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おまけ:グッドルーザー神楽坂 ~MAGMADIVER~ 後半



 ヒリヒリ。


 俺と王子は正座させられている。


 目の前にはアレアがいて俺達を見張っている。


 その横では。


 ((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル ←カイゼル中将

 ((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル ←タキザ大尉


 とものすごい勢いで震えているカイゼル中将とタキザ大尉がいる、震えすぎて二重に見えるぐらいに震えている。


 当然目の前には。


「ねえ、あなた、プロポーズの時に言ったよね? 女はお前だけだ、お前以上のいい女はいないって」


「もちろんだ!! 儂は今でもお前に恋をしているぞ!!」


 中将の奥さん、そして。


「ねえ、パパってさ、ちょっと気持ち悪いよね」


「ごぶぃうあかうぐぁ!! ちち、ちがうんだ! これは、その、男には付き合いってのがあってな、そう、仕事! 仕事なのだよ! ほ、本当は女遊びなんてやりたくないんだけどなぁ~!」


「ふぅん」


 とはタキザ大尉の娘だったが、示し合わせたように、キュルキュルと魔法器具を使ってそれを再生する。



――「「なんで妻と似た女と遊ばなくてはいけないんですかwww」」



――「出会った頃の妻が一番可愛かった、か弱く儚げな女性、儂はこの女性を一生守ろう、そう思って結婚したのに、それがどうして今はあんなに強く……」

――「でもこれから行く、店のカイミちゃん、あ、カイミちゃんは儂の今お気に入りの女の子なんですけど、本当に健気で優しくて、妻よりもよっぽどいい女なんですよ♪」


――「健気に俺に尽くしてくれたいじらしい妻はもう過去の話、今では粗大ごみ扱いですからね、はは」

――「でもこれから行く店の、ミレバちゃんは、俺に尽くしてくれて、妻よりもいい女なんですぜ、たくさんの女と遊ぶ主義なんですが、ミレバちゃんだけは別なんですぜ」


「「…………」」


 いかん! 2人とも凄い真顔になってる!


 どど、どうしよう! おおれはどうすれば!!


「イザナミ君、だったわね?」


「ふぁい!!」


 突然奥さんに呼ばれて跳ね上がるように返事する。


「アイカが貴方のことを色々と話すから知っているの、旦那もアイカの婿にとか言っていたっけ、心理と真理を読みぬく術に長けているとか、ね」


「え。そ、そうです、かなぁ、いやぁ、ぼくなんてまだまだで~」


「イザナミ君、私はね、身に染みているの、土下座の無意味にさについて、腹の底からね」


(ん?)


「今まで旦那に拝み倒されると見捨てることが出来ず、何度も許してあげてきたの、結果、何度も煮え湯を飲まされ続けることになったのよ」


(んん?)


「無論旦那は表面上はすまなそうな顔をして、床に額をこすりつけはするけど、私が本気で怒ると、どうしてこれほど謝っているのにこいつは許してくれないのかなどと、心中こちらを非難、冷血漢呼ばわりしてくるのよ」


( ,,`・ω・´)ンンン? ←神楽坂


 なんだろう、このセリフ、どこかで聞いたような気がするんだけど、何処だっけな、どこの兵藤会長の台詞だったっけかな。


 ざわ……


「ひどい話だとは思わない? 当然そんな旦那の詫びに誠意ながあるはずもない、それに女遊びにおける誠意など一つしかない、金輪際女遊びをしないこと、それ以外に誠意はない、女遊びを続けている時点で旦那に誠意なんてものはない」


 ちょ、ちょっとまって、あれだよな、この話の展開だと、次に出てくるのは……。


「その証拠に土下座にちょっとした負荷を加えただけで、もう満足に謝ることもできなくなる」


 ざわ……


   ざわ…… ざわ……


「本来できるはずなのだ、本当にすまないという気持ちで胸がいっぱいならどこであれ土下座ができる、例えそれが……」



 奥さんが後ろを見た後、使用人たちがゴオォという炎と共に数メートル四方の燃え盛る鉄板が出てきた。



「肉焦がし、骨焼く、鉄板の上でもっ!」



「…………」



(なんか見たことがあるの出てきたああぁぁぁ!!)





