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第60‐1話:神と人の力を使い、新たな歴史を紡ぐ者・前半



 フォスイット王子とワドーマー宰相とはお互いに既知の仲である。


 お互いに国益を考えれば外せない相手ではあり、世代は自分の父親世代であるが能力を計り合う仲でもある。


 フォスイット王子にとってワドーマー宰相は強敵の部類だ。弱点という弱点は暴力行使に少し手間取るぐらいで、特に策士としては策の内容よりもそのスタンスが驚異的だ。


 何が驚異的かというと策にまったく執着しないという点、どんなに長い時間と手間をかけた良策であってもあっさり捨てるのだ。だからこそ変幻自在に対応が可能であるのだ。


 だから今回の初めての非公式な対談でワドーマーがどう来るかと思った。いくらスタンスを崩さないとはいえ、事実上ハメ技を使われて不利な局面にされた挙句、先代からの悲願が潰えてしまったのだ。


 弱気になっているのかと思ったがとんでもない。まず先制して自分の不手際を謝罪してきたのは驚いた。


 もう既に不利な局面であることは理解しているから、その局面を動かさずまずその盤上の状況をの把握につとめているのが分かった。


 変わらず驚異的な精神力、だが。


(少しあっさりし過ぎていないか?)


 いくらなんでもこんなに綺麗に気持ちを切り替えられるものなのか、人間の感情というのはどんなに訓練しても絶対に表に出るものだが本当に真意が測れない。


確かに精神力は驚嘆に値するのはわかる、宰相の態度はそれだけでは説明つかない。そんな疑問を感じていた時、不意に宰相は何かを察したかのようにフォスイット王子にこう述べた。


――「セレナが傷ついたのは嘘ですね?」


 結論から先に述べてワドーマーは話し始める。


神楽坂は利益のつながりではなく情の繋がりを重視する。彼がいう「仲間」ですか、神楽坂は仲間を「頼る」ことはあっても「利用」することはない、だからこそ仲間たちもそれに「応える」のだ。


となれば今回の作戦に嘘が無いと中尉は仲間からの信用を失う、そしてもう二度と取り戻せない、だからその選択をするのはあり得ない。


情による繋がりと利益による繋がり。


情による繋がり、これもまた非常に耳触りのいい言葉である。


ほとんどの人間は前者と答える、いや答えたいだろう。


だが自分たちのような立場の人間はこの問いに対して利益による繋がりが強いと即答できなければ話にならない。


だが結果を見れば、情の繋がりに負けてしまった。自分の思考を全て読み切られ、変幻自在に対応され、対抗する術はなかったと結ぶ。


――「ここまで完敗すると、かえってすっきりするものです、そう神楽坂中尉にお伝えしていただければと存じます」


(こいつにここまで言わせるのか……)


 策士のワドーマーによる敗北宣言、そして今後の牽制を含めた言葉、完全に強敵として認定しているワドーマーに王子は驚く。


 今回の勝負に際して神の力を使われたことは知っているのに「相手にズルをされて負けた」とは考えない点だ。


 フォスイット王子は宰相の言葉に対してこう返答する。


――「神の力を使われたことについて、お前は本当に何も感じていないのか?」


 ワドーマー宰相は、王子の質問に少し驚きつつも合点がいったようで答える。


――「なるほど、王子はそこが引っ掛かっているのですな、フォスイット王子、ならば失礼を承知でよろしいですか?」


 何を言うのだろうとワドーマーはこう問いかけてきた。



――「ウィズ王国初代国王リクス・バージシナが、もしウィズ神の加護が無くても、歴史に名を残す傑物となりえたのか、そして我が国も無条件降伏せずにすんだのか、現在、両国とも今の繁栄がありえたのか?」



「王子! 秘密基地! 行きましょう!」



 宰相との会話を思い出していた時、そんな軽い感じで執務室に神楽坂が入ってきた。



――



「明日、秘密基地行こうぜ」


 帰国した王子から呼び出されて、王子から宰相との会談を終えて無事引継ぎが終了したことを告げられた時に言われたお誘いだ。


 んで本日、秘密基地に向かうために王子の執務室へ向かっている。


「むふふ~」


 ニヤニヤが止まらない。いきなりの秘密基地へのお誘いにびっくりしたものの、すぐに王子の意図を察することができた。それは今回の任務を受けるときに王子に言われた言葉である。


