第48話:子午線の祀り
「突然失礼、アーキコバの物体の解析の功労、聞かせてもらったよ「240年に一度の解」か、恐れ入った、目の付け所が違う、まったくもって若く優秀な人材は国の宝だな」
俺に突然話しかけてきた中年男性は、細身でありながら痩せてるという印象は無く、年を感じさせない引き締まった印象、手足もすらり長く伸びた、いわゆるダンディと表現しても差し支えがない人物。
容姿だけではなく一目で分かる洗練された雰囲気に、誰もが安心させるような紳士的な笑みを浮かべている。
いきなりでびっくりしたけど、話かけられたのは間違いないのだから答えないと。
「優秀なんてとんでもないですよ、ただの偶然と運と、後は、そうですね、ラベリスク神の加護、なんてのがあったのかもしれないです」
「…………」
男性は、その紳士的な笑みを崩さないまま、興味深そうに俺をじっと見る。
「不思議だ」
「え?」
「いや、悪く思わないで欲しいのだが、今の言葉に嘘が感じられなかったよ」
(おおう……)
いつもなら謙遜とかで適当にいなされるのに、なんとなく感じ取っているのか、勘の鋭い人だな。
そんな俺の考えをよそに男性は続ける。
「時間があれば、何故240年に一度の解に気が付いたのか、教えてくれるとありがたい」
「はい、かまいませんよ、そうですね、一番最初おかしいと思ったのは……」
とあらかじめ用意したシナリオを目の前の男性に話す。
彼は適度に相槌を打ち、時に質問をして、雑談を交えながら話をする、淀みなく続く俺と彼の話、なのだけど……。
(って、そもそも誰だろうこの人)
いきなり登場していきなり話しかけてきても普通に困る。「神楽坂君だね?」なんて問いかけを考えると向こうは俺のことを知っているのだろうけど、俺は誰なのかさっぱりわからない。
でも困ったのが今の男性とは間違いなく初対面の筈なんだけど……。
(うーん、どこかで見たことがあるような気がするんだけどなぁ)
いわゆるデジャヴという奴だ、会ったことがないのに会ったような気がする、ってナンパかよと自分で突っ込みながら話を続けるがそろそろ辛い。
こういう場合に「どちら様ですか?」とか聞くと、こう気まずい感じになるから聞けないんだよなぁ、思い切って聞いてもいいんだけど、問題なのがこの人が。
(貴族ってところだよなぁ)
爵位服に身を包んでいるところを見ると、準貴族ではなく正貴族なんだろう。
正貴族は自らの家の紋章と自身の爵位を現す二つのバッヂをつけるのが習わしで、目の前の男性の爵位服にも当然紋章と爵位章がついている。
ついているけど、家の紋章なんて全然わからないし、爵位章はなんか似たようなのばっかりだったから、爵位も分からない。
今回の学会発表には正貴族もちらほら姿を見せていたのだから、おそらくはその1人だろうけど。
ああそうか、だからゴドック議員は来賓客リストを俺に手渡したのか、こういう失礼が無いように、「こんなもの置いていかれてもなぁ」って、段取り表以外すぐに捨てたんだ。
現に俺はどこだとか聞かれて案内したであろうゴドック議員が、彼の後ろで目を白黒させてる、傍にいるムージ館長は我関せずの顔してる、あれは俺が全く知らないのバレてるなぁ。
どうしよう、まあ適当にやればなんとかなるか、目の前に人には悪いが、俺はルルトともっと大事な話をしなければならないのだから。
「時に神楽坂君、害虫と益虫の違いは、なんだと思うかね?」
「…………え?」
男性から突然放たれた冷えた声に我に返る。
丁度アーキコバの物体についての話題は一区切りを付いたところだったけど……。
害虫? 益虫? なんだそれ、そんな話をどうして急に、と思って真意を測るべく男性の顔を見た時だった。
俺を見つめる男性の目。
その目を見た時に、自分の脳が冷えて覚醒した。
(そうか……)
覚醒した俺の脳は、目の前の男性と実像と最初に感じた「どこかで見たことあるような」という既視感の間の実像を結んでくる。
そうか、そうだ、間違いない、見たことがあるようなとはデジャヴでも何でもなかったという事だ。
(害虫と益虫の違いか……)
さて、面白くなってきたぞ。
「答えは簡単です、「人間がどう思うか」ですよ」
「ほう?」
