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第46話:240年に一度の解


「ふーーー!」


 思いっきり口をすぼめて息を吐きだすと椅子から天を仰ぎ目頭を揉む。


「……しんどい」


 もう何度目か分からないこの言葉、ラベリスク神に作戦の説明をしてから2週間、睡眠時間と食事の時間以外は全て論文作成に費やしている。


 自分で提案したこととはいえ、何度後悔の念が押し寄せて来たことか、資料を読んで意味をかみ砕いて再び論文を書く。


 思えば、こんなに机に向かうのは修道院の卒業試験以来だ。


 は~とため息をつきながらパッタリと、そのまま机に突っ伏す、くどいようだけど、しんどい、本当にしんどい、デスクワークは本当に向いてないよな俺。


 こんなクタクタの俺の横で……。


「~♪」


 俺の倍の時間と3倍の作業量をこなしているくせに全く疲れを感じさせない様子で鼻歌交じりに翻訳を続けるメディ。


「はい、神楽坂さん、最終巻ですよ~」


 どさっと、俺の目の前に置かれるアーキコバ・イシアルの書いた論文集。


「なあ、メディ、ちょっと休憩を……」


「駄目ですよ~、1時間前にとったばっかりじゃないですか~、後少しですから」


「知ってるメディ? 定期的に休憩を取らないと効率が悪くなるんだって」


「はいはい~、頑張ったらお菓子あげますから~」


 くっ、完全な子ども扱いだな。


「そもそも私の書いた論文に加筆するだけなのにどうしてそんなに時間がかかるんですか~? 修道院出身の文官なんですよね~?」


「うるさいよ! デスクワークは嫌いなの! もう、こうさ、俺は褒められて伸びるタイプなんだよ、わかってる?」


 と言いながら翻訳してくれた論文を参考にチマチマ書きながらぶつぶつ文句を言う。


「お疲れ様! 進捗はどう?」


 そんな俺達が作業している部屋にローカナ少尉が夜食を持ってきてくれた。


「あと少しです、その後は、えっと、誤字脱字とか、文章的におかしかった、場所の訂正を、お願いします」


 息も絶え絶えな俺の言葉にウキウキのローカナ少尉。


「お安い御用よ、それにしても懐かしいなぁこの論文、没になった時はずいぶん落ち込んでいたけど、日の目を見てよかったね、メディ!」


「ありがとう、ローカナも自分の研究があるのに~」


「いいのよ、美容魔法の研究に付き合ってもらったし、そんなことよりも!」


 終始機嫌のいいローカナ。



「アーキコバの物体がまさか終の棲家だったなんて! 中にあるアーキコバイシアルの遺体! スズテベーシックの研究論文! 私はまさに歴史の立会人になれるなんて光栄だもの!」



 そのままは踊りだしそうなぐらいに未だに興奮冷めやらぬようだ。


 さて、ローカナ少尉の言葉のとおり、既にアーキコバの物体は一か月前に「開錠」されている。現在は別館を憲兵が封鎖し、王立研究所の職員も立ち入りが制限されている状態だ。


 現在その制限がかかっていないのが、メディとローカナ少尉の2人、中で発見された論文や歴史記録書は当然のことながら今までの歴史観を覆すことになった。


 んで、ただ学者としては今回の真実の公表がどの程度及ぼすかについては、見通し不明でありこれも問題だった。


 だからラベリスク神に会いに行く前にメディに解除鍵を作ることとその後の対処を神の存在を伏せる形で協力を頼んだところ快諾してくれたのだ。


 そこは流石メディで、開錠を見届けた後何も言わずにローカナに話を通して味方につけたのだ。


 そして現在、アーキコバが記した歴史論文を元にメディが翻訳し、高等学院時代に作成した論文を全面的に書きなおし、自分のアーキコバの物体の解析方法を記したものを加えて作成することになっている。


 これがまずアーキコバの物体の解析に対しての第一弾、3日後に迫った研究発表会にて使う論文だ。


 ちなみにメディはとっくに論文を書き終えており、翻訳作業と論文の書き方を俺に教えてくれているのだ。


「神楽坂文官中尉、進捗状況はどうかな?」


 今度現れたのはゴドック議員だ。


「あともう少しですよ」


「よし、こちらも段取りは全て終わったよ、変わらず中尉は発表にだけ専念してくれればいい、功労者に手間をかけさせないよ」


(よく言うよなホントに)


 今回のアーキコバの解析の功労でしっかりと自分のアピールが出来たようでホクホク顔だ。


「これが今回の学会のスケジュールと招待客の一覧だ、目を通しておいてくれ、私は別の用事があるからこれで失礼するよ」


 と嬉しそうに足早に消えていった。


 さて、アーキコバの開錠については人の力では不可能である、ということが結論づけられていたことと、なによりも長年解明が不可能であるから放置されていたというオーパーツに対して開錠したということをどう説得力を持たせてるかが大事だった。


