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第60‐2話:神と人の力を使い、新たな歴史を紡ぐ者・後半




 ドゥシュメシア・イエグアニート家。


 世襲制ではなく、歴代王と王子の指名制で存続する原初の貴族の例外、公式上は存在しない貴族、存在しないからウィズ王国の規則の縛りを受けない。


 それぞれの王家の当主筋に存在するドゥシュメシア・イエグアニート家は、現国王のドゥシュメシア・イエグアニート家と同時期に存在することになり、つまりは当主は2人いるという扱いになるそうだ。


 この理屈が通るのはこれはあの聖域においての序列を根拠にしている。


 王子は原初の貴族の当主よりも上位に位置するから、王と王子の直轄で原初の貴族と当主と同格は理屈が通る、故にドゥシュメシア・イエグアニート家の当主は2人いるということになる。


 役割は、まさに今回エンシラ王女の件で俺が王子に依頼されたとおり、王子が必要と判断した国家の裏事に関わる事を担当する。


 その際に王を始めとした原初の貴族の当主のバックアップを得ることができる。


 つまりやれることが格段に増えるという事だ。王子からの任務の加盟の他に、自分自身の任務を王子に公認させることもできるのだ。


 特色なのが報酬、立場上地位も名誉も公式には存在しないことになるから「金」だ。あくまでも公務に支払われる報酬という形になっている。


 ドゥシュメシア・イエグアニート家の運用は歴代の王によってまるで違う。常に自分の傍に置く王もいれば組織にがっつり食い込ませる王もいたそうだ。


 フォスイット王子の運用は、今のように動いて欲しいとのこと、普段は別に何をすることは無い、生活に全く変化はない。仲間だから状況によっては今回のようにアイカとかセルカとかは絡まないことだってできる。


 それが一番俺の性格に合っているのがちゃんと理解しているし、フォスイット王子もそっちの方が楽なのだそうだ。


 その中で王子はルールを一つだけ設けた。


 仲間、つまり直系として名を連ねる人物にはドゥシュメシア・イエグアニート家の秘密を言う事になるから、必ず王子に誰を仲間にするかちゃんと報告すること。新規で入れたい場合も事前に王子とちゃんと相談した上の合意の後に勧誘する、これだけだ。


 一言で言うと直属の私設部隊、いや、つまり、王子は俺の仲間になってくれと言っているってことだ。


「…………」


 俺は馬車の御者台から外の景色を眺めている。


 王子の要請の後、俺はいてもたってもいられなくなり、クォナの自宅に帰宅。


 その際にクォナは今回の依頼の報酬として私立ウルティミス学院の名誉顧問としての話を切り出してきた。


 本来ならその打ち合わせをするべきなのだろうが、「何も聞かず俺を帰してくれ」とクォナに謝り倒して、何かを察したクォナからこうやって馬車を借りて、御者台に座り流れる景色を眺めている。