 バシュウ! と使用人が水を垂らした瞬間まるで爆発するかのように瞬時に蒸発する。


「「あわわわ」」←王子と抱き合っている


 凄い存在感! い、いや、漫画でもアニメでも見たけど、現物が目の前にあると、こ、こんなにも凄いの!?


「イザナミ君、は外国人だから知らないと思うから説明するわね、これは」


「いや! 知ってますよ! 焼き土下座! 我が祖国でも有名な奴! んで、あれでしょ!? 謝罪方法は10秒間額をつけて頭を下げ続けないと永遠と繰り返すやつでしょ!?」


「あら、あなたの国でも同じ文化があるのね」


「焼き土下座はフィクションです!! ねえ王子!?」


「そ、そのとおりだ! 奥方! 娘さん! 2人とも王国にとって財産と呼べる人材! 2人を失うは国家の損失……」


とここで俺と王子に優しく手が置かれる。


 手を置いたのは他でもない。


「神楽坂、王子、あまり年上に恥をかかせるものではない、なあタキザよ」


「ああ、そのとおりだ2人とも」


 これから来る凄惨なお仕置きを目の前にしているとは思えないぐらい声が晴れやかだっ。た。


「2人とも聞いてくれ、以前に焼き土下座をした時の話なんだがな。本当に妻は許してくれたのだ、それだけじゃないぞ、その夜は儂の好物ばかりを作ってくれて、「あーん」なんてしてくれて、はは、新婚時代を思い出したよ」


(複数回っ! 焼き土下座っ! 複数回っ!!)


「俺はもっと凄いぜ、なんと娘が手料理を作ってくれて、その後一緒にお風呂まで入ってくれてな。考えらるか? 同世代の娘を持つ父親は皆こういうんだぜ「パパのお嫁さんになるという思い出を胸に生きていくんだ」ってな」


 ここで2人は鉄板と正対する。



「妻との新婚生活!」


「娘と一緒に風呂!」



「「それは焼き土下座をする価値があることなのだから!」」


 その時の2人はまさに漢の顔をしていた。


 こんな顔を見せられては止めることなんて出来るわけがない。


「王子!」


「ああ! 目を逸らすなよ! 男の覚悟だ!!」


 2人は鉄板の上に立ち。


 跪き、両手を、そして額を鉄板の上に押し付けた。



 結局、カイゼル中将とタキザ大尉はこの生き地獄を12秒やりおおして、果てる。


 終わった後はしばらく動けず待機させていた魔法使いにより治療。


 2人は、やりおおした、焼き土下座を。


「つ、妻よ」


 とここで奥さんがすっと、ほんの触れる程度、そんな口づけ、カイゼル中将は呆ける。


「言わないで、行きましょう、貴方」


「ああ、はは、人前だと、恥ずかしいなぁ」


 と奥さんが支えながら中睦まじくその場を後にする。


「パパ、手料理作ってあげるね」


「ありがとう、ああ、楽しみだ、あのさ、その」


「はいはい、ごはんの後はお風呂ね、いいよ、しょうがいなぁ」


「ありがとう、俺は幸せ者だ」


 と娘さんに肩を借りて帰っていく。


 それを見て俺たちは涙が止まらなかった。


「カッコいいな、神楽坂よ」


「ええ、本当の大人の男ですよね」


「神楽坂、これから2人で飯でも食べに行こうか」


「いいですね、お供します」


 と2人で肩を組み歩き出そうとした時だった。


 ガシっと襟首を掴まれる。



「どこ行くのよ、アンタたちのお仕置きがまだでしょ?」



 冷たい声のアレア。


「ねえ中尉さ、アンタはまだ気づかないの?」


「え?」


「どうして、バレたのかってことよ」


「え? どうしてって、アイカとかから」


「違うわ」


「…………え? あの」


「ここで、嘘ついてもしょうがないでしょ」


「…………」


 ちょ、ちょっと待って、今回のバレた経緯は前回と一緒、俺の態度でモロバレとかで、だからカイゼル中将の奥さんやタキザ大尉の娘さんがいたんじゃないのか。


「もう一つヒントを上げる、上流には女だけのネットワークもあって、個別の交流もあるの、カイゼル中将の奥さんの仲のいい人物の中に当然に付き合いのある上流の人間がいるのよ」


