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第52‐1話:モテない男の恋愛研究・前編



 アレア・レーテカナ。


 神学研究で政府勲章も受勲した文官少将の娘。


 その文官少将は王子の学問の先生も勤め、その際に同世代という事で王子の遊び相手として紹介されたのがきっかけ、3歳年上のお姉さんであり幼馴染である。


 2人は幼いころに初対面で意気投合し、そのまま姉弟のような関係がずっと続き、共に大きくなり今では王子の直属の使用人の1人となっている。


 これが彼女の簡単な経歴だ。


「お久しぶりですクォナ嬢、変わらずお元気そうで」


「こちらこそ」


 という挨拶の後に雑談に花が咲く。ここはアレアの個室、王子ともなれば直属の使用人の数は数十人いるが、それぞれに個室が与えられている。


 コンパクトにまとめられた部屋というのが印象的だった、女の人という感じはしない。


 会話も終わったのだろう、アレアは俺に視線を移すニッコリと笑う。それを受けてクォナが紹介してくれた。


「彼が神楽坂イザナミ文官中尉ですわ」


 簡単にそれだけ、それだけで伝わるのだろうか、アレアは俺を見てふんふんと頷く。


「初めまして、アレア・レーテカナです。主な担当は王子の女性客人に対しての世話と折衝業務の統括をしています」


「こちらこそ初めまして、神楽坂イザナミです。ウルティミス・マルス駐在官です」


「噂は聞いています。あのドクトリアム卿に認められた人物、実際に会えるとは思いませんでしたよ」


「はは、まあ、ほぼ運なので」


「ま、そういうことにしておきますよ」


 と、彼女ははきはきとした元気があり愛嬌のある人、初対面だけど好感が持てる雰囲気を持っている。こういうところに王子は惹かれたのだろうか。


 そんなことを考えているとアレアはクォナに話しかける。


「クォナ嬢、用件はわかりますよ、王子のことですよね?」


「あら、変わらずに直球なのですね」


「周りくどいのは嫌いなので、あのヘタレのためにお手数をおかけします」


「いいえ、これも我が家の務めですから」


 ペコリと頭を下げるアレア、ってあのヘタレって王子のことだよな、クォナも何事も無いように返事しているけどそれで通るのか、うん、なんか王子の印象が良くなったぞ。


「それではアレア、ならばこちらも直球勝負、本題に入りましょうか!」


 と目をランランと輝かせながらアレアにズイと迫る。


「え?」


「さあお聞かせください! まずは王子との馴れ初めからですわ!」


「な、馴れ初め?」


 俺からすればいつもどおりでも、アレアからすれば見たことないであろうクォナ嬢に面食らった様子だが、クォナに押される形で話し始めた。


「馴れ初め、馴れ初め、うーん、えーっと、初めての出会いは子供の頃に父さんから一緒に遊んでやれって言われて会ったのが始まりでした」


「その時にすでに運命を感じていたのですね! ああ、なんて素敵な事でしょう!」


「い、いやー、こう、泣き虫で、もうちょっと男らしくしろよとか説教して、それでさらに泣いてた記憶しかないですけど」


「そんなところに母性本能がくすぐられたのですね!」


「えー? えーと、んーと、いじめた記憶はあるけど、それで何かを感じた記憶が無いといいますか、それに、こう頼りがいのある男の方がいいじゃないですか」


「成長していく上で徐々に頼りがいが出てきたのですね!」


「いやぁ全然、ヘタレもバカも変わらず、成長してからはそれにスケベが加わった、かなぁ」


「そんな中にも光る優しさにときめいたのですね!」


「あ、ああー、そうですね、優しいですね、ええ、はい、小さいころから優しい子でした」


「やっぱり! 私にはわかっていましたわ! 優しい男性は素敵ですよね!」