 表に出ることはない、だがあの聖域に立ち入ることを許されることは公式であり公認の原初の貴族の当主と同格として認められるという事だ。


 そして俺の仲間は「直系」と同格ってことになる。王子の言葉だとすぐには変わることは無い、だがいつか必ず立場が激変した立場を理解する時が来る。


 当然即答できるわけがない、だから俺は王子の要請に対して、こう答えた。


――「私には仲間たちがいて、その仲間たち全員が合意を得たのなら」


「お……」


 あの見慣れた壁が見えてきたとき、思わず声が出てしまった。


「なんか懐かしいなぁ」


 俺の本拠地であるウルティミスだ、凄い久しぶりな感じがする。


「あれ?」


 近づいてくると門の前にある人物が出迎えてくれるのが目に入った。それが誰かなんてすぐわかった。


「おかえりなさい、イザナミさん」


 俺に「おかえり」を言ってくれるセルカ。


「ただいま、街長自ら出迎えてくれるなんて光栄だよ、みんなは?」


「いつもの場所で待ってるよ、ちゃんとアイカさんも来てる」


「ありがとう、ウルティミスに関わる大事なことだから、直接全員に話したいことがあったんだ」


 俺は馬車を自警団員に任せるとセルカと共に古城へ向かった。



「ドゥシュメシア・イエグアニート、失われた原初の貴族がまさかそんな形で存在していたなんてね」


 感心したようなアイカの言葉。


 全員に今回のクォナ報酬の件から始まりから終わりまで全て話した。もちろん皆にはルルトとウィズの力を借りた本当の事実を話した。


 先に述べた本当の事実、意味が重複しているが、今回の戦いはそう表現するしかないのだ。


「みんな聞いてくれ、俺は王子にこう言われたんだ。「俺と一緒にウィズ王国の歴史を紡がないか」と、でも俺1人じゃダメだ、今回1人でやってみたんだが……」



「正直、辛勝だった、危なかった、もう少しで読み切られるところだった」



 ワドーマーに言い放った56の策、そんなものあるわけがない。


 むしろ策なんてただ一つ、自分のクォナとの友人としての立場を利用して相手を貶めるということを推測される可能性は限りなく低い、だから裏をかくのは最初からその一点に絞らざるを得なかった。


 戦いの相手は早い段階で分かったから、宰相が放っているスパイを割り出すために観光に行き、色々と色々な場所で話題を吹っかけて、宰相がどの程度自分に注目しているのかといったことを始めとして、そのルート解明に努めた。


 出張の時にルルトに使ってもらったアーティファクトは、所謂任意の相手に自由に取り外しができる万能GPSのようなもので、その吹っかけた相手に付けさせてもらい、スパイの動向や言動を常にこちらで把握できるようにしたのだ。


 その前段階を終わらせていよいよ実戦、その「俺と勘違いしてクォナの侍女3人組のセレナを痛めつけて不興を買う」という結論に向かうために俺は行動を開始する。


 わざと無能に見せたり、ふざけたり、おどけたり、高圧的に出たり、ダミーも必死でばらまいていたが、想像以上に読み切られる速度が速く、なんといっても油断してくれなかった。


 そして何より失策だったのが俺がシベリアに扮してあの身上調書を見せたことだ。神の力の影響力は無い筈なのに、油断どころか瞬時に警戒感が跳ね上がったのだ。


 慌てた俺は必死で理屈つけて非難したがまったく効果なし。むしろその非難の文言でますます警戒感を出させてしまった。


 あれで油断するなんて考えた俺が油断していたのだ。


 これは想像以上の失態で結果、最初の「神の力を使われて自分の頭をかき回されるかもしれない」と相手に与えていた恐怖、つまりこちらのアドバンテージがその時点で消失する。


 更に状況は悪化する、俺が認識疎外の加護を使って、監視班に写っている俺が「偽物」とまで見破られた時は王子の作戦失敗の報告を覚悟した。


 だが、結局その読みの鋭さ、そして油断をしなかったため自分を「神の傀儡」ではなく「神の共犯者」として読み、そこから結論を組み立てたことで、俺が神に媚びを売らず手段を選ばないことはしてこないと読んだことでホッとした。


 当然もう油断はしない、その時点ですぐに「自分の読み間違いを気づかせるため」に結論を出させてもらい、勝利を確定させた。


 宰相と刺しで話した時、完全に呑まれていたが、アレは「自分で作り出した神の共犯者という幻影」に恐れ慄いていただけだ。


 おそらく、もうセレナが傷ついた件について認識疎外の加護を使ったことだとバレているだろう。


「結局俺は神の傀儡と読まれたら今回は負けていたことで、改めて自分の力がよくわかった、だから俺は王子にこう答えた「俺には仲間がいて全員が同意してくれるのなら」と、だから!」


「うん、もちろんいいよ」


 あっさり頷くセルカ。


「え、えー、あっさりー?」


 色々と話し合う覚悟を決めて来たのに、そういえばセルカは俺の話の途中から話を聞きながら顎に手を添えて色々と考えていたようだったけど。


 そういえば同時に依頼達成の件も伝えてあるけど、その件よりもドゥシュメシア・イエグアニート家についてだけ思考を巡らせているように思える。


 クォナが私立ウルティミス学院の名誉顧問就任が決まったにもかかわらず、あっさりしているのだ……。


「もっと驚くと思ったけど」


 俺の言葉に笑顔になるセルカ。


「あっさりじゃないよ、むしろ今は燃えてる、かな」


「え?」


「まずクォナ嬢の報酬の内容を聞いた時に、依頼の難易度自体はさほど高くないと分かった。依頼内容もイザナミさんに合わせているようにしていると思ったからね。これだけ揃えばイザナミさんなら絶対に達成すると思ったの。だからもうその件については準備策を考えていて、後はイザナミさんとの打ち合わせ待ちだったの」