「人間に対して毒を持つというから、という理由でもいいのですが、それは定義の一つにすぎません。不気味である、グロテスクである、不快である、そんな理由でも虫は人に殺されます。私がもしそんな理由で殺されるのなら、こんなにも残酷で理不尽な理由はないと思いますよ」
「面白い回答だ神楽坂君、なるほどな、つまりは人間の機嫌一つ、という事か」
「それで、私はどっちなんです?」
「ん?」
「今の例えは、人の例えではないのですか?」
俺の問いかけに、挑発するような問いかけに、ここで初めて男はその紳士的な振る舞いと仮面を外し、歪に笑う。
「そのとおりだ、神楽坂君」
そう、そうだ、この男の俺を見る目だ。
ああ、ごめんな、思えばお前が俺を見下しているときさ、俺の方だって内心では好き嫌いで能力まで判断して、女みたいな嫌がらせをしてくるお前を器が小さいと思っていたんだ。
(だが、モスト、お前は少なくとも「俺を人間として見ていた」よな)
そう、人間だから見下すのだ、自分と同種の生き物だから。
本当に俺を人間だと思っていない目だ、人間がこんな目ができるのか。
だけど不思議と不愉快さなんてものは無く凄い、なんて思ってしまった、
「笑っているぞ神楽坂君」
指摘されてびっくり、ルルトに視線をやると頷く、そうなのか笑っていたのか俺は。
「それは気が付きませんでした、失礼しました、癖なんですよ、面白いことに出会うとね、つい、不快でしたらお詫びいたします」
「気にすることは無い、気持ちは分かる「私も一緒」だからな。この年になっても面白いことがあると笑ってしまうのだ。それにしても噂と違い、君は中々に聡明な人物なようだ」
「聡明? 聡明な人物は修道院で最下位なんて取りませんよ」
「いや、君の噂と能力を聞く限りでは最下位という順位は頷ける話だよ、だからこうやって君の為にわざわざ足を運んだのだからな」
「え?」
わざわざ足を運んだ、本当に俺にわざわざ会いに来たのか、ここでの接触のタイミング、接触してきた理由、例えばまさか息子の同期だから会いに来た、もちろんありえない、その息子の中間報告会でも最終報告会でも姿は見せてなかったと思う。
なら俺の功績に目をつけたから、これもありえない、俺の功績なんてどうでもいい筈だ、人を人として見ていないのだから。
ってことは……。
(招待客に入っていないのか?)
そうだ、俺が気が付かないのは良いが、アイカが何も言わないのは変じゃないか。アイツはちゃんと招待客簿にも目を通すだろうし、一言あってもいいはずだ。
ということは、今回の訪問はイレギュラーだってことになる。
そうか、ゴドック議員が目を白黒させているのは、俺に対してじゃない、目の前にいる人物が突然来たからなんだ。
となればわざわざ突然ここに来てまで俺に接触する理由ってのはなんだ。向こうにとって俺に用事ができるほどのことを、俺がしたってことで考えると……。
「ま、まさか!」
俺の思い至った結論を察したのか彼は嗤う。
「連合都市誕生の際に、君が選択した乗っ取りという手法、私もそれ以外ないと思ったよ、そして先を越されるとは思わなかった」
「そうか、貴方が、あのシステムの使用者たるもの!」
あの時、ウルヴ少佐ですら管理者は知っていても使用者は知らなかった。
存在を徹底的に消しておくぐらいだから、会うなんてことは無いだろうと思っていたけど、まさか向こうから接触してくるなんて。
男は手を差し出される。
「ドクトリアム・サノラ・ケハト・グリーベルトだ、初めまして」
俺もしっかりと握り返す。
「こちらこそ、神楽坂イザナミです、ドクトリアム卿」
さて、当然これだけで終わるはずがない。
もうここまでくれば目的は明白だ。
(これは事実上の宣戦布告だ)
伝家の宝刀とは抜かないからこそ威力を発揮するものであり、抜いた瞬間に威力を失うものだ。
つまり伝家の宝刀は相手側からすれば「抜く」のではなく「抜かせられた」というのは最後の手段を意味する。
ドクトリアム卿は報告を受けて自分が伝家の宝刀を抜かせられた相手を会いに来て、宣戦布告しに来たのだ。
それにしても冷酷非情とは聞いたことがあるが噂と違いケレン味がある人だ、わざわざ姿を見せて宣戦布告するなんて。
さて、となれば茶番は終わり、ここからが本番だ。
(この相手は強いぞ!)
