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プチおまけ:王族篇・短編集



――ルルトの受難


 ワドーマー宰相の戦いのときに使った神楽坂の作戦、それは認識疎外の加護を使い、神楽坂、ルルト、ウィズが「他人に化けて」それぞれの役割をこなすというもの。


 宰相との交渉役であったシベリアが神楽坂、クォナがウィズ、その中でルルトだけ2役をこなしたのだ。


 1つが痛めつけられたセレナ役、そして普段の神楽坂役だった。


 神楽坂役をする上での注意事項は1つのみ。


――「普段のままに動いてくれ」


 というもの。


(人目を気にして奇行に走るって、案外難しいもんだね)


 そんなことを考えながら、ラメタリア城の中を歩くルルト。もちろん監視班のことについては気が付いているし、それを前提にしての動きだ。


 そして神楽坂の注意事項は一つ、それに加えて指示事項も一つだけある。


「クォナ、今日もありがとうな」


 ルルトはクォナの下を訪れる。


 それは彼女と一日一度情報交換をして、その状況を神楽坂に報告することだ。


 本来深窓の令嬢たるクォナの部屋に男の神楽坂が向かうなど不可能、だがそれは神の力で大丈夫だと伝えてあるのだ。


 今回は本当に神の力を隠すつもりはないようだ。


 クォナから今日の報告を聞く、特段変化もない。


「ありがとう、気疲れしただろう?」


「いえ、いつものことですからなんてことはありませんわ、でも、その」


「ん?」


「今日、まあその、色々な殿方に誘われたのですが、そのうちの1人が、凄い美男子で、その顔だけじゃなくて、話も面白くて、時間があっという間に……」


 すっと、最後まで言わせないとばかりにルルトはクォナを引き寄せ優しく抱きしめる。


「駄目だぜ、クォナ」


「ご、ご主人様?」


 戸惑うクォナはされるがままだ。


 今回彼女がイザナミに最大限協力してくれるのは知っている。そしてイザナミもその後のことも考えているのは相棒であるから当然に理解する。


 だからこれぐらいはしてもいいだろう、イザナミには絶対に出来ないだろうけどもね。


 ルルトは、俯いているクォナの顎に手を添える。


 後は顎をクイっと上げて「俺以外の男に気を許すな」ってところかなと、そのまま顎を上げて自分の方を向かせると。



「変ですワ」



 あげた先に凍り付くような表情と声に、びっくりして離れるとハイライトが消えた目で自分を見ていた。


「なな、なに!? 何が変なの!?」


「女心を察するなんテ、ご主人様らしくありませんワ」


「そ、それぐらいは気づくよ! ヤキモチを焼いて欲しいんだろう!?」


「はい、それは気づくと思いまス、私が問題にしてるのはその点ではありませン」


「へ?」


「今の言葉を受けてテ、ご主人様はこう思うのでス」


――「えーっと、あれだよな、これって、あの、ヤキモチ焼いて欲しいってやつだよな、ああ、でもどうすればいいんだろう、あの、クォナの台本に書いてあるように、こうドSな感じですればいい、いや! あれは実際にやると引くって何かに書いてあったぞ! ああ、でも何もしないというのも悪い気がするし、今回協力してもらっているし、って、そもそも別にクォナとは付き合っているわけじゃないから、ヤキモチ焼いたら図々しいとか思われるのかなあ、ああ、俺はどうすれば!」



「そんなマゴマゴしているご主人様を見て「んはぁふっ! 萌え!」ってまでがセットのなのですワ!!」



(歪んでる! この子歪んでるよぉ!)


