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第54‐1話:フォスイット王子と……・前篇



 ここは王子の自室、あの後俺たちは場所を変える形となり王子の案内の下、自室へとたどり着いた、そしてそこには既に。


「パグアクス兄様?」


 とはクォナの声、既にパグアクス息が来ていたのだ。


「王子、いくらなんでも急すぎるんですが、調整するこちらの身にもなってくださいよ」


 不満げなパグアクス息に王子はカラカラ笑う。


「悪かったよ、だが神楽坂が折角趣向を凝らしてくれたんだ、それに応えないとな」


「…………」


 パグアクス息はそのまま視線を俺に移すと露骨にじろじろと見る。


 パグアクス・シレーゼ・ディオユシル・ロロス、クォナの実兄、原初の貴族、シレーゼ・ディオユシル家の次期当主。


 必然的に次期国王であるフォスイット王子の秘書官となるため、王子である身分からずっと付き従うのだという。


 そんなパグアクス息は厳しい表情を俺を見つめる。


「神楽坂、お前、初対面で俺が誰だか分からなかっただろ?」


「はは、すみません」


「ふん、いくつか聞きたいことがある、いいか?」


「おいパグアクス」


 ぶっきら棒なパグアクス息の王子が咎めるが。


「王子、神楽坂を呼ぶと決めた時、私のわがままは通させてもらうと申し上げてはずですよ。神楽坂、いきなり試すようで悪いが、俺がどうしてそんなことをするかは分かるな?」


「理解しております。立場上当然かとお察しします」


 俺の答えに王子のため息をつき、それを続行の許可と解釈したパグアクス息が頷くと俺に聞いてくる。


「修道院の成績が最下位だというのは本当か?」


「本当です」


「最下位であることについてお前自身はどう思っている?」


「妥当な評価だと思います、あ、卑屈になっているのではなく、本心で」


「どう妥当だと思う?」


「単純に能力の問題です。能力については平等であるというウィズ王国の精神に則ればですね。現に私の同期達はいずれも高い能力を持っていました」


「モストの首席について述べてくれ」


「え? モスト? い、いえモスト息の首席ですか? えーっとこれも、妥当な評価だと、思います。能力は確かに同期に比べて飛び抜けたものを持っていましたし、本人も能力に胡坐をかかず努力家ですので……」


 じっと俺の真意を計っているようなパグアクス息、ああ、仲が悪いことも知っているだろうし、自身も次期当主だから「世辞」を言ったのか計っているのか。


「わかった、その胸に輝く四つの勲章について述べてくれ」


「ウィズ教とルルト教の橋渡しの件についての恩賜勲章と政府第5級勲章については、教皇猊下の気遣いであると特別昇任も含めて認識しております。アーキコバの物体の解明功労の政府第6級勲章は運、大臣勲章についてはゴドック・マクローバー2等議員の計らいであると考えます」


「叙勲についての自身の能力は関係ないと?」


「んー、無関係とは言いませんが、正直どう述べていいものやら、といったところですね」


「ふむ、原初の貴族の12門、全て言えるか?」


「えーっと、サノラ・ケハト家とシレーゼ・ディオユシル家の2門のみ、です」


「…………」


 黙って何かを考えているパグアクス息、今の質問事項を聞く限り、正直神の力について計りかねているというか、どう扱っていいか分からない感じだな。


 無理もない、神の力とは「分からない」こともまた驚異の理由の一つ、じかに触れることなど教皇と枢機卿と極一部の人物のみだけだと聞く、だから適当に質問を織り交ぜて、俺の反応を伺っているというわけか。


 当然そんな邪なことはしないが、信じろとは無理な話、というかパグアクス息の反応が普通なんだ。


 だが今後を考えるとパグアクス息の協力は不可欠になってくると思うから、こちらから譲歩する必要があるか。


「パグアクス息、私が修道院で最下位であり、かつウィズ王国最高権力者の一団である原初の貴族のことを知らない。そして政治機関である修道院において政治的活動を全くしていない、そして肝心かなめの能力も修道院入学に値する能力を持っていない。以上のことと神の力についての関連性を考えていらっしゃるのでしょうが、それについては心配無用であると申し上げます」


 驚いた様子で俺を見るパグアクス息。


 異世界に来て一番最初ロード大司教と戦った時、パグアクス息が抱いている俺に対しての懸念を邪神の入信容疑を使って攻撃手段に使ったのは妙手であり痛恨だったのだ。


 なぜそれが妙手なのか、それはパグアクス息の質問内容を考えれば以下の理由に尽きる。


「一つ怪しいという思考は、そのまま全てが怪しいという部分に波及してしまうものです。意識的無意識に関わらず、失礼ながら今の私の一挙一動が怪しく見えている筈です」


「それを言われて信じろと?」


「いいえ、ですから、私の言動でもし不審だと思えばいつでも身体拘束に応じます。そのための準備もしているようですから」


「気づいていたのか?」


 再び驚いた顔をするパグアクス息。


 俺が城の中で奇行に走っていた時、王子との出会いが仕組まれていたのなら、当然俺が1人で城の中で何をするかは注目していたはずだ。


 だから観光を兼ねて俺がひたすら1人で城の中を歩き回ったのだ。パグアクス息からすればそれすらも怪しく見えていたはず。おそらく王子がしびれを切らす形で俺に接触してきたのだろう。


