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おまけ:カグラザカ大戦4 ~恋せよ乙女~



 あの後、クォナはカイゼル中将とタキザ大尉に対してこう説明した。


 俺はリコを助けるために正々堂々とボニナ族の掟をもってタドーと闘い、俺が勝利。


 この勝負と正々堂々の敗北をタドーの汚名をそそぐ形として、元より掟とはいえ無関係の人間を巻き込むことに罪悪感を抱いていた街長が取りなし、事件は解決した。


 という雑なまとめ方を生まれたての小鹿状態の俺の横で、クォナは感謝した様子で話していた。


 いや、真っ赤な嘘ついてますよこの深窓の令嬢は。


 それも恐ろしいけど、そんな不自然な状況なのにカイゼル中将もタキザ大尉も疑う様子もなく、その後ろでそうだったのかという事情を知らなかった友人たちが俺を騎士の仲間入りだと歓声を上げたのがもっと怖かった。


 そうか、あんなんだったんだなぁ俺……。



 こうやって一つの事件が終わった。


 1人の男が多くのものを失って。


 だけど……。


 人間は成長するものだ、あの時のことは今になって思えば、俺にとって大人の階段を上るための試練だったのかもしれない。


 男にとっての成長は、心の中にいる小学生の自分に「大人の男はこうなんだよ、でも男の浪漫は変わらないよ」と教えることだ。


 今の俺は間違いなく小学生の自分に本当の意味での男の浪漫という奴を教えることができると思う、だからかな、試練を乗り越えた甲斐はあったと今は思っている。


 だって……。


 今俺は、ウルティミスでルルトが作った美容料理という創作料理を舌鼓を打っている。俺とルルトだけじゃない、セルカもいて、アイカもいて、ウィズもいて、全員が揃っている。


 セルカもウィズも何もなければ、昼食は来てくれて、時々アイカも時々こうやって他の女性陣と約束して、遊びに来ている。


 休日なんかは、逆にセルカとウィズとルルトがレギオンに遊びに行っている。


 そんな昼食の時間、話題はローカナ少尉が開発した美容魔法の話に花が咲く、話にはついていけないけど、今はこいつらといることが何よりも楽しい。日本に帰らなくて本当によかった。


 この実家に戻ってきたような安心感よ、思えばこいつらは愛嬌もあり、気立ても良く美人で、浮いた話がないのが不思議なぐらい。

 いや本当は俺が知らないだけであるのかなぁ、うーん、なんだろ、ちょっと複雑というか、嫌だなって思うのだから勝手だよなぁ。


 モグモグと食べていると美容の話から、アイカの兄の話に及ぶ。


「この前もさ兄貴がさ、突然「天使はいたんだ!」とか言ってたのよ「あーはいはい、どうせどこぞの女に夢見てんだろうなぁ」って思ってたのね。そしたら実際一か月後に悟りを開いたような顔をして「こうやって男は少年から大人になっていくんだな、アイカ」とか言っていたんだよ」


(ん?)


「男の人は可愛いですよね」


 クスクス笑うセルカ。


「んでさー」


 笑顔のまま全員が同時にこちらに向く。



「その時の兄貴の顔と、一緒の顔しているんだよね?」



「え? え? え?」


 なんだろう、いつの間にか実家のような安心感から殺伐とした取調室になったぞい。


「ナニ、ドウシタノ?」


 俺の肩事の言葉に「うんうん、もう大体わかっているから」と全く変わらない笑顔で続けるアイカ。


「はっきり言ってあげる、この前さ、人助けじゃなくて女に会いに行ったんでしょ?」


「ソンナバカナ! セルカトアイカガイルノニ! ソンナノダメ! ゼッタイ!」


 あれ、変だ、何故、どうして、女だと分かった、嘘をつかないことが一番上手な嘘、そう、今回の旅はそりゃ、社交に行くとだけ伝えてあって、シレーゼ・ディオユシル家にも行くと正直に伝えていた。


