表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/238

エピローグ



――「俺は、クォナとその侍女3人、そしてカイゼル中将とタキザ大尉を仲間に加えたい!」


 クォナを仲間にする意思はあるのか、そして更に仲間を淹れる気はあるのか、そのセルカの問いについての俺の答えがこれだった。


 王子の要請を受けた時、自分でも不思議なほどにあっさりとこの結論が出た。


 まずクォナについて。


 理由についてはセルカが俺の代わりに説明してくれたが、その他にも今後、舞台を上流も入ってくるとクォナの影響力は大きい。


 そもそも論として今回のワドーマー宰相との戦いにおいて、彼女がいなければそもそも話にならない、勝負以前の問題だ。


 まず国家クラスの策士相手に向こうの国で勝負すること自体、既に負けが確定している戦いだというのは考えるまでもない。


 そこから勝つとなるとまず「舞台」を対等にしなければならないが、外国でも威力を持つ原初の貴族を連れてくればすぐに対等になるかというとそんな単純な問題ではない。


 元より宰相からすれば自分に有利な状況で戦いを挑まれている時点で、無策ではなく何か策があるというのは当然に分かる、対策を取ってくるし、自分に少しでも不利だと感じれば簡単だ。


 舞台に立たなければいい。


 ここで問題なのは、舞台を降りるのではなく立たないことだ。勝負を降りるのではなく勝負をしない。


 だが今回連れてきたのはクォナ、原初の貴族と言えど政治的立場が無い彼女に対しての対応は一つ。


 国賓として丁重にもてなし、最大限の協力をすること。


 簡単であるが故に、この対応が一つしかしなくていいというよりも、他にやりようがないのだ。


 ここに俺が勝負を仕掛けられば、クォナが俺が勝負を仕掛けるのに協力したのなら、勝負を受けなければならないのだ。


 勝負を受けなければ、文字通りのワンサイドゲーム、サッカーのPKでキーパーがいない状態で勝負することになる。


 これは国外で通用するし、当然国内にも通用する。それはセルカが「好かれる立場を彼女にしたい」と決断できるほどにだ。


 そんな彼女が立場が維持できるのがあの侍女3人組。


 俺の身上調書、まああれは神の力によって誤魔化されているから調書としての質はともかくとして、あれは確実に修道院の教官から情報を入手したのだろう。原初の貴族の威光を上手に使って情報を入手しているのが見て取れる。


 そしてカイゼル中将。


 組織運営おいて嫌われ者は必要であり、それが幹部の仕事の一つではある。


 もちろん出世は綺麗ごとではない。組織の頂点やそれに準ずるをするためには、部下から蛇蝎の如く嫌われても上の受けを良くする、それを一日二日ではなく、何十年も費やさなければならない。


 だけど、極稀にしっかりと腹黒い部分も持ちつつ、それでも好かれるという一見して両立が不可能なものを持った幹部が存在する、それがカイゼル中将だ。


 もちろん、親しみやすい人だし、年を重ねているから、若い集団と侮れることもなく、万に届く部下を持つ武官として影響力のある人だ。


 タキザ大尉。


 現場叩き上げの将校というイメージをそのまま具現化したような人だ。アイカがいるけどあくまで彼女は情報収集とパイプ役であり、修道院出身であるからどうしても「凄味」がない。


