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第50‐3話:シレーゼ・ディオユシル家の一幕③



「ヒック、グスッ、ヒック、グスッ」


 半泣き状態の俺。あの後、なんとか脱衣所から逃れようとしたところ、なんと向こうも全裸で追いかけてきた。


 自室であるので裸で問題ないらしいという意味不明な文言のもと追いかけられ、恐怖のあまり足がもつれてこけたところを捕獲されて万事休すとなったところで、再びシベリアが一喝し、今はお互いに服を着てクォナの自室に用意された俺の自室で侍女3人組と共にいる。


「もう、ご主人様、身持ちが固いのは結構な事ですが、固すぎるともどうかと思いますわ」


「どうかと思うは、グスッ、こっちの台詞だよ、ヒック」


 傍ではむくれるクォナ、しんどかった、凄いしんどかった。そっかー、ラブコメの主人公ってこんなに辛いことを毎回耐えているのか、凄い精神力を持っているんだな。ヘタレとか思ってごめんなさい。


――「あ! そうだ! 次の男の浪漫話は「美少女と一緒にお風呂」にしよう!」


「ふぐうぅ!」


 変だなぁ、願いは叶ったけど、上のフレーズがどうしてトラウマになるの、俺の令嬢トラウマが加わるの。


「クォナ、いい加減にしないとホントに嫌われるからね」


 シベリアにたしなまれてやっと少し機嫌を直したクォナは立ち上がる。


「まあいいですわ、明日もあることですし、今日は諦めます、おやすみなさいご主人様」


「……夜這いをかけるんじゃないぞ」


「それはパターン57の話でしょうか?」


「知らんがな! 駄目絶対ダメ!」


「まあ今日はご主人様の裸が見れたので、それを慰みものとしましょう、セレナ、部屋の説明はお願いね」


 シベリアに背中を押される形で部屋を後にした。ってなんかさり気なく凄いことを言っていたような気がするが辞めておこう。



 クォナが立ち去り、ここでセレナと2人だけになる、俺に用意された部屋は本当の「豪華な部屋」なのだが生活に必要なものが一通りそろっている。


「…………」


 その説明を聞きながら、ぼんやりと思うことがあった、それはその、さっきのクォナに感じていた違和感についてなんだけど。


「以上です、何か質問はありますか?」


 セレナの言葉、そういえばセレナは付き合いの長い友人だって言ってたよな。


「なあ、セレナ、部屋の質問は無いけど、ちょっと、クォナについてなんだけど、いいか?」


「……どうぞ」


「そのさ、あの、その、笑わないで欲しいし、呆れないとか、自意識過剰とか馬鹿にしないで欲しいんだけど……」


 俺が何を言いたいのかわかったのだろう、黙って続きを促すセレナ。


「クォナは、まだ、その、俺のこと好きだったり、するのかなぁって?」


「そうですよ」


「そ、そっか、となると、なんだけど」


 そう、クォナの違和感を俺への恋愛感情だと仮定すると……。


「あの報酬の話はさ、俺に会いに行けるとか、俺の為になるからとか、その口実造りのためとかー、あははー」


 セレナは無言でコクリと頷く。


「はは、そう、なんだ……」


「よくわかったね」


「まあ、あれだけ露骨だとさすがに……」


 それに加えて俺は説明する。


 俺が最初推理した「神の力を当て込む」ということ、となれば依頼内容は当然にその状況に持っていくと考えていた、


 だけど現実は何もしなくても後はお互いの気持ちを確認して達成できる状態の状況だ。


 仮に向こうに脈がなくともそれこそ神の力を使えば簡単だけど、それは洗脳だからやらない、そして俺がそれを絶対にしないことは向こうも知っている。


 んで、さっきのクォナの状況を見て、つまり俺はビジネスパートナーじゃなくて。


「そう、その、恋愛対象だったのかなぁって考えたんだよ」


 セレナはたどたどしい俺の説明を黙って聞いているセレナ。


「それにしてもさ」


 ここでセレナは何故か少しケンのある口調で話しかけてくる。


「アイツの本性、言いふらしたりはしないのね」


「……は? なんだそりゃ、そんなことをするように見えるのか?」


「足の引っ張り合いなんて、上流じゃ普通よ」


「…………」


「だからクォナのことは応援したいけど、正直現実感が無かったの。男たちがクォナに押し付ける妄想ってさ、本当に身勝手なんだよ、クォナが汚らわしいことをしない女だって、本気で思ってるの」


「そういった男たちがクォナの本性を知ったら、勝手に夢見た癖に勝手に夢破れたとか裏切られたとか気持ち悪い反応を示すか、したり顔で「俺は最初からそう思っていた」とか言い始める卑怯な奴らも出てくるだろうね」


 セレナの吐き捨てるような言葉に、胸が締め付けられる。


「それにね、クォナだって敵はいるからね」


「敵?」


 敵というのがあまりピンとこない、クォナは原初の貴族ではあるが政治舞台に立つような人物ではないように思えるからだ。


「そう、敵、同性の嫉妬を凄い買っているのよ」


「そ、そう、なの?」


「例えばある女がある男を好きになった、しかしある男はクォナのことが好きだった。これを一つだけとっても、ひたすら続く、女の嫉妬は凄いよ、興味があるのなら教えてあげるけど、聞く?」


