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第51話:王城にて



 ウィズ王国が統一戦争に勝利したとき、本拠地である城は王立修道院の建物を使用していた。


 今の城はウィズ王国が強大になり、城を建築した。城といえば戦争のために使うものであるが、その目的を果たしつつも平和な世の中では国家の象徴や、国家政策や所掌事務を担当するものとなっている。


 王族の住処であると同時に国家機関の最上位である王国府の本部でもある。


 その城への入るためには、王族、貴族及び準貴族、王国府職員、その他許可を受けた人物のみ。


 この中で俺は準貴族のカテゴリーに入るそうだ。だからこそサノラケハト家の紋章をつけている。


 ここがウィズ王国の中心、王城には修道院時代に研修という形で入ることがあったが、この独特な雰囲気に圧倒されて言葉も出なかったことを覚えている。


 2度目とはいえ、やっぱりここは凄い、だがここでオロオロしてはクォナに恥をかかせる、んで件のクォナからはとにかく黙っているようにと言われた。


 現在は、アレアに会いに彼女の自室に向かっている最中なんだけど……。


「うーん」


 思わずうなってしまう。


「どうしましたの?」


「いやさ、そういえば、王国府って、何かを忘れているような気がするんだよ」


「?」


「別に忘れてもどうでもいいことなんだけど、なんだっけなー」


 と思った時だった。



「よう、神楽坂」



「うげっ!」


 そうだ、声を聴いて思い出した、そういえば王国府って……。


 振り向いた先。


 取り巻きを連れたモストがいた。そうだ、モストの赴任先だったな。取り巻きを連れて俺を見下すようにニヤニヤしている。懐かしいな~、この感じ。


「おい」


 と、少しだけ声を荒げて、クォナ嬢をチラチラと見ながら俺に迫ってくる。


 次の展開が容易にって全く一緒じゃないか、それにしても、アイカはいいのか、まあ、片思い中だから何も悪くないんだけども。


「俺に挨拶がないのはどういうことだ、挨拶は人としての基本中の基本だぞ、それすらも出来ないのか?」


 この様子を見ると俺がここにクォナと来たことは知っていた様子、そっか後ろ盾になっているから、当然俺がクォナと一緒に来ることは事前に話を通しているのね。


(うーん)


 適当にいなしてもいいが、意図はどうであれコイツの親父さんのおかげで日本に帰らずに済んだのは事実で、そうでなければこうやって絡むこともなかったわけだから、ここは普通に大人の対応をするか。


「悪かったよ、だが原初の貴族の次期当主がどれぐらい強くてヤバイのはドクトリアム卿のおかげでよくわかった。逆にサノラ・ケハト家の後ろ盾を得たからこそ、同期面して近づくのはお前の評価を落としかねない、何故ならお前なら「俺の噂を知っている」だろ。これでも気を利かせたんだぜ」


 まあその噂を流したのはお前だけどな、とは言わない。


(というか、今が気が付いたけど、このままのモストと絡んでいるとまずくないか?)


 と俺の心配をよそにモストは得意げにニヤニヤと笑う。


「ほう、無知なお前が少しは理解したと見える、成長したな」


 とつかつかと俺の横を通り過ぎると、クォナに膝まづく。それを見たクォナは自然に手を差し出し、モストはそれにキスをする。


「クォナ嬢、王主催の社交以来ですね」


「はい、モスト子息」


「あの時は貴女のおかげでとても楽しい時間を過ごせました、感謝いたします」


「まあ、サノラ・ケハト家次期当主に言われるなんて、光栄の至りですわ」


「光栄だなんて、むしろ相手をしていただいてた私の言葉ですよ、社交界にあなたのファンは多いですから。上流の至宝と呼ばれる貴方はまさに理想の女性だ、そう思っている紳士は私だけではなく大勢いますからね」