 ただ憲兵は職務上とにかく中立であるから協力を得るのは非常に困難である。これは現実世界の警察と一緒。


 だけどウルティミス・マルスに常駐する、かつアイカがここに憲兵職のまま異動となると系統上俺の部下という事になる。


 つまり身内になれる、協力を得るのではなく俺もタキザ大尉の身内になる。


 情報不可分の法則(情報漏洩に伴うリスクは部外よりも部内の方が高いという法則)があるから当然無制限ではないが、連携力が違ってくるのだ。


 という俺の考えを王子に相談して了承、そして本人達に直接話した。


 俺が神の共犯者であることも全て話した、どんな反応されるかと不安になったが。


――「人生生きていればこんなに面白いこともあるものだな!」


 カイゼル中将とタキザ大尉は子供のように喜んでくれた。



 んで続いて意外なところでも喜んでくれた。


――「いやぁ、あの美人街長とお近づきになれるんだな!」


 元よりセルカは好みだったらしく、ちょっとキツめな感じがいいのだそうで。


 でもレティシアがウィズ神だと知った時には「あの巨乳は浪漫だったのに! もう邪な目で見れない!」と嘆いていた。


 全く変わらないことにとても嬉しい。


 そして就任の儀が終わったら今度改めて王子と一緒に豪遊する約束もしてきた。男だけで男の楽しいことをしようと、それを王子に伝えたら「今から楽しみ」だと喜んでくれた。



 そして次は、首都に向かい、俺は、


「いよいよですね、神楽坂様」


「ああ、よろしくな、ウィズ」」


 彼女と共にクォナの下へと向かう。




――首都・クォナ自室




「ついに! ついに! ついについについについについについについに!!!」


 バンと両手を広げるクォナ。


「来ましたわ! この時が!!」


 そのまま手を握り拳を作る。


「思えば王子に呼ばれてからのご主人様は何処か様子がおかしく、そして大事な話があるからと話を切り出された時、そのまま初夜を迎えるのかと覚悟を決めていましたのに、大事な話とはドゥシュメシア・イエグアニート家の直系として迎えることでした」


「もちろん嬉しかった、ご主人様に仲間として迎えられたのですから、でも恋人ではなく、仲間というのがちょっと不満でした」


「だがしかし!! 私はご主人様の真意に気付かなった! ああ! やっぱり私はなんて男心になんて鈍感なのでしょう! ドゥシュメシア・イエグアニート家として迎えられることがご主人様の信頼と信用の証であると同時に愛情の証だという事を!!」


「その証拠に今日! 再び大事な話があるからと! ここに来られるのです!! ああ、どんな告白をしてくれるのか、ハッ!!」


 クォナは口元を押さえて顔を震わせる。


「いえ、そうすんなりと告白してくれるとは限りません、ご主人様は初心で女性には奥手、となればむしろ女性である私の方がリードをしたほうが、いえ! 殿方はプライドが高いから女性にリードされるのは屈辱に感じるかも、どう思うシベリア!?」


「処女に聞くなよ、知らねーよ」


「ああそうだ! 肝心なことを忘れていましたわ! シベリア、今から思いつく限りの「夜の道具」を注文してほしいのです! 殿方は個人差はあれど全員アブノーマルな側面を持っていると聞きます。ご主人様の要望に応えられないことはあってはなりませんからね!」


「自分でやれよ! 他人にやらせるなよ!」


「ああ、でも実際に口割かない使用人たちに噂を立てられるのも面倒、とはいえいちいち暇をやってはご主人様のお好きな時にお好きなようにするという目的が達成できませんからね。セレナ、その雰囲気を察したら人払いを、そしてご主人様に悟られないように、人に見られないようにお願いしますわ」


「そんなことを察するために仕事ができるか!!」


 完全にトリップ状態のクォナにシベリアが「あのねえ」とゲンナリした様子で答える。


「あのさ、この流れってまんま前回と一緒だったよね? んで全然違う話だったでしょ、というかさ、ドゥシュメシア・イエグアニート家の話ってさ、本当に大事で凄い話だったじゃない、それなのになんでそれが「ついで」でアンタの愛の告白が本命なのよ」


「だって愛の告白は一大事だもの!!」


「いやだからさ、あの中尉の様子だと今回、前回の内容に匹敵するかそれ以上の話だと」


 とシベリアの回答を待たずに魔法器具を持ちキュルキュルと巻き戻す。


――【俺、に、絶対服従、誓えるな?】


「ほらほらほらほらほらほらほらほら!!!!!」


「ああー!! うるせー!! だからそれ告白の文言じゃねえって何回言えばいいんだよ!! 話が進まんわ!!」


 とギャーギャー騒ぐ中、扉がコンコンとノックされるとリコが顔を出してきた。


「クォナ、中尉が来たよ、応接スペースに通しといたよ」



「分かりましたわ!! さあご主人様!! 私は貴方に全てを捧げますわ!!」



――クォナ室・応接スペース



「…………」←ニコニコ笑っている。


「…………」←神楽坂は引きつって笑っている。


「…………」←ニコニコ笑っている


(な、なんだこの空気)


