おまけ:カグラザカ大戦3 ~浪漫は燃えているか~
俺の指摘に、タドーを始めとしたボニナ族の面々が「あちゃー」と言った顔をする。
「あ、やっぱりバレてる!!」
「うわ、かっこわりぃ、窓まで割って登場したのに」
先ほどの殺気は消えて、和やかと言っていいほどの雰囲気。
「おいタドー、神楽坂中尉に一言謝った方がいいんじゃないか?」
肘でつつかれたタドーは再びバツが悪そうに頭を下げる。
「えっと、やりすぎですよね、その、つい調子に乗っちゃって、ホントすんませんでした!」
勢いよく頭を下げるタドーを皮切りにボニナ族の面々も同じように頭を下げて謝罪する。
「いいんだよ、気にしてないさ、あのさ、タドー君、最終的にはどんな感じに持っていくつもりだったの?」
「え? 「お前の命と引き換えになら助けてやってもいい」って持ってくるつもりでした」
「はーん、そうなの」
「んで、神楽坂中尉の返事次第で攻撃するふりしてネタ晴らしってわけです、てなわけであのー」
タドーはクォナ嬢に視線を移す。
「クォナ嬢、どうします? 失敗しちゃいましたけど」
自然とクォナ嬢に視線が集まる。既にリコは何事もなかったかのようにクォナ嬢の後ろに控えており、彼女のまた何事もないように笑顔で答えた。
「ボニナ族の皆さま、ありがとうございました、このお礼はあらためて伺うと街長にお伝えくださいませ」
といった言葉でボニナ族の面々も「楽しかったなぁ」とお互いに今回のことを話しあいながら部屋を後にした。
「あの、神楽坂文官中尉!」
と思ったら件のタドー君に呼び止められた。
「こんかいのこと、ホントにすんませんでした、でも俺中尉に一度会ってみたかったんです! それは本当っす!」
「へ? なんで?」
「言ったじゃないですか! 凄い強いって! ボニナ族じゃ強いってのが、カッコいい男の条件なんですよ!」
「い、いや、でも」
「だから単純に力任せでだけ戦うなんてのは、むしろ下の下なんですよ! 実力があって使い時を選べるなんて痺れます、あの時は皆我慢してたんですよ!」
ああ、なるほど、だからあの時俺のことを見ていたのか。
「もしなんかあれば言ってください! 今回のお詫びも兼ねて協力しますんで! それと良ければ一度手合わせしてくださいね!」
「は、はは、善処するよって、あ、そうだ、確認なんだけど、その痣は?」
タドーは俺の質問に合点がいったのか、痣に爪をかけるとカリカリ何回か引掻くとぺらっとはがれた。
「いやぁ、こんな痣なんかに意味なんてないです、でもそれっぽかったでしょう? クォナ嬢が考えたんですよ!」
「……やっぱりか」
「それもばれていたのは流石っす! 今度は遊びに来てください! ボニナ族は戦闘民族ですから、怖がられて色々言われてますし、まあ全部は嘘じゃないですけど、根は温厚でいい奴らばっかりなんですよ」
「ああ、うん、それはわかった」
「はい! それではまた~」
とボニナ族の面々とバイバーイと手を振ってお互いに別れて。
再び場には俺とクォナ嬢とリコだけ取り残された。
「…………」
「…………」
「お前の命と引き換えに助けてやってもいいか、そうだなぁ、俺どうしてたんだろうなぁ、姫を守る騎士の如く、何も知らなければ命を懸けたのかなぁ、ねえクォナ嬢?」
ジロリと睨むその先で、クォナ嬢は「んー」と指を顎に当てながら考えた後こう言った
「淑女の秘密を暴くなんて、紳士の風上にもおけませんわ!」
「そういうアンタは淑女の風上にもおけないけどな!」
俺の指摘にクォナ嬢は「あらあら、まあまあ」とかすっとぼけると再び考えた後にこう言った。
「そうそうボニナ族は自分の部族の悪口と彼らの掟を踏みにじるようなことをしなければ、あんな感じで温厚で御茶目な人たちなんですよ」
「へー! そうなんだ! すごいね! 知らなかったよ!」
そろそろいい加減にしてくれよという視線を送ると察したクォナ嬢は両手をポンと合わせて腰かける。
「私、凄くびっくりしています、ドキドキもしてます、見破られるとは思ってもみませんでした」
