通りかかったのだ!!」


 と叫ぶように弁明するパグアクス息であったが。


(ふーーーん)


 ほうほうほうほうほう、そうだったんだー。


 うんうん、本当はセレナのことを「綺麗だよ」って言いたいんだよね、だけど変に綺麗っていうとキモいとか思われるかもから、言えないもんね。


 さっきも言ったとおり確かにセレナはクォナのようなパッと目を引く容姿はないが、タイプが違う美人さん、愛嬌もありさっきのような打たれ強さもしっかりと持っている。


 それにセレナはクォナの侍女長という立場ではあるが、シレーゼ・ディオユシル家当主ラエル伯爵の側近、マヴァン・ディル男爵の直系、つまり正真正銘の貴族令嬢なのだ。


 家柄も申し分なし、しかもパグアクス息は原初の貴族の次期当主、容姿も眼鏡をかけた知的イケメン、そこは流石クォナの実兄なのだ。


 さて、当のセレナはどうなのだろうか。


 ニヨニヨしながらチラっとセレナを見る。


「パグアクス息」


「なななななななんだね!!??」


 彼女はくすくす笑うとパグアクス息にこう言った。



「妹が大好きなのは本当にいいことですけど、シスコンって呼ばれてしまいますよ」



「くっ!!」


 そのまま目元を抑えてダッシュでその場を後にしたパグアクス息だった。


「…………」


「ラノベか! 鈍感系ラノベ主人公か!!」




::::ラノベか! ラノベ主人公か!! ②::::



 ここはクォナ邸の歓談室、ここに俺とクォナとセレナ、そして「妹が心配で会いたくて来たパグアクス息」を交えて午後のお茶の時間を過ごしていた。


 今日の供されるスイーツはというと。


「これは王国一のグルメ都市テルナトスで最高評価得たものです、マスター、これはパグアクス息がお土産として頂いたものです」


 セレナが出したのは、女の子が好きそうな細かな彩を添えたもの、こう「可愛い」スイーツというヤツだろうか。


 このスイーツを作った人は徹底した職人気質の人で「店に来て買う」というルールの下全ての優先は認めない。誰であろうと並んで買わなければならないのだ。


「ありがとう存じますわ、パグアクス兄さま」


「なんてことはないぞ! セ、セ、セレ、クク、クォナが好きじゃないかと思ってな! だから使用人に並ばせて買ってきたのだよ!!」


 と相変わらずのパグアクス息にクォナはニッコリと笑う。


「あらあら、残念ですが兄様、このお菓子が好きなのは私ではなく、セレナですわ」


「そそそ、そうなのか! しし、知らなかったぞ!」


 そんなパグアクス息にニッコリと笑うセレナは小声で話しかける。


「大丈夫ですよ、後でちゃんとマスターの好きなお菓子を教えますから」


(ラノベか! 鈍感系ラノベ主人公か!!) ←聞こえた


 そんな中クォナが発言する。


「それとセレナ、貴方も席に座りなさい、折角の兄さまのお土産、一緒に食べましょう」


「え? マスター、それは……」


「ここは公式の場ではありませんから、兄さまは家族、神楽坂中尉は友人、ね?」


 俺とパグアクス息に視線を送るクォナ、当然意図をすぐさま理解した俺は「もちろんだ、セレナは俺にとっても僭越ながら友人だと思っているぞ」と返し、パグアクス息は「しょしょしょしょしょーがないのうござった!!」と語尾が大分変だった。


「セレナは本当にこれが大好きで、ことあるごとにずっとテルナトスに行きたいと言っていたのよね、少し前に行った時には、夢中になって3人前も食べたのよ」


「マ、マスター! 恥ずかしいことを言わないでください!」


(ほほう……)


 今の言葉からクォナも分かっている様子、まあそうか、これだけ露骨だもんね。


 となれば先ほどのやり取りは決して初めてではあるまい、ならばパグアクス息にとってこのリアクションは想定の範囲内だろう、ダメージはでかいだろうけど。


 つまり何が言いたいのか。


 このスイーツを供した時、セレナが「クォナの好みを買ってきたのに間違えてしまった」とラノベ主人公するのが想定の範囲内であるのならば。


 鈍感系に通用する誘い方がある!


(さあ! クォナがお膳立てをしてくれたのだ! いっけーーー!!!)


 俺は視線をパグアクス息に向けると、息を吸うとこう言った。


「テテテテルナトスは、いいい色々な店があってななな、ままま間違えないように、そそそその、よよよよよければクォナの、かかかか菓子を選ぶのを手伝ってくれないか?」


(キタ━━━ヽ(∀゜ )人(゜∀゜)人( ゜∀)ノ━━━ !!!)