 リコに通された応接スペースでウィズと一緒にクォナを待っていた。


 んでクォナが「さあ初夜を共に迎えましょう!!」と叫びながら入室した瞬間、俺の後ろに座っているピタッと止まった。


 そして何故か深窓の令嬢モードに入ると侍女3人組を後ろに控えさせ、自身は体面に座りニコニコ笑っている。


 な、なんだろう、凄い笑顔なんだけど、怖いんですけど。


「ご主人様」


「な、なに?」


「私は女ですが、原初の貴族として、実は一夫多妻制度には賛成の立場をとっておりますわ」


 と話を切り出して続ける。


「当主の第一男子を次期当主とする、そして次期当主は国家の重要なポストを担う。人より上に規則を置き、個人ではなく組織力で君臨する我が原初の貴族の絶対法則。それを守るために、組織力で反映するために必要な事です」


「女に継承権が認められないのは男女差別という声もありますし、気持ちは分からなくもありません。ですが家は男が治める方がいいのです。女が治めるとろくなことにならないのは、私自身も女ですからよくわかります」


「ですけども……」


 ここで優雅に紅茶の入ったガラス製の、それなりに高価であろうカップを俺の前に掲げたと思うと、ぐっと力を入れた次の瞬間。



 パリーン! と音を立てて割れた。



 そして俺の目の前で手を開くとガラスの破片がパラパラと机に落ちる。


「賛成することと私がそれを許すというということは全く持って別である、もっといえば」


 バンと手を叩くとズイと迫ってくると俺を睨む。


「レティシアさんでしたか? 私は貴方を第二夫人として認める気はない、ということだけはハッキリと申し上げておきますわ」


 と俺の目の前2センチで力説するクォナ。


「だからこえーよ、何の話をしてるんだよ、言っただろ、大事な話があるって」


 まあとりあえずこういう時は全部吐き出させてからの方がいいというのは学習した。


「まあ、話は伺いますわ」


 とやっと話を聞く体制は整った様子。


「…………」


 大事な話。


 俺は元から、クォナにはウィズに実際に会ってもらいたいと考えていた。


 理由は王子が言っていた言葉「自分とクォナは疑問に思っている」と。確か神の力に定期的に触れている者は、神の人に対しての加護が効きが悪くなる。


 そして俺がクォナをウィズに合わせたいと思った理由は……。


「クォナ、セレナ達が作成したあの身上調書。あれを初めて読んだ時点で俺が神の傀儡ではなく、相棒であることを見抜いていたな? だからこそあの時、わざわざ「悪口」が書いてある調書を見せて俺の反応を見たんだろう?」


 突然の俺の言葉に侍女たちはびっくりしてクォナを見るが「そのとおりですわ」とあっさり答えた。


「え? ク、クォナ? あの調書にそんなヒントなんてあったの?」


 戸惑い気味に問いかけるセレナにクォナはため息交じりに頷く。


「ご主人様の修道院以前の資料が全くない状態なのに、それに対して全く報告も疑問もなく身上調書を完成したと言って渡されたことが、ね」


「「「っっ!!」」」


 ここでやっと気づく侍女達は自分たちの頭に手を添える。


「大丈夫よ、ご主人様のワドーマー宰相と戦った時に使った力だから、人の認識を変えるだけのものよ」


「で、でも!」


「落ち着いて、「ご主人様を信じれば害がないという事を信じることができる」のだからね」


「…………」


「続きをお願いします、大事な話がなんなのかを」


「クォナ、今みたいに神と繋がりのある俺との接触は原初の貴族としてのリクスが伴う。それをずっと聞かずに、俺を信じてついてきてくれた。戦いが終わった後も聞かないでくれた、それが今回の勝利へと繋がったんだよ。これがどれほど大きかったか、だからこそ宰相が最後の最後で俺とクォナの友好関係の正体を見抜けなかったほどに」