――「今度、女子風呂覗こうぜ」


 これである。いやぁ、そういえば全部終わったらの報酬って言っていたもんね~。王子とっておきの場所なら期待できるぜ。


 もちろん覗きは犯罪、ダメ、ゼッタイ。


 だけど「何故山に登るのか、それはそこに山があるから」のジョージ・マロリー、まあこれは誤訳らしく、山はエベレストと訳するのが正しく、発言の意図も困難に対しての挑戦や征服欲を意図されたものであるとか言われているが、まあとにかく誤訳だろうと正しい訳だろうと意図も全部コミコミで「何故女子風呂を除くのか、それはそこに女子風呂があるから」だと言えば、男全員これだけですべての意味で正しいと「魂」で理解できるはずだ。


 今にして思えば、風呂シーンと言えば特段見栄えのいい男の1人の入浴シーンのみだった、んで念願の美少女(仮)の一緒にお風呂は達成したものの襲われた、繰り返す襲ったのではなく襲われた。怖かった、凄い怖かった、普通に涙が出た、俺男なのに。


(だがやっと古き良き伝統芸能たる王道の風呂覗きシーンが実現するのだ!)



 気合が入るが、いざやるとなると罪悪感がある、覗かれた女子達の気持ちを考えると悪いかなぁって思う、どうしようかなぁ、やっぱりやめようか。


でも浪漫も捨てきれないなぁ、むふふ、ふひひ。


「うわっ! なにあの顔!」

「きもちわるぅ~」

「絶対変なこと考えてたよ!」


とすれ違った王国府の職員女子3人組が足早に立ち去っていく。


「…………」


 よし、俺の中に残っていたわずかな罪悪感がこれで消えた。まずお前らからだ、覚悟しておけよ。


 と既に誰もいない空間にメンチ切りながら王子の執務室にコンコンとノックすると中に入る。


「王子! 秘密基地! 行きましょう!」


 と扉を開けた先で、、、。


俺は扉を開けたまま固まってしまった。


「よく来てくれたな、神楽坂」


 王子は自分の椅子座っておらず、机に寄りかかり俺を待っていた、いや、それはいいんだけど……。


 王子の表情と雰囲気、今まで見たことないような顔をしている。こう、緊張感というか空気が冷えている感じ。


「……あの、王子?」


 王子は何も答えずそのまま俺が入ってきた出入口、ではなく別室の扉に向かうと手をかける。


「よし、行こうぜ」


「え?」


「秘密基地だよ、そのために呼んだのだし、お前もそのつもりで来たんだろ?」


「は、はい……」


 と言われるがままに王子は執務室の扉を開けると別室に通される。


別室は20畳ぐらいの広さで結構広く、資料棚が所狭しと並べられていた。


(ん?)


 扉が閉まった瞬間にキンと不自然に音が切れることに気が付いた。扉を振り返るがかなり密閉された状態で締まっている。


 防音設備か、んー、雑音があると集中力を切れてしまうためだろうか。


「見てのとおり、ここは俺が執務で使う資料が置いてあるところだ、あまり貴重な本はないし、歴史的に見ても古いものではないからお前は趣味じゃないかな」


 そんなことを言いながら王子は迷いなくある資料棚に前に立つとそのまま手を突っ込むと何やらボタンを押す。


 そうするとガラガラと資料棚の一つが動き、片開き扉が出てきて、そこからの隙間風で俺の髪が揺れる。


「…………」


「え?」


「…………」


「え?」


 何が起きているのか、いや分かってはいるけど、呆然とするしかない。


 王子は手慣れた手つきで、その扉を押すと、扉の動きに反応して奥に灯りがともる。


「…………」


 な、なんだ、これ……この、なんか、よくスパイ映画とかに出てくるような、秘密の部屋とか、推理物だったらノックス十戒に触れてしまいそうな、えーっと、考えが全然まとまらない、あれ、なにこれ、秘密基地に行くの、どうなるの。


