第54‐1話:フォスイット王子と……・後篇
ウィズ王国は統一戦争で勝利をしていく上で植民地、ここでは属国と称するがその属国をいくつも所有している。
その中でラメタリア王国は統一戦争時代、当時頭角を現してきたウィズ王国にいち早く無条件降伏し保護を受ける形となった国だ。
裏切り裏切られるが日常の統一戦争時代において、神の加護の威力を見抜き、献身的にウィズ王国に尽くし、当時から人材をウィズ王国に献上する形をとっていた。
統一戦争に勝利した後、最古参の属国として周辺諸国に比べて発言力は高く、毎年修道院の文官、武官課程の外国人枠に合格者を送り込む施策を取っている。
これがラメタリア王国の概要だ。
そして王国の名のとおり、ウィズ王国と同じく王族が存在する。
「我がラメタリア王国は、王が国家運営における最高意思決定者であり、王家による専制を敷いているのです」
専制君主制を採用しているラメタリア王国、ただ統一戦争時代ならともかく、秩序が維持されている現代においては独裁は権力集中の腐敗を招く、故に王族の定義を厳格化し、少数精鋭としての存在を国民に見せるつまり直系のみに限定した。
ちなみにウィズ王国と同様女性に王位継承権は無く、結婚すれば女性の場合は王籍を離れることになるが婿を取れば王籍には残れるそうだ。
そしてラメタリア王国は王族と貴族を分離させることにより腐敗を防ぐようにしていたようなのだが、そのバランスが今崩れてきているのだという。
「現在存命している王族は、私と弟であり現国王のゼスト・ファムビック・ダット・ラメタリアの2人のみなのです」
王女によれば、王族を直系に絞ることにより、人数が少なくなり、その歯止めがかからなくなったそうだ。
しかも王子と王女は先代の国王が年を取った時に出来た子供らしく、3年ほどに前に崩御、王としての地位は弟に受け継がれたものの当時12歳、あっという間に実務を貴族に握られることになり、わずか3年で最高意思決定機関は名ばかりの王室は形骸化が進む。
急速な変化は自然な変化ではなく、当然に中心人物が存在し、現在事実上のラメタリア王国の最高権力者がこの人だ。
「ワドーマー・ヨークィス宰相、彼が貴族のトップ、このワドーマー宰相により、我が王家は脅かされいているのです」
とここで言葉を区切り悔しさをにじませる王女。
「もちろん、私自身の危機感の無さが今日の状況を真似ていることも十分に自覚しています、その上で王子に相談したのです。その時に、パグアクス息の妹君であるクォナ嬢の「友人」に面白い人材がいる、ということで紹介をしていただきました」
「私が王子と結婚すれば、王子は1人だけになってしまうのです。そうしたら王族は消滅してしまいます、それだけは避けなければならないのです」
ここで話を終える王女、当然王女は俺に対して話しているわけだが……。
「王女、聞きたいことがあります」
「なんなりと」
「具体的にどうしてほしいのですか?」
「え?」
「状況は分かりました。私がここにいる理由も含めて納得しております。その中で王女の今後のどのような状況になることを望んでいるのかです、それを提示していただかないと、動きようがありませんが」
「それについては申し上げたとおりです。王族の消滅を食い止めること、宰相に奪われた権力を取り戻すことです」
「…………」
「……あの、神楽坂中尉?」
「……いえ、なんでもありません、わかりました、微力ながら尽力します。王子、少し考えをまとめたいので、失礼してもよろしいですか?」
「ああ、構わない、頼むぞ、神楽坂」
●
「…………」
今は再び、城を後にしてクォナの部屋に戻ってきた。先ほどと一緒、窓の外から真っ暗な景色をぼんやりと見ている。
あの王子の自室にいたメンバーが王女の為に王子が用意した今回の作戦に必要な人材なのだろう。