 よし、クォナを絡ませての直接的表現を控えた妙手!!


 さあ、これが妙手だというのは何故ならこれは鈍感系ラノベ主人公でも、イエスかノーかで答えなければないからだ、まずは誘うことが第一! イエスという言質さえ取れればこちらのものだ!


 さあ! 鈍感系ラノベ主人公よ! これをどうラノベ主人公するのかな!?


 とセレナに視線送った先。


「パクパク、う~~っ!! おいしい、おいしいよう! モグモグ、パクパク、って、あの、すみません、なんですか?」


「くっ!!!」


 そのまま目元を抑えてダッシュでその場を後にしたパグアクス息だった。


「…………」



「ラノベか! 難聴系ラノベ主人公か!!」




::::ラノベか! ラノベ主人公か!! ③::::



 お茶会も無事終わり、庭園の花が綺麗という事を聞いたパグアクス息は、庭を見学したいと言い出した。それをクォナがとりなしてくれて、セレナを連れだすことに無事成功。


 現在2人で並んで歩きながらパグアクス息はセレナをこう、何とか自分の気持ちを伝えればなと隙を窺っているのであった。


(頑張れパグアクス息! 応援していますぞ!)←物陰から神楽坂


 しかしセレナが鈍感係だけではなく難聴系ラノベ主人公を両方併せ持つとは思わなかった。


 とはいえそれは所詮フィクションの話だ、まああれだ、おそらく偶然に偶然が重なっただけだろう。


 さて、現在パグアクス息はセレナから庭園の説明を受けているが、どこか上の空のパグアクス息だ。


 もちろんこれには訳があり、俺はその訳、いや「狙い」に気付いている。


 まずこの庭園、確かに素人の俺から見ても見事な庭園だ、色とりどりの花が並んでいる。となればこのまま説明を続けると、セレナは絶対に「ある言葉」を言う。


 その言葉をずっとパグアクス息は待っている。そしてその対応の言葉を考えていて、練りに練っている顔だ。


(さあ、いつ来るのか! 来い来い来い来い来い!!!)


 と2人の願いが通じて、セレナが待ちに待ったあの言葉を放つ!



「私、この花好きなんです、「綺麗」ですよね?」



(キタ━━━(Д゜(○=(゜∀゜)=○)Д゜)━━━!!!)


 露骨にビクッとなったパグアクス息、これはチャンス!


 そう「綺麗」というのが「ある言葉」なのだ!



:ギャルゲー画面を想像ください:


セレナ「私、この花好きなんです、綺麗ですよね?」


・選択肢・

① 確かに綺麗だ、いや、花ではなく君がね

② 悪いが綺麗だとは思えない、なぜならその横に、もっと綺麗な花があるのだから

③ 君を引き立てるには、少々役者不足ではあるがな。

④ 君の方が綺麗だよ

⑤ ルパンダイブ

⑥ この花、ウチのぺス(犬)が大好物で~。


(こんな感じ、本来なら①から③あたりを選択したいのが本音、まあ冒険をせず④だろう、頑張れ頑張れ!)


 花を愛しそうに見ているセレナに意を決したパグアクス息。


 すうと息を吸ってパグアクス息は発言した。


「き「縦隊右斜め前ええええぇぇぇぇ!!! 進め!!!」よ」


「…………」


 ザッザッと2人の横を縦隊でクォナの騎士たちが行進している。


「あれですか、ああやって、マスターの為に特訓しているのですよ」


「あ、ああ、そうなのか」


 説明するセレナに頷くパグアクス息。


「えっと、その、あの」


(お! もう一度来るか! 頑張れパグアクス息!!)


 今度は辺りに騎士たちがいないことを確認。


 すうと息を吸い込んだ。


「き「あ! 庭師さん! こちらへどうぞ!」よ」


 セレナが大きく手招きをして庭師を呼び寄せる。庭師はセレナの声が聞こえたのか手を止めて、パグアクス息に折り目正しくお辞儀をするが、そのまま作業に戻る。


「この庭を1人で担ってくれている凄腕の庭師さんです、あんな感じで愛想が無いですけど、腕は御覧のとおりです」


「そ、そうか、その、えーっと」


(もう半分意地になっているな、パグアクス息)


 タイミングは完全に逸した気がするけど、まあいい、とにかくやらねばだ!!