「悪戯だという前提で組んでいるから、最初から「わざとらしさ」がどうしても出てましたよ」
少しだけ顔を紅潮させながらクォナ嬢は俺に話しかける。
「色々と伺ってもよろしいですか?」
「どうぞ」
「いつから、ですか?」
「その質問に答える前にリコの腕に巻かれている包帯、外してください」
俺の指摘に2人は目を丸くする、クォナ嬢はリコに目配せすると彼女は頷き、するするとほどく包帯。
そこには傷一つない綺麗なものだった。
「やっぱりな」
「お見事、素晴らしいですわ、さあ早く教えてくださいませ」
楽しんでいるのか分からないようなクォナ嬢、まったくもう、まあいいか、茶番を楽しむのも男の浪漫よ。
「一番最初に変だと思ったのは、あのワインを飲んで倒れた時です」
「飲んで倒れた時? あの時ですか?」
首をかしげるクォナ嬢。
「もっと後だと思いましたか? コテコテすぎるんですよ、命を狙われている癖にワインを飲んで倒れた? 軽率すぎますし、そもそもありえないミスですね。おそらくトリックと称して「ワインに毒が入ってのかとかワイングラスに毒が塗られていたのか、んで侍女が怪しい」とかに持っていきたかったのかもしれませんが、杜撰もいいところです」
「……ああ、なるほど」
「ただワインを飲んだ時の反応から見ると、あれは演技ではありませんね。毒ではありませんが痺れ薬程度は盛っていたと考えるべき、まあ侍女に高度な回復魔法を使える医者がいるから出来たことですよ」
ここでクォナ嬢は発言する。
「神楽坂中尉、貴方はワインと言いましたが、今回の依頼を説明する時に既に違和感を感じ取っていたように思えるのですが」
「え? ああ、違和感というか、妙に言葉を選んで発言してるなって思っていたんです、まあ、これがワインの毒で倒れたことで貴方の発言は不自然さが際立ってきたなってことですかね」
「不自然さとおっしゃいましたが、具体的な例を教えてくださいませ」
「例えばこのカード」
それはパーティの前にセレナから手渡された一枚のカード。ホストであるクォナともてなす侍女3名、そして俺を含めたパーティー参加者18人が記されていたやつだ。
「貴方はこれを手渡しながら、いかにも「友人の中に犯人がいる」といった具合に会話を展開していましたが、実は一言もそんなことは言っていないのです。このカードを手渡した時を除いてね、貴方はこのカードを手渡した時にだけこう言ったんです」
――「考えたくはありませんが、この中に犯人がいるということなのです」
「そう、この中にいる、間違いなく、嘘もついていない、犯人は貴女なのだから。まあ我々が気づかず長期化しそうだったらヒントを与えて誘導しようとしていたのでしょうね」
「とはいえ、クォナ嬢の言動が変だと思っていても、この段階では「だから何?」というレベルなんです。ですが次のことで今回の事件で私は不自然から不審へとシフトさせた、それがタキザ大尉により魔法写真3枚に写っている人物がボニナ族と判明したことです」
3枚の写真、この人物たちはボニナ族の特徴を分かる人物が見れば分かるように写してあった。その役割は憲兵であるタキザ大尉ならばすぐに気づくか、それとも調べて気づくかを想定にした上で撮影したものだ。
「タキザ大尉によればボニナ族は肉弾戦の戦闘民族。しかも鉄よりも固く切り付けることも刺すこともできる爪を持っている。なのにリコは「ナイフで切り付けられた」と言っていたのです、これはどう考えても変ですね」
「お待ちになって、ボニナ族は普段から特徴を隠しているのですよ? ボニナ族とばれないために凶器を使う可能性はあると思うのですが」
「はっはっは」
「…………」
「怒らないでください、やっぱりミスに気づいていませんね」
「え? ミ、ミス? なんですの、それは?」
「じゃ続けますよ」
「あぁ、焦らさないでぇ」
「嫌です、んで結果私はリコの怪我に対しても不審感を覚えたんです、そしてこれは貴方は悪い方に誤解してしまったんですよ」
「……はぁぅ、自作自演が疑われているのではと思いました」
(はぁぅ?)