 ただ伝えていないことは、クォナ嬢のところに行くとというだけだ。俺はただ付いて行くとだけ最小限の情報を伝えてはあるはず。


 しかも今回は人助けもしているという形になるので、それもちゃんと。


「ああ、ごめん、いつもみたいに思考の海だっけ? を泳いでいるところ悪いけどさ」


 はいはいもういいから、みたいなアイカ、なに、なんだよ。


「態度でモロバレなんだよね、以上」


 シーン。


「ええー!! そんなぁ! でもいいもん! なら否認するもん!」


「…………」


「そんな目で見たって駄目! 俺たちは人助けをしたの! 聞いてるでしょ!」


「…………わかった」


「え?」


 ふうと息を吐き、椅子にもたれかかるアイカ、まさかの納得?


「ウィズ、例の物をいい?」


「はい、今回「も」仕方ありませんね」


 と懐から円柱型の白い瓶をコトっと机の上に置く。


「なにこれ?」


「ビタミンの錠剤とかプロテインとか、とにかく混ぜまくったウィズ神が創造したアーティファクト「うぃずスペシャル」よ、ほらペンで書いてあるでしょ?」


「いやいやこれアーティファクト違うでしょ!? これどう見ても見たことがるヤツだよ!」


「平気よ、鍛錬と称して服用していた人物もいるほどよ。元となった薬とは違うのは副作用として嘘を付いていたら嘘を白状するってだけど」


「やっぱりアレだろこれ?! しかも鍛錬と称して服用した人はガリガリだったからね! というかなんでそれをアイカが知ってるんだよ!」


「グズグズ言わず飲みなさい、もしこれで何も無かったら、身の潔白を信じてあげる」


「え?」


 意外な言葉に固まる、身の潔白を信じてくれるの、信じられないと思って全員を見るが総意のようだ。


 そうか、ならば。


(男なら、負けると分かっていても、戦わねばらない時がある!!)


 俺は歴代仮面ライダーたちに1人で戦いを挑むショッカーのように覚悟を決める。


「これを飲めば潔白を信じてくれるんだな!?」


「うん」


「よし!」


 というか信じてもらうも何もこの状況がすでに語るに落ちているような気がするが、白い蓋をかぱっと開けて、ビンを掴むと思いっきり緑と黄色と白色の錠剤をラッパ飲みして、バリバリ音を立てて食べる。


「どう?」


「うん、凄い美味しいよ、流石ウィズ特製の…え…栄養…え…え…えい…お…えいよ、えいおごぉ、おご…おご、おごぉ……」



「オクレ兄ぃさぁぁぁんん!!!!!」



「うわ! 変な夢見てる!(笑)」←アイカ


「まずいねこれ! なにがキマってますね!(笑)」←セルカ


「神楽坂様、死んじゃうんじゃないですか(笑)」←ウィズ


「大丈夫だよ使徒だから(笑)」←ルルト


「懲りないですね、前回も全く同じような感じで飲んだのに、というかそもそもこれ自白剤じゃないですし(笑)」←ウィズ



「ん……」


 と目が覚める。


 あれ、目が覚めるってどういうことだ、とムクリを起き上がってもやっぱりベッドに寝ていた。いつの間に寝たんだっけ、だけど体がこころなしか軽い。うんうん、調子はいいぞ。


 あれー、でも、寝る前に何してたんだっけ、体は軽いけど何故か頭はぼんやりしている。


 ボケーっとしていると自室のコンコンとノックが木霊するとアイカがひょっこりと顔を出す。


「あ、起きた?」


「ああ、ごめん、いつの間に寝っちゃったんだろう? 俺なんかしてたっけ?」


「別に何もしていないよ、それよりお客さん来てるよ」


「お客さん?」


「応接室に通したから付いてきて」


 誰なんだろう急に、とも思いながら生返事をしてアイカの後をついていく、そして執務室脇に備えられている応接室の扉をガチャリと開けて、中に入り顔を出すと。


 俺の代わりに対応してくれたであろうセルカが座っていてその対面には。



 セレナとリコがが来ていた。



「っっ!!!」


 ぐにゃあああ。


 視界が歪む。


 そうだ! 思い出した!! 圧倒的に思い出した!! 悪魔的言い訳をしていたんだった!!