元より妃の選定は国家の一大事、しかも属国の王族ともなれば外交問題に発展し、王子が本気ならば問題は避けられない。
だがまだ公にできる段階ではないから、この少人数、いや、むしろ多いぐらいだ。
(しかし、これは……)
今回の話を聞いて感じるのは違和感ではなく困惑の方が圧倒的に強い。王族や原初の貴族にとっての神の力を考えると、はっきり言ってしまえば今回の話は……。
(これは色々と覚悟をしなければならないか……)
元より公僕はそれが勤めだと、気を取り直したところで部屋が静かなことに気付く、振り向くとクォナ達はずっと4人は待っていてくれていた。
「あ、ごめん」
「いいですわ! ご主人様! 何か思いついているのですね!」
「……ああ、まあ、ね、クォナ、いくつかお願いしたいことがある」
「何なりとお申し付けくださいませ!」
「まず俺は明日から、ラメタリア王国に出張に行ってくるぜ」
「お供しますわ! ああ! 初めての2人で旅行ですのね! ご主人様! 私貴族ですけどちゃんと1人の世話は出来ますのよ! もちろんご主人様の夜も世話も、キャー!」
「い、いや、あの、1人で行ってくるんだけど」
「えー! なんでですの!? これからですのに!」
「これからですのにって、あのね、クォナがラメタリア王国に行けば国賓待遇になるだろう?」
「もちろんお忍びですわ!」
「お忍びでも限度があるのと思うなぁ~」
どうしよう、ここで話が止まるとは思わなかった、とここで意外なフォローが入る。
「クォナ、中尉が困っているよ、1人で行かせてあげなよ」
シベリアだった。
「むー、どうしてですの?」
「クォナじゃないけど、中尉のやり方って私も興味があるからよ、何か考えがあるんでしょ?」
「ああ、まだ言えないことが多いけどな」
「みたいよ、別に意地悪で言っているわけじゃないみたいだから、プライベートはまた別で行けばいいじゃない?」
「もう、シベリアは口が上手いですわ。分かりました、ご主人様に任せます。さて、ならばご主人様の言うとおり早く動かなければいけませんわね! すぐにアレアと連絡を取らなければ!」
「待て、クォナ、今回の件については、俺達の方から積極的に話すことはしないでほしい」
「分かりました! ご主人様と私だけの秘密! ポッ!」
「いや、正確には秘密にはしない、聞かれたら答えても構わないよ」←慣れてきている
「?」
クォナ含めてが全員が首をかしげる。
「聞かれたら答えるってどこまで言っていいの?」
代表する形でシベリアが問いかけてくる。
「全部、この会話も含めてね、ただ聞かれたら答えることだけは徹底してくれよ」
俺の回答にイマイチ要領を得ないような全員だが、言えないことが多くて説明が難しい。
「まあなんというか、花を咲かせることを達成と例えるのなら、今は土を選んでいるという段階だよ、そう難しく考える必要はないさ」
「……ふーん、よくわかんないけど、何も考えていないってわけじゃなさそうね」
となんとか強引に納得してもらい、俺はさらに続ける。
「それとクォナ、最初の説明で俺は公務でここに来ていると言っていたよな、だからこれはちゃんと出張扱いしてくれよ」
「? 分かりましたわ、その手続きはシベリア、頼んでいいかしら?」
「うん、わかった、やっとくよ、中尉、出張扱いについてだけど、身分は隠すの?」
「いや身分を隠す必要もないし、俺も隠そうとは思わない、手続きについてはシベリアがしてくれるのなら、ちゃんと正規の手続きで頼むぜ」
「ふーん、本当に何か考えているみたいね、一応、気を付けてね、何かあれば大使館に駆け込んでおいて」
「はは、別に荒事をするわけじゃない、でも心配ありがとうな、クォナもいろいろ迷惑をかけてすまない」
「とんでもありませんわ! さて、本当ならご主人様と一晩中交わりたいところですが、私にはやることがありますの。シベリア、中尉の為にお風呂の準備と寝間着を用意しておいてね」