「ごほん! そのとおりです、まだそこまでは思っていなかったのですけどね。だから貴方はボニナ都市の招待状をここで使うことになった」
俺の言葉にクォナ嬢は驚いた顔をする。
「……それも気づかれていたのですね」
「もちろん、あの招待状はあの時届いたんじゃない、必要な時に渡すように最初から持っていたものです」
俺の問いかけに頷くクォナ嬢。
「本物の戦闘民族と出会わせることで追い込みをかけるつもりだったのでしょうが、実はこれが最悪の悪手だったんですよ。まずタイミングが余りにも良すぎると思いましたし、都合も良すぎると思った、作為的なものを感じました、まるでこちらの動きを見ているかのようです」
俺の言葉の意味が呑み込めずクォナ嬢は必死で思考を巡らせているようだ。
「さて、実際に招待されてみれば、まあ雰囲気は抜群でした、暴力をで身を立てているだけだって凄味もある、街長の会話は良かったですよ、カイゼル中将とタキザ大尉が押されるほどに」
「さてここで質問です」
「え?」
質問されるとは思わなかったのかポカーンとするクォナ嬢。
「さっきリコがボニナ族に襲われた時の状況の話、街長にしてますか?」
「え? いえ、あくまで掟を強調してお三方に追い込みをかけてもらえればと、細かい指示はボロが出ますから」
「やっぱり、確かにボロが出るのはその通りですが、必要なことは話し合いをするべきでしたね」
「…………え?」
「気が付きませんか? 街長の会話は問題なかったんです。だからこそあなたのミスが際立ち、結果確信を持ったのですからね」
再度繰り返すミスという言葉にクォナ嬢は必死に思考を巡らせているようだが、まだ理解していないようだ、今度こそ首をかしげて疑問符を浮かべる。
「神楽坂さまぁ、意地悪しないで教えてください」
そう、クォナ嬢が犯した最大のミスとはこれだ。
「貴方は無自覚にボニナ族の掟を軽んじたことですよ」
「掟? あの痣の掟ですか、確かに架空の掟であったのですが」
「やっぱり、そちらに意識が向いていましたね」
「え?」
「だから言ったじゃないですか、街長の会話に不審点はなかったって「あの痣の掟自体はボニナ族の掟に抵触する掟ではなかった」ってことですよ」
「?」
まだ理解していない様子のクォナ嬢。
「貴方が軽んじたのは「正々堂々と戦う」という掟の方です」
「正々堂々と戦う……」
オウム返しのように聞き返すクォナ嬢に会話を進める。
「ボニナ族の掟において正々堂々闘うとは「己の能力を駆使して戦う、能力とは身体能力をだけではなく不意打ちや闇討ちや複数による攻撃、つまり戦術を用いた戦い方も含む」ってことです」
ここで気づいたのだろう、クォナ嬢はハッと口を押える。
「そう「不良のように絡み、ナイフで切り付けられて傷を負わせて、治療費と称して因縁をつけて金を要求する」これではただのチンピラだ、あきらかに掟破りなんですよ」
「…………」
黙って俺を見つめるクォナ嬢。
「街長自身は、手の痣を見られてはならないという部分について必要に掟だと繰り返し言い放ち、その上で執拗なまでに聞く耳を持たなかったのにもかかわらず、若者3人が掟を破ったことに対して不自然なまでにスルー、つまり」
「街長はクォナ嬢のリコの襲われた話を知らない。故にチンピラのような行動をした若者3人は存在しない、結果リコがボニナ族3人に襲われた事実もない、ということは貴女は嘘をついている」
「つまり最初から何もかも嘘だった、全てが自作自演ってわけですよ」
「質問を、最後の部分だけ、自作自演までは良しとしても、それが悪意ではないとまで分かっている様子でしたが、今の話だと、真っ赤嘘でおびき出されたと思えば、もっと警戒してもいい筈ですわ、中尉は悪意ではないとどうして分かったのです?」
感動して頬を上気させてる目を潤ませているクォナ嬢。
「分かったのですかって、分かるわけないでしょ、だから聞いたじゃないですか」
「え?」
「クォナ嬢の企みだったんだろって」
「……は?」
「じゃあ逆に聞きますよ。私が「企みだったんだろ」って言った時、クォナ嬢とボニナ族はどう反応したか覚えていますか?」
「…………」
徐々に俺の言いたいことが分かってきたクォナ嬢。
「あの菓子を食っていたのは不意を衝くためです。んでボニナ族は勝手にドッキリだってネタバレしてくれて、ああそうだったんだなって思ったんです、まあ悪意ではないというあたりはつけていましたけどね」