「はは、流石だよな」


「でも、まさかそれを超えてくるとは思わなかった。イザナミさんが非公開とはいえ原初の貴族の当主になる、私が直系に名を連ねる、正直言われてもまだ信じられない、原初の貴族と対等どころか、それを超えて次期国王とのコネクションどころか仲間にまでなって帰ってくるなんてね、イザナミさん!」


 ガシッ! と手を握る。


「な、なに?」


「貴方は辛勝と言ったけど、国家クラスの策士相手に互角であることは間違いない、いえ違う、その宰相は貴方を完全に同格かそれ以上と認めている。神の力を抜きにしてね」


「そ、そうかな」


「そうだよ、分かるよ、さて実は私たち側にも色々と報告があるんだけど、その前にイザナミさんに確認したいことがあるの」


「ちょ、ちょっとまって! えーっと、その前に……」


 本当にこのまま話を進めていいのだろうかと他の3人に視線を送る。


「凄い面白そうじゃない、国家の裏側に関われることになるんだからね、憲兵としての血が騒ぐってものよ、何、反対するって思った?」


「そりゃあさ、極秘任務を帯びることになるし、39隊としての仕事もあるから、憲兵の待遇にも影響すると思うし」


「ああ、その件についてはもう大丈夫だから」


「へ?」


「セルカが言ってたでしょ、私側にも報告があるって」


「そ、そういえば、な、なに報告って?」


「私、ここに詰めることになるから」


「え!?」


 アイカに変わる形でセルカが話し始める。


「元より考えていたの、憲兵をどうにかしてこちらの治安維持に当てられないか」


 憲兵が常駐するのは格付けが4等都市以上、そして現在の連合都市の格付けは4等、これだけ見れば簡単に話が進むと思えばさにあらず。


 元より連合都市はお互いの利益がぶつかり合うから、ほとんどの場合が誕生前に消滅するか誕生した後に空中分解するかという、いずれかの末路を辿る。


 その数少ない成功例が「吸収合併」であり、ウルティミス・マルス連合都市はその形で誕生したが、だからといってそう簡単に憲兵を常駐させるとなると話は違ってくる。


 誰をどこに配置するか、欠けた人員をどう補充するか、人も予算も有限である以上当然に発生する問題であるから、そういう意味での信用はまだ連合都市にはなかった。


 結局、アイカのツテを使う形で「見回り巡回」といった形で落ち着いていた。


 だが、状況はこちらの都合を待ってはくれない。


 巨額の富を生み出す遊廓に反社会勢力が手を伸ばしてくるのは当然、現にアキス・イミより暴力から守ってやるからという名目で反社会勢力が近づいてきて断ると嫌がらせをされるという笑えない状況が現実問題として発生していたそうだ。


 マルスを支配下に置くためにセルカがインフラ設備の投資を含めて設立したウルティミス・マルス流通株式会社は存在するものの、そういった勢力に対しての対処方法に不安が残るものであった。


 セルカは最初からそれを見越して、マルスの遊廓としての収支、働く遊女や関係者を住民として捉え、スラムを区画整理し全て数値化してマルスの力を把握、子供たちを無償での私立ウルティミス学院の入学させるなど措置を取り、仕事が遊廓というだけ健全性を曙光会にアピールする。


 結果同じ女性だからという名目でアイカを常駐させ、パイプを構築することに成功する。


 ウルティミス・マルスの駐在官のポスト数は本来5つ、だけどこれが充足されることは無い、それを利用してルルトとウィズを駐在官補佐として置いて、それにアイカが加わる形となったそうだ。


「なるほど、公的な用心棒ってわけか」


 これは日本でも実際に採用されている手法である。公的機関、例えば役所といったものは反社会勢力から対抗手段と方法を知らないため、警察OBを非常勤職員として採用し、警察と連携を取り対処をしている。


 公的な用心棒はセルカにとってはメリットしかない。まず人件費や経費は税金で賄われること、そして権限行使についてはどうしてもダーティーなイメージが付きまとう性産業の治安維持のためという名目が立つ。


「だけど、それが限界でもあった、ということになる。こちら側にいくら正当な理由があろうともこれ以上憲兵を常駐させれば「依怙贔屓」との誹りを受けるし、いらない邪推も受ける、そしてその問題は解決できない問題だから背負っていくしかない」


