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第52‐2話:モテない男の恋愛研究・後編



 秘密基地。


 男なら絶対に一度は作ったであろう秘密基地、それが全然秘密でもなく基地でもなくてもそそる浪漫な響き。


 王子の秘密基地は城の2階廊下のにある使われていない広さ10畳ぐらいの部屋だけど、こう分かる、凄い趣味に走った部屋だというのが分かる、快適に過ごせる部屋だ。


「ふふん、ここは俺しか知らない部屋でな、小さいころに発見してからずっとここを使っているのだよ、秘密基地っていいよね!」


 えっへんと威張る王子。


「分かりますぞ! 俺も小さいころ秘密基地を作って、秘密基地に名前を付けて、その基地に一本だけ立っていた木を御神木という設定を作って、友達の中でその名前を暗号代わりに使っていたものです!」


 うんうんと頷く俺に王子はほうほうと感心する。


「お前さ、小さいころにフィクションの武術とか真剣に練習したことある?」


「ありますぞ、思えば滅茶苦茶な理論なのにどうしてあの時はそれが最強とか思ったんでしょうね」


「分かる! 俺もそれで怪我して、思いっきりアレアに怒られたんだよ!」


「…………」


「…………」


「お前、なかなか話せるな」


「王子こそ、あ、ちなみに女の胸としか尻とかの話は?」


「大好物だ。お前も?」


「大好物です、ウルティミスで男の浪漫話が出来る男の浪漫団を結成し、団長を務めております」


「いいなぁ~! パグアクスは反応が薄くてな、アイツ絶対ムッツリなくせにさ、それを指摘すると凄い怒るんだよ、潔く認めればいいのに! そんな話も「王子としてのそういう話は品格に関わります!」とか言うんだよな!」


 ブツブツと愚痴を言いながらそのまま秘密基地の椅子に腰かける。


「っと。そういえば悪かったな、駐在官の仕事があるのに城に来てもらって」


 とのこと、あ、そうか、俺が来ているのは知っているし、用件も知っているのか。


「アレアには会ったのか?」


「はい、はきはきしてて愛嬌があって、綺麗な感じで好感が持てる女性ですよね」


「ああ、昔から尻に敷かれて頭が上がらなくてな、姉のような存在だったよ」


「へえ、異性として意識するきっかけがあったんですか?」


「いや、いつの間にか、かな、惹かれていることにある時に気が付いてって感じ、皆が考えるような展開は無くて悪いけど」


「ふむ、用件は理解しました。でも最初から気になっていたんですけど、どうしてそのアレア絡みで私を呼んだんですか? クォナ嬢からは恋愛のアドバイスとして、なんて聞いたんですけど」


「そのとおり! いやね、こう、ほら、俺は立場が立場だからさ、なかなか他人には言えないからな、だからキューピッドになって欲しいのさ!!」


「キューピッドと言われても、正直、その、あの、れ、恋愛のアドバイスなんてできません、なぜかというと……経験ないんで」


「嘘だぁ、聞いたぜ、モテるんだろ?」


「…………は? 私が?」


 コクリと頷く王子。


「いや、いやいや! 何処から聞いたか分かりませんけど、普通にデマですよ、残念ながら男として生を受け一度も……モテたことなんてないです、ま、男の浪漫街道をひたすら走り抜けた結果ですから、後悔などしていませんがね、フッ、といいつつも一度はキャーキャーとわかりやすくモテたいそんな男心、まる」


「ん? でも噂が流れているぞ」


「噂って、俺がモテるなんて、具体的にどんな内容なんですか?」



「クォナにお茶会に誘われたってな」



「ぼふぅ!!」


「ど、どうした! だ、大丈夫か?」


「おおおお、おうじ、そそ、そんな話をどこで?」


「いや、だから単純に噂だよ、少し前からクォナが恋をしていると噂が流れていてな、社交でずいぶん綺麗になったからというのが根拠だが、相手は不明だったのだ。んで今日お前を連れて登城しただろ、だから何人かが気になって聞いたらしいんだが、こんな感じで答えたそうだ」


――彼女は神楽坂中尉の関係性を問われた時、ハッとした顔をした後、少しだけ顔を伏せて、そのまま今にも泣きだそうな口元をギュッと締めて、健気に微笑んでこう言った。


――「お友達、ですわ」


(だからそれは演技だっつーの! あの深窓の令嬢はね! そういう女の子ね!)