「まさか、他に女ガ!!」


「ちち、違うよ! 別にいいじゃないか! 女心を察してもさ! 泣くよ? 俺泣くよ! うわーん! うわーん!」


「…………」


 そんな必死の様子のルルトにすっと、クォナの目に光が戻った。


「今のはご主人様っぽいですわね、作った感じもしますが、まあ、たまには察することもあるでしょう」


「ホッ」


「んー、でもやっぱり変なのです、抱きしめられても嬉しくなかったのは、どういう」


「って俺はやることがあるから! じゃーねー!!」


とダッシュで逃げたのであった。



――後日、任務を無事終えて帰国した直後。



「ありがとうな、クォナ、協力してくれて、この礼は改めてするよ」←本物


「いいえ、お役に立てたようで何よりですわ」


「社交界での振る舞いも聞いた、気疲れさせてしまったな」


「いつものとおりですから、なんてことはありませんわ……」


 とここでクォナはじーっと神楽坂を見る。


「えっと、なに?」


「まあ気疲れはしてませんわ、いつものことですし、まあ、その、色々な殿方に誘われて、そのうちの1人が、とても美男子で、顔だけじゃなくて会話も面白くて、その時だけはとても楽しかったから……」


 とここで言葉を切ってマゴマゴするクォナ。


「…………」←チラッと神楽坂を見るルルト(認識疎外の加護済)。


(えーっと、あれだよな、これって、あの、ヤキモチ焼いて欲しいって奴だよな、ああ、でもどうすればいいんだろう、あの、クォナの台本に書いてあるように、こうドSな感じですればいい、いや! あれは実際にやると引くって何かに書いてあったぞ! ああ、でも何もしないというのも悪い気がするし、今回協力してもらっているし、って、そもそも別にクォナとは付き合っているわけじゃないから、ヤキモチ焼いたら図々しいとか思われるのかなあ、ああ、俺はどうすれば!)


「…………」←チラッとクォナを見るルルト。


(んはぁふっ! 萌え!)



((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル



――Neon Genesis Kaguragelion ~涙~



「諸君、ハーレムは永遠の男の夢である」←神楽坂


「これは誇張表現ではない、現に我が祖国の娯楽文学ライトノベルにも、それこそ多数のハレーム物が日々生み出され、ヒットを続けている」


「だが考えたことがあるか、何故ハーレムは昔から現在、そして未来でも男達から指示されるであろうジャンルであるのか」


「この謎についてだが、これは他の動物に例えると答えが出るのだよ」


「我々に最も近い生き物とされる猿、これの生態はボスを頂点にしたピラミッド式で、多数のメスを独り占めし、ハーレムを構成する」


「そして、近い生き物の哺乳類のライオン、これもまた一頭の雄に複数の雌に囲まれたハーレムを構成する、しかも生活の獲物のほとんど雌にやらせているのだよ」


「つまり、ハーレムがなぜ男の夢なのか、それは」



「生物としての本能だからなんだよ!!」



「「「「な、なんだってー!」」」」←自警団員



 といつもの男の浪漫団で力説する神楽坂、それに呼応する自警団員達。


(それにしても毎度毎度よく飽きないね~)


 とそんな光景を見て自警団員に武芸を教えていたルルトは思うのであった。



「ふふん、男の浪漫は永遠なのさ、つまり聖域、女人禁制なのだよ」


 執務室で足を組み、得意げに嘯く神楽坂。


「女人禁制というか、実際には口だけなんでしょ?」


「むむ! それは聞き捨てならないぞ! 男は全員狼なんだよ! もちろん俺もだぜ、ふっ」


「……君さ、クォナに裸で押し倒されて泣かされてたよね?」


「あ、あれは! そう演技していただけだしぃ! まあクォナも運がよかっただけだしぃ! 俺が本気を出せば、泣いていたのは俺じゃなくてクォナだしぃ! 感謝しろよって感じだしぃ!」


「はいはい、よく言うよね、本当に」


(それにしても、娯楽文学ライトノベルのハーレム物か……)


 ルルトはディナレーテから神楽坂を見いだされて、スカウトした場所はコミケ会場。異世界のヲタク文化の聖地だ。


 ルルトは神楽坂を連れてくる前に必要だろうと思い、ある程度の情報を収集したが、確かにハーレム物は昔から男に支持されている一大ジャンルであるのは事実だった。


 そのハーレム物は色々な派生型があるも、基本となるストーリーラインはこれだ。



――冴えない男が何もしなくても美少女たちに何故かモテモテ



といったもの。


(おおう、そう考えればまさにイザナミはそうだね~)