 ガタガタ震える俺ににっこりを笑ったまま首だけ動かして俺を見るセルカ。


「イザナミさん、シレーゼ・ディオユシル家のクォナ嬢の使いの人が来てから、待ってもらっていたの」


 笑ったまま立ち上がり俺に席を譲る。


 マジで、これあかんヤツや! あかんヤツやでぇ!


「男ってそうだよね、大事な仲間より訳の分からない男の浪漫を優先するのだもの、寂しいわ」


 後ろから小声で聞こえないように、それでも静かな怒りを込めて耳元で囁くアイカ。


「しょうがないよ、殿方は守ってあげたくなるような女性が好きだものね」


 すっと俺の手に触れるセルカを見る。


(つ、つめてええぇぇぇ!!)


 ひ、ひぃ、なんて冷たい目をしているんだ、これが人間の目なのか! ドクトリアム卿とは全然違う目! っていうか見下されても全然興奮しないけど! ご褒美でも何でもなくただの罰だよこれ!!


「じゃ、終わったら、多目的室で待っているから来てね」


 凍り付くような声のままアイカとセルカは執務室を後にしようとする。


「ちがうんだ、いや、嘘をついたのは事実だけど、そんな深窓の令嬢とかじゃなくて」


 バタンと無情にも扉が締められた。


「シクシク」


 踏んだり蹴ったりだ、深窓の令嬢なんて存在しないのに、もうやだあ。


「神楽坂文官中尉、よろしいですか?」


「なんだよもう」


「クォナ嬢は今回のことで大変満足しておりました」


「だろーね! よかったね!」


「これはマスターからのお手紙です」


「え!?」


 すっと差し出される封書。こう象牙色の封筒に香水でも吹きかけたのか、しかもよくある女同士のきついだけの香水ではなく、スマートな香りだ、貴族の紋章で封蝋してある。


「…………」


 なんだろう禍々しいオーラを放っているような気がする。


 これは、あれだよ、封蝋を解いて中身を改めた瞬間。


――バラバラと落ちてくる爪、ドサっと落ちてくる髪。


(ブルブル)


 うう、自分で想像して怖くなってきた。


 でも見ないわけにはいかない、俺は恐る恐る手に取る、不自然なふくらみと重さはない、爪とか髪はないかなと思って、ゆっくりと封蝋を取る。


 意を決してみた中身は予想に反してというか、まあ普通なんだけど、二つ折りの便せんが一枚だけ入っていた。


「…………」


 何が書いてあるんだろう。震える手で、二つ折りを開いてみると中にはとても女性らしい綺麗な字でこう書かれていた。



――今度お茶会に誘いたいと存じます、是非ご都合のいい日を教えてください。



(……お茶会?)


 お茶会って書いてある、間違いない、何度見てもお茶会って書いてあるぞい。


 なーんだ、よかった、ホッとした、凄いこと書いてあるかと思った。


 そうだよな、冷静になって考えてみれば、なるほどと頷ける結論。


(つまり、友人として認められたってことか)


