第57‐1話:起死回生、一発逆転という名の妄想
「実は私、今日のお茶会を楽しみにしていました。神楽坂イザナミ文官中尉」
俺を見ながら微笑むエンシラ王女。
ここはウィズ王国城の庭園の一角、俺とエンシラ王女は向かい合う形で座っている。
先日来国した王女に2人で会えるようにクォナに頼み今この場が実現した。
本来属国とはいえラメタリア王国は友好国、ウィズ王国にとっても国賓として招かれているエンシラ王女が男の俺と2人でこうやって会うことは不可能だ、貞淑というイメージは決して馬鹿にできないのだから。
だから屋外であること、人目が無いこと、クォナが本来の意味でのお茶会を主宰する形で俺はその付添ということで許可が下りた。
そして王女にクォナは「遅れてくる」とだけ伝えている。それを聞いた王女は今回のお茶会が事態の発展を意味すると思っているのだろう。
「中尉は神と繋がりばかり注目されていますが、それを抜きにしても非凡な能力を持っている方だと聞き及んでいます」
そんな上機嫌な様子で王女の言葉に俺は首を振る。
「そんな感じでみんな変な具合に私のことを評価しますけど、平凡な男を自称しておりますよ」
「ご謙遜を、奇想天外の観点から読みぬき、数多の難題を解決したと、そんな貴方が我が国に出張に行っていたと伺いました、何か策があるのですね?」
「んー、策ですか、なんといえばいいか」
と俺は考えるそぶりを見せると語り始める。
「王女、策云々の前に少し前口上を述べてもいいですか?」
「はい、是非とも伺わせてください」
「問題を抱えて追い詰められた人間は、問題を一気に解決したがる、辛抱強く地道に解決するという思考に向かない、何故なら苦しい状態が続くのが辛いからです。そしてその思考は時間経過とともに問題を解決することよりも苦しい状態を脱出することが目的になってくるのですよ」
俺の言葉に何か不穏なものを感じたのだろう王女から瞬時に笑みが消えた。
「何の、話ですか?」
その王女の質問に答えず続ける。
「そういった状態の人間が高確率で飛びつく「うまい話」があるんですよ、それが何だかわかりますか?」
怪訝な表情を崩さない王女に俺は指を一本立てる。
「それは起死回生の策、一発逆転の案という名の妄想です」
起死回生、一発逆転、はっきり言えばそんなものは存在しない。
もし存在しているとするのならば、入念な根回しに知略の限りを尽くした策が成就する瞬間を切り取ってそう見せているだけだ。
その結果、起死回生や一発逆転は人々から「奇跡」と呼ばれる、その奇跡を体現して見せれば「英雄」となるのだ。
「これを攻撃手段として使うのならば、本来そのレベルにある策をお手軽に演出し、それに引っかかった人間を絡め捕るのですよ」
俺はここで言葉を切ると目の前にあるお茶を飲む。
「それが、なんだというのですか?」
今の話が自分のことを言っていると理解した王女が強張った顔で詰問してくる。
「私は王女の「宰相に奪われた権力を取り戻して欲しい」という願いを聞いた時、こう思ったんですよ」
俺はここで言葉を切り、ワンテンポ置いて告げる。
「「それは本気で言っているのか?」ってね」
「っ!」
小馬鹿にしたような俺の口調に表情に王女に遂に怒りの色が出る。
「さて王女、私は貴方の願いを聞いた時、こう質問しました「私に何をして欲しいのか」と、私の言葉が不愉快であるのならばもう一度問いかけます、私に何をして欲しいのですか?」
「…………」
王女は答えられない。
「それを答えられない時点で先ほどの幻想に絡め捕られている事はすぐにわかりました。だからこそ私が出張に行ったのは、宰相のことも調べましたが、メインは貴女の調査だったんです」
「は? わ、私? どうして?」
「それはそうですよ、妄想に取りつかれて、宰相の掌で踊らされ、その自覚がまるでない王女の言うがままに敵陣に飛び込めばどうなるか、当然の帰結です」
「な! さきほどからなんなのですか! い、いくらなんでも、無礼が過ぎます!!」
こらえ切れなくなったのか、席を蹴飛ばすように立ち上がり、声を荒げる王女。