「いや、いい、本当に凄そうだ、女性不信になりそう」


 正直な俺の言葉にふふっと吹き出すセレナ。


「まあ私達はそういった嫉妬から守るのも仕事のうちよ、男相手ならともかく、女同士で渡り合うためには一瞬たりとも気が抜けないからね」


「怖いなぁ」


 そういえば、親戚の女の子も似たようなこと言っていたな、女の敵は女だって、それを聞いた当時は中学生だったが、同世代女子が裏でそんな凄まじい戦いを展開していることを知って、しかもそれが男が全く気が付いていないという事実に背筋が凍ったっけ。


「だから聞きたいの、貴方はどうして言いふらさないの? さっきも言ったけど貴方からクォナの悪い噂が流れる前提で私たちは動いていた、流れた際の対策も立てていた、だけどあれから一か月、全然噂が流れる気配がなかったのよ」


 真剣なセレナの問いかけ、その顔を見ると同時に俺の身上調書を思い出す。


 やはりアレはセレナ達が調べて作ったのか。そしてあの内容は明らかに、俺が噂を流すものとして想定していたからあんな内容だったのか。


「そっか、やっとわかった、心配だったんだな、クォナのこと」


 そう返されるとは思わなかったのか、びっくりした様子のセレナ。


「心配って……」


「いや、俺に対してさ、どことなく辛辣だなとは思っていたんだ、確かに俺だって友達が変な女に引っかかりそうになったら、止めるし、その女に対して辛辣な態度になるよな」


「べ、別に、変なって、そこまでは思っていないけどさ」


「いや、いいよ、というかクォナのことを考えれば疑うのが当たり前だと思う、って俺だって最初はクォナのこと、深窓の令嬢とかで鼻の下伸ばしてたから余り大きなことは言えないんだけどな」


「…………」


 俺の真意を計っているかのようなセレナに俺はお構いなしに続ける。


「んで、どうして言いふらさないんだって言ったよな、それこそ今言った理由がそのままだよ、セレナ達がクォナの「仲間」だからだ」


「私達?」


「そうだよ、足の引っ張り合いが普通なら、それこそセレナ達はどうして言いふらさないんだ?」


「どうしてって、クォナとは友達……」


 とここまで言いかけたセレナの言葉に俺はにっこりとほほ笑む。


「さっきセレナの言ったとおり上流に噂ですらも流れていない時点で、3人はちゃんとクォナの秘密を守る関係であることが分かる。それだけで仲間なんだなって思う。俺が言いふらすってのはクォナ達4人のそういう信用と信頼を裏切る行為だ、だから黙っていたんだよ」


「……変な奴、あんなに怯えてたくせに」


「男は情が深いんだよ、分かんないかねー」


「少しはましな男ってこと?」


「違うよ、カッコつけてるだけ、さっきも言ったろ、俺だって押し付けるよ、女に対して身勝手な妄想」


「男なんてヤリたいだけの生き物だと思っていたんだけどねー」


「男のそういう部分は否定しないけど、それで男を一括りにするのは舐めすぎ。そもそも自分を好きになってくれた子に対して、そんな欲望のはけ口になんてできるわけないだろ」


「ふーん、かっこいいんだねー」


「だからカッコつけてるだけだよ、明日も同じ事されたらわかんないし……ってやらないよな? 大丈夫だよな? そこのところどうなんだ?」


「…………………多分」


「ってちゃんと言ってくれよ! さっきも言ったとおり限度があるんだよ!? イヤホントにマジで!!」


 セレナは必死の俺の抗議にもクスクス笑うだけ。


「ま、フォローはするよ、神楽坂中尉のクォナへの態度が変わったことだし」


「まあ、今じゃ本性の方がずっと付き合いやすくて好感が持てる、こんなことを思うなんて自分でもびっくりだ」


「ん、わかった、一応、安心したかな」


「うん、安心に応えるように頑張るさ」


 とセレナとお互いに笑いあった時だった。



「ふおっ!」



 なんだろう、急に悪寒が、背中に再びツララを突っ込まれたようなと、ブルブルと思ってあたりを見渡すと。


「ひっ!」


――いつの間にか半開きのドアから目のハイライトが消えた状態でクォナがこっちを見ていた。


「な、なな、なに!?」


「いえ、私の友達と仲良くするのは、喜ばしいことだと思いまして、おやすみなさい」


 とゆっくりと音もなく扉が締められた。


「っ! っっ!」


 口をパクパクとドアを指さしながら無言で何かを言いかける俺にセレナはこともなげにこういった。


「大丈夫よ、慣れるから」


「慣れるかなぁ!?」



――クォナの自室



「良かったじゃない、脈がないってわけじゃなさそうよ」


 神楽坂の部屋を後にしたセレナは、クォナの自室でクォナに話す。


「う、うん……」


 ぼんやりと虚空を見つめるクォナに微笑ましい顔をして見つめる。


「神楽坂中尉、意外とちゃんと思ってくれていたんだね」


「そ、そう、よね……」


 どこか心ここにあらずのクォナは、そのままポスっと枕に顔を埋める。


「今日は、日課、やらないの? シベリア呼んでくる?」


「そんな、気分じゃない……」


「わかった、お休み、クォナ」



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