 確実に元の世界でモテない部類であったであろう神楽坂ではあったが、今では仲間であるセルカもアイカもクォナも、ウィズだって憎からず想われているようだ。


 とはいえ神楽坂のもといた世界では一夫一妻制、だけどここはウィズ王国だ。上流は一夫多妻制を採用している、つまり可能だということだ。


「もしイザナミがそのハーレム物の主人公だったらどうするの?」


「え? 俺? まあ、あれかな、ちゃんと皆を大事にしつつ、全員とうまくやる感じかな! まあ実際はとっかえひっかえのウハウハウヒヒのホッホッホだけどね!」


(絶対無理でしょ)


「ほら、ルルト、想像してみろよ、男の夢のハーレム生活!」 (⋈◍>◡<◍)。✧♡


「ふむ、例えるのなら美人な奥さん4人を妻に持つ男ってわけだね」


「そうそう! そういうの! そんなパラダイス♪」


「想像かー」


とルルトが話し始める。


――4人の妻を養うのにかかる生活費、公僕の給料じゃ当然4人の妻を養えることなんて出来るわけない。


――必死にお金を工面しようとするも、所詮は公僕、どうにもならなく、結局それぞれの妻の収入に頼る他ない半ヒモ生活。


――そんな妻達からは甲斐性無しとは思われながらも、惚れた弱みとばかりに許されて、なんとか生活を送る。


――せめてもののお返しに男のプライドを保つためと、仕事が終わった後は妻たちの世話に奔走し、それが終われば疲れ果てて泥のように眠る日々


――必要最低限のお金しかなく、何処にも遊びに行けず、好きな旅行も、温泉にも入れず、1人執務室でわびしい食事をとる。


――だけど神楽坂は幸せだった、なんといっても。



――美人の妻が4人もいる男の夢、ハーレム生活なのだから。



「これがイザナミの夢なの?」


「…………」


「どう考えても、ボクはこれが夢のパラダイスとは思えないんだけどさ、これが夢なんて変わってるねっと」


 ルルトは執務室の扉に向かう。


「ボクはこれから子供たちと遊んでくるから、じゃーねー」


 とバタンと扉が閉まり、執務室には神楽坂1人が残された。


「…………」


「…………」


「はっ!」


 気が付くと、膝をポタポタと濡れていていた。




「これが涙、泣いてるの、私」




――終……わらない




――シレーゼ・ディオユシル家の夜①



「クォナ~、入るよ~」


 神楽坂がウルティミスに帰った後の夜、クォナの寝具を整えるために部屋に入った時、クォナは小説を読んでいた。


「何読んでるの、そういえば例の拳闘列伝、新しいのが出てたよね」


 と言いながら近づくと、クォナは「ふふん」と得意げに表紙を見せると、セレナは驚いた。


「これ、恋愛小説? アンタにしては珍しいね」


 クォナは深窓の令嬢の一環として「男が妄想する女が好きな小説」はしっかり押さえるしその上で恋愛小説も読んだりするが、作品として好きなのはバトル物や推理物といった男向きの作品なのだ。