「だから貴方は妄想に取りつかれている、その自覚を持っていただきたいと言っているのですよ」
「だからなんなのですか! 貴方のいう妄想とは!」
「ウィズ王国の王子をバックに神に関係ある私が協力して、ワドーマー宰相を国から追い出しめでたしめでたし♪」
「!」
「王女、そもそもラメタリア王国は外交上は友好国ですよ、権力を取り戻すなんてことは立派な内政干渉、それをあの時にいたメンバーだけで出来ると、本気で信じていたのですか?」
「で、できるでしょう!? だから王子は貴方を!」
「だからこそありえないのですよ、まだわかりませんか、今の貴女は下手をすると命の危険すらあるというのに」
「い、いい、いのち?」
「王女、貴方と王子が恋仲になったこと自体に疑問は持たないのですか?」
俺の言っていることが理解できないのだろう、無言で顔をしかめながら首を何度もかしげる。
「ウィズ王国は次期国王や原初の貴族の当主筋に異性が近づくということに非常に敏感です、それは友好国の王女と言えど警戒するのです、何故かというと」
「そんなことは言わなくてもわかっています!!」
「ほう、何故です?」
「政治的不平等が生じるから! 実際にそんな事実は無くても「誹り」を受ける! だからこそシレーゼ・ディオユシル家、カモルア・ビトゥツェシア家が目を光らせているのです!」
「ですね、となれば当然に何らかの動きはあってしかるべき、動きはありましたか?」
「え!? あ、あり、ありま、せん」
「なるほど、ならば当然不自然に思いますよね、その理由は調べましたか?」
「…………」
「調べていない、というよりも考える余裕がなかったという方が適切ですか、答えは簡単です、ワドーマー宰相が裏で手をまわしたからですよ」
「はあ!?」
「おそらくこんな言葉を使ったはず「王女は友好国として王子と交流を深めたいと考えているから大丈夫だ」という具合にね」
「う、うそです!」
「嘘ではありません、ワドーマー宰相は両家の動きをいち早く察知し接触を計りました。結果両家は貴女が王子に接触することを容認したのです。だからこそ、何の障害もなく、王子との逢瀬を重ねることができたのですよ」
「げ、原初の貴族2門が、そんな「大丈夫だから」などという言葉だけで納得したというのですか!?」
「まさか、更に宰相はこう続けたはずですよ、「何かが起きた場合、全ての責任を取る」とね」
「せ、責任を取る!? 私のしたことで、責任をとる? ワドーマーが宰相を辞任するとでも!?」
「辞任は、まあ正解と言っていいでしょう。正確にはワドーマー宰相ではなく貴方ですが」
「え?」
「まだわからないのですか? 貴方がしたことは、異性の接近を十分に警戒していた原初の貴族2門のメンツを潰す行為です。しかも貴方は王子を利用し、たらしこもうとした。これは国辱と言っていいほどの行為です、王族と原初の貴族の怒りがどれほどものか、想像するだけで恐ろしい」
ここでハッとした顔をする王女。
「この緊急事態を受けてワドーマー宰相は責任を取る形で「王子を色仕掛けで誑し込み利用しようとした行為は偉大な敗戦を選択したファムビック王の覚悟を侮辱するものである」として王籍剥奪を発議するはず」
「しかも自国の敬愛する王女が色仕掛けとは国民感情がよくない、当然ウィズ王国も貴方の王籍を剥奪するように圧力をかけてくるでしょう」
「あ、あ……」
王女は震えながら首を振るだけだ。無理もない王族と原初の貴族の敵に回すことの恐ろしさの度合いは社会的立場の高さに比例するからな。
王女は、懇願するように絞り出すように声を出す。
「でも、それでも、ウィズ王国の王族と我が王族は長い付き合いがあるのですよ、それこそファムビック王の時代から、それを、そんなに、簡単に」
絞り出すような王女だが俺は首を横に振る。
「国が動く理由は情ではありません、国益です。確かに個人の関係で動くのならば情という正義は善となるでしょう。しかし国は国益によって動くのが善、ウィズ王国にとって国益が何処にあるかです」
「そ、そんな……」
