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第49‐1話:万能の弱点①


 自警団。


 憲兵が常駐しているのは4等都市以上であり、辺境都市の治安維持には都市自体が担うことになり。その組織が自警団である。


 自警団は憲兵の権力は持たないが委託という形式をとっており、非常時には憲兵と連絡手段が取れるようになっている。


 この決まりは各辺境都市の中で様々に利用している。


 例えば遊廓都市マルスなんかはこの決まりを利用してロッソファミリーの構成員を配置し、自分たちの都市の治安維持機構を握っていた。


 この方式は活動単位が小さいからこそできる手法であり、ウルティミスはセルカに街長が代替わりした後も、街の十代の若者たちにアルバイトという形で自警団をしている。


 見回りも必要ない、特段することもない自警団の主な任務は来訪者の受付だけ、自警団として登録してノンビリしていれば小遣いが得られるという事で誰も断る者もいない。


 以前は交代で高等学院を休むことになったのだが、今では私立ウルティミス学院設立により、普段は母校に通いつつ自警団の時は地元の学校に通うという事が出来ている。


 レティシア赴任の後は彼女に憧れる自警団員が自主的に任務に就くという形で常駐する自警団員が増えた、なんてのが実情だったりする。


 そんな自警団ではあるが、ウルティミス正門脇に設置されている自警団の詰所は異様な熱気に包まれていた。


「はあ……はあ……」


 詰所にこもる熱気に感じ少し息苦しさを感じるが、それさえも心地よい。


 ごくごくと飲む水を飲むと体にダイレクトに吸収されるのを感じる、のどがカラカラに渇いていたのだ。


 俺はのどを潤すと自警団の連中に話しかける。


「諸君、素晴らしいな、この世の全ては男の浪漫に溢れているのだから」


「ああ、団長、俺は、幸せだ」


 団長とは俺のことだ、ここで言う団長は自警団をささない、男の浪漫団だ。


 男の浪漫団とは男の浪漫を追求するのだ、具体的に言うと女の胸と尻という基本事項はもちろんのこと、手首足首といった関節、果ては女の髪留めといった無機物までに消化させるのが浪漫、つまり全部だ。


 当然女人禁制、男の浪漫なんて所詮は女は理解できない、なんだけどもキモいとか思われるのは傷つくからヤダというそんな我儘な自分たち大好きな集団。


 俺は男の浪漫団では年上という事もあり少し経験した兄貴分という事になっている。


 今回の議題は基本に立ち返り女のおっぱいの「威力」についてだ。いわゆる男の永遠のテーマ、巨乳か貧乳かというものであった。


「それにしても流石団長だぜ、巨乳派と貧乳派の違い、好きであることの形がなんなのかってのが、成程って思ったよ」


 浪漫団の1人が話しかけてくる。


「ああ、巨乳派は貧乳が嫌いってわけじゃない、貧乳派は巨乳が嫌いってわけじゃない、超好きか大好きの違いしかないってな、俺は巨乳派だけど、とにかくおっぱい凄い見たいじゃないか、男なら全員そうだろ?」