悪意があって人を嵌めた時、悪意が無くて人を嵌めた時、それが相手にバレていたと、いきなり不意をつかれたら、これは想像してもらえると分かりやすいだろう。
「…………」
絶句したままポスっとベッドに座るクォナ嬢。
「クォナ嬢、カイゼル中将とタキザ大尉のほか、他の騎士たちをは外させたのは、せめてもの仏心です。貴方にも守るべき名誉がありますからね、それで、クォナ嬢」
どかっと椅子の背もたれを抱きかかえる形で座ると放心状態のクォナ嬢を見つめる。
「何か言うことがあるんじゃないですか?」
そのままゆっくりと俺の方を見つめる。悪戯しかけるにも結構壮大、こういうところもお嬢様なんだなって思う。
まあいいさ、ネチネチいうつもりはない、ほら「女の嘘は許すのが男だ」ってサンジも言ってたじゃないか。
「神楽坂様、謝罪はどのようなことでもしますわ、ですから、もう少しだけ、もう少しだけお付き合いくださいませ、私、ここまでは予想外でしたの、でもひょっとしたらという期待もありましたの、ですから、お願いしますわ」
毅然として、それでも自分で言ったとおり目を輝かせながら期待した視線を送るクォナ嬢。
「え?」
なんだろう、この時のクォナ嬢の雰囲気というか、どう表現していいかもわからない、でも確かに期待しているのだろうけど、流れが違うような。
戸惑う俺にクォナ嬢は新事実を告げた。
「神楽坂中尉、貴方の、推理、間違いはありませんが、一つ読み間違いがありますわ」
●
「神楽坂中尉、貴方ほどの方なら、何か引っかかりは感じている筈ですわ」
クォナ嬢から突然告げられた新事実ではあったが……。
「…………」
実は図星だったりする。
そう、引っかかり、この引っかかりをなんて表現したいいか分からず、それでも真実を突き止めるためにあたり問題ないからそのままにしておいたが、ちょっと気持ち悪い感じがあった。
だが今のクォナ嬢が俺の引っかかりを「自分の結論に間違いはないが読み間違いがある」と表現してくれた。
そうだ、この引っかかりを言葉にするとこれなんだ、つまり俺は間違えたんだ。
(まるで将棋だな)
とどこぞのスマホ使いなことを考えてみる。
とはいっても別に適当に言っているのではなく、将棋では詰みがあるという前提で手を考えるのと、詰みがあるかどうかも分からない状況で手を考えるのでは全然読み方が違ってくる。
ってりゅうおうのおしごとに書いてあった。
それは置いておくとして、どこだ、まずクォナ嬢の言葉はセンテンスが二つあったが別々に考えるな「読み間違えたのなら、結論も間違える」のだから。
ここでの結論とは今回の事件が所謂クォナ嬢の「ドッキリ」であったこと。これはボニナ族の反応からしても間違いない。
読み間違えたのに結論が正解ってことは、本来なら結論が正解ならば棚から牡丹餅のような展開であったが、クォナ嬢の予想外や期待という言葉からも否定することができる。
つまり……。
(そうだ! 「クォナ嬢の意図」を間違えたのか!)
これが読み間違い、クォナ嬢には読んで欲しい意図があり、それを俺に期待した。結論は間違いないが、自分の意図を読み間違えたってことだ。
そうそれを元にクォナ嬢の反応を考えてみる。そう、どこだったか、今日だ、クォナ嬢との会話の中だ。
考えろ、まず考えるべきは内容が矛盾しているとかじゃない、応対のタイミングと不自然なタイムラグだ。
「あ……」
思わず声に出てしまった。そうだ、一番最初だ、一番最初のワイングラスの毒を飲んだくだりの会話だ。
よく思い出してみろ、こういう会話をしていた。
――「一番最初に変だと思ったのは、あのワインを飲んで倒れた時です」
――「飲んで倒れた時? あの時ですか?」
――首をかしげるクォナ嬢。
――「もっと後だと思いましたか? コテコテすぎるんですよ、命を狙われている癖にワインを飲んで倒れた? 軽率すぎますし、そもそもありえないミスですね。おそらくトリックと称して「ワインに毒が入ってのかとかワイングラスに毒が塗られていたのか、んで侍女が怪しい」とかに持っていきたかったのかもしれませんが、杜撰もいいところです」
――「……ああ、なるほど」
――「ただワインを飲んだ時の反応から見ると、あれは演技ではありませんね。毒ではありませんが痺れ薬程度は盛っていたと考えるべき、まあ侍女に高度な回復魔法を使える医者がいるから出来たことですよ」
――ここでクォナ嬢は発言する。
――「神楽坂中尉、貴方はワインと言いましたが、今回の依頼を説明する時に既に違和感を感じ取っていたように思えるのですが」
(そうだ、ここだ!)