 心の中で悶えているとガシッと握られる。


「正直半信半疑だったが、今の反応で確信した。知っているだろうが彼女は上流の至宝と呼ばれる女、その美貌は国内はもちろんのこと他国ですらも多数の男たちが魅了され、彼女の協力者に名乗り出る人物がいるほどだ。ここだけの話、その存在だけで外交にも役に立っているほどに。その彼女を惚れさせるなんて、いったいどうやったのだ?」


「えーーーー! そんなこといわれてもーーーーー!」


「おい、まさか話してくれないとかないよな? 頼むよ、結構切羽詰まっているんだよ」


「えーっと、えーっと」


 クォナが俺のことを好きになった理由か、好きになった理由は、うーんうーん。


「誤解ですかね?」


「いや聞かれてもな、聞いてるのはこっちなんだが」


「多分、俺のことをこう、何故か知らないけどすごくいい男に見えるように誤解していると思うんですよね」


「なるほど、で?」


「で? って?」


「その誤解のさせ方を聞いてるの!」


「それを知ってれば今頃モテモテ人生歩んでますがな!」


 俺の抗議にがっくりと項垂れる王子。


「なんだよう、クォナが惚れたって聞いたから期待していたのに、シクシク」


「というか、俺よりもモテる人物に聞いた方がいいと思うんですよ。いないんですか?」


「うーん、いることはいるんだよ。んで、お前よりも前にすでに相談はしているんだ。最初はモテる技術はモテる男から、ということで数々の美女を落とし、二股三股をかけても尚女たちを魅了し続けた奴がいてな、そいつから女の落とし方を聞いたんだよ」


「!?」


「いいですね! こう女のモテ方って知りたい!」


 俺は勢いよく心のメモ帳を開いた。


――王子の恋愛研究①


「女にモテる方法を教えてくれないか?」


「モテる方法ですか、そうですね、よく誤解されますが、私は何もしてなくてモテてるわけではありませんよ、一言で言えば女の惚れさせ方があって、それを実行しているだけです」


「ほほう! そんなのがあるのか! 具体的な方法を教えてくれたまへ!」


「あ、言っておきますけど全員は無理ですよ、でも自分に惚れる女ってのが分かって、その女を自分に惚れさせるように仕向ければいいんです」


「うん? うんうん、それは分かったけど、具体的な方法を教えてくれたまへ!」


「んー、感覚によるものが大きいですね、あ、自分に惚れるタイプの女だなと、ピンをくれば後は仲よくするんですね。すると惚れさせ方がわかってきますから、後は実行すればいいんですよ」