 俺の言葉に「ふっ」とニヒルに笑いながらサムズアップする浪漫団員。


 そんな魂の繋がりに包まれていると、ここで別の1人の浪漫団が訝し気に俺を見る。


「なあ団長、聞きたいことがあるんだけど」


「ん、なんだ?」


 俺のことをまじまじと見ながら探るように発言する。


「なんかさ、さっきのおっぱいの話してた時にさ、実感がこもっていたっていうか、そんな感じがしたんだけど、ひょっとして、なんか、経験した?」


 ほほう、前々から思うがこの男は案外目敏いのだ、細かい変化によく気が付く。


 彼の言葉を意味することが皆に伝わり「まさか」という視線が俺に集まる。


「ちょっと、な」


 俺の言葉に全員が「マジかよ!」と騒ぎ出す。


 まあ俺の言葉に嘘はない、えーっと具体的にはメディのね、裸をね、うん、まああれは研究の一環だったし、色気は全然ないけどさ、嘘はないよ嘘はね。


 俺の雰囲気に浪漫団員達は「やっぱりだ」と言って全員でこう言った。



「「「「やっぱり街長とデキてるって噂本当だったのか!!」」」」



「そんな噂が流れてんの!!??」


 仰天する俺に浪漫団はヒソヒソと話し始める。


「あの様子見ると、なんか違うみたいだぞ」

「だから言っただろ、ほら、あの美人将校さんだよ、憲兵の、そうだ、アイカ少尉だ、あるじゃん、普段は全然異性だって意識してなくて、男友達みたいだと思っていたのに、突然かわいく見えたとか!」

「かー! 憧れる! ってそうなの中尉!?」


「違うわ! あいつとは友人!!」


「「「「まさかレティシア先生!! いくら中尉と言えどそれは許せねえ!!」」」」


「ちがーう!!! あいつも友人なの!!」


「じゃあ誰なんだよ?」


「え!?」


 前にも少し触れたがメディはセルカの指示でウルティミスの医者としても活動してくれている。


 なんかこう、これを話してしまうのはメディに急に悪い気がしてきたぞ。


「ま、まあ、ウルティミスに来る前に、日本で、少しな」


とそこは大嘘をつく羽目になったのだ、うん、今後あんまり見栄は張るのは辞めよう。


「で?」


「で? ってなに?」


「感想だよ! 感想! ここまできてダンマリは無しだぜ! なあ皆!」


 全員が頷くと口々に嘆きだす。


「俺も女の裸とか見たことない!」

「俺はかーちゃんしかないよう!!」

「泣くなよ、みんなそうだから」

「お前は妹居るじゃねえか! 可愛い感じの!」

「ふざけんな! あれをカウントに入れるなよ! 可愛いとかいうのマジ辞めろ!!」


「なあ、中尉! 教えてくれよ!」


 全員が俺の注目する。そうか、そうだよな、知りたいよな。俺は立ち上がり壇上に立つと全員を見渡す。


「諸君、夢を見た人間が現実を知るってのは、あまりいい意味では使われないよな」


 俺の言葉に全員が少し不安そうな顔をするが。



「だが喜べ、現実は夢を超えるぞ!!」



 俺の言葉に、呆ける浪漫団員。


「よく考えてみろ、男はそれこそヤド商会長世代だっておっぱい大好きだろ? マルスだって男たちは皆行くよな? その男たちはおっぱいがどんなものかって現実を知ってるだろ? それでも醒めない、いやむしろ燃え上がる! つまり、もう本当に凄かったデス!!」


 俺の言葉に一泊置いた後「うおおおお!!!」と騒ぐ浪漫団。


「俺もいつか、可愛い彼女を作って」

「いいなぁ、おっぱい見たい、出来れば揉みたい」

「だからお前妹居るだろ?」

「辞めろよ! あれをカウントとか死ぬから! 割とマジで死ぬから!!」


 ギャーギャー騒ぐ自警団員たちに思わず笑みがこぼれてしまう。


(ああ、いいなぁ、心が癒される、俺の令嬢トラウマが流されていく……)


 令嬢トラウマというパワーワードよ。思えばあの令嬢トラウマから一か月ぐらいしか経っていないけど、もうずいぶん昔のように思える。


 トラウマなんて言うが今ではいい思い出だ。しかも結構すごいぞ「貴族令嬢にお茶会に誘われたのだぜ」なーんて、自分でもびっくりなことが本当なのだから。


 まあ、あれをモテたカウントしていいかどうかは置いて、いやカウントしよう、記念すべき1人目。見た目は超絶美少女なのだ、人は自分に都合よく修正する生き物なのだ。あんな美少女にモテるなんて、もう人生で無いことなんだから文句は受け付けない、まあ言わんけど。