ここが応対のタイミングと不自然なタイムラグ、この流れだと俺の結論にではなくクォナ嬢がワイングラスの件について突っ込んでいるのが分かる。
そう捉えると一番最初の「飲んで倒れた時? あの時ですか?」と首をかしげたのは、意図が外れているからやっぱりここが読み間違えているんだ。
つまり、俺の読み間違いは。
――「ただワインを飲んだ時の反応から見ると、あれは演技ではありませんね。毒ではありませんが痺れ薬程度は盛っていたと考えるべき、まあ侍女に高度な回復魔法を使える医者がいるから出来たことですよ」
ここになるが……。
(え……)
今、自分の考えたことに背筋がぞっとする。
もう一度……。
――「ただワインを飲んだ時の反応から見ると、あれは演技ではありませんね。毒ではありませんが痺れ薬程度は盛っていたと考えるべき、まあ侍女に高度な回復魔法を使える医者がいるから出来たことですよ」
い、いやいや、ちょっと待ってくれ、そりゃ「可能性は0%ではない」なんて言葉を使ってしまうのなら、なんでも当てはまるけどさ。
でも、それを真実だと想定した場合を考えてみる。
ってことは……。
「っっっっっ!!!!!」
電流が走る! 開ける視界!
となればだ、つまり、最初からクォナ嬢は、全てを仕組んでいたと同時に。
(全てわかっていたってこと!?)
ありえない、これは、ありえない、で、でもこれしか考えられない。
「かぐらざかさま」
「ひっ!」
いきなり耳元で囁かれてそのまま金縛りにあったかのように硬直して動けなくなる。いつ横に来てたんだ、息が、吸うのも吐くのも絶え絶えで。
「きづかれたようですわ、さあ、おねがいしますわ、、あなたのしんじつで、わたしを、つらぬいて」
俺は前を向いたままそのまま呪文のように唱える。
「命を狙われているのは本当で、その容疑者は本当にパーティー会場の中にいた! つ、つまり、ど、毒の混入は、仕組まれたものじゃない! しかも貴方はワインに毒が混入されていたことも更には犯人が誰かも知っていた! これが俺の読み間違い!」
「そのとおりですわぁ!!」
「ってことは犯人はワインの仕入れ元の人物! 短絡的な犯行から考えるに組織的な犯行ではなく個人的な犯行、動機は多分私怨! 貴方はそれを全て知っている。つまりあのドッキリ企画は自分が命を狙われている状況を利用した茶番なのですね!」
俺の言葉にクォナは「はぁぁうう!!」と胸と股間に腕を絡ませて身をのけぞらせた刹那。
「すぅごおおぉぉいぃ!!!!!」
絶叫するクォナ嬢。
「素晴らしいですわ! お教えしますわ! 私の命を狙っていた犯人は、ラメ・ガイヤーという準貴族! 私に振られた腹いせに! 準貴族という立場を悪用したストーカー行為をしていたのですのぉ!!」
「ストーカーを招いたのですか!?」
「彼は有力商家で、パーティーに使うお酒、食材はそちらで購入したのです! 私だけ飲む酒は特別に注文しておいたのですわ! 偏執なまでの愛情が憎しみに歪み、やがて殺意へと変化する、毒を盛る短絡的可能性に至る可能性は高いと踏んでいましたの!! そしたら予想どおり! 彼を見張っていたシベリアが毒の混入を確認! しっかりと証拠は押さえておりますのよ!」
「待ってくださいクォナ嬢! 信じられない! 意味が分からない! それこそ自分が死ぬかもしれないのに! あんな! あんな悪戯のようなドッキリをしかけたのは! どうして!?」
「どうして? どうしてですって? だって……」
「そちらの方が面白いではないデスか?」
「は、い?」
「自分への殺意を知った時に、このドッキリ企画を思いつきましたの! 素晴らしいですわ! 命も運否天賦に委ねるなど、正気の沙汰ではありません!! でも、人を騙すためには命を懸けなければ騙せません! 結果私の決断は神との繋がりを持つ神楽坂イザナミ文官中尉も同様でした! 大満足ですわ!」
「く、クォナじょう?」
「はぁいい!?」
「ひ、ひっ!」
思わず立ち上がりそのまま後ずさると壁にあたる。
「神楽坂文官中尉!!」
ダンと壁を叩きつける。