「だけどクォナ嬢が名誉顧問としてここに就任するのならこれらの問題が全て解決するの。原初の貴族の直系、政治的繋がりが無いから人気も高く、教育方面に力を入れていて、その分野で絶大な影響力を誇る彼女の就任ともなれば、私のアピールなんて必要なくなる、憲兵中隊がまるごとこちらに異動も可能、彼女がそう言えば「そう」なるから」


「そ、そこまで影響力があるの?」


「そうよ、クォナ嬢の孤児院運営は自国にとどまらずラメタリア王国を始めとした各国に拠点を持ち、資金は自分の基金で一元管理、孤児院の現場運営は現地に任せて、視察も精力的に行っているからね。彼女に感謝して、修道院入学を果たした子もいるぐらいよ」


 そ、そんな凄いんだ、まあ確かにラメタリアも国を挙げて歓迎されていたよな、確か。


「そして今、イザナミさんのおかげでクォナ嬢の就任が現実となった。だから私は都市運営上で、好かれる立場をクォナ嬢にしようと思う。私は街長という立場上、好かれるとそれに比例してリスクが高くなるから中立でいたいからね」


 セルカ言葉を受けてアイカは自分で自分の指をさす。


「んで取り締まりの嫌われ役が「私達」ってわけよ、といっても本当なら私たちがいなくてもアキス楼主長の自浄作用がちゃんと作用しているから、私がやるのはアキスとの情報共有と反社会勢力からの用心棒ってところね」


「ただ解決していない問題があって、こちらの受け入れ体制が問題なのよ」


「受け入れ? ここの古城には余っている部屋は結構あるけど」


「それはお忍びでくればの話、正式に原初の貴族の直系を受け入れるとなると「ここにどうぞ」という訳にはいかない、こちらのメンツに関わることなの、だからクォナ嬢と綿密な打ち合わせをしたいのよ」


「そ、そうなの?」


「そうなの、だけど今の話を聞いて、更に状況が変わったのよ、だから聞きたいことがあるの」


「? 聞きたいことって?」


「その質問をする前に、ウィズに確認を取らないといけないんじゃない?」


 説得するはずがいつのまにかこっちがリードされているけど、そうだ、えっとまずは、ウィズもそうだけど。


「ルルトはいいよな? 俺がドゥシュメシア・イエグアニート家の当主になっても」


「…………」


「ルルト?」


「いや、もちろん賛成だ、というよりセルカじゃないけど、想像を超えてきてる。君をここに連れてきたとき、今のこの状況は神であるボクも予測不可能だった、なあイザナミさ、君を」


「ルルト様、それより後はここでは」


 ここで何故かウィズがルルトの発言を止める。


「…………」


「その件については私に任せてもらえませんか? 今回の話を聞く限り、私が適任だと存じます」


「……分かった、君が主神として君臨する国のことだ、君に任せるのがいいだろう、イザナミ、ボクもウィズも賛成だよ」


「あ、ああ」


 なんだろう、なんか気になるけど、まあ賛成みたいだから話を続けないといけない。


「セルカ、2人とも賛成みたいだから、さっきの質問の件は?」


 俺の言葉にセルカが頷く、そして一呼吸置くとセルカは俺に問いかけた。



「イザナミさんがクォナ嬢を仲間にするかどうかということ、それとそれ以上に仲間を現在入れるつもりはあるのかという事よ」



「っ!」


 びっくり、アイカに視線を移すけど「アンタは顔に出やすいからね~」と笑っているとズイとセルカが俺に迫る。


「私は賛成よ。飼われるという意味のドクトリアム卿ではなく、裏で活躍する原初の貴族という意味でもない、本当の意味での繋がりが持てるようになる。今の曙光会での私の立場はまだまだ小間使い、だけど幹部の道も見えてくる、そうなれば教育部門以外にも力が入れられるようになるものね」


「ほ、本当に燃えてるね」


「もちろん、今が攻め時だからね!」


 気合が入りまくりのセルカに変わらずの頼もしさのアイカ、ルルトもウィズも協力してくれるという。


 ありがたい、本当に仲間に恵まれたのだ。思えば異世界に連れてこられて、皆には助けられてばかりだ。


「だからイザナミさん、今の質問に答えてほしいの」


 ここでセルカの会話が終わり、俺の方に全員が視線を向けてくる。




「みんな、ありがとう、さっきのセルカの質問の件、俺が考えていること全て話す!」





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