 クォナは本を栞を挟んで閉じると抱きしめる。


「今まで私は恋愛小説といったものが理解できなかった。むしろ男のちょっとした行動で右往左往し過ぎだろうと、主人公の女の子に全く感情移入できなかったの」


「だけど、恋をして初めて分かったわ、特にこの小説は女心の強さ、弱さ、そして愚かさを丹念に、丁寧に、繊細に、大胆に表現できている素晴らしい作品だということをね」


 クォナの言葉にセレナも頷く。


「まあ分かるよ、これって発売されたのは一昔前なんだけど、今でも売れ続けているロングセラーなのよ、私も読んだけど、面白いよ、それ」


「へえ、あ、先の展開は言わないでね、まあハッピーエンドなんでしょうけど、こういった作品はそのハッピーエンドまで向かう過程を楽しむものだからね」


「はいはい」


 ちなみにクォナが読んでいる小説のテーマは身分違いの恋を扱ったものだ。


 物語の主人公は、貴族の家に仕えるメイド。彼女は人目を引く容姿もなく、少しばかり鈍くさいが、前向きで楽しむことを忘れない女の子だ。


 そんな女の子には好きな人がいる、それは彼女が使える家の主人の男爵。洗練された物腰の美男子で、社交界の女性達の憧れの的だ。


 話の展開自体ははっきり言って王道だ、期待を裏切る展開というものはない。だがクォナが言ったとおり、その王道の展開を劇的に見せる技術は素晴らしく、また話の展開の分かりやすさから多くの支持を集めている作品だ。


「この小説のどこがそんなに気に入ったの?」


 という問いかけと同時にクォナは立ち上がった。



「よくぞ聞いてくれましたわ! この小説が何故好きなのか! その理由は一つ! この物語はまさに性別は逆だけど、私とご主人様そのものだからよ!」



「即座に男爵を自分に例えるな図々しい! ってその主人公に例えられるのは微妙に中尉に失礼じゃないか?」


「もちろん主人公の心情描写も同感できるものばかりなのよ! 彼女はね、男爵のことが好きでお近づきになりたいの、だけど話しかけることすらできない、何故なら!」


――「話しかけて、嫌われたらどうしよう……」


 クォナはぎゅっとこぶしを握る。


「分かりますわ! 秘めたる思い! 恋に臆病な自分!」


「全然秘めてねーだろ! 恋に臆病どころか滅茶苦茶勇敢だよ! それは結構凄いって思っているよ!」


「それだけじゃないのよ! 私が琴線に触れたのは、主人公と男爵の初めて触れ合うシーンよ!」


 主人公の女の子と男爵の初めての触れ合い。


 それは主人公が社交界で給仕をして飲み物を運んでいた時だった。彼女は招待客とぶつかってしまい、よろけてしまって飲み物をよりにもよって主催者である男爵の服にこぼして汚してしまったのだ。


 自分の失態に真っ青になる主人公であったが、とっさに男爵はこういった。


――「すまない、自分でこぼしてしまってね、恥ずかしい限りだよ、君、着替えたいから、更衣室に着替えを持ってきてくれないか?」


 と自分の失態を自分の恥として演出。しかも動揺している主人公をその場から一緒に出る口実まで作り、彼女をフォローしたのだ。


 その優しさが嬉しすぎて、ウキウキ気分で着替えを用意した。だけど完全に舞い上がっていた彼女は、ノックしないで更衣室の扉を開けてしまったのだ。


 そしてそこには当然、上半身裸の男爵が立っていたのだ。


 失態をフォローしてもらったばかりか、更に重ねてしまったことに、パニック状態になった主人公。


 男爵はその慌てている主人公にクスリと笑うと、そのままの格好で着替えを受け取って、綺麗な笑顔で礼を言ってくれたのだ。


 間近で裸を見てしまった主人公、何も言えず顔を真っ赤にして勢いよく頭を下げてその場を後にしてしまったのだった。


「殿方の裸を見て恥じらって逃げてしまう自分! その純情! 分かるわ!」


「恥じらってねーだろ! 裸を見て真っ赤になって逃げるどころか、裸を見られて真っ青になって逃げた中尉を追いかけたんだろーが!」


 とはいえそんな女性に優しい男爵に惚れる女の子は多く、ライバルは多い。その中でも男爵を巡ってメインのライバルキャラが存在する。


「それにしても、このメインのライバルキャラってさ、本当に嫌な女よね!」


「…………」


 そのメインのライバルキャラは貴族令嬢、美人で気立てがよくてみんなの人気者だ。


「この女はね、一見して嫋やかで控えめな女性なんだけどさ、彼女の何が嫌かって」



「その実は独占欲が強くて嫉妬深い! 多重人格者じゃないかっていうぐらいの二面性を持っているところよ!!」



「まんまお前じゃねえか!!」


「それだけじゃないわ! この女はね、男爵が自分の運命の男ではないかと思ったらさ、彼に対して何をしたと思う?」



「常軌を逸した方法で男を試すとんでもない女なのよ!!」



「だからそれー!! お前それー!!」


「もう! さっきからなんなのよ! だからどうして貴方は女なのに女心が分からないの!」


「何なのはこっちの台詞だよ! 女心が分かるからより面倒なんだよ!! ああ、そういえばそうだった!! 私もそれ読んだ時にその貴族令嬢見てなんか見たことあるなぁ~ってずっと思ってたら親友がそのものだったよ!!」