「そしてクォナは約束どおり、何も聞かず私立ウルティミス学院顧問になってくれた、ありがとう、ウルティミスはこれでまた、良い方に変わる」


「…………」


 俺が結論を言うまでずっと待ってくれている。



「クォナが俺に対して信頼ではなく信用の証を立ててくれたことが俺は嬉しかった、だから俺もクォナに対して、信用の証を立てるよ」



 俺はそのまま言い放つ。


「ウィズ、頼む」


「はい」


 ウィズと呼んだことのクォナ達の反応を待たずに、ウィズは、ほんの少しだけ、あの当主就任の儀に比べれば些細な力、認識疎外の加護が解かれる。


 クォナ達の反応は印象的だった。クォナもシベリアもキョトンとしていて、目の前に起きていることが理解できなかった。


 わかる、俺も最初認識疎外の加護を外された時には、そんな感じの顔をしていたのだろうな。


 次の瞬間、ウィズの姿を理解した侍女3人組のは戦慄に染まり、絶句して、呆然と立ち尽くす。


 そしてキンと、聞き覚えのある音がすると思うと。


「っっ!!!」


 クォナ以外、侍女3人組は強制的に跪かせる形になった。


『クォナよ、普段より我に対しての信仰、そして此度の神楽坂への協力、そして友好の契りを結んでいるルルト神が君臨するウルティミスへの尽力、大義である』


「…………」


 ウィズの言う事が頭に入っているのかいないのか、呆然とするクォナ、無理もないだろうなと思いながらも話を続ける。


「クォナ、ウィズはルルトと共にこうやって人間世界に顕現し、レティシア・ガムグリーとして俺の駐在官補佐をしてもらい、ウルティミスを盛り立ててもらっている、俺の仲間なんだよ」


「…………」


「クォナ?」


 クォナはソファから離れ床に跪く、両手を掌に置くあの姿勢、その慣れた所作は優雅そのものだった。


「ウィズ神、恐れながら申し上げます、ウィズ神もルルト神も何故、ご主人様の仲間として顕現されているのか、その理由を御教授くださいませ」


『…………』


「言えない事情があるのは当然のことと存じます、ですが私はご主人様に、ドゥシュメシア・イエグアニート家の直系として、仲間として迎えられました。初めてご主人様と出会った時、何故か働いた私の直感、その直感は私の想像を超えてきております。ですがウィズ神もルルト神もその理由を存じていることと思います」


「ご主人様もお願いします。信用の証を立ててもらえるのなら」


『…………』


 ウィズは俺の方を向いて、俺も頷く。


『よかろう、クォナよ、心して聞くが良い、我が神楽坂と仲間になったのはディナレーテ神より見いだされたからだ』


 ウィズの宣託を受けてぴくっと震えるクォナ。


 そして少しの後。


 床にポタポタと雫が落ちる。


「正しかった、私の目は、正しかった……」


 と次の瞬間だった。


「今日はなんて日なのでしょう!! やっと謎が解けましたわ!! 私が何故生まれたのか!!」


 と勢いよく立ち上がって目を輝かせる。


「私が何故、愛の告白してきた殿方達がどんなに美男であってもどれだけ誠意があっても、自分の心が動かなかったのか。それは私はご主人様の伴侶として生まれてきたから!」


「私が何故、女として生を受けたのか、それはご主人様の子孫を残し、命のバトンを繋ぐため!」


「私が何故、原初の貴族の直系として生を受けたのか、それはご主人様の仲間として、万難を排除するため!」


「そして私が何故、深窓の令嬢、上流の至宝と呼ばれる容姿を持って生まれてきたのか、ああ、私は今まで自分の顔が嫌いでした、嫌な思いをすることの方が多かった、だけど」



「美人であればご主人様の横にいるだけで、男性社会ではステータスになりますものね!?」



(なんだかんだでクォナも大概な女だよな)


 うん、こう、性格悪いこと言っているなってのは分かる。あれでぶっちゃけ付き合いやすいって思っている時点で、俺もやっぱり同類なのかなぁ。


 と思ったら急にクォナは真顔になる。


「ご主人様、ウィズ王国は、確かに長く続くなりの理由は持っております、ご主人様も優れたシステムはある程度理解されていると思います。ですが腐敗は決して他人事ではありません、それは我がシレーゼ・ディオユシル家だってそうです」


「…………」


「人の社会である以上腐敗は必ず起きます。その欠点を補うため、ドゥシュメシア・イエグアニート家が存在する。王国の裏表に関われる人物であるということ、王子もそう考えていたからこそなのでしょう」


