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第53‐2話:王子の想い・後篇



「もし秘書官が王子の結婚を反対するとしたら、その相手はどういう相手なんだ?」



 俺の質問に目を白黒させるクォナ、そして俺の聞いた意味を真剣に考える。


「この答えについては、俺よりも代々秘書業務を務めたクォナの感覚が近いんだ」


 重要な質問をしていると理解しているのだろう、必死で考えてその答えを俺にくれた。


「属国の王族、その中でも我々で例えるのなら当主筋にあたる人物ですわ」


「理由は?」


「属国と我々の国の関係は解釈が非常に難しいのです」


 という言葉から始まるクォナの話。


 王族と原初の貴族も同様、政治的影響力が強いが故に、仮に王子の想い人が相手国の王族であり、その人物が最高位であれば他の属国との関係に火種を巻くことになる。


 とはいえ仮に王子といえど、相手に対して特に規定は存在しない。庶民でもよいので属国や周辺諸国はそれを当て込んで「美女を送り込みアピール」をしてくるという。


 周りからどう見られるかも大事である王族や原初の貴族にとっては、仮に属国の美女に心を奪われるというのは、それだけで厄介な問題。


 とはいえ、外国人の血を入れるのは別に短所だけではなく、違う文化を取り入れた結果良い方に作用することもあるのだという。原初の貴族の直系たちは普通に外国人の伴侶を見つけ、その関係を糧に属国とのパイプを作ったりする。。


「つまり私とご主人様の関係ですわ! 私は当主筋ではなく直系! シレーゼ・ディオユシル家に新たな血を取り込むことは長所! ウインウインの関係になるという事ですわ!」


 うん、それは置いといて、でもそういうことか。


 何故当主筋に制限がかかるかというと原初の貴族で例えれば、高官の役職に就けるのは当主1人だけだからなのだそうだ。


 外国人の妻を迎えることはデメリット、この場合はリスクと言い換えた方がいいか、そのほうが圧倒的に高いのだ。


「なるほど、よくわかった、クォナ、一つ聞きたい、例えば国賓である王女に俺が会うというのは上流的にどうなんだ?」


「え? え?」


「…………」


「か、勝手に会うことは当然に許されません、外交的というよりも王女の「貞淑」にも関わる問題、口割かない輩がはやし立てますわ」


 貞淑、男が勝手なイメージとはいえ馬鹿にはできない。


「なら会うためにお前の力を借りることができるのか?」


「もちろんです、私が立会人となれば、大丈夫なのですが、ですが、相当に目立ちますわ。私と王女と中尉があったことはおそらく次の日の朝には」


「構わない、元よりそれが目的の一つでもあるからな、クォナ側の方便は任せる」


「ですが、向こうが会いたくないと言われた場合の方便は難しいのです、王子との逢瀬を重ねても外部に情報が洩れていないことを考えれば、中尉に気取られる可能性があると考る、余計に可能性が低いかと」


「いや、断ることは99%ない」


「ど、どうしてですの?」


「多分彼女の置かれている状況を考えれば、そもそも俺と出会うリスクなんて考えてもいないはずだ」


「で、でもご主人様、自分で属国の王族と答えておいてなんですが、本当に属国の王族なのですか? その理由ならば部外秘にする理由は分かりますが、それだとすると、もう我々では手出しのしようがありません、私は直系ですが政治的立場は余り……」