目の焦点が合わないまま、ガクッと座りながら転げ落ちそうになる王女。
これが今まで当主筋の国王が外国人と結婚しない歴史を紡げた背景。ウィズ王国の王子に手を出すというのは、敵に回すという事だ。
そして王女もやっと自覚したのだろう、過去ウィズ王国に処分された人物の中に、自分と同様に色仕掛けで操ろうとした女も含まれることを。
「どうして……」
「はい?」
「どうしてそこまで、するのです、わたしが、なにをしたというのですか? もう、ラメタリア王国は、宰相に実権を握られているのに、どうして」
「答えは簡単です。ワドーマー宰相にとって自分が国家のトップになるために超えたくても超えられない壁があって、それがまさに貴方がた王族だからですよ」
「そ、そんな馬鹿な、現に、私たちは」
「いいえ、そんなことがあるんです。ただここでワドーマー宰相が凄いのが超えられない王族に対して「超えないことを選択した点」にあります」
「…………」
「王族減少の危機は昔からあったのでしょうが、おそらく宰相が若い時から本格化している問題だったはず。だが当時の宰相であるワドーマーの父親は先送りを選択した。何故なら超えられない王族を消すためには、跡継ぎがいないことによる自然消滅という形にするのが一番いいからです」
日本でも跡継ぎがいない場合の御家断絶の事例がある。つまりそれを遠回しに人為的に起こしただけだ。
「それにしても恐ろしいほど気が長い、おそらく宰相は自分の代でなくてもいいと思っている。貴方が王籍を剥奪されれば、後は王子1人だけ、いずれ消滅する王族を前にして自国の危機を前もって対処するという方便で国のトップが自分になっておけば、王族が消滅した後、王族という形ではありませんが、自分一族へシフトさせることができるのですよ、いわばラメタリア王国という名の公国になるのです」
これは別段珍しい話ではない、国家の名前と国家の政治体制が違うというのは往々にしてあることだ。
「じゃあ、私は、どうなるんですか、どうしろというんですか、このまま、黙って、いろと、そういうのですか」
「いいえ、依頼を受けた以上、ちゃんと策を考えてきましたよ」
「…………」
王女は無言で俺を見る。
「まず宰相にとって王族が超えられない壁ならば、王女は何が何でも形骸化した王族の形を守るべき、つまり徹底した専守防衛が一番の攻撃手段なのですよ。そのためにまず貴方の行為が宰相側に筒抜けであることを利用しましょう」
「ここでこうやって私と接触していることはスパイを放っている宰相も知ることになる。そして宰相は私の神との繋がりを持っていることも知っているでしょう、当然無視できません。だからこそ私の接触がそのまま武器になるはずです」
「そうなんですか……」
他人事のように頷く王女、もう色々と限界な様子だ。
「そしてその武器を最大限に能力を発揮するために貴方が一番最初にしなければならないこと、それはですね」
限界の王女に楔を打つために、ズイと王女に近づく。
「王子と別れることなのですよ」
「……え?」
「さっきも言ったとおり宰相にとって王女が王子に近づいた手段に出たことはそれこそ長年の布石が実った形。敵対を装ってサポートするほどに、ですが私との接触後、王子と別れれば相手にダメージを与えることができます」
「何故なら「ひょっとしたら自分の思惑に気付かれたのかもしれない」という印象を植え付けることができるからです。これは遅効性の毒、すぐには効きませんが、ずっと後に効いてきます。普段から守りを固められてしまっては手が出せなくなるのから対処ができず、その毒は肝心な場面で発揮するのです」
「しかも、別れればウィズ王国も貴方から手を引きます。今貴方が無事なのは「王子の方が思いを寄せているから」ということと「正式に認めらた訳ではないから」です。まあ男女の関係でくっついた別れたはつきものですからね。そこが落としどころでしょう」
「そして何より先ほど触れましたが貴女は頼るべき力を勘違いしています。貴女に必要な力はウィズ王国の力ではなくラメタリア国民の力なのです。選挙という方式を採用して王がそれに応えているから、王族は貴族ではなく国民と強い親和性があるのです」