「でもでも! 命を懸けた私の決断が! たった一つの、ヒントともいえるようなどうかというレベルでの言葉でのあっさりとした見破る! 素晴らしいですわ! 他の男たちとはまるで違う! どいつもこいつも私を深窓の令嬢とか呼ばわり、夢を見て、現実を見ず、私の神と崇める使えない男たち!! だけどあなたは違いますわ!!」
「え、あ、そのっ」
「風潮に頓着しない! 常識に頓着しない! 善悪に頓着しない! はうぅ! じっと観察する! その三つの観点で私を観察する! ああ˝! 快感と絶頂で気が狂ってしまいそう! ひょっとしてと思っておりました! まさか本当に、やはり面白い! 狂気の沙汰ほど面白い!! 想像するだけで……」
自分の両腕を自分の体に艶めかしく絡みつける。
「たぎってしまいますぅ!!」
深窓の令嬢が目を赤く輝かせて凄い勢いで迫ってくる。
「さあ神楽坂中尉! これはまさに運命の出会いです!」
俺はいつの間にか、口を開けてクォナから目を離せず壁を背にへたり込んでいて。
すかさず壁に寄りかかりへたり込んでいる俺の左半身にクォナ抱き着いて足と腕を絡ませて、クォナ嬢の左足は俺の股をとおり、左手は俺の右脇を抱え込み、右手は俺の右コメカミを優しく添えて、だから顔を俺の耳に近くに、近くに、吐息に、俺のほんの耳から数センチのところにクォナの口で、脳に突き抜けるような甘い香りと。
「貴方の常軌を逸した思考! 自分の考えに心中する度胸! 全てを見通す洞察力! 卓越した推理力! 是非今後も私と一緒に! 楽しいことをいっぱいやりましょう!? 後は貴方が頷くだけです! あのドッキリは茶番でしたが貴方の真実がい知りたかったからですのよ! 全ては貴方のため! 故に今日はぜひ泊まっていってくださいませ! 二人きりで! 寝室で! 私は貴方のことをもっともっと知りたいと存じますわぁ!!」
綺麗な唇から、脳味噌を溶かすようなしびれるような声、少しの動きだけで失神しそうな体の柔らかさが全てに真っ白にするるるるるるる。
「ああ! 私としたことが! 親交を深める前に謝罪をすることを忘れておりましたわ!」
クォナは俺からするりと離れると、右手でドレスをたくし上げ腹を出し仰向けになり舌を出して犬のように舌を出しながら息を吐きながら赤く輝く目はしっかりと俺を見ながらクォナは床をのたうちまわりながら叫んだ。
「私を好きなだけ蹂躙くださいませごしゅじんさまあぁぁ~~!!」
「…………」←白目をむいている
「マスター!」
突然響いたリコの言葉、クォナは少し我に返ったのかピクリととまり、床を転がる形でリコの方向を見る。
「神楽坂様をご覧ください、びっくりしていますよ」
そのままクォナはゴロンと逆側に転がる。
「」←泡を吹いている
リコの言葉を受けて、クォナ嬢は赤く輝く目から普通の黒い目に戻り、ゆっくりとドレスを整いながら立ち上がる。
「まあ、私としたことがはしたない、ご主人様は乗り気ではないようですから今日は諦めますわ、ですけど神に愛された人物の輪舞、とりあえずは堪能させていただきました、リコ」
クォナ嬢は、初めて出会った時の深窓の令嬢に戻っていて、リコを呼び寄せる。
「ボニナ族との話し合いはついたとカイゼル中将とタキザ大尉の2人に、説明は友人とも共に私が改めてしますわ」
「かしこまりました、マスター」
「さて、皆様が来る間、私はこの身の猛りを鎮めるために身を清めてまいります、ご主人様……いえ、神楽坂中尉、お礼は改めていたしますわ」
そのまま出会った時、そのままの脳が震える声と脳天を突き抜けるようないい香りを放ちながらその場を後にした。
バタンと音を立てて閉じる扉。
尻もちをついたままの俺。
「何度、なんど!! 騙されればっ!! 深窓の令嬢なんてっ!!」
圧倒的深窓の令嬢!! そんな、そんなものは存在するわけないのにっっ!!
男の願望っ! 妄想っ!! 妄言っ!!! 冒頭から繰り返し理解していると! くどいほどに言っていたのに!!
俺はひざを折り、頭に地面をゴンゴン叩きつける。
「神よっ……俺を祝福しろっ…!」