「何言ってんだよ、ここでクォナとアレアが交流があることが生きてくるんだろう?」


「え? どうして、アレアですの?」


「さっき言っただろ、彼女は王子の女性客人の折衝業務の総括役だろ?」


「!!」


「現在彼女が世話している人物が誰なのか、俺に読まれることを考えれば呼ぶタイミングは合わせているはずだ、今ここにいる国賓待遇の属国の女性王族はいるのか?」


 クォナはハッとした顔をする。


「いるんだな? 誰だ?」


「ラメタリア王国、エンシラ・ルリキネル・リーネル・ラメタリア王女!」


「彼女の滞在目的は分かるか?」


「確か、外交だったはずですわ……」


「なるほど、おそらく彼女で間違いないだろうな」


 クォナは目を輝かせている。


「ご主人様はどうしてそこまで気づきますの?」


「これ見よがしにヒントは出していたからな、後は流れが出来すぎ、恋愛のアドバイスで呼ばれたのにさ、男心の教示が欲しいにも関わらず外に出されたとかな」


「あ……」


「女同士の会話だから席を外してくれと言われれば男は去るしかない、んで俺が観光好きだから、大人しくせず城の中を動き回ることも見越したうえで偶然の出会いを装って王子は俺に接触してきたんだよ」


 そもそもあの時、パグアクス息から逃げているのに俺にわざわざ「隠れるから後から来る奴に誤魔化してくれ」なんて頼む必要はない。王子が本気で逃げているのなら捕まるはずがない、それぐらい逃げている相手を捕まえるというのは難しいのだ。


「だからクォナ、彼女についての情報をアレアの協力を仰いでくれ、彼女もそのつもりだろうから問題ない筈、すぐにでも頼む、こちらが向こうの意図に気付いていると早ければ早いほどいいさ」


「わかりましたわ! ご主人様の言いつけとあれば! セレナ、アレアが何処にいるか分かる?」





――同時刻、ウィズ王国城、庭園



 城は国家機関である王国府の勤務場所ではあるが、王族の居住場所でもある。


 自分の家ではあるが、大勢の使用人、王国府の職員たちがいる中で王族の動きは常に注目を浴びてしまう、それが当主筋に近ければなおさらだ、だから王族達は腹心、協力者がいる。


 フォスイット王子にとって一番の協力者はアレアであった。パグアクスは信頼しているが、どうしても向こうは生真面目な気質であることから、こういった規則破り的なことはどうしてもしないのだ。


「ったくもう、フォスイット、少しは落ち着きなよ」


 アレアがはーとため息をつきながら庭園のテーブルに座っているフォスイットに話しかける。


 夜の密会、ではない、男女だから本来なら周りはそのように思うかもしれないが、2人にとって一緒にいるのは普通のことなので特に不自然に思われることも無い、思われたところでどうということもない。


 だからこそ王子は想い人に会うために、アレアに仲介を頼んだのだ。


 アレアの呆れたような声にぶんぶんと首を振る。


「で、ででも! どうしよう、嫌われているから! 俺!」


「はぁ~??」


「だって、こうやってさ、毎回毎回こっちに来てもらってさ、俺の誘いに応じしないと政治的に不利になるとかの理由できてくれるんだよ、内心は「お前、権力笠に着た嫌な奴、マジキモい、私がそう思っているのに気づけよあの不細工」とか絶対に思われてるし」


「じゃあ、誘わなきゃいいじゃん」


「やだ! 会いたいもん! だからアレアに頼んでいるのだろう!」


「うん、お前さ、少し男らしくしろ、小さい時となんも変わってないじゃん、それじゃどんな女でも無理だから」


「うるさいな! そもそもお前に教えてもらった女心が全然役に立たないじゃねーか! ってお前もモテないだろう!? 知ってんだからな! この喪女!」


「ああん!? 声はかけられてんの! お前の知らないところでな!」


「お前がそう言うのだからそうだろうな、お前の中ではな、というよりもホレホレ、その顔を普段でも見せなさいよ、その声をかけて来たというお前がしか見えない妖精さんが後悔して立ち去るから、ホレホレ、脱ぎなさいよ、その朝使用人服を着ると一緒に来た猫の皮をさ、ププー!」