「出張の際に色々な人と話しましたが、ワドーマー宰相の評判ははっきり言って悪い、しかし貴女を含めた王族に対して敬意を持っていた。これは間違いなく先人の王たちの積み重ねの成果、権力者はどんなに良くても中傷されるはずなのに、これは本当に素晴らしいことです」
俺はここで話を終えて、とっくに冷めたお茶を飲む。
「……そ、そんな、おうじと、別れるなんて」
がっくりと、悲しそうにする王女、それはそうだろう、覚悟を持った行為が全て相手の手の平の上で踊らされており、全て宿敵に利する行為であると分かったのだから。
とはいえ今はこの状況に飲まれているが、時間がたてば俺の言う事は信じられないという結論に行きつく可能性が高い、何故なら自分の努力が水泡に帰すのは認めたくないということもあるが。
(ぶっちゃけ今言った俺の理論は方便だからな)
もちろん今は言った言葉は嘘ではない「嘘では相手を騙せない」のだから。方便というのは、俺の論理展開はあくまで「こちらが都合がいいように言っているだけ」なのだ。
まあこの状況で王女が俺の方便に気付く可能性はほぼゼロだろう、気づいたとしても更なる方便で交わす用意があるが。
ただこれで終わりではない、今後も動向には注意しないとな、しばらくはルルトの認識疎外で見張りを続ける必要ががあるが、ひと段落ついたと判断していい。。
さて、そろそろこの茶番を締めようか。
「このような結果となってしまい残念です。出来ればお力になりたかったのですが。王子の方には貴方が直接別れを切り出してください」
「い、いやです! 別れるなんて!」
「…………」
「ま、まだ。別の方法があるはずです! 中尉、その、貴方なら、その策を」
「王子は貴方が自分を利用するために近づいたことに気づいていますよ」
「そ、そんな!?」
「王女、鈍感というのはですね。気づかないという意味ではありません、気づいたり気付かなかったり、気づくのが遅れたり、気づいても気づかない振りをしたりするんです、それが相手に気遣った結果でも結果それが相手の為にならなくても、ですよ」
別にこれは適当に言っているわけではない。王子と王女との会話を読み解くと王子は気づいている意図を含ませて会話をしているのが分かる。
何より決定打だったのは王女を紹介した時の王子の言葉だ。
――「仲良くしてくれる人なんだ!」
そう、仲良くしてくれる人、いきなり彼氏面もそうだが、なにより交際を受けても自分を利用していると分かっていたからこその台詞だ。
王子は傷ついたはずだ、何故なら王子は本当の愛の告白の後の言葉はこう続くからだ。
――「だから正直に自分を利用していると言ってください」
当然そんなことは言えない、聞けない、何故って、そんなのは決まっている。
(好きな女が自分を利用していたなんて、怖くて聞けるはずないだろう)
それを他人はヘタレとか弱気、意気地なしというのだろう、だけど俺はそんな王子が好きだ、あの人が次期国王になるのなら、あの人の為に働いてもいいと思える。
だから俺は今、こうやって王子の希望どおり、憎まれ役をしているのだから。
俺はもう理解している、王子が俺を呼んだのは「憎まれ役としての外交解決手段」のためだ。
王子は自分が利用されていることに気付いていた、だが気づいているだけでそれが真実であるかどうかは、確かめることができない、何故ならエンシラ王女が相手である以上直属の部下である原初の貴族の助力は難しいからだ。
だから王子は、原初の貴族以外にこういった裏事に適任な人物はいないかと探し始めて、結果クォナを通じて形でパグアクス息に無理を言う形で俺を選任したのだ。
だけどきっかけが自分を利用するつもりでも、王女が今現在、ちゃんと王子を愛しているのならば、それでよかったのだ、王子だってそう思っていたはずだ、だからこそ愛の告白をしたのだから。
だが利用されているだけなのなら、この結末に必要な憎まれ役を俺に担ってもらうために。