「どうした? 行こうぜ」


 王子はすたすたと歩き、扉が閉まりかけたので慌てて手で扉を押しやって中に入ると、すぐに俺の後ろでバタンと扉が閉まる音がした。



 入った先は一本道で、明るいこの灯りは魔法器具か、と考えているとすぐに突き当たる。突き当りにあるのはこれは同じ魔法機械の昇降装置、つまりエレベーターに乗るとそのまま下に行く。


「あの、王子……」


「お前は神の力で人の認識を疎外すると称したが、それは姿だけではないだろう?」


「え?」


「お前がかつて、自分の祖国について「神が人の世に降り立ち、人と交わり子をなした人物の末裔」の称した日本、お前と神の繋がりに納得しつつ、どう繋がっているのか全員が不自然なほどに疑問に思わない。だがな、あの場でその疑問を持った者がいる。それが俺とクォナだ」


「ならどうして、俺とクォナだけがその疑問を持つのか、あの場で俺とクォナだけがどうして例外となったのか、これは神に関して俺とクォナとの共通点を考えると簡単に答えが出る」


 ここでエレベーターが止まり、再び廊下を歩き始める。


「それは神の力に直に触れたことがあるかの差だ。だから微弱な力は俺とクォナには効きづらい。これは例えば使徒であるモーガルマン教皇は、ウィズ神が認識疎外の加護を使い人の世に降り立っても通じないそうだ」


 クォナは敬虔なウィズ教徒、聖地において定期的に行われているウィズの降臨と啓示はを受けるためには、大司教の叙階を受けなければ許されないが、原初の貴族が信徒である場合は「特権」として許可されている。


「さて、このことを踏まえて話すと、疑問が出てくる。まあと言っても今回の件の全ての疑問は「神の力だから」と説明で締めることができるが、まあ続きを話させてくれ」


「といっても疑問は一つしかない、それは数だ。お前が報告した内容とワドーマーの奴と話をしたとき、奴の「視界」に最大で3人しかいないのだよ。話の中でこれだけは辻褄が合うように調整していた形跡が見える」


「となるとお前の弁と明らかに違ってくる、一切合財が神の力で説明がつくのなら、そんな調整をする必要ないだろう?」


「…………」


「だが3人という数にこだわった理由、それはお前に「共犯者」がいたと推測するのが妥当であると思うのだよ。なぜいきなり共犯者という結論が出てくるのかについてだが、これは一番最初の疑問点を質問することで解決する」


 王子は振り返り俺と対峙して告げる。



「なあ神楽坂、お前はどうやって神に能力を使って欲しいと頼むんだ?」



「…………」


「まあこう聞かれても言えないのは理解しているよ、だからまずはこちらからってね、神楽坂よ、我が国の聖地は知っているか?」


「……はい、フェンイア都市、格付けは王国唯一の首都と同じ階級外、ウィズ教の本拠地、リクス・バージシナが初めてウィズ神と邂逅し、使徒となった約束の地、ですね」


「正解だ、じゃあ聖域は知っているか?」


「ウィズ教総本山聖公会に中にある許された人しか入れない場所、えっとウィズ神が人の世に降臨した時の住居として作られ。そして教皇が秘書として住み込みという体を取り、上級使用人としての枢機卿団がいる」


「その聖域に入る資格は教皇と枢機卿を除いてだと、ウィズ神の降臨の儀に参加できる大司教以上の叙階を受けた人物、原初の貴族の信徒、王と第一王子、それと特別の許可を得た人物のみ、です」



「そうだ、だがそのフェンイアだけではなく、聖域がここにもあると言ったらどうする?」



「……え?」


「さて、結論を出すぞ」


 俺の質問をよそに俺と対峙た王子が告げる。



「お前の共犯者はウィズ神とルルト神だ。認識疎外の加護を使って3人でそれぞれクォナを含め、お前の指示のもと役をこなしたのさ」



「…………」


「それが今回の俺の結論だ、間違っているのなら間違っていると言ってくれないか?」


 王子の結論、間違っているか、否か。


 間違ってはいない、事実だ、間違いない、正確にはルルトを俺の役にして、俺とウィズで状況に応じて役を変えたのだ。


 言うか、言わざるべきか……。


 俺の結論は……。


「言えません!」


「…………」


「王子、これは私の信用問題に直結する質問です! ですから言えません!」


 強い口調の俺に王子はじっと睨むが、表情を崩す。


「そう言うと思ったよ。じゃあ神楽坂、最後に質問だ、これには答えてくれ」


 自然と気が引き締まる。



「ウィズ王国初代国王リクス・バージシナが、もしウィズ神の加護が無くても、歴史に名を残す傑物となりえたのか、そしたらラメタリア国も無条件降伏せずにすんだのか、現在、両国とも今の繁栄がありえたのか?」