「まあ失礼しちゃいますわ! でも、こんな試し方をしていれば気づかれるのは時間の問題、当然それで彼女は失恋するのだろうけどね、ざまあないわ。おーほっほっほ!」


「アンタその笑い方滅茶苦茶似合うよね」


「まあでも、洗練された物腰を持つ美男子ね、まあそれに惹かれるのは分かりますが、ご主人様は男爵よりもずっといい男だけどね!」


「…………」


 小説を呼んだセレナは知っている。


 この後、確かにその貴族令嬢は、予想どおり男爵を試した結果、その本性が男爵にバレることになり、怒りを買ってしまう。


 結果愛想をつかされ、実はその試された裏で献身的に男爵を支えていた主人公の存在に気付き、使用人ではなく異性として意識していく、という流れになる。


 この貴族令嬢は恋愛小説のオーソドックスである当て馬な存在だ。


――「やっとわかったんだよ、クォナのアレは、本性じゃなくて本音なんだってさ。深窓の令嬢とか上流の至宝ってのは、クォナが社交界で生きるために必死で身に付けた処世術なんだろ?」


 神楽坂がクォナをドゥシュメシア・イエグアニート家の直系に誘った時、セレナがクォナの事をこっそりを聞いた時に返ってきた答えがこれだ。


 神楽坂はクォナの「中身をしっかりと見て」気に入ったのだ。それが何となくわかるからクォナも嬉しかったのだろう。


 つまり現実は貴族令嬢の本性を見て愛想をつかされるのではなく、逆に気に入ってくれたのだ。


 男爵よりも中尉の方がよっぽどいい男か。


「ま、確かに、いい男ってのは、そうかもね」


「…………」


 クォナが驚愕の顔をしていて自分を見ていることに気付いたがもう遅かった。


「やっぱり! セレナ! 貴方も!」


「やっぱりってなんだよ! 貴方「も」ってなんだよ! ちげーよ!!」


「いいえ違わないわ! 男嫌いの貴女が中尉にだけは何処となく態度が違うし! それに「いい男」だなんてあなたの口から初めて聞いたもの!」


「え!? 私って男嫌いのとかのキャラになってるの!? そっちがショックだよ!!」


「負けませんわ! いくら親友といえどね!」


「うるせー!! だから違うって言っているだろーが!!」


とギャーギャー騒ぐ2人。


と、いつもの調子でシレーゼ・ディオユシル家の夜が更けていくのであった。



――シレーゼ・ディオユシル家の一幕②



「さて、みんな、今日は最新作! 禁断のパターン100よ!」


「「「…………」」」


 うんざりした様子の3人。


 クォナが神楽坂の仲間となり、自分の中身をしっかり見てくれていることも分かった。


 そしてなんといっても実際の中尉はドSでもなんでもなく、鈍感ヘタレだったからこの茶番も終わりを告げるだろうと思ったがそれはどうやら甘かったようだ。


 まあいいか、クォナは本当に幸せそうだし、本音をぶつけ合えるってのは自分達以外にやっと生まれたのだから。


「今日は地の文は私が読みますわ、だからまずはセレナ、台詞を頼むわね!」


「? わかったけど」


 何処となく要領がつかめないまま茶番がスタートした。



――ご主人様の過ごす幸せな日々、自分のことをちゃんと見てくれていて、確かな絆を感じる。


――ほんのちょっとしたことでも、新しいご主人様を発見しては、伴侶なった幸せをかみしめる日々。


――そんな日々で、そうだといいことを思いつく。ご主人様のために料理を作ってあげよう、腕によりをかけて作ってあげよう。


――普段は侍女達が作ったものを食べるから、突然自分が料理を作ってあげたら、喜ぶだろうなと、そんなことを思いながら厨房に向かいます。


――そして厨房に差し掛かった時、中から人の気配がして立ち止まってしまった。