というクォナの言葉にシベリアが頷くとクォナ達は部屋を後にした。って今なんかすごいことを言ってなかったか。
まあいいか、気にしてもしょうがない、けど風呂か、入りたいのだけど……。
「大丈夫だよ、クォナはこれから孤児院の運営資料をまとめなくちゃいけないから切り上げたの、今から数時間はその作業に専念するからね」
「ああ、ありがとう……」
俺の懸念を察したかのようなシベリアの回答。
そして俺にあてがわれた部屋で寝間着の準備をしてくれるシベリア、そういえば、シベリアは侍女達3人の中で比較的俺に友好的な気がする。
「シベリアは、なんで俺によくしてくれるんだ?」
俺の質問に手を止めてキョトンとした顔をしたが、んーと少し考えた後に答えてくれた。
「……お礼、かな」
「おれい?」
「私はハーフだから」
「あ……」
そうだ、ということはと、彼女は服の第一ボタンを外すと肩の部分を見せてくれた、そこにはメディの時と同じく独自の幾何学模様の入れ墨が見える。
「好きでハーフで生まれたわけじゃないし、まあ生かす手段として入れ墨はしょうがないってわかっているんだけどさ、嫌な思いでしかないのよ、例えば学院時代に着替える時とか腫れもの扱いなの、男子たちなんて怖がって近寄っても来ないし」
「…………」
「しかも歴史の授業でこの入れ墨は屈辱の証だなんていわれてさ、だからその証である入れ墨のことはずっと恨んでいた、恨んでもしょうがないのに、それも分かっていたのに」
メディだってあんな飄々としているけど、飄々とすることで守っている部分もあるだろうし、割り切れるまで葛藤もあったんだろう。
「でも中尉のおかげで、これが屈辱の証ではなく愛情の証だってわかって、だから嬉しかった。そう考えている人は、多分私以外にもいるはずだよ、亜人種と人間のハーフは今でこそ普通だけど、それでも少数だから。メディさんって人は、少しその部分も中尉に期待していたんじゃないかなって思うのよ」
「あ……」
そうだ、あのメディの入れ墨を見せてもらった時だ、メディは裸になってくれたけど、そうか、神聖教団のことを調べているって俺の言葉で、マルスの時の俺の行動を見てひょっとしてって思ったってことか。
あれはメディなりの覚悟の証で、最大限の協力の一つってことだったのか、やっと気が付いた。
確かにアーキコバの物体の解明にメディの存在は欠かせなかったからなぁ、ラベリスク神もアテにしていたぐらいだし。
だから解明して真実が明らかになった時、メディはあんなに嬉しそうで、エテルム特効薬の開発を休んでまでずっと協力してくれて、最後まで残ってくれたんだな。
それはシベリアにとっても同じだったってことか、そう言ってくれるのは嬉しいけど俺は首を横に振る。
「礼だなんて、もったいないよ、その入れ墨はアーキコバとラベリスク神の努力と想いの結晶だ、俺はそれに乗っかっただけだよ」
「……なんか、実際にアーキコバとラベリスク神に会ってきたように言うんだね」
「え!? いや、そんなわけないよ!?」
「会ったとしても特に驚かないよ、ま、だから借りを返す感じで、中尉には協力するよ」
「そっか、ありがとな」
とセレナとお互いに笑いあった時だった。
「ふおっ!」
なんだろう、急に悪寒が、背中に再びツララを突っ込まれたようなと、ていうか、これ2度目じゃないか、と思ってブルブルと震えて思ってあたりを見渡すと。
「ひっ!」
――いつの間にか半開きのドアから目のハイライトが消えた状態でクォナがこっちを見ていた。
「な、なな、なに!?」
「いえ、私の友達と仲良くするのは、喜ばしいことだと思いまして、おやすみなさい」
とゆっくりと音もなく扉が締められた。
「っ! っっ!」
口をパクパクとドアを指さしながら無言で何かを言いかける俺にシベリアはこともなげにこういった。
「大丈夫よ、慣れるから」
「いや、慣れないよ!?」