 あの騎士たちと一緒だ、クォナ嬢にとって騎士たちは自分の都合のいいように動く駒のようなものだろう。


 んで今回だけじゃなくて今までこうやって色々と迷惑をかけまくっているのにも関わらず自分への忠誠心で何とかしているんだろうな。


「神楽坂文官中尉、恐れ入りますが今返事を書いていただきたく存じます」


「うん、わかった、考えるから待ってて、それとシベリア」


「なんです?」


「クォナはずっとあんな感じなのか?」


「はい、騎士たちの忠誠心を高めつつ如何に苦しめるかを常に考えていますよ」


「ロクでもないな! って言葉の感じだとクォナとの付き合い長いみたいだな」


「まあ、そうですね、マスターではありますが、友人ですよ」


「友人か、そうだよな、そうじゃないとあそこまで巻き込めないよな」


 ってことは騎士たちはクォナの本性を知らないらしい。


 ここで再び文面に視線を落とす。


 原初の貴族、初代国王の直属の24名の部下、時が流れ現在では血筋は12門にまで減ったものの、王国への影響力は絶大で誇りと遺志を受け継ぐ貴族の名門中の名門。


 今でも全員が自分の立場におぼれず、現在でも立場と職務と職責を全うする、その威力はドクトリアム卿を後ろ盾に持つ俺もよくわかった。


 だから原初の貴族の直系の1人と「友人」になるってのはステータスになる、現に友人たちの1人に俺と一緒の庶民もいたが、上流でも通用するように洗練された物腰を持っていた。


 まあ、友人と言っても今回のようにいいように遊ばれるだろうけど、ウルヴ少佐の言うとおりビジネスの繋がりは俺に何か返せない無理だし、友人というのはいいかもしれない。


 彼女自身だって、自分のことに一途なのは良いし、こうやって原初の貴族の1人とこんな形で関係が構築できるのは大きいではないか。


「シベリア、俺はこういったことは初めてだから、どうやってオーケーの返事を書いたらいいのか分からないのだけど」


 俺の言葉にびっくりしたように目を見開くシベリア、まあそうか、あれを見せてまさか受けるとは思わないよな。


「マスターは私的な手紙に上流の流儀は持ち込まない方です。だから常識を持った文章なら問題ありませんよ」


 だそうだ、常識を持った文章って難しいけど、要は相手を不快にさせないような文章ってことだよな。


 ってことは。


――上流の流儀なんてわからず、恥をかかせてしまうこともあるかもしれません。そんな私でよろしければこれからもよろしくお願いします。


 こんなものかな、俺は返事用の上質な紙になるべく丁寧な字で書くと、封書に入れてシベリアに手渡す。


 彼女は俺の目前で封蝋を押すと持ってきて宝石箱のような想定の箱を取り出し、その中に便せんを入れると鍵をかける。


 凄い箱だなと思って聞いてみると「鍵はクォナ嬢しかもっていないものですよ」とのこと、へーそんな厳重にするだなぁと感心する俺に「それでは末永い付き合いをよろしくお願いいたします」と丁寧に礼を言って侍女たちはウルティミスを後にした。



 取調室に赴く被疑者の気持ちはこんなものなのだろうか。


 胃が痛くなるような思いを抱えながら、俺は多目的室、つまりさっきまで食事をとっていた部屋に向かう。


 いいんだいいんだ、もう素直にごめんなさいして、お仕置きされて……。


(なんか男の浪漫の話が凄いしたい)


 女の胸の尻とか、そんな話を思う存分自警団の連中としたい、でももう清楚な女性に夢見れないよう、シクシク。


 と思いながら取調室、もとい多目的室に入った時だった。


「さて、順番とり方を決めようか」


 と4人が待ち構えていた。


「①正直に全て話す ②言い訳する ③逃げる、②はお勧めしない我々を怒らせることになるから、③はもっとお勧めしない、更に私たちを怒らせることになるからね」


 違うこれ、取調べじゃない! これは死、絶対的強者による搾取!!


