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第61話:原初の貴族、ドゥシュメシア・イエグアニート、誕生




 あの後、俺は再び首都に戻り、王子にドゥシュメシア・イエグアニート当主就任の了承を伝えた。


 その際改めてワドーマー宰相との戦いの時、自分が神の共犯者であることを告白すると同時に、自分がルルトの使徒でありウィズと共にウルティミスを盛り立てていることの全てを話した。


 そして今の仲間たち以外に直系として迎え入れたい人物の話もして、王子に許可を貰い本人達と交渉して全員から仲間に加わるという答えをもらった。


 王子は、俺の結果報告に「そうか」と嬉しそうに答えてくれて、これでドゥシュメシア・イエグアニート家が誕生することになった。



 そして今日、俺の原初の貴族当主就任の儀式を行うことになったと告げられて、王子の執務室にいる。



 儀式といっても別に難しい段取りじゃない、全員が揃い、教皇がウィズに降臨を呼びかけ、ウィズがそれに応えて降臨、当主誕生を報告し、ウィズが立会う、以上だ。


 俺がすることはほとんどない、教皇の横に立つこととウィズが降臨したときにちゃんと跪くことぐらいだ。


 今日の儀式の参加者は聖域に立ち入りを許された全ての人物、つまり王と第一王子、教皇と原初の当主達だ。


 彼らだけには新たなドゥシュメシア・イエグアニート家の誕生と当主及び直系の名前が口頭で報告が入っている。


 そして今現在、全員聖域にて俺の来訪を待っているそうだ。


「待たせたな」


 執務室に入ってきた王子、その姿に改めて驚く。王子が着ているのは儀礼服、王族の当主筋にしか着用を許されない特別なものだ。


 それは王子も一緒だったようで、俺の姿を見て微笑む。


「ははっ、まだ服に「着られている」といった感じだな」


 そのとおり、俺はというと王子の言うとおりいつもの修道院の制服じゃない。原初の貴族の当主のみ着用を許される貴族服を着用しているのだ。


 当然普段は持っていることすらもバレてはならないから、聖域にはドゥシュメシア・イエグアニート家当主用の部屋があの聖域の中に設けられている。


「みんな待っている、行くぞ」


 王子は資料室の扉を開けて、その後に俺が続く形で執務形で部屋を後にした。



 聖域。


 公式には聖地フェンイアの聖公会の中核場所の一つだけとある、ウィズが人の世にその姿を現す場所、リクスがウィズより初めて啓示を受けた約束の地とされている。


 そしてもう一つ、俺達が目指している場所。王立修道院の地下深くに設けられ、当初の志を忘れないために、初代国王と原初の貴族より受け継がれし、ウィズの神の力により手入れすることなく保たれている場所だ。


 王子と共に聖域の正門を開け歩みを進め、第二扉の前に立つ。


 この先にと思った時、王子が俺に話しかけてきた。


「この扉を開けた瞬間からウィズ神が降臨するまで一言もしゃべるなよ、もう既に儀式は始まっている」


 王子の言葉に身が引き締まり、重厚な扉が王子によって開かれた。


 その先に広がった光景、最初からいると知らされていたからもちろん分かってはいたけど。


 参加者の全員が立ち上がった状態で出迎えてくれていた。


「…………」


 一気に緊張が跳ね上がる、この人たちが原初の貴族の当主達。


 王子は慣れた様子でそのままゆっくり歩き出し、俺も後に続く。


 それにしても当主というから全員中年以上かと思ったらそうでもないのか、老人もいるし、中には30代前半位の若い当主もいる。

 当然ドクトリアム卿もいた、変わらず無表情な顔をしているけど、内心どう思っているのだろうか。


 とここで王子が立ち止まる。


 王子の向こうで俺の顔を見てにっこりと笑ったのは、モーガルマン教皇だ。


 そして最後、この聖域の最上位者として君臨する、フォスイット王子の父親。


 ウィズ王国現国王。


(クインド・リクス・バージシナ・ユナ・ヒノアエルナ・イテルア王)