「…………」


 スッと何かが、俺の中で落ちていく。


((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル ←神楽坂


「気付いてたみたいね? さあ、答え合わせの時間よ」


 とアレアが襟首から手を放して、王子が話しかけてくる。


「ど、どういうことなんだ?」


「……順を追ってを考えてみましょう」


 いつからバレていたのか、もちろん最初からだ。カイゼル中将が忠実な部下として紹介したフードの人物、もう既に部下ではなくアレアとなっていた。馬車の中に仕掛けられていた盗聴器もその時に付けたのだろう、ここまではいい。


 問題なのは、何故俺達が女遊びをすると分かったのかについてだ。


「ああ、その情報が何故漏れてしまったのかだよな?」


「王子、少し違います、ここで大事なのは、情報が「漏れたこと」ではなく「情報の発信者が誰か」という点なんです、私はそれを最初、アイカだと思いました。彼女は準貴族、上流にネットワークを持っていますからね」


「ですが、アレアがそれを否定した。これは信用していいでしょう、確かに本来なら、私の仲間であるセルカもアイカも全員顔を見せていないから。それと奥さんの雰囲気からして我々が女遊びをしている情報を「知っているのは自分だけ」もしくは「今ここにいるのは自分だけ」ということなんです」


「? す、すまん、どういうことなんだ?」


「これは結論を先に持ってくれば真実が判明するパターンという事です。アレアが知っていたこと、奥さんが知っていたこと、アイカとセルカがここにいないこと、これらのことを全て同時に成立するには誰が発信者であればいいのか、ということで考えてみてください」


 ここまで説明すればわかるのだろう、王子は仰天したようで自分を指さす。


「俺か!?」


「はい、つまり今回は私ではなく「王子の行動が変でありそれを乙女の勘で見破られた」ということになります。当然、乙女の勘で見破ったのはアレアですね」


「な、なるほど、ってちょっと待て、た、確かにアレアなら見破られるだろうが、だが、アレアだと、力不足だろう?」


「そうですよね、アレアは王子にとって姉も同然、ですがそれはあくまで個人の関係での話。公式の関係だとアレアは使用人という立場であり王子の方が格ははるかに上です」


「その立場であるアレアは、乙女の勘で見破った、なら当然女遊びを誤魔化すために何をするのかについて頭を巡らせる。そして当然こう考える」


――「公式の自分の格を使って自分に手出しできない様にするのではないか」


「…………」


「な、なあ神楽坂、もうここまで言えばわかってきたんだけど、う、うそだろ、ホントに、マジで、勘だけで、そこまでするのか、なら、なら、俺達はっ!」


「はい、敗北しました、勝てませんでした、う、ううぅぅ~!!」


 2人で泣き崩れる。


 さて、犯人を絞り込むための最後の情報。



――王子が作成した書類はそれだけで、国家機密第Ⅱレベル。



――無条件閲覧の権限を持つ人物は




――王族と原初の貴族のみ




 ゆっくりと、ゆっくりと、その人物は姿を現した。


 漆黒の闇で、その闇を照らす月、その月明かりは、その漆黒の彼女を照らす。


 その振る舞いは男の理想を体現し続け、その美貌は数多の男を魅了する、次代が違えば傾国の美女と謳われたであろう人物がその場の、いや、今回の首謀者だ。



 クォナ・シレーゼ・ディオユシル・ロロス。



 彼女が舞い降りたのだった。



 終わった、全てが終わった。


 絶望に打ちひしがれるその横で。


「エンシラ……、なぜ、きみが、ここに」


 静かな慟哭、王子の魂の言葉が陽炎のように弱々しく漂う。


 短い人生だった、せめて、可愛い彼女なんて言わないから、普通の女の子でいいから、一回ぐらいはデートしたかった。


 友達でも彼女がいるやつがいたけど、本当に楽しそうにしていたからなぁ。


 そんなことを考えながら呆然と立ち尽くす俺に、笑顔でゆっくりと近づくクォナ、彼女が俺を見上げるぐらいまで近づいて。


 彼女はゆっくりと手を伸ばしてきた。


 さようなら、父さん、母さん。


 と思っていたが……。



 ツンと人差し指でおでこを突っつかれた。



「めっ、ですわ、ご主人様♪」



「…………え?」


 最初何をされたのかわからなかった。


 あれ? おでこを突っつくだけ? 貫くんじゃくて?