「更に異端審問にも応じましょう。身の潔白を証明してもらうのならむしろいい機会かと」


「ふむ、異端審問と身体拘束に応じるか、分かった、ここら辺が落としどころだな、王子、終わりましたよ」


 会話を終える淡々としたパグアクス息に少し不愉快な表情を浮かべる王子。


「パグアクス、お前の懸念は理解するが、頼んで来てもらったものに対する礼儀ではない、今の問答、お前への義理を通す形で許可は出したがな、少しわきまえろ」


「ですが王子」


「ですがではない、はっきり言う、神の力に抗う術はない、だからこの問答に意味は無い、そしてそれは神楽坂も分かっていた。だがお前の立場を考えて応じ、身体拘束と異端審問にも応じるとお前の顔を立てたのだ、気づいているか?」


「っ……そ、それは!」


「更にお前の懸念のとおりなら、今の問答で神楽坂の不興を買い、神の力を使われたらどうするつもりだったんだ?」


 言葉に詰まるパグアクス息、もちろんそんなことはしない、だが神の力がリスクでしかないと考えるのならば、申し訳ないがパグアクス息は王子の言うとおりに質問するにしても少し捻るべきだったのだ。


 それを理解したのだろう、パグアクス息も言い返せない。


「……は、はい、も、もうしわけありません」


「分かればいい、悪かったな、神楽坂」


「いえ、パグアクス息の立場的に当たり前かと、だから気にしていません。もちろん異端審問にも身体拘束には応じますよ」


「いや、それは私の名において取り消す、お前にとってはこの二つは枷になるからな」


「わかりました、ご配慮感謝します」


 おおう、しかしカッコいいな王子、部下を諫める時はちゃんと諫める、俺がどうして応じたかも感じ取っていたのか、王子の風格を見たような気がした。


「さて、いよいよ本題に入るぞ」


 王子の一言で場が引き締まり、全員が注目する……。


 だけども。


「そのあの、えーっと、この、と、となりに、いい、いるのがね、その、俺の、その…………………」


 とプシューと真っ赤になってうつむいてそのまま停止する王子。


(頑張れ! 頑張れ王子! わかる! 相手がオーケーしてくれても自信ないんだよね! 急に俺の女とか言ったら「え? いや、オーケーしたけどさ、だからって急に彼氏面? そもそもさ、お前さ、洗ってない犬の匂いするんだよこの不細工」とか思われて嫌われるとか思ったんだものね!)


 とモテない男の気持ちは悲しいほど理解できる俺はいつの間にか両手を握りしめて心の中でエールを送っていた。


 そして意を決して王子は立ち上がって男らしく叫んだ。


「仲良くしてくれている人なんだ!!」


(王子っっ!!!)


 ギリギリだ、うん、これは誰も王子を責められないだろう。しかも属国の王族ともなれば必然的に立場は王子の方が上だ。その権威を笠に着ていると思われたくないものね。


 と思ったらアレアが切れた。


「はぁ!? お前さ! さっきエンシラ王女がアンタの気持ちを受け入れてくれるって言ったばっかりだろーが! ちゃんと言えよ! 私の恋人ですって! 何が仲良くしてくれている人だよ!」


「だ、だけど、あうう~」


「ウジウジすんな! 大体アンタはね! ヘタレすぎるの!」


「違うぞアレア!」


 もう我慢できない、俺は立ち上がると縮こまっている王子を抱きしめる。


「付き合っていきなり彼氏面して嫌われたらどうするんだよ!? しかも王子の方が立場が上だ! エンシラ王女からすれば立場上断れないだろう!? だから謙虚に言ったんだよ、いわば王子の優しさなんだよ! あくまでも好きな女と対等でありたい王子の気持ちがどうして理解できないかなぁ!?」


 俺の抗議にはっと顔を上げて俺のを顔を見る王子。


「か、かぐらざか、お前……」


「いいんですよ王子、俺は理解していますから」


「かぐらざかっ!」


「おうじっ!」


 だきっとお互いに抱きしめて、俺はアレアに話しかける。


「アレア、わかったな? 王子は女性の気持ちを考えて行動する優しい男なんだ、そこを理解して取り扱うように」


「…………」


 俺の言葉に無表情でアレアは王女に視線を向ける。王女はくすくす笑うと立ち上がってここにいるメンバーに挨拶をした。


「私はラメタリア王国、エンシラ・ルリキネル・リーネル・ラメタリアです。フォスイット王子の恋人です」


 と堂々と挨拶して、そのまま着席して、王子の方を見て代わりに答えてニッコリと笑う王女。


「「…………」」


 それを見て黙る俺達、そんな俺達にアレアは冷たく言い放った。


「だっさぁ~」


(うるさい、うるさいうるさぁーい! モテない男のシャイな気持ちなんて女には分からないんだよ! 別にわかってもらわなくてもいいけどね!)←言えない


とシクシクとお互いに泣いたのであった。



後編は、一時間後ぐらいに投稿します。

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