「シクシク」


「さあ、クォナ嬢の下へ何しに行ったの、吐きなさい」


「はいクォナ嬢が「困ったことになったから助けてくれ」って聞いてさ、助けになるの奈良って思ってエナロア都市に行ったの」


「ウィズ~、私の軍刀取って~」


「本当だから! んでそれは何とか解決したの! 嘘じゃないぞ! だからこそ使者が来たんだからな!」


 というかクォナの本性は話すとこっちが危なそうになるから話せない、それでも俺の言葉に嘘はないと思ったのかアイカは続ける。


「分かった、あの使者の用件はどんな内容だったの?」


 変わらない笑顔でアイカが問いかけてくる。


「んで困りごとを解決したおかげで俺はクォナ嬢の友人になったんだよ、使者の用件はそれだったんだよ」


「なるほど、友人ね~」


「友人と言えど相手は原初の貴族の直系の1人だろ、こんなチャンスは滅多にないし、俺もドクトリアム卿が後ろ盾になってさ、ちょっと意識が変わったんだよ、アイカならクォナ嬢の威力と影響力は俺よりも分かるんじゃないか?」


「まあね、クォナ嬢は特に当主から溺愛されているから、逆らえる人はそうはいないよ」


「溺愛か、やっぱりそうだろうなぁ」


「誰が彼女を捕まえるのだろうって、上流の男たちはいつも噂してるし、我こそはという男や数々の美人と浮名を流した男達が手練手管を使っても全員撃沈してるのよ」


 アイカの言葉にセルカが感心したように頷く。


「アイカさん、クォナ嬢はそんなに美人なの?」


「まあ男が夢中になるのは分かるよ、セルカも会えばわかると思う。美人はそのとおりだけど、雰囲気っての? それが同じ女から見ても「ああ~」って感じでさ、男は全員ポーってなるよ、数多の男の中でクォナ嬢の友人になることを許されるってのは、アンタにしてはなかなかにやるね」


「はは、上流っていっても男は変わらんね。ってことでセルカ、いつかは分からないけど、クォナ嬢が主催するお茶会に誘われたから、日程が決まり次第連絡するよ」


「はいはい、まあいいでしょう、許してあげます」


 良かった、珍しく平和に終わった……ってあれ、平和だったっけ? そういえば食事をしている時から寝るまでの記憶が微妙に曖昧なんだけど。


「ちょ! ちょ! ちょ! ちょっとまって! ちょっと待ってよ!」


 凄い焦った様子のアイカが割って入ってくる。


「かか、かぐらざか! 今なんて言った!?」


「え? 日程を知らせるから」


「違う、それより前!」


「ん? だからお茶会に誘われたから参加するよって」


 言いたいことが分からずキョトンとする俺にアイカは焦ったままこう言った。


「神楽坂、いくらモテないからって嘘は良くないと思う!」


「なんでだよ! 本当にお茶会に誘われたんだよ! もう! 別に社交辞令ぐらいの手紙ぐらいいだろうよ! 泣くぞ!」


 俺の必死の抗議に、アイカ俺の両肩を掴む。


「ねえ、本当にお茶会に誘われたの? 今なら嘘っていっても、別に変に思ったりしないよ」


「うわーん! 男はね、冗談でも義理でも世辞でも誘ってくれるのは嬉しいのー!!」


 早速泣かされた俺に、アイカは両肩から手を放して戦慄に染まったまま固まる。


 な、なんなんだよ。


 何が起こっているんだよ。


 やめてくれよその顔……。


 不安な俺にアイカは話し始める。


「社交では男が意中の女を見つけた場合に誘うってのはよくあるし、伴侶も大事だから、目的の一つでもあるのね」


「……ああ、そ、それが?」


「だけど、女から男を誘うと周りからは「はしたない」って思われて体面が悪いの。だけど女だって意中の男がいれば誘いたいって思うものなの」


「…………」


 すっと何かが落ちていく。


「だからね」



「女性から意中の男性を誘う時に使う文言が、お茶会にどうですか、って体裁を整えるのよ、一言で言えばラブレターだよ」



「………………」


 つまり、あれは「友人」ではなくて、あの時シベリアが驚いたのは、そういう意味で。


 そんなもののけ姫に出てくるコダマ状態で首をコロンコロン言わせている俺。


「つ、つ、釣り合わないんじゃない? 相手は貴族令嬢でしょ? 言っておくけど、私みたいな準貴族とは違うから、しがらみも多いし、アンタ何処か鈍いから苦労するだけなんじゃないの、まあでも生まれて初めてのラブレターおめでとう、もう一生ないだろうから大事にすれば?」