 改めて見ても、ニコニコと笑顔を崩していない。


「さあ行きましょう、ご主人様」


 とニッコリと笑って踵を返す。


 ここでやっと、実感がわいてきた。


 ああよかった、何事も無く終わるんだ。


 涙が出そうになった、無傷で終わるんだ。


 とぼんやりとしていた、だから。



 突然振り向いて右手にナイフを持って俺に向かって思いっきり振りかぶってくるクォナを何処か他人事のように見ていた。



 なんだ、ナイフ持ってたんだぁ、刺されるなぁとか、他人事のように考えていて。



 ガキン!! という音と共に俺の左コメカミ横数センチの場所にナイフが突き立てられ。



「…………」


 俺の数センチ前で、進撃の巨人アニメ第二期のエレン奪還作戦の際のベルトルトに向けたミカサの目をしていたクォナがいて。


 俺はズルズルとそのまま床に崩れ落ちた。


 クォナはその目のまま、ナイフを仕舞うと今度こそ踵を返し無言で歩き出し、神楽坂はセレナとシベリアに両肩を借りて、焼き土下座を終えた利根川のように連れて行かれた。


「ひっ、ひっ、ひっ」


 その光景を見ていて、ボロボロと泣く王子。


「ご、ごべんばばい、えんじらぁ、ごべんばばい!」


 エンシラは泣きじゃくる王子に、クォナと同様に手を伸ばし。


「ひっ!!」


 と両手で自分をかばう王子。


 そんな様子を見たエンシラは。



 スッと両腕ごと王子を優しく抱きしめた。



「………………え?」


 優しい笑み、だけど当然信じられない、クォナの例もあるし、不安と怯えたまま見上げてると。


「王子、私のこと、愛していますか?」


 と問いかけてきた。


「あ、愛しているよ!」


「本当に?」


「愛しているよ!」


「もう一度言ってください」


「愛してる!!」


「嬉しい、もっと大きな声で言って」


「愛してます!!」


「世界中の誰よりも?」


「愛している!!」


「もっと」


「愛してます!!」


「もっと!」


「愛してます!!!」


「いつまでも?」


「そおらに、太陽が、ああるかぎいり~~♪」


「クスクス、分かりました、許してあげます、男の付き合いですものね、これでも私は上流の女、そのことは分かっていますもの」


「それで充分だ! ありがとう理解してくれて、ありがとうありがとう、君の寛容さと優しさ、俺達の愛の深さが再認識されて、とても有意義だったよ」


「はい、最高の恋人です」


 とエンシラは王子の手を取りスッと腕を組む。


「ふえ!?」


「さあ、行きましょう、王子」


「ああ行こう! エンシラはなんていい女なんだろう!」


 と仲睦まじく2人はその場を後にした。



…………。



…………。



 さて、心理学者のリアン・フェスティンガーはマインドコントロールを3つの構成要素で成り立つと説明した。


 行動のコントロール、思想のコントロール、感情のコントロール。


 その1つでも支配すれば、他の2つもそれにつられて変わっていく傾向があり、その3つ全てを支配することが出来れば個人なんて吹っ飛んでしまう。


 しかもマインドコントロールを仕掛けられた被害者は、思想改造する加害者を仲間、あるいはそれ以上の者だと思うという。


 拷問や虐待が伴う洗脳との最大の違いはそこにあるのだと説いた。



 さて、この知識が本編に関係あるのかないのか、男としては関係ないことを切に願いたいものである。


































「王子、最後にもう一度、愛していると言ってください、とっても大きな声で」



「愛しているよ!!!! 世界で一番!!!! 誰よりも!!!!」







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