――何故だろう、中から人の気配がするなんて珍しいことではないのに、どうして立ち止まってしまうのだろう


――その時私は、自分が立ち止まっているのではなく立ち尽くしているのだと分かりました。


――何故か嫌な、確かな予感を感じる。


――ああ、見ない方がいいのに、絶対に後悔するのに、自分の愚かさを呪いながら、こっそりと厨房の扉を開けて覗いた先に目に飛び込んできた光景は。



――ご主人様がセレナの唇を強引に奪い、強引に服を脱がしている姿でした。



「っておい! ふざけるな! なんだこれ!!」


 セレナはバシーンと台本を叩きつける。


「わかるわ、最初はそういう反応よね」


「はあ!?」


「きっかけは男嫌いの貴方がご主人様をいい男だと褒めた時だったわ」


「だからそれちげーから! しかも男嫌いなんかじゃないし! ねえ2人とも!」


 とシベリアとリコに同意を求めるが2人は目をそらしていた。


「え? え? うそでしょ?」


 しどろもどろのセレナにシベリアが気まずそうに答える。


「いや、アンタ男に凄い厳しいからさ、てっきり」


 同調する形でリコも頷く。


「クォナ、セレナって、本当に中尉の事いい男って言ったの?」


「ええ、あの有名な恋愛小説に出てくる男爵よりもって!」


「「…………」」


「ってなんだよ2人して! いい男ってそういう意味じゃねえよ! って話がずれてるから!! なんで私が中尉に奪われてんだって!! 肝はそこだろうが!!」


 というセレナの抗議にクォナは一応頷く。


「まあいいですわ、話を続けましょう。実はね、このパターン100は泣きながら書いたの。セレナがご主人様に夢中で、この後セレナはご主人様に貫かれるのだけど、ずっと幸せそうな表情を浮かべているの」


「私はそんな親友に裏切りに身が裂けるぐらい悲しくて号泣したわ、だから何度も没にしようと思った、思ったのだけど、なのに筆が止まらなくなったのよ」


「何故だろう、こんなにも悲しいのに、苦しいのに、そしたらね、その時に自分でも信じられない感情に気が付いたの」


「何度も否定したわ、そんなわけがない、そんなことはありえない、だけど、だけど!」



「そう! 私は徐々に興奮し始めてきたの!! 親友たちにご主人様を寝取られて興奮するという禁断の領域に!!!」



「ってちょっと待ったぁ!!」


 トリップしているクォナにシベリアが割り込む。


「あ、あのさ、クォナ、今さ、親友「たち」って言ったよね、ってことは私たちが呼ばれた理由って、まさか」


「もちろん、絶望に打ちひしがれる私が、それでもなお立ち直ろうとしたときに実はご主人様の毒牙は2人に及んでいて、私の知らないところで親友3人が全員手籠めにされていたの」


「それなのに私の前で平然と顔をする3人、夢中で親友を抱いているご主人様、ご主人様に貫かれて幸せそうな3人、それをボロボロ泣き崩れるながら見ている私、でも興奮している私!」


「そんなある時、ことが終わったご主人様は、隠れていた私の方へズンズンと近づいてくるの、まさかバレていると思わず固まっている私、そんな私を見つけたご主人様は最後にこう言うの」



――「興奮したか?」



「ああ˝˝ーーー!!! 申し訳ございません!! でも、でも!! 親友たちを毒牙にかけるのはあんまりですわーー!!」


 といつものリアル抱き枕にだいしゅきホールドをかましながら顔を埋めながら興奮して泣き崩れるクォナ。


 その光景を見て侍女3人組の心は一つになって、こう叫んだ。



「「「泣き崩れたいのはこっちだよ!!」」」





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