 と不機嫌なアイカ。


「わ、わたしは、中尉が、そうなら、応援します、とってもお綺麗な方みたいですから」


 肩を落としたようなセルカ。


「ってちょっと待って! ちょっと待って!! ねえ本当に待って!!!」


 ガシっとアイカの肩を掴む。


「痛っ!! 痛いから!! 何!?」


「そそそ、その! 上流でお茶会の誘いを受けるって返事出すのはどういう意味なの!?」


「そりゃ、好きですって言われて、私もですって意味だよ」


 ぐにゃあと視界が歪む。


「ぎにゅうぁぁぁあ!!!! なあアイカ! こ、ここ、断り方教えて!!」


「はあ!? 断るの!? 深窓の令嬢って、あんた好きそうじゃない?」


「そりゃ大好きだよ! だけど違うの! うわああん!」


「神楽坂、お、落ち着いて、ね? あのさ、一度交際を受けて、やっぱり駄目ってことだから、恥をかかせることになるよ?」


「そうだった! ルルト! お願い時間止めて!」


「は? 時間? 何言ってんの、無理に決まってんじゃん」


「無理なの!? ディオは簡単にやってたのに!?」


「ディオって誰さ、出来ないものはできないの」


「えっと、じゃああれだ! ほら、あの侍女2人をを洗脳してさ、返事を変える! これで万事解決!」


「せ、洗脳は駄目だって、散々君が言ったんじゃないか、神の洗脳は人格までいじることになると一緒だからって」


「そうだった! ならウィズ! あの使節団はウィズ教徒だから、あの封蝋の封筒を返すように啓示をお願いします!」


「ええー!? い、いくらなんでも、迂闊に啓示を使えば大変なことに、それは神楽坂様が重々承知の上だと」


「それもそうだった! どどどどうしよう!」


 あわわとなる俺におずおずとウィズが手を上げる。


「えーっと、返事を変えたいのでしたら、あそこまで2日かかるから宿泊地に行って認識疎外の加護をかけてもらって、忍び込むとか?」


「天才現る! ルルト! 加護を頼む!」


「あ、ああ、ほら、どうぞ」


「ありがとう! 持つべきものは仲間だな! じゃあ行ってくる!」


 とばびゅーんと飛んで行った。


「わすれてたー!!」


 ドゴーンと折り返し着地。


「あの箱が入っていたやつ! あれなんか鍵かけてた! ウィズさ! 神の能力で開けられる!?」


「あ、開けられますが」


「よし! ウィズかもん!」


 と彼女の手を引いて再びばびゅーんと飛んで行った。


「わすれてたー!!」


 ドゴーンとウィズを巻き込んで着地。


「アイカ! 断りの文句っていいのあるの!? できればキモい方向で!」


「えー! 普通に好きな人がいるからとか付き合っている彼女がいるからとかでいいんじゃない?」


「天才再び現る! ウィズ行くぞ!」


 とばびゅーんと再び飛び立った。



 そして何とか侍女たちに追いつき、宿泊地に待ち寝静まるのを待って侵入。


 ここで気が付いたのだが2人は、見て目に反してかなりの「軍事訓練」も受けているらしく、半分起きている状態だから忍び込んだらまず気づかれるということだった。


 んでそのためにウィズの加護で眠りを深くしてもらい寝静まっているシベリアとセレナの横でこそこそと箱の開錠作業。