「あらあら、あまり持ちあげないでくださいませ、本気にしてしまいますわ」


「だからこそ、一つお話があってきたのです、神楽坂を連れてくると伺っておりましたので」


「……まあ、是非伺わせてくださいませ」


 モストは声を潜める。


「クォナ嬢、この男と付き合いがあるのは分かりました、だからこそお気を付けください」


 潜めつつも俺に聞こえるように、俺の方を見ながらモストの言葉にクォナはぴくっと少しだけ動く。


 やっぱりこうなった、だけどこのボンボンは気づかずに進める。


「神楽坂は今はまあ、我々原初の貴族についての少しだけ理解しているようですが、修道院時代はそれこそ無能を絵に描いたような奴でして」


「…………」


 クォナは笑顔を全く崩さない、その代わり青ざめたのは侍女達と俺だった。


「修道院は、学術機関ではなく政治機関である。そんなものは常識であるはずなのに、それを理解せず一切の努力をしなかった。だが外国人であるが故の悪賢しさでしょうか、それだけは大したもの、私も振り回されて一度被害に遭っておりますから」


「あらあらそうなのでございますなのでしょうか」


「私がここに来たのは、そのことを教えて差し上げたく参上した次第なのです。すぐにピンときましたよ、この男が貴方の噂を聞きつけ鼻の下を伸ばし、我が家の名前をバックに近づき、貴方の優しさに付け込む形で無理矢理ついてきたのでしょう?」


「そんなことありませんわ、かぐらざかちゅういは、わたしのだいじなおともだちですもの」


「まったく、貴方は本当に優しい方だ、そこが魅力的ですけど。おい神楽坂、聞こえたな、聞こえるように言ったのはお前の為に言っているんだぞ」


「ああ、分かったよ、恥をかかせるなと言いたいのだろう」


「ほう、お前にしては理解が早い、やはり少しは自覚が出て来たか、遅すぎるがまあ褒めてやろうか。それではクォナ嬢、もし神楽坂のことで何かあれば私を頼ってください。なに、後ろ盾はお父様ですが、こいつを躾けるのも次期当主としての私の仕事、それに私は貴方のファンですから」


「あらあらまあまあうふふ」


「それでは貴重な時間をありがとうございました、失礼いたします」


とそこだけは流石貴族なだけあって振る舞いだけは優雅にクルリと後ろを振り向き立ち去ろうとした時だった。



「劣化コピー如きが」



 底冷えするクォナの声と表情にピシっと空気が凍る音がした。


「え?」


 それに全く気が付かないモストは良く聞こえなかったのか再びこちらを見て首をかしげる。


「? どうかされましたか?」


 そんなモストに、上流の至宝モード笑顔でにっこりと笑うクォナに見る見るうちに鼻の下が伸びるモスト。


「い、いえ、あはは、おい神楽坂、さっきのお前の言葉だが、お前のせいで俺が恥をかくのは構わん、だがクォナ嬢に恥をかかせるなよ、お前は何もするな、分かったな、命令だ」


 といって上機嫌に今度こそ立ち去った。



「「「「ふぅーーー!!」」」」



 モストが見えなくなってしばらくしたところで俺も含めて息を吐きだす。ってなんで俺まで緊張しなくちゃいけないんだよ。


「マスター、ここは公の場です。発言には気を付けてください! 相手は原初の貴族の当主筋なのですよ!」


 公の場という事でセレナが侍女モードで窘める。


「ふん、聞こえたところで理解などできないでしょう、ああ、そうだ、神楽坂中尉♪」


 そしてクォナは微笑む、その笑顔は男を安心させ魅了し、清楚で可憐で男の理想を体現したような女の子、そんな女の子がこう言った。


「騎士たちを使ってあの劣化コピーにうまい具合に恥をかかせる企画を思いつきましたの。しかも神楽坂中尉の株を上げて、サノラ・ケハト家に恥をかかせず、あの無能だけに恥をかかせる一粒で三度おいしい企画が♪」