気を引き締めろ、モストを相手にしていると思うな、相手は比べ物にならないほどに強大、だけど今の俺に不思議と恐怖はなかった。
俺はもう神の力とかを気にしなくていい、使徒だとばれても構わない、仮にここでこの敵を倒せるのなら、それはウルティミスにとっていいことなのだから。
それを抜きにしても、面白いと思ったことは嘘じゃない、ドクトリアム卿、何となくではあるが……。
(俺と同じ匂いを感じる)
つまり一言で言ってしまえば趣味人だ、この人は。
「…………」
俺の反応をじっくり見たドクトリアム卿、少しだけ息を吐きだし、次に俺から少しだけ離れる。
そして次にドクトリアム卿がしたことは……。
「神楽坂君、君の懸案事項である後ろ盾の件についてなんだが、是非私に勤めさせてもらえないか?」
「…………は、い?」
俺の反応と同時に、いつの間にか集まっていたドクトリアム卿の言動を伺っていたであろう招待客たち全員の視線が一斉に集まる。
先ほどまでの歪な笑みは消えて最初に話しかけた時の紳士的な笑みに戻っている。
「今日私が来たのはそのためだよ、アーキコバの物体の解析の功労を聞いてな、前々からひょっとしてと思っていたが、これで本物だと確信した。そしたら居ても立っても居られなくなってな、ゴドック・マクローバーよ、突然の来訪すまなかったな」
自分に振られるとは思わず飛びあがるように反応するゴドック議員は、すぐに傍に来る。
「ド、ドクトリアム卿、神楽坂文官中尉とは?」
「ああ、彼は息子の修道院同期で色々と話を聞いていてね。知っているかね、彼は修道院で最下位だったそうだ。だがこの胸に輝く4つの勲章を見たまえ、最下位? 下らんな、彼の能力はもう証明されている」
「そ、そのようで、今回のアーキコバの物体の解析の功労は、謎の解明にとどまらず今までの歴史観を覆すものでしたから! それもこれも常識にとらわれない神楽坂文官中尉の発想があってこそですよ!」
「そうだろう、そうだろう、だが息子曰く、彼は唯一政治が非常に苦手、はっきり言ってしまえば媚びを売ることができない世渡り下手だそうだ。だが媚びへつらうなんぞ年を取ってからで十分、若い者は反抗的なぐらいで丁度いいのだ」
ここで言葉を区切ると俺の肩に手を置く。
「とはいえ現実はそれで綺麗に物事は進まない。だが世渡り下手に世渡りをさせても彼の長所が消えてしまう。これは国家の損失だ、原初の貴族の末裔としてこれを放置すれば初代に怒鳴られてしまうよ」
いつの間にか場の中心になっていたドクトリアム卿の話に全員が揃って笑う。
なんでそんなに人が集まっていたんだ、テラスから視線を移すとムージ館長が出席者に触れ回っており、それぞれの有力者が、俺を見ながら付き人を呼び寄せ何かを指示している。
「…………」
目の前で起きているこの出来事にまるで現実感がない。
修道院では、貴族枠の生徒に取り入ることが政治の初歩としての能力として求められ、それが今後の活動の基幹となることも多いから、皆、貴族の後ろ盾が欲しいために努力をしていた。
俺が首都観光で浮かれまくっている時に。
俺が博物館で古代ロマンに浸っている時に。
俺が食べ歩きをしている時に。
みんな努力をしていたのだ。
いや、あれは努力なんて言葉じゃない、自分の能力と時間を全てを捧げ、見返りがあるかどうかも分からない終わりのない奉仕という表現が適切だ。
人生をかけて奉仕し、自分がその価値を認められてやっと得られる貴族の後ろ盾。
その中で正貴族の中でそれが原初の貴族となればもう別次元、自分の人生と引き換えとしても惜しくはないほどに、その価値は計り知れない。
裏を返せば、それほどまでに貴族は後ろ盾になったりなどしないのだ。
生涯を捧げても、便宜を図る程度、それでも十分な恩恵にあずかれる。
だからこそ後ろ盾を向こうから申し出るなんてありえない、だから周りはドクトリアム卿に合わせて笑い、讃えるが、こんなにも動揺している。
なるほど、やっぱりモストなんかとは比べ物にならない。あいつの振る舞いを見ていると、父親の影響を受けたのがよくわかる。
だが上辺をなぞっているだけだ。
(これが、初代国王の直属の部下である原初の貴族、その歴史ある12門の末裔たる当主!)