「私はこれから何が起こるのか楽しみです、我が優秀な側近の3人も含めてよろしくお願いいたしますわ」


 最後にクォナはにっこりと、年相応の笑みを見せてくれた。



――数日後・ウルティミス・執務室



 クォナの家を後にした俺はすぐにウルティミスに帰ってきた。ウィズは主神としての仕事が残っているという事で、すぐに別れて別行動をとった。


 すぐにウィズは帰ってきたけど、すぐに王立修道院の入学試験があり、それでセルカと共に学院の教員としての職務につきっきりだった。


 そして先日、王立修道院の入学試験も終わり、唯一の受験者であるセク・オードビアの合格発表待ちで、ウルティミス学院は休暇に入っている。


 んでセルカの仕事もひと段落ついたからいつものとおりいるはず。あの後はバタバタしてじっくり話す機会が無かったけど、セルカもいないし、アイカもまだ色々と引継ぎがあるからここにいないのだ。


 そんなことを考えずにさっさと入ればいいのだろうけど。


「…………」


 なんだろうな、うん、大丈夫だろう、いつものとおりに、いつものとおりに。


 と恐る恐る扉を開けると。


「あら、おはようございます、神楽坂様」


 お盆を抱えたウィズがいつもの笑顔で出迎えてくれた。


「お、おはよう……」


 いつものとおり手慣れた様子でお茶を淹れてくれると、新しい茶請けを出してくれた。


「あれ? これ?」


「先日首都に行ったじゃないですか、そのついでに買ってきたんです。セルカお勧めの店で売っている茶請けなんですよ、なかなか買えないんですけど、運よく並んで買う事が出来ました」


 いつもと変わらない上機嫌な様子で、応接スペースに向かい合う形で座り、そのままお茶と茶請けを食べる。ウィズは美味しい美味しいと食べて、色々な話をしてくれる。


 普段は俺も旅行が好きでウィズも旅行が好き、食べ歩きも好きなので、実は趣味が合うのだ。


 何処がよかった何処のが美味しかったなんて話もして「いつか一緒に旅行に行こう」なんて約束までしているのだけど……。


「…………」


「…………」


 突然話題が切れてお互いに黙ってしまった。いや正確には会話はウィズが一方的に話して俺が受けているから必然的な沈黙なのだけど、俺は湯呑からチラチラと、食べる時にチラチラと見ている。


 思い出すのは当然俺の原初の貴族の当主就任の儀、半端じゃない迫力、まごうことなくウィズは神様だった。


 前にウィズは好きでウルティミスの教員とかやってくれると言ってくれているけど、やっぱり本心はもっとやりたいことが別にあって、ルルトが最強神だから従っているだけじゃないだろうか。


「神楽坂様」


「な、なに?」


「私は今、すごく楽しいんです」


「……楽しい?」


 何かを察したかのようにウィズは語り始める。


「ウルティミスは、ほんの1年前まで王国最弱の都市と呼ばれて、誰も相手にしなかった。山賊団に蹂躙されても誰も動かない、ルルト様の加護が無ければ正直どうなっていたかもわからない。それほどまでに軽く見られていた都市が今はどうでしょう、誰にも手出しができなくなったのです」


「…………」


「私は経緯こそ、まあ、その、色々ありましてウルティミスに滞在することになりました、そして私が承諾した理由は、ディナレーテ神に見いだされた神楽坂様に興味があったからんなんです。その理由については言うまでもないですよね」


「……リクス初代国王、か」


「ええ、かつての私の現世での相棒、私が彼と初めて出会った時、今日の王国の繁栄なんて私も予想できなかった。そもそも彼が統一戦争の覇者になるなんて、私ですらも信じられなかったんですよ。だけど彼がなしえたことはどんどん私の想像を超えてきて、統一戦争に勝利して、初代国王に君臨して、そして最期を看取るまで、本当に楽しかった」


「そして神にとって、その楽しみは…………」


 ここでウィズは言葉を切って、その切った言葉の後を俺も言えなくなった。


 何故なら……。


「う、ううぅ~っ!」


 口元を押さえて涙を流して嗚咽を漏らしていたからだ。


「と、とても! 苦しいのです! 今でもこの身が裂けるほどに! リクスも、リクスの妻で、初代王妃で、そして私の初めての人としての友達であったユナも! 私を置いて先に逝ってしまった! 2人とも私の名前を自分の国の名前にするほどに! 後世の人たちに忘れられないようにするために! 私を思ってくれていたのに!」