 その内容をなんでその笑顔で言えるの、怖い、怖いの。


 そしてクォナから聞かされた、その企画の内容についてだけど。


 要は、あれです、男のプライドをズタズタにされた挙句、一切の逃げ口上を塞ぐやつでした。


「さあ、なら話は早い、私を怒らせるとどうなるか思い知ってもらわないといけません、まずは××を用意して」


「ちょっと待って! やめよう! ね? そりゃムカつくよ? だけどほら、あの、そうだ、原初の貴族の当主のプレッシャーとかがあるんじゃないかな?」


 ってなんで俺がフォローしてんだよ。


「まあ、流石ご主人様、お優しいですのね。まあ、ご主人様もアレが劣化コピーだからこそ腹が立っても放置しているのでしょう?」


「え? ま、まあ、その、うーん、そうかなぁ?」


「クスクス、私にはわかりますわ、今後上流で活躍するうえで、あんな分かりやすい雑魚は駆除するよりも放置した方が役に立ちますからね」


「う、うん、そ、そうだね、だからクォナ、その辺で、ね? 今はモストよりも大事なことがあるじゃないか」


「そうですね、思わぬところで時間を取られてしまいましたわ」


 と再び歩き出す、まだ怒りは収まっていないようでリコとシベリアがなだめているけど……。


(劣化コピー、か)


 クォナは先ほどモストをそう表現した。当然これは「ドクトリアム卿の劣化コピー」ってことなのだろうけど。


 正直、俺も同意見だ、だがあくまでそれは俺が異世界の人間でウィズ王国のことを全く知らないからだと思っていた。


 そもそもアイツは首席だ。貴族枠での首席は快挙、んで俺自身アイツの首席を成績操作だとは思っていない。能力の高さは望まぬこととはいえ絡むことは多かったからよくわかるし、その能力に胡坐をかかずに努力していたからだ。


「あのさ、セレナ」


「なんです?」


「さっきさ、クォナはモストのことを、劣化コピーとか言っていたけど、あれって、クォナ個人が感情に任せてそう言っているだけ?」


 俺の言葉に少し悩むそぶりを見せて後に、首を横に振る。


「原初の貴族にはそれぞれに家ごとのカラーがあるのだけど、サノラ・ケハト家は、職務内容がお金に絡むから、当主は名君であると同時に暴君である必要があるの。その点では両方を満たすドクトリアム侯爵閣下は歴代の当主の中では屈指の名君といってもいい」


「……なるほど、父親の名君が理解できないから見習う事が出来ず、だから安易に暴君が名君であると理解したわけか」


「そうよ。そしてさっきのクォナじゃないけど、ドクトリアム侯爵閣下よりも、モスト子息の方がやりやすいのはわかるでしょ。だからドクトリアム卿が早く引退してモスト子息に当主を告いでほしいと思っている上流の人間は大勢いるよ」


「足の引っ張り合いは普通って言ってたよな、なんか世知辛い話だ、ある意味アイツも、俺と同じでドクトリアム卿の庇護下にあるわけか」


 俺は最悪切られても大丈夫だ、上流ではなくなるだけ。しかも仲間たちは優秀で、着実に地盤を築いている。そういう俺も今は神の力を使って身を守る覚悟はできている。


「モストは大丈夫なんだろうか、次期当主として、自分の風評に本当に気づいていないのか、それを知りつつ暴君であることを逆に変に誇りに思って危機感を持っていないのか」


「あんな言われ方をした相手を心配するなんて、お人好しだね。でも繰り返すけど原初の貴族は組織力、それにモスト子息は妹君がいて彼女のサポート能力はずば抜けているの、彼女を当主補佐におけば、名君を妹が担当してくれるよ」


「問題なのはその優れた妹を自分の傍に置くかなんだよアイツは」


 コルト達取り巻きを連れているあたり、あれが直らない限りいいようされると思うが、さて、まああいつはアイツで頑張ってもらうとして、今は気合を入れないとな。


 さて、まずは王子の想い人、アレアに会って話を進めないといけないからな。


 と気合を入れなおしたのだった。





1話の文章量についてはしっくりこないので戻します(汗)すみません。


それと本日より「異世界高校生活」の連載をスタートしました。軽く読める異世界ハーレム短編連作なのでそちらもよろしくお願いいたします。

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