「答えを聞かせてくれないか、神楽坂君」
紳士的な笑みを崩さず問いかけるドクトリアム卿。
俺もまた笑顔で返す。
「まさかの申し出に言葉もありません、私などに目をかけていただき感謝のしようがありません、ドクトリアム卿」
「私も君の後ろ盾になれて誇りに思う、若者は国の宝だ、これからも精進したまえ、神楽坂文官中尉」
●
「……ドクトリアム卿」
後ろ盾の件については、懇談会の後、泊まっていた宿にて皆に伝えた時、いの一番に反応したのはアイカだった。
「神楽坂、分かっていると思うけど、モストを相手にしていると考えちゃ駄目だよ、ドクトリアム卿は、正真正銘の冷酷非情な人物だから」
モストの時のことを話す時とは違う、緊張感と少し恐れを含んだ口調、同じ貴族社会で生きるから、色々と事情を知っているのだろう。
原初の貴族、王国創立当時から続いている貴族の最上位格を持っており、爵位の5つの階級のうち、公爵、侯爵、伯爵位を独占している。
だが独占されている地位に対して皆、異議は唱えられない。何故なら全ての当主が原初の貴族と同等の能力を保持し続けているのだから筋金入りだ。
「まあでも、これでやっと完成したんだな」
そう、長かったし、想定外だったけど。
「原初の貴族の後ろ盾があれば、もう俺達に手出しができなくなる、原初の貴族の不興を買うは神の不興を買うが如くってな」
俺の軽口にセルカは渋い表情を浮かべる。
「完成は良いけど、これから何を要求されるか……」
セルカの言葉に全員が黙る。
必ず儲かる話、なんてものはないように、後ろ盾で対価が求められない関係は存在しない、だけど、、、。
「いや、そういうのはない、おそらく何もしてこないと思う、ただ後ろ盾になってくれてるってだけで、こっちも特に何かを返す必要なんてないよ」
あっさりとした俺の言葉に全員が「え!?」とびっくりする。
「は? いやいや、対価がいらないってこと? 都合がよすぎるよ! なんで断言できるの!?」
食らいつくアイカであったが。
「飼っている虫に対して、衣食住すべてを与えているからという理由で対価を要求するか?」
俺の言葉に全員が今度はギョッとする。
「だからドクトリアム卿が問題にしてたのは飼われている虫にその自覚が有るか無いかだったと思う、だから直接会いに来たんだろうね」
「じ、じかく? な、なに? どういうこと?」
「だからその自覚の有無は直接会わないと分からないだろ?」
「いや、だろって言われても、それって、人を人と見ないってことでしょ!? それでいいの!?」
「もちろん、だからこそ信用できるのさ」
「信用って……」
――「後ろ盾というのは情の繋がりではなく利益の繋がりだ。だが利益の繋がりは中尉には無理だろう、だから「情」の繋がりを目指すが良い。ここで私の言う情というのは「仲間ではない」ということをよく覚えておくがいい」
ウルヴ少佐の言葉が蘇る「情による繋がりでありながら仲間ではない」というこの言葉の意味をずっと考えていたが、こういうことだ。
「まあ、益虫だと思っているのか、あえて害虫を飼おうと思っているのか、それは分からないけど、俺が気をつけなければならないのは対価ではなく「いつ切られるか」だよ、最悪なのは切られているのに切られていないと勘違いした場合だ」
ロッソ・マルベルが典型的だ、自分の立場を完全に勘違いした故の自覚無き自滅行為、あれは他山の石となった。
ま、あの外連味を持たせて存在を俺が明らかにしたのは、意趣返しなのだなと今更ながらに理解した。
「……なんか妙にわかってる感じなんだけど」
「あの人は趣味の悪い趣味人なんだよ、ふう」
どっと疲れが押し寄せてきてベッドの上に寝っ転がる。
天井の木目模様をぼんやりと見る。
(良かった、本当によかった)
ドクトリアム卿の意図が何であれ、後ろ盾の問題が解決するなんて思わなかった、だから俺はまだここにいられるんだ。
(良かった……)
手放しで喜べないけど、これで日本に帰らずに済む、こいつらとも別れずに済むんだ。
疲れた、このまま眠ってしまいそうだ、と寝っ転がっている俺の頭の横にアイカが座る。
「なら後ろ盾の問題は解決したってことでいいんだよね?」
「うん、一応ね」
「なら日本には帰らないでいいのね?」
「ああ、ええ!?」
飛び起きてアイカを見る。
な、何で知っているの、次にセルカとウィズも見るが、この顔は……。
「…………」
(ギロッ!)