 今こうやって余裕を持てるのもこいつらのおかげだ。こうやって女がいたら絶対に軽蔑されるだろう浪漫話を出来るおかげだ。


 そんなギャーギャー騒ぐ中、自警団の1人がおずおずと発言する。


「俺さ、その、おっぱいも好きなんだけどさ、こうあの、笑わないでほしんだけど、憧れる女像みたいなのがあってさ」


 彼の発言に全員の注目が集まる、憧れの女像か、俺はそいつの肩を抱く。


「笑うもんか! 男は女に夢見てナンボだ! なあみんな!」


 俺の呼びかけに全員が「いいぜ!」「男なら誰だってあるよな!」と口々に讃える。嬉しそうな顔をすると男は「ありがとう」と礼を言った後思い切った様子でこう放った。



「深窓の令嬢とかに憧れるんだ!」



「…………」


「「「わかる! 夢だよな!」」」


 自警団員が群がる。


「本当は存在しないってさ! わかってるけどさ!」

「ウルティミスの女はガキだし! 怖い女ばっかりだし!」

「でもひょっとしたらさって思うよな! 1人ぐらいはいるんじゃないかな!?」

「いるよ! 絶対に! 1人ぐらいはさは! いるって信じてもいいじゃないか!」

「あ、みんないいかな? それとさ、その深窓の令嬢がさ」


「貴族令嬢なら尚最高だよね!!」


「「「「「わかるわー!!」」」」」


「…………」


「って、おいおい団長何黙って、ってなんで泣いてんの!?」


「……え?」


 指摘されてそっと目じりを拭うと確かに俺の手に涙の感触があった。


 あれ、俺いつの間にか泣いていたのか、変だな、どうして泣いたんだろう。


「団長……なにかあったのか? 何かあったんだったら話してくれよ」


「あ、ごめん! いや、なんでもないんだ!」


 俺は彼の肩を抱く。


「俺も大好きだぜ! 深窓の令嬢! いいよな清楚な女の子って! 男の浪漫だよな!」


 俺のことを深く聞かず、全員で肩を組んで笑いあう、そんな男の情がありがたい。


 いいのさ、これで、現実を見ない? 何言ってるんだ、ちょっとぐらいはいいだろう。ここには男しかいなくて、男の夢を語る場なのだから。



「ふおっ!!」



 え、なに、今の……、体に凄いこう、ツララを突っ込まれたような感じがした。


「あ、あのさ、なんか、さ、寒くないか?」


「そう? 丁度いいと思うけど、風邪でもひいた?」


「うーん、うん? いや、これは寒気じゃないな、これは、悪寒か、ブルブル、誰かが俺の噂しているのかも」


「まあ団長も今は上流だからなぁ、いろいろ言われているんだろう、いや~信じられないよ、最初はどこのホームレスかと思ったから」


「上流、って言われても全然ピンとこないけどな、俺だって未だに信じられないぐらいだからな、やってることは全然変わらないし」


「まあそこが中尉らしくていいじゃないのか」


 と「はっはっは」と笑いあう中、カランカランと鳴り物が鳴る、来訪者だ。


「っと、次は俺達か、行ってくるよ」


 自警団の2人が、そのまま詰所を後にして正門へと向かった。


 ちなみに来客の応対は当番制、といってもウルティミスを訪れる客なんてあんまりいないからな。


 さて、応対中は男の浪漫話は中断と気が緩んだのもつかの間。


「って、たたた大変だ!! たたった大変だああぁぁ!!」


 1人が急いで戻ってきた。どうしたのかと注目するが地団太を踏みながら叫ぶ。


「すごい! もう! すごい、凄い美人が! もう、もう!」


 そのまま言葉が紡げなく顔を真っ赤にする。


「落ち着け! どうしたんだよ?」


「すす、すごい、凄い美人が! 来て! それがさ! 中尉に用があるんだって! 大事な用事が! 何処で待ってもらえればいいかな!!」


 俺にと視線が集まる。


――美人来襲。


 ふっ、それを受けて俺はスマートに立ち上がる。