「は、はは、まあその、いつの間にかそこに惹かれて、弟みたいなものでしたけど。まあでも、向こうはどう思っているのやら」


 というアレアにクォナはガシッと肩を握る。


「分かります! 切ない気持ち、察しますわ!」


「ど、どうも、あ、あの、ク、クォナ嬢、さっきからどうされたんですか?」


「お任せください! 私が来たからには、なんとしてでも成就させますわ!」


「…………」


 完全トリップ状態のクォナ嬢、そんな彼女を見ながら目が泳ぐ形で視線をセレナに移すとすっとアレアに近づく。


「ごめんなさい、マスターは余り恋愛事の相談とかなかったから、はしゃいじゃって」


「ああ、そうなんだ」


「アレア!」


「はい!」


 再び手をガシっと握られてびっくりするアレア。


「今回の仕事は私とこの神楽坂中尉で達成してみせます! 神楽坂中尉の洞察力は、枠外の域であるもの、そこからの読みはまさに神域にあるといっても過言ではありません!」


 いや、めちゃくちゃ過言なんだけど、それにそんなことを言ってしまうと……。


 という俺の心配のとおりに、クォナが自慢気に胸を張るのを見て、アレアは、ほうほうと俺とクォナを交互に見る


「ああ、なるほどね、やっとわかった」


 その「なるほど」って、なんか違うの意味で納得してないか。


「アレア、その内密にしてて、マスターにはあと説教しておくから」


「はいはい、相変わらず大変だね、あの、クォナ嬢」


「なんでしょう!」


「あの、早速色々と恋愛相談をしたいのですけど、その」


 俺の方をチラチラと見るアレアにクォナ嬢は頷く。


「分かりました。殿方がいては話せないこともありますものね。あの神楽坂中尉、大変申し訳ないのですが」


「ああ、大丈夫だよ、折角だから城でも探検するさ、えっと、アレア、俺は城の中ではどの程度動けるんだ?」


「サノラ・ケハト家の紋章をつけている以上制限はかかりません、ただ政によって制限がかかる場所があります。えーっと、つまり近衛兵が立哨しているので、その都度確認を取ってもらえれば問題ありませんよ」


「分かった、ありがとう」


 と礼を言って部屋を後にしたのだった。



「…………」


 スタスタと城の中を歩く、なるべく表情を出さずに、城は常に人がいる状態とはいえ結構まばら、かなりのタイミングで視界に人が消えるタイミングと時間が結構ある。


 そうやって30分ほど城の中を探検、辺りに人の気配を伺いながら、そして人の気配が無くなった瞬間。


「フンフンフンフン!!」


 と城の壁をペタペタ触り頬ずりしたり匂い嗅いだり小躍りしたりする。


(はっ!?)


 とそして人の姿が見えるとパッとスタスタ歩きに戻る。


 そして人の気配が無くなった瞬間。


「フンフンフンフン!!」


 と城の柱に抱き着いたり床に敷いてあるカーペットをグシャグシャっと触ったり思いっきり息を吸って吐いて息を吸って吐いてを繰り返したりする。


(はっ!?)


 とそして人の姿が見えるとパッとスタスタ歩きに戻る。


 そして人の気配が無くなった瞬間。


「フンフンフンフン!!」


 と今度はちょっと冒険して床をゴロゴロ転がって(以下略)。


 さて、奇行に走っているのは百も承知である、だから人の目を気にするのだ、これについてはご容赦願いたい。


 恋愛研究も興味が無いわけではない、が、基本的に女子トークになるであろうという事は予測できたし、今後の展開を考えると自由時間がなさそうだなと思っていたのだ。


 だからこそアレアの恋愛相談の話で俺が外に出されたのは外面は普通を装っていたが内心は飛び上がりたいほど嬉しかった。


 理由、そんなものは決まっている。


(城! 本物の城! 王の住まう城!!)