「ボクじゃないよ、気づかれていたよ普通に、分かりやすいから、君はさ」
「そうなの!?」
まあ様子は変だとローカナ少尉に指摘されるぐらいだから、でも日本に帰るとはなんで。
「今回の240年に一度の解よ」
セルカが疑問に答える形で続ける。
「イザナミさん、今回ラベリスク神が神の力を使わないと解決できないように仕組んだって言ってたよね、それをそのまんま240年に一度の解にねじ込んだからよ」
「あんな強引なやり方でいくら利益に聡いゴドック議員でもあんなに早く納得すると思う? イザナミさんの神との繋がりの噂を聞いていたからだし、実際に見てそうだと思ったからよ」
「学会発表で、政府功績はともかく、大臣勲章の受勲は、ゴドック議員の働きかけてたのは知ってた? それはそうよね、神の繋がりが自分で確認できたのなら、その繋がりを今回をきっかけにして自分も持ちたいと考えるのはそれこそ政治家とすれば当たり前よ」
「ラベリスク神は、あんなに慎重に事を進めていて、気づくのがイザナミさんだけに仕向けていたのに、あんなお粗末で雑なやり方してさ、なによりルルトとウィズの力を借りていない独断専行、あんなのは後のことを全く考えていないからできた手法よ」
「ならどうしてそんなことをしたのか、悪いけどアーキコバに自分をだぶらせているなんてわかってたんだから、そのアーキコバの最期をどう過ごしたのかって考えればすぐにわかるよ」
一気に語り終えたセルカ。
「…………」
一方の俺は何も言えない、そのとおりだ。
「そ、それでもっ……」
とセルカに反論しようとしたとき、裾を掴まれて、軽く引っ張られる。
俺はセルカの方を見ていたし、後ろにはアイカしかいないから誰が引っ張ったのかわかるけど。
「え、えっと」
「振り向かないで!」
アイカの声で俺はそのまま固まる。
「最後だからね、これが最後、もし次にやったら、アンタは仲間でも友達でもない、絶交だからね」
「…………」
震える声のアイカ、俺は何も言えなくて、すぐにすっと裾を放される。
そうだよな、まずはちゃんと謝らないとな。
「あの、振り向いていい?」
「いいよ」
振り向くと当然そこにはアイカがいたが……。
何故か腕まくりをしていた。
「え? え? え?」
動揺して再び後ろを振り向くと、セルカも腕まくりをしていた。
「イザナミさん、私はね、言って分からない奴は殴り飛ばすのが一番手っ取り早いって考えているの、まあ実際は出来ないんだけどね、実際はね?」
「う、うん、そうだよ! だって法治国家だもの! 暴力ダメ! ゼッタイ!」
やばい、これは今まで見たいことないぐらいに怒っている。えっと、こういう時は親愛なる拝命同期に。
「まあ、アンタのことだから、自分が腹を括るのに私達も同じように腹を括らせるようなことをしていいのかって、悩んでいたんだよね?」
「そのとおり! 流石アイカ! 愛しているぜ!」
と思ったら一番手とばかりにアイカに胸ぐらを掴まれた。
「私も愛しているよ、だからこれで私たちが本気だってことが分かるでしょ?」
と思ったらアイカも相当に怒っていた、となるといつも冷静沈着なウィズが頼りだ!
「ウィズ!」
「なんでしょうか?」
わかるよな、俺のフォローしてくれるよな、ウィズは賢く空気が読めるものと目でメッセージを送り続ける。
ああ、とばかりに頷いてルルトの方を見る。
「ルルト様、神楽坂様の処断の件について指示を伺いたいのですが」
「やっちまいな」
「えー!!」
ルルトの言葉に呼応するかのようにアイカは思いっきり振りかぶる。
「分かった! 凄い分かった! 俺のことをそんなにも思ってくれるなんて俺は幸せだ!いやあいい女に囲まれて俺はとっても幸せ! 性格良し! 器量よし! おまけに美人! こんな恵まれた俺は!」
●
ヒリヒリ。
痛い、こう少女漫画とかだとヒーローがヒロインにひっぱたかれるってシーンってよく見るけど、あの時はヒロインの涙とバックに星が舞ったりして、見せ場として成り立っている。
だけど実際にはヒーローの涙とひっぱたかれたことに目の前に星が舞う羽目になるのかぁ、身をもって知るとは思わなかった。
しかも全員容赦しないんだもの、普通に泣きそうになるぐらい痛かった、しかもルルトもするんだもの。
もうわかった、こうなったらトコトンやってやる、文句言って来たらまとめて面倒見てやる。まあ女に気合入れてもらうなんて男としてはどうかとは思うが今更だ。
ちなみに俺をひっぱたいた女性陣はメディとローカナ少尉を加えて女子会だそうだ、何の話をしているのやら。
まあこうやって今は1人してくれて丁度良かった。
痛いくせに、嬉しいなんて、誰にも悟られたくないから。
次回は21日か22日、これで第4章は完結となります。
本編の後は次におまけもありますのでよろしくお願いします。