「……ふう」
と小さくため息をついて、深く椅子に腰をかけて目を閉じて、ざわつく気持ちを落ち着かせ再び目を開けて王女を見る。
王女は俺の目の前で王女は俯き肩を震わせ、泣いていた。
(嫌な気分だ……)
罪悪感が凄い。俺は正直、王女の覚悟と行動自体は支持する側だ。もちろん男を利用するのは同じ男として憤りはあるが、それでもだ。
何故ならワドーマー宰相が国を乗っ取ろうとしているのは事実なんだ。何十年もかけて緩やかにそれでも確実に王族を弱体化させている策士だ。
宰相に対抗するために王女が王族を強くするためには王族以外の協力が必要だったのだが、この様子だとそういう頼れる人物もいなかったのだろう。
宰相に自分が無力であると思わせ孤立させられ、それとなく王子が女に対して初心だという情報を刷り込ませられ、手っ取り早く王子に近づく判断をするように仕向けられ、それが最後の頼みの綱として必死で頑張ったのだ。
だが、冷たいようだが王子への気持ちがない以上、これ以上王女に協力するつもりはない。
後はこれで王女が神楽坂イザナミは何て嫌な奴なんだろう、と思わせれば無事終わり、ミッションコンプリートだ。
と思った時だった。
「神楽坂中尉」
と鬱々としていたとき、突然聞こえてきた声に我に返る。
声の方向をした方を振り向くとクォナとアレアがいた、ん、合図があるまで来ないように言っていたはずだけど。
まあいいか、タイミングはいい、俺は立ち上がるとクォナに一礼する。
「クォナ嬢、後を頼みます。私はもうお呼びではないでしょうから」
俺の言葉に、クォナはどこか寂しそうな顔をして小さく首を振る。
「お待ちになってください、中尉」
ん、なんだろう、ここで止める手はずではない、王女のフォローはクォナとアレアに頼んだはずだが。
「言っておきますが、全部覚悟の上ですよ」
「違いますわ」
「え?」
「中尉は女心に「鈍感」ですのね、まあ、だから隙だらけで、可愛いのですけど」
「ど、どういう意味だよ?」
「私は女です、そして同じ恋する女は応援したいと考えておりますの」
「…………は?」
「私はラメタリア王国主催の社交界に何度も参加しておりますが、ある時からエンシラ王女の視線を感じるようになって、私を真似ていることにも気づきました。最初はいつもの嫉妬で、目的は中傷であると思いましたわ。ですが王女は覚悟を決めた顔をしていたのです。何故と疑問に思っていたのですがやっと腑に落ちましたわ」
「腑に落ちたって」
「私は王女に好感を持っております、男を利用しようとして近づいて、でも悪女にはなりきれなくて、王子の真っすぐなところを見てしまって、惚れてしまった、そんな不器用さが、女としての琴線に触れますわ」
俺は毅然として言い放つクォナに思わず詰め寄る。
「そ、それは違うぞ! い、いや、お、おれは聞いたんだ!!」
「馬鹿だね、中尉」
遮る形でアレアが話しかけてくる。
「エンシラ王女はね、実は私には相談していたの、王子を利用するために近づいた、ってね」
「え!?」
今度はこっちが驚く番だ。
「し、知ってたのか!? それでどう答えたのだ!?」
「ちゃんと正直に言ってくださいって、アイツは最初にはこだわらない、今の貴方の気持ちを大事にしてくれますよって」
「そ、それは! 俺も、そう思う……けど! 相手は属国の王族! 国益に反する! 本来ならそれは貴方も目を光らせていないといけないはずだ!」
「うん、そうだね、それは王子を近くで見ていたから、わかっているつもり」
「ならどうして!?」
「だけどさ、幼いころからさ、私がいないと女に告白一つできないヘタレがさ「本気で愛した女がいるんだ、自分の立場を目的に近づいたのは分かっている、だけど彼女の為に戦うんだ」って言ったらさ、姉代理としては協力してやりたいのよ」
「そ、そ、それは、でも、それは……」
二の句が継げない。
「っ!」
その時、ここでこの場に一つ、もう一つの足音が聞こえてきてハッと気が付いて、音がした方向を振り向くと。
「お、王子!」
フォスイット王子がそこに立っていた。