 クインド王は俺を見て会釈して、俺もそれに応ええると教皇の横に立つ。すると一呼吸を置いてクインド王が右手を上げた。


 それに呼応し、自身と当主達がウィズの肖像画と正対する形で向かい合う。


 ここで肖像画の下にある小さな祭壇、モーガルマン教皇は袖の中から小さな聖杯を取り出すと祭壇の上に置き、もう片方の袖の中からナイフを取り出すと自分の手首を軽く切る。


 血は手を伝って聖杯の中に滴り落ち、すぐに聖杯が教皇の血で満たされ、祝詞を唱える。



「悠久の時を示し、ウィズ王国に祝福もたらす偉大なるウィズ神、我が赤き血の禊をもってここの聖域に降臨されることを、ここにモーガルマン・エーデルハイセが申し上げます」



 ここで教皇を含んだ全員が片膝を立て、両掌を床につけ、頭を垂れて跪く。


 その次の瞬間だった。


 キンという耳鳴りが聞こえたと思ったら。


(っっ!!)


 空間が歪む、例えではなく本当に歪む!


 そして全ての物がガチガチと軋む! その降臨の負担に耐えるように、凄まじい圧迫感が場の空気を支配する!


 耐えているのは物だけではない。


「ぐっ! ぁぁ!」


 横を見ると王も王子も原初の貴族たちも圧迫感に必死に耐えているようだった。


 そうか、これはウィズへの敬意を示すものであると同時に降臨の際の圧迫感に耐えるための姿勢でもあるのか。


 そして空間の歪みと衰えるどころかさらに強くなり、軋みは更に光を伴ってその光が強くなる。


 ギイイィィン! と更に音が強くなる!


(こ、これ!)


 俺も少しずつしんどくなってきた、だが俺と教皇は使徒だからまだ平気そうだったが。


「ぐぅ!」


 という声共にガタッという音がしたと思って横を見ると、耐え切れなくなったのか数名の老人の原初の貴族の当主がまず耐え切れなくなり、掌ではなく、その体全体で神の圧力を受けることになった。


 だがまだ力は強くなる、その光が徐々に支配し、視界すらも光に支配される。


「ぐぁ!」


 後ろでフォスイット王子の声の悲鳴が聞こえたと思うと、ガタンと音がするのを皮切りに次々に原初の貴族の当主達が地べたにひれ伏すことになる。


(き、きつっ! まだ! まだなのか!!)


 俺もそして教皇も顔を歪めた次の瞬間!



 光が破裂するかのようにはじけ、同時に圧迫感は一瞬で消失する!



「はぁ! ふぅ!」


 全員が圧力から解放され息を吐きだし、誰が指し示すわけじゃなく、跪いたそのままの体制で、俺も頭を上げて肖像画を仰ぎ見た。


 そこにもう既にウィズがいた。


 雪のように舞う光の残滓を伴い、上空に君臨していた。


 彼女は目を閉じて、そのままゆっくりと地面に降りてくる。


(な、なんだよこれ……)


 じょ、冗談だろ、ウルティミスじゃ、もう何処か所帯じみた感じさえするウィズ、お茶を淹れてくれて、時々ルルトに理不尽に怒られて、自警団全員の憧れの的で、ヤド商会長からもアイドル的人気も持っていて、俺の不得手な政治参謀として、教員として、ウルティミスの為に尽くしてくれている、俺の仲間……。


 だが、今の彼女は、まぎれもなく……。


(か、かみさま……)



『我が愛しき子と王と原初の貴族の末裔達よ、おもてを上げよ』



 ウィズの言葉で何とか起き上がり再び跪く、王と王子と原初の貴族の当主達。


われは今とても喜びに満ちている、今日、愛しき末裔たちに新たな仲間が加わることを、次代の王の仲間であるドゥシュメシア・イエグアニート家の当主が誕生したことを』


 神の言語で語り始めるウィズ。


『フォスイット、改めて我に報告せよ』


「はっ!」


 勢いよく立ち上がり直立不動の姿勢を取る。


「ウィズ神に謹んで申し上げます! このフォスイット・リクス・バージシナ・ユナ・ヒノアエルナ・イテルア! 偉大なる初代国王、リクス・バージシナより受け継がれしドゥシュメシア・イエグアニート家の誕生をここに報告申し上げます!」