「え、え?」


「感じるままに」


「か、感じるままにって……」


 感じるままに、えーっと、つまり歴史の「たられば」ってことで、うん、わかる浪漫だよな、ほら、クレオパトラの鼻が低かったらどうのってことで、でもそういうことを聞いているんじゃないんだよな。


 感じるままにだから、これを浪漫ではなく現実問題としてって考えて応えろってことだよな、となれば。



「そんなこと、今言っても詮無きことじゃないですか」



 俺の答えににっこりと王子が笑う。



「ありがとう神楽坂、俺は覚悟を決めたぞ」



 王子は自分の手元のスイッチを押した次の瞬間だった。


 ぱっと廊下の前が明るくなり、目をとっさに手で覆う。


 この明るさは、魔法、いや、この感覚、どこかで……。


「っ!」


 と目が慣れてきた瞬間に飛び込んできた光景に思考が停止する。


 俺の前の前には高さ10メートルある巨大な両開きの門があり、その門の中央にはウィズ王国の王家の紋章が大きく刻まれている。


 そして次の瞬間この感覚の正体を理解した。


「神の力だ! アーキコバの物体と同じ!」


 間違いない、神の力、ウィズの力だ。


「ここが我が国の隠された聖域だよ」


 王子は扉に手をかけると、その重厚な雰囲気そのままに扉が開かれ、圧倒されている俺は何かに導かれるように中に入った。



 中の構造はシンプル、中央に赤じゅうたんが敷かれている直線に伸びる廊下、両脇には高さ3メートル程度の扉が並んでいる。


 なんだこれは、なんなんだこれは、と思いながら歩を進めて、廊下の突き当りにある、これまた高さ10メートルぐらいはある扉を開けて中に入った。


 そこは広場というには狭く、会議室というには広い場所、その中央には楕円形の重厚な机に椅子が、16個囲むように並んでいる。


 そして正面にはいつも見ているウィズの肖像画。


「…………」


 それよりも俺は今、天井に圧倒されていた。


 部屋全部の天井が巨大なドーム型になっているのだ、この天井を見ていると、ここが地下であることを忘れてしまいそうだ。


 そしてそのドームの一番上には王家の紋章、そしてその部分を中心に周囲に描かれている紋章が、えっと、サノラ・ケハト家とシレーゼ・ディオユシル家の紋章がある、そしてしかもこれ、どう見ても数が王家を含めても13以上はある。


 つまり、この紋章は……。


「この天井には原初の貴族の紋章が讃えられているのさ」


 俺の横に並んだ王子は俺と同じように天井を見ながら続ける。


「途絶えた原初の貴族の末裔は全てが決して綺麗に途絶えただけではない。家族どうして骨肉の争いの末に自滅した家もある、貧しく立場を維持できずに途絶えた家もある、重圧に耐えきれずに自らその座を辞した家もある、施策により追い出されたも同然の家もある」


「そして現存する12門だって、綺麗だけじゃ終わらない、醜い話もいくらでもある」


「だが初代国王リクスにとって、当時の原初の貴族の始祖たちはかけがえのない仲間であった事実は変わらない。現に負の歴史を持ちながらも現存する12門は現在も献身的に我が国を支え続けている」


「俺もリクスの末裔の1人として、全員が尊敬できる始祖様だよ」


「お、おうじ、こ、ここは、ここはなんなんですか?」


「ここはウィズ王国が統一戦争に勝利した際に使用していた中央政府、つまり現在の王立修道院の地下深くに、その志を忘れないためにウィズ神とリクスが作り上げた極秘の聖域なのだよ。アーキコバの物体と同じ神の力によって守られ、何もしなくても維持されてそのまま残されている。この王家の紋章が刻まれた椅子にリクスが座っていたのだぜ」