 城なんて修道院時代は研修という形で入ったことはあるものの所詮は観光客に毛が生えた程度だ。


 庶民が一般スペース以外に入ろうと思ったら王国府に勤めるぐらしか方法が無い。しかも王国府は修道院出身ともなると王族に直接関わることが多く、王族と知り合いになれるというステータスナンバー1、人気ナンバー1の官公庁、恩賜組はまずそこを希望するぐらいだ。


 んで、今の俺は準貴族待遇では中に入れる、つまり官吏とすれば将官、カイゼル中将と同待遇だ。


 しかもこれはRPGの城ではない、本物の城の内部だ、ああ、これだけでもドクトリアム卿に感謝だよなぁ。しかも修道院の制服を着ても何の注目もされないから楽でいいし。


 だけど田舎者丸出しだとクォナに恥をかかせてしまうからな、こう平然を装って隙あらばこうやって奇行に走ることにしたのだ。


 窓から見える景色もいい、首都が一望できる、ウィズ王国の城は戦いを想定して3重の塀によって守られている。よくある西洋のお洒落な感じではなく、戦える要塞といった表現が正しい。


 今はウィズ王国が世界一の大国となっており、いくつもの属国を抱える立場になっており、平和な時代が続いているが、有事に対しての備えは怠っていないらしい。確かに城ってそういう目的で作られるものな。


 なんて内心興奮しまくって城の中を徘徊していた時だった。


「えっと、そこの修道院の制服着た君!」


 修道院の制服着た人、って俺のことかなと振り向いた先、そこには俺と同世代の男がいた。


「えっと、俺ですか?」


「そうだ! えっと突然で悪いが、俺はここに隠れる! 後から俺のことを探しに来る奴がいるから! あっちに行ったと言ってくれ!」


 と一方的に告げるとすぐ横にあった倉庫にさっと隠れてしまった。


 な、なんだ一体と思う間もなく。


「君!」


 と後ろから再び俺に向かって声をかけられる、振り向くと貴族服に身を包み眼鏡をかけた知的な風貌のイケメンがそこに立っていた。


「えっと、俺ですか?」


「そうだ、そこらで王子を見なかったか?」


「……王子、ですか」


 良く見てみると襟袖についている貴族の紋章、俺が判別がつく貴族紋章は2つしかない、そしてサノラケハト家の紋章ではない、つまりこの人は……。


 まあいい、これは流れに任せよう。


「王子はあっちの方に行きました、何か凄い急いでいる感じでしたね」


「そうか、ありがとう、まったくもうあの人は! いつまでも子供のままじゃどうしようもないというに!」


 と肩をいからせながら俺が指さした方向へ小走りで後にした。


 そんな彼が見えなくなって少しした後、扉を開いてのぞき込む。


「立ち去りましたよ~」


 という声の下、すっと出てくる。貴族服を着ていないし紋章もつけていないから全然わからなかった。


 そうなんだ、この人が……。


「王子だったんですね?」


 俺の言葉に埃をパッパと払うと王子はキョトンとした顔をする。


「ああ、フォスイットだ、って俺の顔を知らないのか?」


 不思議そうにまじまじと俺の顔を見つめる。


「あ、ああー、えっとすみません、外国人なもので~」


 という俺の言い訳を「ああそう」とあまり気にせずじっと俺を見る。


「サノラ・ケハト家の紋章に修道院の制服、お前はひょっとして神楽坂、か?」


「は、はい、えっと、ドクトリアム卿に後ろ盾をしていただいている、神楽坂イザナミ、です」


「神楽坂! そうか! お前が神楽坂か! あのドクトリアムが後ろ盾なんてやるからどんな人物かと思っていたんだ!」


 とガシッと肩を掴むと、凄い顔でじーっと見つめる。


 な、なんだろう、急に。


「ほほーう、これはビンゴかもしれないぞ!」


「へ?」


「お前これから予定あるか?」


 予定、あると言えばあるけど、まさに用件が目の前にいるんだよな、言えんけど。


「えっと、クォナ……嬢の付き添いで来たので」


「なるほど分かった、おい」


 と王子は通りすがりの使用人に声をかける。


「クォナに客人と共にいると伝えてくれ」


 王子の命令に使用人は「かしこまりました」と恭しくお辞儀をして去っていった。


「よし、これでオーケー! さて、自室に戻るとパグアスクが見つかるかもしれないからな、秘密基地に行こうぞ!」


 と強引に手を引かれて付き合うことになったのだった。


 そうか、王子だから原初の貴族は直属の部下になるから、まさにこれでオーケーなのか。


 変な感じだが、このやりとりで本物の王子なんだなぁって思ってしまった。




後編は明日投稿します。

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