――「ウィズ、俺が死んだ後はお前の好きなように生きてくれ、今まで本当にありがとう、とっても、本当にとっても楽しかった」


「そういってリクスはこの世を去りました! ひどい! 本当にひどい! 「ああそうですか、じゃあ好きに生きます」 出来るわけがない! 絶大なカリスマを持つ伝説の初代国王? とんでもない! そんなことも分からない本当にバカなんですよ!!」


「だから私は、私の名前を関するその国の為に、なんでもすると心に決めたのです! 神楽坂様、一番最初、私が最強神となるために、貴方を一度手にかけたこと、後悔など微塵もしておりません、ウィズ王国のためなのです!」


 少し落ち着いたのか息を切るウィズ。


「そして、神楽坂様は今、リクスとドゥシュメシアとの約束を、意志を、繋ぐ形で原初の貴族の当主として誕生しました。ウルティミスの発展と貴方の立場は、リクスを思い出させます。それがどれほど嬉しいことか、誰も分からないと思います」


「そして貴方の仲間は、私も仲間だと思っています。セルカとアイカは、私の人としての2番目の友人になりました。リクスとユナを失った苦しみは二度と味わいたくないと思いながらも、私にもう一度友人を作りました」


「神楽坂様、今一度、今度は神としてではなく仲間としてレティシア・ガムグリーとして、私出来ること全てを貴方に捧げます。ですからウルティミスと、次期国王であるフォスイットと、共に国を支えてください」


「…………」


 呆然とするしかなかった。最初からどこか、ウィズが感情を抑えているように振舞っていたのは分かっていた、だけど。


 神が人間界に干渉しない、ルルトだって最初こそ助けたみたいだが、後は見守っているだけ、それがどうしてかなんて、リスクもそうだが、この理由が大きいのだ。


 ラベリスク神だって、アーキコバと友人になったことは後悔したことがあると言っていたじゃないか。


 初めて見るウィズの激情に思わず俺は。


「こんなにも熱い思いを抱いていたなんて、知らなかったよ、ごめん」


 とウィズのギュッと手を取ってウィズはびっくりしたように俺を見上げる。


「お前こそ、本当に俺でいいのか? 俺は多分この先もずっとこのまんまだ、好きな時に好きな事をしたいだけで、自警団とバカ話で盛り上がってばかりのガキだ、それこそこの俺の性質は、リクスじゃないが、死ななければ治らないと思うぞ」


 俺の抜身の言葉を聞いて、ウィズは微笑むとギュッと握り返してくれる。


「はい、神楽坂様こそ、私で良ければよろしくお願いします」


 俺とウィズはお互いに見つめ合うとクスクスと笑う。


「なにか、愛の告白のようですね」


「え!? そそそ、そうなのかなぁ!」


 びっくりしてパッと手を放して狼狽えまくる俺にウィズは目元を拭う。


「でも、そういった関わり方も、ありなのかもしれませんね」


 と俺をじっと見つめてくるウィズ。


「はは、ウィズなら選びたい放題じゃないか?」


「あら、私は男性の好みにはうるさいんです。だから好みの男性が全然見つからなくて困っているんですよ。んー、そうですね、その好みに照らし合わせれば神楽坂様は「ギリギリあり」といったところです」


「ギリギリだけど、一応「あり」なんだ、ありがと」


「いいえ、どういたしまして、さて、神楽坂様」


 ここで、ニヤリと微笑むウィズは自分の席から更なる箱を取り出してくる。


「実は、テルナトス都市の星三つを受勲したお菓子を買ってきたと言ったらどうしますか?」


「マジで!? テルナトスってあの王国一のグルメ都市だよな! 食べたい、チョー食べたいよ!」


「最初このお菓子が発売された時、ここまでのベストセラーになるとは私も予想不可能でしたよ」


「おおー! 主神が予測不能なお菓子があるんだな!」


 俺の言葉にウィズはにっこりと笑ってくれた。



「はい、この世界では神でもわからないことが一杯で、本当に楽しいのです!」









これで王族篇は完となります。


長期間にわたってかつ不定期投稿にお付き合いただいてありがとうございました!


次回おまけで王族篇ラスト投稿となります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