 息を吸い込んだ時だった。



「まさに無駄口叩かずの一流職人、言葉で語らない姿勢はカッコいいですよね」



「…………」 ←吸い込んだまま固まっている


(泣きそうになってるじゃん!! わざとなの!? ねえ! わざとなの!?)


 と思ったらセレナは意味ありげにパグアクス息に微笑む。


「分かってますよ、パグアクス息、言わなくても」


 ハッとする。


(お、これは、まさか!)


 そうだよ、あんな露骨で気付かないなんてありえないじゃないか。


 まあセレナもクォナの侍女という立場があるからな、しかも相手は原初の貴族の次期当主、色々想うところもあるだろう。


 それにセレナのあの真剣な表情、これはまんざらでもないかな。


 ドキドキした様子のパグアクス息にセレナは言い放った。



「騎士たちが気になるんですよね、安心してください、シベリアとリコと私が付いています、マスターには指一本触れさせませんよ」



「くっ!!」


 そのまま目元を抑えてダッシュでその場を後にしたパグアクス息だった。


 きょとんとするセレナ。


「?? パグアクス息、どうしたんだろう?」



「ラノベか!! 鈍感系難聴系ハイブリッドラノベ主人公か!!」




::::ラノベか! ラノベ主人公か!! ④::::



 結局、今日は泊まることになったパグアクス息、俺と一緒に風呂に入ることになった。


 こういった時に、寝間着やタオルを持っていくのは使用人の仕事、クォナは自分の立場上男性使用人(※騎士たちは使用人ではない)を雇っておらず、こういった場合も女性使用人が世話をすることになっている。


 脱衣所でいそいそとを準備をするセレナ、なんとか世間話をしたいと必死で考えるパグアクス息。


 そして、意を決して話しかけるために近づくパグアクス息!


 それに気付かず振り向いたセレナ!


 そう、2人は当然にして!


「「あっ」」


 と同時に声を上げたかと思うと。


「きゃああああ!!」

「うわああああ!!」


 とドシーンとありえない程に派手に巻き込んで転倒。


「ん……」


 その時、ほのかに感じる、右手の柔らかさ。


 なんだろうと、ムクリと起き上がった視線の先……。



 セレナの右手がパグアクス息の左胸を揉んでいた。



「(照 ///ω//)♡ モウ!」←パグアクス息


「も、申し訳ありません! パグアクス息!」


 そのまま目元を抑えてダッシュでその場を後にしたパグアクス息だった。


 うん、好きな女の子とは触れ合えたからね、嬉しいんですよね、はい、分かってますよ、お疲れさまでした~。


「だ、大丈夫なんでしょうか、どうしましょう、ねえ中尉」


「…………」


「中尉?」


「うるさい! このラノベ主人公!!」


「ラノベ主人公!?」




::::ラノベか! ラノベ主人公か!! ⑤::::



―クォナ自室


「なあクォナ」


「なんでしょう?」


「あのさ、パグアクス息はもしかしなくともセレナの事」


「ええ、もう6年になる片思い中ですわ」


「6年! 気づかない期間長いな!!」


「んー、でもあの鈍さだから、成り立っている部分もあるのですわ」


「へ? なんだそれ?」


「論より証拠、兄さま、よろしいですか?」


 クォナは、セレナの写真を(隠れて見ているつもり)で切なげに見つめているパグアクス息に話しかける。


「はぁ、ん? なんだ?」


「兄さまが大好きなセレナのことについてですが」


「ばばばばば、ばっかじゃねーーーの!! べべべ、別に好きじゃないし!!」


 うわあ、なんか中学生みたいな反応するよなパグアクス息。


「兄さまも私を通じてですがセレナとは長い付き合い、セレナのことは良く存じているることでしょう?」


「そ、そんな、ことはないぞ、長い付き合いのようで、全然知らないんだ」


 寂しそうに顔を伏せるパグアクス息に胸が締め付けられる。


 が。


「俺が知っていることといえば、身長と体重とスリーサイズは当然のこととして、生まれ育った学院時代からの好みの変化や服装、あ、そうそう初恋の人は父親で、彼氏は年齢=いない歴、それに、今は髪型のバリエーションも6個ぐらいあって、それを相互に変えたりとかしていることとか、あ、今日は爪を切っていたな、それと」


「…………」


 ここで俺の視線に気が付いたのだろう、パグアクス息はハッとすると強い口調で告げる。


「言っておくが、体重とスリーサイズは絶対に他人に言ってないぞ! 女性にとって一番知られたくないプライバシーだ! それぐらいは理解している!!」


「…………」



「ラノベか! 残念系ラノベ主人公か!!!」




::::ラノベか! ラノベ主人公か!! 最終回::::