「…………」


――恋愛研究①・完


 俺は心のメモ帳を閉じた。


「全然駄目じゃないですか」


「な? なんかこう、ほら、考えるな感じるんだの世界でさ、全然参考にならないんだよね」


「しかも美男子なんですよね?」


「ああ、顔も美男子で背が高くすらりとしたモデル体型、雰囲気も2枚目なんだよ、爽やかオーラが出てるんだよ、わかる?」


「わかります、ただしイケメンに限るって奴ですね」


「なにそれ?」


「我が祖国に伝わる諺です、イケメンがするからカッコいいんです」


「素晴らしい諺! んでな、学習した俺はまた別の男に聞いてみたんだ。その男、モテるんだがな、はっきり言って」


「ブ男なんだよ」


「!?」


「いいですね! 男は顔じゃないを地で行く!」


 今度こそ参考になりそうだ、俺は勢いよく心のメモ帳を開いた。


――王子の恋愛研究②


「女にモテる方法を教えてくれないか?」


「ふむ、王子、例えばデートに誘いたい女がいる、誘ったけど断られた、どうします?」


「そりゃ諦めるしかないだろう」


「もうそこで駄目ですね。いいですか、そんなね、誘って一発で女が付いてくるなんてのは限られた美男子だけに許された特権なのですよ、王子、失礼を承知で申し上げますが我々のような男は誘ったら断られるのが当たり前なんです、みんなそれが分かっていない、どうして当たり前なのにそれが分からない、だから駄目なんです、いいですか? 断られたら「ならいつ会えるの?」て聞いて、断られたら「どうして会えないの?」って聞くんですね、そうすると相手は断り続けているうちに罪悪感が沸いてくるんですよ、それを察知したら「何が好きなものある?」といった具合に相手のことをリサーチするんです、罪悪感があるから相手は素直に答えてくれます。はいこれで相手のことが分かりますね、そしてこの時点で会話が続いているので生理的嫌悪感は抱かれていません、女はそこらへんは男よりも凄い敏感で、露骨に態度に出ます。これは何回も訓練、つまり気持ち悪いと思われると徐々に勘が鋭くなり分かるようになります。女にとって生理的嫌悪感て実はどうしようもないので、それが分かれば諦めるのもありなんですが、今言った女をデートに誘うと言ったたこれだけでもこれだけのポイントがあるんですよ、それが一度断られて諦める? はいそれで終わりです。王子、失礼ですがその努力ってしてます? してませんよね、いいですか、何度も言いますが、美男子ならこんな努力はいりません、俺だってしません、美形の顔を使って女をとっかえひっかえして遊びます、だけど私は顔はこのとおりブ男です。だからモテるためには訓練が必要なんですよ」


「…………」


――王子の恋愛研究②・完


 俺は再び心のメモ帳を閉じた。


「全然駄目じゃないですか」


「だよな? いやさ、確かにそれをやれば顔じゃないってのは本当だと思うんだよ、でも正直できない、無理、そんな時にお前の噂を聞いてな、んで、どことなく同じ匂いを感じたから呼んだんだよね」


「そうだったんですか、お力になれずすみません……」


「いや、謝るのはこっちだよ、こんな用件で呼んでしまって」


「…………」


「…………」


「ってそもそも王子! 男なら小細工を用いないで正々堂々と勝負するものですよ!」


「そうだ、そうだよな、そのとおりだよ!」


「そんな惚れさせ方が分かるだのマメになれだの、そんなテクニックな感じは誠意が無い感じがして嫌ですね!」


「まったくもってのそのとおり! 誠心誠意気持ちを伝える! 逆にこれ以上に勝るテクニックもないのだよ!」


「それで、あの、どうやって気持ちを伝えるかなんですよね」


「俺凄いキョドっているから、話すだけで緊張しまくりーのだから、絶対に気持ち悪いとか思われてるから、駄目だから、無理だから、でも本当に気持ち悪いとか思われたら立ち直れない……」


 シクシクとウジウジする王子、そうか、これがウォズ王国の次期国王か。俺は王子の肩を抱いてこう言った。


「王子! 分かりますぞ! 男ってシャイよね! あ! そういえば俺聞いたことあるんですけど! 女ってこうロマンチックな雰囲気に弱いとか(以下略)」


 その後、同じような話を延々と堂々巡りをした挙句男の浪漫話に移行にそっちが楽しくなり、肝心かなめの恋愛研究は「相手を観察して空気を読むことが大事である」という詭弁を弄してなんかやり切った達成感のような感じでとっとと終わらせた。


 そして2人は夜遅くまで間に夕食を挟み議論に議論を重ねてこう結論を出した。


――女の鎖骨から胸のラインが男の浪漫


「神楽坂、いや、団長、楽しかったよ」


「はい、まさか王子とこんな話ができるなんて思いもよりませんでした」


「それは俺もそうさ、それでさ、俺思ったんだよ」


「なんです?」


「モテたいよりもさ、こんな感じで話している方が100倍楽しいって」


「私もです」


 あはははと笑いあう俺と王子。


 それにしても、王子……。


(そうか、そうだったんだなぁ……)


 王子とは初対面だけど、凄く気持ちが分かった。


 そして何かをしてあげたいと思う人だ。


 だったら、俺がするべきことは、王子の恋路に対して成就するように動くことだ。


「王子、俺、クォナのところに戻ります」


「なんだ、泊まっていけばいいじゃないか?」



「それよりも、大事なことがあるじゃないですか」



 俺の言い含めたことが分かるのか、王子はじっと俺を見つめる。


「うん、わかった、なあ神楽坂」


「なんですか?」


 王子は子供のような笑顔を浮かべてこういった。


「今度さ、女子風呂覗こうぜ、秘密スポット、知ってんだよね」


「いいですね~、是非お供します」


「パグアクスには秘密だからな、うざく反対した挙句、絶対女への変な忠誠心出してチクるね」


 と最後まで馬鹿話をして、俺はクォナの元へと戻るため、踵を返し秘密基地を後にしたのだった。






蛇足


モテる男と王子の話のくだりは、俺とのやりとりをそのままです。


モテる男って凄いなぁと思いました、まる。




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