「よしわかった! お前が持っている女を縄で縛り上げたアブノーマルなエロ本渡すわ!んで風呂覗きもしていることバラす! 王妃陛下にな!」


「何で知ってんの!? 何言ってんの!? ってそれは持っているのはたまたまだから!! ってマジで辞めて!!」


とギャーギャー言い合っていると横からクスクスと笑い声が聞こえた。


当然その声は覚えがあるから王子が跳ね上がるように立ち上がる。


「はははええ! エンシラ!? 来てたのですか!?」


 物陰から出てきたのは、年は王子と同じぐらいの身なりのいい女性だった。


「ごめんなさい、傍で聞いていて面白くて、本当に仲がいいんですね、ちょっと嫉妬しちゃいます」


「あわわ! えっと、その!」


 真っ赤になってうつむいてしまう。


(なんて話せばいいんだろう、しかも話を聞いていたとのこと、どうしよう、エロ本の件を聞かれてしまったけども、ああ、もうだめだ終わった。よりにもよってSMものが、せめて純愛ものエロ本だったら気持ち悪いとか思われずにすんだのに(錯乱))


「大丈夫ですよフォスイット王子、別に私は何とも思いませんよ、しょうがないなぁ、ってぐらいです」


「ほ、本当に?」


「はい、ご存じのとおり私にも弟がいて、男の人にとっては外せない物みたいですから」


「ガーーーン!!!」


 とがっくりと崩れ落ちる。


 終わった、いや終わっていた、弟、そうか、そっちか~、とがっくりと項垂れる王子に慌ててエンシラがフォローする。


「あ! いえ! 違うんです! ごめんなさい! そういう意味ではなくて!」


 オロオロとするエンシラにアレアが諭す。


「いいんですよ、本音言っても、女心もデリカシーも分からない奴ですから」


「ほほ、本当に違うんですよ! 王子、ね?」


「は、はい……」


 やっと立ち直る王子。


「あ、そうだ! 王子、私、先日面白いことがあったんですよ!」


 とエンシラが話題を振り王子が返事をして場が持っている。終始女がリードするその会話を聞いてアレアは内心頭を抱えていた。


 思えば幼いころからそうだった、王子は気弱なイメージを受けるから、将来の国王としての資質は不安視する声も多い。


 だが近くで見ているからわかるが、かなり大胆な策や強気な策をあっさりとやってのける胆力はある。だからそこをしっかりと見ている人間からは厚く支持されている。


 だが異性については見てのとおり、というか見てられないヘタレっぷりである。


 アレアは思い出す、王子の初恋、それは初等学院の高学年在籍時、クラスメイトの同級生、王子は一大決心をして彼女を呼び出して告白、これが王子の最初の告白だった。



――「好きです!!」


――幼い声を精一杯張り上げて思いを伝える王子。


――そしてその告白を受けて動揺している女の子。クラスで3番目ぐらいに可愛い愛嬌のある女の子、なんだけどその女の子は、その愛嬌が完全に消えている。


――だがそれは責められないだろう、だって……。


――女の子は、そのまま王子の後ろに視線が行く。


――「あの、だれ、ですか?」


――私が後ろにいるのだから。


――「付き添い」


――「……え?」


――「不安だからついてきて欲しいって」


――「…………」


――不機嫌にぶっきら棒に答える私に、絶句する女の子。


――絶句したいのはこっちだよ。


――「うわああん! うわああん! なあアレア! なんで駄目だったのかなぁ!」


――「いや、何で駄目だったのかなぁって、アンタさ、本気でいってんのそれ? さんざん言ったよね? 1人でやれよって」



 とまあこんな感じ、回数を重ねていけば成長するかと思いきや、ガキはガキのままで育ち、人間変わるなんて言うけど、人間いくつになっても成長なんてしないものだなというのは肌で感じたものだ。


 まあ自分がガッチリと王子の首根っこ押さえるからだと周りから窘められたことがあったが、そんなのは知ったことではないと思うのは姉貴分だからだろうか。


 そして王子の今回の相手の彼女、名前をエンシラ。ではあったけど、こうやって毎回相手をしてくれている、こんなヘタレっぷりを毎回見せつけられても王子のことを気に入っているのだからびっくりだ。