「そしてこの場所を知っているのは、王と第一王子である俺、ウィズ教教皇、そして原初の貴族の当主のみ、必要と認められた国家の重要事はここで御前会議が開かれて、決定されるのさ」


「………そうなん、ですか」


 そんな間の抜けた反応しかできない、まだ目の前で起きていることが分からない。


「まあ、こんな仰々しい造りではあるが、当時はウィズ王国は新興国だったから、とにかく舐められることも多かったそうで、格好つけるためにこの紋章が作られたんだぜ。今は他国もひれ伏すこの紋章も、始まりはそんなものだったんだ」


「……はー」


 天井を見すぎて首が痛くなってきたけど、でもこの凄すぎて圧倒される、これは神の力では到底説明できないこの重厚感は何と表現したらいいのだろう。


「はあ、凄い、24の紋章……」


「いや、違う」


「へぇ?」


「いいから、数えてみろ」


 数える数える、半分思考停止したまま、言われたままに数える、1つ2つ……。


「あれ?」


 数え間違えたか、いかんいかん、頭をしっかり持たないと、えーと、1つ2つ……。


「23、23しかない……?」


 変だなと思っていたら俺の言葉を受けて王子が話し始める。


「お前は確か修道院時代、王国史は平均の成績を収めていたな。となれば原初の貴族のうち一番最初に途絶えた家と質問すればわかるか?」


「えっと、はい、王国史で勉強しました、原初の貴族のうち、えーっと愛する妻との間に子供が出来ず、妾も本人が拒否して、当時はまだ世襲制のみという決まりだけだったから、そのまま1代限りで途絶えた、名前は、えーっと……そ、そうだ!」


「ドゥシュメシア・イエグアニート!」


「そうだ、ドゥシュメシア・イエグアニートは当時の立場は特殊でな。他の始祖と違い専門分野を持たず、それ故にフットワークが軽く分野を問わず様々な任務をこなし成果を上げて、彼の立てた策に原初の貴族たちは時には命を懸けて応えたそうだ」


「そして彼には先見の明もあってな、まだまだ秩序が安定しないウィズ王国を見て、将来は個人の力ではなく組織力の君臨が繁栄をもたらすと予測するとともに、その際の王国の欠点も予測していたのだ」


「け、欠点?」


「簡単に言えば、組織がでかくなり組織の柔軟性に欠けて機動力が無くなり、不測の事態に対応が出来なくなるとな」


「た、確かに、我が祖国でも、しばしば問題となりますね」


「そして実際そのとおりになった、今回俺はエンシラのことで、原初の貴族を動かせなことがどういうことなのか身をもって知ることができた。そもそも属国という感覚もとっくに時代遅れでな。こちらが主導権を握れば相手国の当主筋を娶っても問題ないという意見は出ていたんだよ。だがどうしても昔からある「伝統という誇り」を変えるのには組織力だと時間がかかりすぎる欠点があるのだ」


「それも同感です。無論、伝統は素晴らしく守らなければならないモノですけど」


「そう、だから今日の状況を予測したドゥシュメシアは、その欠点を解消するために、リクスにこう進言したのさ」


 ここで一呼吸置くと俺を見据える。



「自分の後継者は王個人の指名制にして欲しいとね」



「…………」


「リクスはその遺志を受け止め、ドゥシュメシアが死去と共に公式上は今お前が言った理由をつけて抹消された」


「だが現国王に至るまで、極秘に裏ではこういった形で存続し続けていたのさ」


 王子は、会議室の棚から一冊の本を取り出すと、俺に差し出す。


 恐る恐る受け取ると、そこには、それぞれの国王の名前を筆頭に書かれている、名簿、いや家系図だった。


「ここにしか存在しない、それぞれのドゥシュメシア・イエグアニート家の家系図。つまり当主と直系、仲間たちが記載されたものだ。記録にはこれしか残らない、だけどそれぞれの国王は、その時々のドゥシュメシア・イエグアニート家を仲間として一緒に国を盛り立てていったんだよ」


 やっと働き始めた頭で考えて、そして王子がここに連れてきた理由が理解した。


 王子はそれを理解した俺に改めて告げる。



「神楽坂、お前にドゥシュメシア・イエグアニート家の当主になって欲しい」



「俺と一緒にウィズ王国の歴史を紡がないか?」





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