 傍か見ればどう見てもコソ泥なのだけど自分の身は自分で守らなければならないのだ。


 箱をかぱっと開けて封書を取り出して早速とばかりに内容変更。


――折角のお誘いごめんなさい、僕には好きな人がいるんです、その代わり何でも言う事聞きます、へこへこ。


 よし、こんなケイブリスばりの手紙、ラブレターにこんなふざけた返事書かれれば幻滅間違いなしだ。


 あーよかった、これにて一件落着だ。


 とウィズと共にウルティミスに戻り、自警団員と男の浪漫話を思う存分楽しみ、風呂に入り「あ˝~い˝~」ってやって、ぐっすりと寝たのであった。



――――エナロア都市・クォナ嬢所有のカントリーハウス



 クォナは窓に立ち外の景色を眺めていた。


 彼女が目前に広がる景色は雷雨を伴う土砂降りだ。時折稲光が彼女の顔を照らすが何を考えているのかは彼女しか知りえない。


 幼いころから上流の至宝と呼ばれ、数々の男を虜にして、不可侵と称されるクォナ。


 ただ彼女にとっては今でも自分の何処に惹かれてそう評価しているのかは分からないままであったし、浅ましく自分を求める姿は同時に唾棄すべきとまで思っていた。


 だがこの神から与えられた魅力は人をいいように動かすのに非常に役に立ってくれることに気づいてからは与えてくれた神に感謝するようになった。


「本当の私はこんなにも性格が醜いのに、どうしてかしらね」


 彼女は控えてたセレナに話しかける。


「アンタの外面だけで寄ってくる男が判別がつくのだから、便利だと思うのだけど」


「そうかしら、うんざりだけどね」


 クォナ嬢の側近であるシベリア、セレナ、リコの3人は他人の場では侍女として振舞うが、こうやって他人がいない時はタメ口で話す友人同士だ。


 使用人と言えど上級使用人は家柄もしっかりしていなければならない。彼女達3人は筆頭のシベリアが男爵の4女、準貴族の次女と3女であり上流の一員、幼いころからの友人だ。


 ここでクォナの自室の扉がノックされ、シベリアとリコが姿を現す。


「ただいまクォナ、今戻ったよ」


「おかえりなさい、ごめんね、こんな悪天候の中」


「いいよ、こっちも楽しんでいるし、それと帰りの途中でボニナに寄ってきたんだけど、ラメ・ガイヤーは処分したってさ」


「ありがとう、これで一安心ね、街長はなんて?」


「感謝されるまでもないって、最初から処分対象だったみたいだから、大義名分感謝するってさ」


「そう」


 と再び視線を外す。


 クォナとボニナと繋がりを話すと長くなるから割愛するとして、彼女をストーキングしていたラメ・ガイアーは商売をする上で愚かにもボニナ族にいわゆる「ケツ持ち」を依頼したらしいのだがその際に掟を軽んじる行動をとったらしい。


 だがボニナ族は部外者が掟を軽んじる行動をとっても過失の場合は特に何も言わず注意する程度、それでちゃんと修正し、ビジネスの相手として敬意を払えば全く問題ないのだ。


 だが準貴族として認められ驕るラメ・ガイアーはそれを修正せず、ボニナ族を侮辱し続けた結果、やむなしとのことで処断することになったそうだ。


 それに協力したのがクォナ嬢だったのだ、自分を殺そうとしたことを逆手に取り、守って欲しいと親交のあるボニナ族に依頼、大義名分を与えた結果、現在彼は処断され、公式上では行方不明となっている。