 それに、アレアはそれとは別に個人的に彼女のことが気に入っていた。彼女から感じる実直な人柄と執念に。


 ここでアレアとエンシラと目が合いお互いに苦笑いする。


 とはいうものの少しはしっかりしてなくては、いや、させなくてはいけない「不詳の弟がすみません」目だけで謝るアレアであった。


「その、強力な助っ人を頼んだんですよ!」


 突然声を張り上げて、初めて目を見て発言する王子、いきなりの話題転換でアレアもエンシラも理解が追いつかなかったが、すぐに言いたいことを理解する。


「あ、ありがとうございます……あの!」


「神楽坂イザナミ! 知ってますか!?」


「え? 神楽坂、イザナミ、さん? いえ、その、存じませんが」


「詳しくは言えませんが、彼は修道院出身のエリートの最下位だったんです! でも成績は最下位でも能力は最下位じゃない! 善悪に頓着しない方法を選択することができるのです! 王国でも注目する人材の1人です! 清濁併せのむと言いますが、彼は清だけも濁だけも飲み干せる、貴方の抱えている問題が、解決に結びつくことができます!」


とどこぞの翻訳サイトを使ったかのように説明する王子にエンシラは頷く。


「は、はい、ありがとうございます。あの、となれば挨拶を、あ、でも、私たちのことは……」


「その件については、アレア、どうだ?」


 もうばれてしまったとはいえ、部外者がいれば公式の場、アレアは佇まいを整えて王子に報告する。


「つい先ほど、クォナ嬢より仲介を頼めないかという連絡が入りました。しかも神楽坂イザナミを交えてです、ヒントを与えてはいましたが接触してまだ一日足らず、既に私がダミーであることは見破られていますね」


「流石早いな、よし、すぐに会えるように手配をしてくれ、その際はアレアも立会いを頼むぞ」


「あの王子!」


 声を高くして呼び止める王女。


「な、なんですか?」


「えっと、その……」


 目が泳ぎ、淀む口調、なんだろうと促すと彼女はこう言った。


「私は、貴方が思い描いているような、女ではないんです!」


 突然の告白にキョトンとした王子であったが寂しそうな顔をする。


「ああ、わかってます、貴方の立場上、私の誘いに応じないと、いけないですからね、はは、でも、おれ、そんなことは」


「ち、違います! そうじゃなくて、そうじゃなくて……」


 何かを言いかけたエンシラであったが王子は遮るように手をぎゅっと握る。


「何があっても気にません、あ、あの、俺ができることのならば、なんでもします、えっと、あの、私は、貴方の為に」


「本当に、私でいいんですか、その、私は」


「立場なんて関係ない! その、あの、だから、俺に、俺に、その」


 ぎゅっと口を結んでそのまま告げた。


「あ、愛を誓ってくれれば……」


 最後はしりすぼみに、それでも精一杯の勇気を出した言葉に、彼女はぎゅっと握り返してくれた。


「はい、私でよろしければ」


 はにかむ彼女に、パアと表情が明るくなる王子。


 ヘタレがやっと勇気を出したかと、そのままアレアはふと視線を移した先、そのまま固まってしまった。


 コツコツと響く足音にそこから現れた姿にアレアは思わず声が出てしまう。



「ク、クォナ嬢?」



 アレアの声に全員が王子につられる形で視線を移すと。


「お邪魔をしたようで申し訳ありません、お久しぶりです、フォスイット王子」


 いつもの笑顔で挨拶するクォナ、いきなり来るとは思わなかったようで全員が驚いている。クォナの隣にいるのは、侍女達3人組、そして……。



「お初にお目にかかります、ラメタリア王国第一王女、エンシラ・ルリキネル・リーネル・ラメタリア王女。私は先ほど王子が申し上げた助っ人の神楽坂イザナミ、ウルティミス・マルス駐在官です」






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