 パグアクス息が去ったクォナ自室。


「なあ、女って、細かいところの変化とか気が付いてくれると嬉しいって聞いたんだけど本当?」


「まあそうですが、我が兄ながらはあれは無いと思います、物には限度というものがあると思いますの」


「はっはっは、無自覚な部分も含めて兄妹なんだなぁ~、アガガガガガ!!」


「ご主人様、あれと一緒にされるのは非常に心外なのですが、それに、それを差し引いても、難しいかと存じます」


「いちち、って、なんで?」



「セレナには、それこそ無自覚ですが気になる殿方がいるようですから」



「へー! そうなんだ! まあそうだよな、セレナだったらモテるだろうし、好きな人がいても不思議じゃないよな」


「…………」


 クォナはじーっと俺の顔を見ている、え、なにと思ったら、ウインクしてこういった。



「ラノベか、ラノベ主人公か」



:おしまい:




::::クォナと騎士達 ①::::



 クォナ騎士団。


 上流の至宝と呼ばれるクォナに魅せられて己の命を賭して守ることを誓った集団。


 国内外に問わず騎士がおり、国内外の行幸の際には常についてくる。絶対遵守の掟を設けており、クォナは絶対不可侵の存在として扱われている。


 抜け駆けは不可ではあるが、お茶会に誘われた時は恋仲となることが許される。


 そんな騎士団達には特典がある。それが定期的に開催されるクォナ主催の騎士達だけ参加が許されるクォナの手作り昼食会だ。


 騎士団達が色々話しかけ、クォナが相槌を打ついつもの時間、その昼食会で騎士の1人が発言する。


「クォナ嬢は、唄を歌うを聞きました! どんな歌を歌うのですか!?」


 騎士団の質問にクォナは顔を赤らめる。


「まあ恥ずかしい、そんな話をどこで聞いたのですか、もう、そうですね、主にウィズ神を讃える讃美歌や、孤児院の子供たちのための童歌、ですわ(ポッ)」


 ぽわわ~ん。 ←騎士達


「あ、そうだ、クォナ嬢! 時々、この近くでこの世の物とは思えないような獣の咆哮の様なものが聞こえるそうです!」


「まあ、それは怖いですわ」


 自分を抱きしめて怯えるクォナ。


「不定期に、そして夜にしか出ないようですが、念のため気を付けてください! もし出たとしても大丈夫です! 我らがお守りますから! なあ皆!」


「ああ! もちろんだ!!」

「命を賭してでも!!」

「我らがクォナ嬢の為に!!」


「頼もしいですわ、ありがとう存じますわ(にっこり)」


 ぽわわ~ん。



―その日の夜、クォナの自室



セレナ「れ! れ! れ! れ! っちまえ――――!!!」


シベリア「愛? 平和? 正義? 自由? そんなもの…クソ喰らえだ! そんなものは見えやしね―――――!!」


リコ「PSYCLOPSの目にうつるものはただ一つ!!」


クォナ「破壊―――(デストロ―――イ)!!!」



全員「「「「ヴァアアアアアアアアアァァァーーーーーーー!!!!!」」」」



※ これは時々4人で一緒にやるストレス発散の日常風景です、邪神に操られているという訳ではありませんのでご安心ください。



――外



「「「「ヴァアアアアアアアアアァァァーーーーーーー!!!!!」」」」



「「ビクッ!!!」」 ←見回り中の騎士達2人


「こ、これは! あの!」


「ああ、間違いない!!」



「「獣の咆哮!!!」」



「お、落ち着け!! 警戒を怠るな!!」


「応援を呼べ! 例の合図を!」


「なんと恐ろしい咆哮! くそ! 体が震えやがる!!」


「いいか! クォナ嬢をお守りするのは我らしかいないのだ!」


「応っっ!!!」




::::クォナと騎士達 ②::::