 王子の報告にウィズは微笑む。


『これからも国を盛り立てていくが良い、神楽坂よ』


「は、はい!!」


 ウィズに呼びかけられた俺も一緒に直立不動で返事をしてしまう。


『お前には、ルルト神との友好を結ぶ上で世話になった。あの時からいずれ国家の重要人物になると予見していたがそれが現実の話になった、フォスイットよ』


「はっ!」


『お前の人を見る目も間違いなかった、王の資質、それも嬉しく思う』


「はっ……」


 微妙なニュアンスを含めたウィズの言葉に全員が疑問符を浮かべる。なんだろう、この言い方だと「重要人物であることを予見していた」って言い方が……。


 という疑問を浮かべると同時にウィズはその疑問に答える。



『フォスイット、神楽坂は、ディナレーテ神より選ばれし者なのだよ』



「な!」


 この言葉の意味が俺にはよくわからなかった、けど。


 全員が驚愕に染まった表情で俺を見る表情を見て、この神の名前の威力は分かった。


「ウ、ウィズ神! 今の神の名は! その! まさか! あの!」



『そうだ、我にリクス・バージシナを見出した神、ディナレーテだ。ルルト神もまたディナレーテ神により神楽坂を見出され、ルルト神の盟友となったのだ』



「…………」


 理解が追いつかない、どういう意味だ、ディナレーテ神なんて初めて聞いたぞ、その神に選ばれたってことで、その神はリクス王を選んで、つまりそれがとんでもなく……。


 あ! そうだ! 思い出した! 一番最初、最強の神になるためのウィズに殺された時に交わした会話でそんなこと言ってたよな。


 俺は占いの神に選ばれてここに来た、それだけでウィズは最重要危険人物として俺のことを見張っていたとか言っていた。


 この会話の流れだとその占いの神がディナレーテ神っていうのか。


 そうか、あの時のルルトとウィズの会話って、この事実についてどう扱うかについて聞いていたのか。


『神に選ばれたお前の活躍は全て把握している。ウルティミス・マルス駐在官として赴任し、今回のワドーマーとの戦いまで全てだ。その働き、ディナレーテ神に見込まれたとおりであったぞ』


 ここでウィズは視線を俺から王子に移すと片手を上げる。


『さあフォスイットよ、儀式の仕上げだ、当主と直系を今この場で読み上げよ、私は誕生の立会となろう』


「はっ!」


 王子は再び直立不動の姿勢を取ると声を張り上げる。


「ここに誕生したドゥシュメシア・イエグアニート家について報告いたします! まずは直系!!」



「シレーゼ・ディオユシル家直系! クォナ・シレーゼ・ディオユシル・ロロス!」



「同人侍女長! セレナ・ディル!」



「同じく! シベリア・メネル!」



「同じく! リコ・フランチェスカ!」



「レギオン第三方面本部武官司令! 武官中将! カイゼル・ベルバーグ!」



「ウルティミス・マルス連合都市街長! 王国議会4等議員! セルカ・コントラスト!」



「レギオン第三方面本部憲兵第39中隊隊長! 武官大尉! タキザ・ドゥロス!」



「レギオン第三方面本部憲兵第39中隊所属! 武官少尉! アイカ・ベルバーグ!」



「ウルティミス・マルス駐在官補佐! 武官軍曹! フィリア・アーカイブ!」



「同じく! 文官二等兵! レティシア・ガムグリー!」




「そして当主!! ウルティミス・マルス駐在官!! 文官中尉!!」




「神楽坂・ドゥシュメシア・イエグアニート・イザナミ!!!」




「以上の者を原初の貴族、我のドゥシュメシア・イエグアニート家として誕生したことをここに報告申し上げます!!」



 フォスイットの王子の言葉を聞き届けるとウィズは最後に全員に啓示を与えて儀式は終了する。




『これより神楽坂・ドゥシュメシア・イエグアニート・イザナミは、原初の貴族の当主に名を連ねる。この場にいるすべての人物は神楽坂の助けとなり、神楽坂もまたこの場にいる全員の助けとなれ。神楽坂よ、私はお前のドゥシュメシア・イエグアニート家の当主就任を心より歓迎するぞ』







次のエピローグで第3章王族篇は完となります。


その後恒例のおまけを投稿予定です。

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