「よかろう、拠点の応接スペースに通し、準備をするからしばし待たれるよう伝えてくれたまへよ」


 と俺はこれが現実の続きであり夢の終わりであることを露知らずだったのだ。



 俺は拠点に戻り修道院の制服に着替える。純白の制服はそれだけで男前度を上げてくれるのだ。


 口臭よし体臭よし。


 俺はそのまま応接スペースに向かう時だった。


「えっと、俺、剣術が得意で!」

「ずるいぞ! 俺はその、勉強なら人よりも!」


(おおう)


 凄い、部屋に入る前から扉越しでみんな競い合うように話しかけている声が聞こえてくる。その声も弾んでいて、まるで憧れのアイドルを前にした少年たちのようだ。


 美人、なんて意外と人によって違うから当てにならないけど、本当に凄いのか、これは気合を入れないとな。


 俺は最後に咳ばらいをすると、ガチャリと応接スペースに足を踏み入れた。



――踏み入れた先、団子状態になって目を輝かせる自警団の対面に彼女はいた。


――そう、それは男の憧れだった。


――清楚な美人。


――上流の至宝と例えられる、絶対不可侵な存在。



「ごきげんよう、神楽坂中尉」



――クォナ・シレーゼ・ディオユシル・ロロスがそこにいた。



「はあ! はあ! はあ!」


 俺は古城の中をひた走る。


「なんで! なんで!! なんでいんの!? なんでいんの!!??」


 変だ、ちゃんと断ったはず、その彼女がどうして、どうして。


 まあいい、それは後でゆっくり考えよう、まずは古城を出て、子供たちと遊んでいるルルトに加護を込めてもらって、あいつらが帰るまで身を隠して……。


「どちらへ行かれるのですか?」


 とその想いをはあっけなく崩れる、古城の正門に立つ1人の女性、亜人種とのハーフである彼女はすぐにわかった。


「シベリアか! くそう!」


 そのまま再び反転しようとして立ち尽くす。そこには侍女3人の仲では少し幼い女の子がいた。


「リコ!」


「神楽坂中尉、女性の顔を見て逃げるなんて大変に失礼な事ですよ」


「失礼とかお前らが言うな!」


 この2人相手か、くそ、相手が悪い、女性だと侮るなかれ、軍事訓練を受けている彼女達2人を相手に俺1人じゃ普通に勝てない。


「な、なんなんだよ、何でお前らがここにって、はっ! まさか!!」


 そう、俺は愚かにもようやく気付いた。


 あの時はテンパっていて幻滅すればそれで終わりだと安直に考えていた、そうだよ、幻滅して終わりじゃなくて、それはこんなふうに……。



――「許せない、このクォナの誘いを断るなんて、私に恥をかかせたこの罰、どうしてくれましょう、そうだ、まずは軽く爪を剥いでさしあげますわ♪」



「ひ、ひぉぉぉぃぃぃぃ!!! いいいいか!! おおお俺に手を出すってことは戦うぞ!! ウウウウルティミスにも手を出そうってのも俺は全力で戦うぞ!! 原初の貴族がなんぼのもんじゃい!!」


 壁にしがみつきながら生まれたての小鹿状態で必死に猛抗議する俺。


「落ち着いてください、マスターはちゃんと用件があってここに参りました」


「なな、なんだよ用件って!」


「ここでは言えません、事情をお察しください」


 あくまで冷静さを崩さないシベリアの口調。まあ普通に考えればクォナの許可なく言えるわけがないのは当然に理解できるが、その当然に理解できないことをやってのけるが、あの深窓の令嬢だ。


 だがこのままでは話が進まないのも事実、むう、この感じだと逃げて事は解決しないから……。


「…………信じるからな、いいか、本当に信じるからな!」





第3章開幕です!


前章は、3日に一度でしたが、今回は適宜投稿していきます。


不定期になりますがよろしくお願いいたします。

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