「クォナ嬢! お持ちします!」


 孤児院の運営資料を颯爽と持つ騎士達で申し訳なさそうにするクォナ。


「いつも申し訳ありませんわ、私、全然力が無くて、重たいものが持てなくて(シュン)」


 ぽわわ~ん。←騎士団達


「いいんですよ! 力仕事は男の仕事ですから!」


「流石殿方、頼りになりますわ、あら?」


 クォナが視線の先にはリコがいて、音も無く近寄るとクォナに耳打ちをする。


「マスター、例の件についてですが」


「分かりましたわ、皆様、私、用事が出来ましたので、ごきげんよう」


「はい! 執務室に荷物を運んでおきます!」


 騎士たちの言葉に笑顔で返事をすると優雅に立ち去ったのだった。


「力が無くて、か弱い感じがまた、いいよなぁ~」


 という言葉に頷く騎士団達であった。



―クォナ自室



 バサッ←エロ本を神楽坂の前に放り投げた音


タイトル「まだ学院生だもん! 胸の小さいのはまだ発展途上だからだもん!」


 チラッ←神楽坂を見る


「むー! むー! むー!」←縛られてさるぐつわをかまされている神楽坂


「また性懲りもなくいかがわしい本ですか、それとご主人様、私は別に「巨乳物でなければいい」言った覚えはありませんわ」


 と片手に鉄製のコップを持って神楽坂の前に突き出す。


「なかなか理解していただけなくて、クォナは残念です(シュン)」


 メキメキメキ!! ←握り潰され歪む音


「むー!! むー!! むー!!」←泣きながら首を思いっ切り振る神楽坂




::::クォナと騎士達 ③::::



 今日も訓練を終えたクォナの騎士団達は、与えられている控室で着替えている時だった。


 ノックと共に扉が開くとクォナが入ってきたものの……。


「あ、あ、しし、失礼しましたわ! そ、その! お茶の準備ができたと! きゃああ!(真っ赤)」


 と顔を隠しながら足早にクォナは立ち去ってしまった。


「…………」


 ぽわわ~ん。



―クォナ自室



タイトル「私の下であがげ」


―「クォナ、俺、もう、もうっ!!」


―「ああ゛! ご主人様!! いつでもいいですわ!! いつでもすべてを受け止めて差し上げますわぁ!!」


―そうしてご主人様のピーー(以下18禁内容のため自主規制)


「ご主人様が私に蹂躙される!! これだったのですわ!! これが真実!! オーッホッホッホ!!! いつもより10倍興奮しますわ!! さあセレナ!! ご主人様役をお願いしますわ!!」


「できるかボケえええ!!!!!」




::::クォナと騎士達 ④::::



「…………(シュン)」


 上流の至宝たるクォナ、社交界に参加した折に同じ女性招待客から誹謗中傷を受けて落ち込んでいる。


「クォナ嬢、元気出してください! ただの僻みですって!」


「そうですわね、でも……」


 クォナ嬢の寂しげに首を振る。


「でも、あの方も決して悪気があったわけでは」


「悪気って! クォナ嬢は何故怒らないのですか!? だから付け込まれて!」


 二の句が継げなくなる、何故ならクォナは泣きそうな顔をしていたからだ。



「あの方も寂しかっただけなのでしょう、人間ですもの、あのような事をしてしまうものですわ。ですから私は許します、私にできることはそれぐらいなのですから」



 健気に微笑むクォナに騎士たちは何も言えなくなる。


「あら?」


 というクォナの言葉の先にリコがいて、音も無く近寄ると耳打ちをする。


「マスター、例の件について」


「分かりましたわ、皆様、名残惜しいのですが、少し用事が出来ましたわ、それではごきげんよう」


 と優雅にその場を後にしたのだった。


「天使だ」


 ある騎士の言葉に全員が頷くのであった。



―クォナ自室



 バサッ←エロ本を神楽坂の前に放り投げた音


タイトル「ええ!? あんな清楚なお嬢様がこんな大胆なHを!?」


「むー! むー! むー!」←縛られてさるぐつわをかまされている神楽坂


「ご主人様、ジャンルを「清楚系お嬢様系」にすれば私が「まあ、それはならば仕方ありせんわ」というとでも? むしろこの寄せている感が今まで一番腹立たしいのですが」


 ガボッ←さるぐつわを外した音


「ぐふっ、はあはあ、あの、その、ク、クォナ、男にって、その、そういう本は、ひ、必要、というか、その」


「まあまあまあまあまあなんてことでしょう!! 自分に想いを寄せている女性の前でこんなものが必要であるとのたまうのですか!?」


 ガシッ ←エロ本を踏み潰した音


 グイッ ←顎を片手で強引に自分に向けさせる


「大丈夫ですわ、ご主人様、ご主人様は女心に鈍感なのは存じておりますわ、故に今日はトコトン教えて差し上げますわ、何度でも!! 何日でも!! 理解するまで!!」


「何で、何で許してくれないの? ただのエッチ本だよ?(シクシク)」


「ご主人様も寂しかっただけなのでしょう!? 男性ですもの!! このような本を持つものですわ!! 私は許します!! 私にできることはそれぐらいなのですから!!」



「悪魔ーー!!」





突発投稿です。


一応間章としての位置づけ。

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