「さて、シベリア♪」


 ウキウキ気分のクォナに複雑な表情のシベリア。


「はい、彼からの返事だよ」


 とリコは彼女は笑顔で箱を受け取り、鍵を開け封蝋を解き中身を見た。


――折角のお誘いごめんなさい、僕には好きな人がいるんです、その代わり何でも言う事聞きます、へこへこ。


「…………」


 笑顔変えずにそれをシベリアに渡すが……。


「え?」


 内容を見てびっくりする。


「どうしたの?」


「いや、なんか交際を受けるみたいな話をしてたから、てっきり……」


「……ふーん、ねえ2人とも、ここに戻る途中にさ、この手紙絡みで何か変わったことは無かった?」


「変わったこと? ……そういえば立ち寄り先の宿で泊まった時、宝石箱の位置が少し変わったなって思ったことがあったぐらいかな」


「…………」


「って、ごめん、多分気のせいだよ、箱は全く異常なかったし、覚え違いだと思う。部屋の鍵をかけたのは確認したし、誰かに侵入されて私達が起きないのはありえないからね」


「……そうね」


 クォナ嬢はそれ以上追及することなく、再び返事を見る。断られたにもかかわらず落ち込んだ様子は微塵もない、それどころか。


「断られたのに、楽しそうね?」


「え?」


「笑ってるよ」


 リコの指摘に自分でも無意識だったようで、頬を自分でつつくとやっと理解したようだった。


「そう、そうよ、貴方の言うとおり、私は今とっても楽しいのよ! 知らなかったわ、人を好きになるってこんなにも楽しいことなのね!」


 はしゃいでいるクォナにシベリアが引きつった笑いを浮かべる。


「アンタの男の趣味は前々から謎だったけどさ、いざそう言われてもやっぱり分からないわ、そりゃ悪い人には見えないけど、アンタが振った男達を考えると……」


 うーんと首をひねるシベリアであったが。


「自分でも驚いているわ、それぐらい衝撃的だったの、自分の人生観がひっくり返るほどに、全てを捧げても後悔しないって、そんな熱が今でも冷めないの、もちろん噂を聞いてもしかしてって思ったけど、まさか本当だとは思わなかった、私の目に狂いはなかったわ」


 神楽坂の噂。


 王立修道院最下位で卒業したものの、神との橋渡しを実現し政府第5級勲章と恩賜勲章を受勲。

 欲望の都であるマルスを傘下に置いた連合都市誕生の黒幕として、アーキコバの物体の謎の解明功労にて政府第6級勲章と大臣勲章を受勲。

 そして冷酷非情で上流に名を轟かすドクトリアム卿の後ろ盾を得ており、神のと繋がりは確実視されている。


 どう考えても普通ではない、侍女たちに調査を命じると目についたのは、善悪の全てを飲み込んだうえでの読み、不可思議な現象、この人物なら自分を貫いてくれるかもしれないと期待したのだ。



 だが初対面の時、実は期待は裏切られたと思ったのだ。



 自分に鼻の下を伸ばす十把一絡げの男どもと全く一緒、意味不明な騎士気取りにがっかりしたと思ったが。


「私が毒に倒れた時、あの時のあの人の目!」


 あの瞬間に疑っていたのは理解した。弱々しく甲斐甲斐しさを出せば男は全員騙され、例外は無かった、その中で、あのじっくりと観察する目、再び期待が首をもたげ、結果は見てのとおりだったのだ。


「それにしても好きな人がいます、ですか、シベリア」


 シベリアはクォナの呼びかけに応じて5枚の魔法写真を渡す。


 まず本命が神楽坂の写真で、クォナはそのまま写真立てに入れてベットの横に飾る。


 続いて渡された4枚は……。



 セルカ、アイカ、ウィズ、ルルトが写っていた。



 あの時、応接室で待たせてもらった時に隠し撮りをしていたのだ。


 クォナ嬢は4枚の写真を見て嬉しそうな表情を浮かべる。



「まあ、とっても綺麗な人たちばかり、この方たちを倒せばいいのね」



 口調は穏やかながら底冷えするような声に侍女たちも固まる。


 クォナは丁寧に4枚の写真をテーブルにおいて、神楽坂の写真立てを見て軽く頬ずりをする。



「これで私が諦めると思ったら大間違いですわ、やっと、やっと見つけた運命の人なのだから、ねえ、ごしゅじんさまぁ」




当初の予定より3倍も長くなってしまった、何とか間に合いました。


思えばレベルEのオチはジャンプを読んだ当時、本当に衝撃的でした。


ということで神楽坂も意図はともかくクォナに招かれるなど末端であれど上流の仲間入り、やっと神楽坂の仲間たちの地盤が整いました。


完結登録をしてありますが続きます。


その際はよろしくお願いします!

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