 どの道どんな理屈をつけても不自然さは消えないなら俺の採用した方法は結論を先に持ってくることだった。


 つまりまず開錠したアーキコバの物体をゴドック議員に見せて、そこから理屈を説明する方法を採用したのだ。


 その理屈とはこんな感じ。


 アーキコバの物体の変化する解除鍵にはパターンがあることを突き止めた。

 その鍵は定期的に来るものではなく、予測可能なたった一つの鍵は240年に一度しか訪れないことが判明。


 その事実が分かった時には既に3日後に迫っていた、時間がない、これを逃すと再び開錠できるチャンスは240年後、故にハーフであるメディに頼んで鍵を作って開けてもらった。


 というものだ。


 アーキコバの物体の謎が解けました、そんないきなりの超展開にびっくりというよりも呆然としていたゴドック議員。


 続いて現実を飲み込んだゴドック議員はムージ館長を引き連れてアーキコバの物体に向かう。


 アーキコバの物体にぽっかり空いた穴、再び呆然とするゴドック議員は、我に返ると口をパクパクとしていたが、そこは保身を取った貴方が悪いとばかりに話を展開するセルカに口をパクパクさせるだけで文句は言えなかった。


 散々渋ったがゴドック議員もアーキコバの物体の中に入り、アーキコバの遺体と資料と対面、終の棲家でありアーキコバの思い出が詰まった場所であり、無害であることが分かった。


 だが流石政治家、切り替えは早い、歴史的偉業ではあることが分かると、いかに自分が俺を信用しているかと言った、「美談」表現に政治交渉にもっていっていき、現在ゴドック議員は側近たちセルカとウィズと共に関係機関への公表準備の段取りを組んでいる最中だそうだ。


「はあ、やっと終わった」


 筆をおいて目頭を揉む、俺の書いた論文をメディに渡す。思えばメディにも協力してもらいっぱなしだな。


「メディ、ありがとな、おかげで何とか形にはなりそうだ」


「どういたしまして~、あ、そうだ、神楽坂さん」


「んー、なにー?」



「今回は何も聞きませんよ~、ですけどいつか必ず話してくださいね~」



「…………」


 とっさにとぼけようとしたが、それは辞めた、まあ気づくか、この子なら。


「分かった、その時が来たら、必ず」


 にっこりと笑う。


「裸まで見せたんですから~」


「うえ!?」


 ぱっとあの時の画面がフラッシュバックする。


「べべべ、べつに! あれぐらい平気だし!」


「はいはい~、ではお花を摘みに行ってきますよ~」


 といって俺の脇を通り抜けるメディ、もう、急に辞めて欲しいなあと思いながら、バタンという扉が閉まる音を背中越しで聞く。


「ふっ、このタイミングで1人にするとは愚かなり」


 ふひ、ふひひ! これで精いっぱい遠慮なく思い出せることができるのだぜ、温泉でメディは脱いだら凄いとか言っていたけど、これが本当にもう凄かったの、あの時は保健室というシチュエーションでより。


「神楽坂!!」


「ギャアアア!!」


 心臓がねじ切れるんじゃないかっていうぐらいバクン!!って音立てて振り向くとそこにはセルカとアイカがいた。


「ウルティミスへの連絡は終わったよ、それと論文が完成次第ゴドック議員と打ち合わせだからね」


 とはセルカ。


「アーキコバの物体は私が常駐することになったから、その報告しにきたよ」


 とはアイカ。


「ああ、うん、ありがとう」


「…………」


「…………」


 なんだろう、2人とも凄い無表情なんだけど、ひょっとして聞かれたのかな……。


 ということはあのメディの突然のあの言葉って、俺の後ろに2人がいることを知っていてわざと。


 いや多分そうだ、だって……。


「あのさ」


「なに?」


「なんでそんな離れているの?」


 うん離れてるからね、不自然に。


 俺の震え声に2人はキョトンとするけど。


「え?」


 この「え?」は凄い冷たかった。


 そう、お前と離れることがどうして疑問なの、というように……。



 そうして迎えたアーキコバの物体の解明及び学会発表は都市博物館の大会議室を持って行われていた。


「今回の解明に当たり、今までの我々の見方だけではなく、外部の見方が必要だと考えました」


 登壇してそう述べるのはゴドック議員、その言葉で沸き上がる喝采。


 それにしても学術界の大物ばかりだ、といっても肩書からしか知らないけど、シェヌス大学の総長や教育部門の国学大臣やらそうそうたるメンバーが集まっている、ゴドック議員の2等議員ってのは伊達じゃないってことか。


 今回の目的はアーキコバの物体の解明に伴う説明化も兼ねている、魔法科学の研究はまだすぐに出せないから今回は、アーキコバの物体の目的及び無害であることをアピールするための場でもある。


 挨拶はまずはムージ館長から始まり、続いて協力者としてのセルカ司祭の挨拶、次に俺とメディの発表、最後にゴドック議員の演説が続いている。


 この後はこのお偉方を交えてのいつもの懇談会だ。


 俺とメディの学会発表は要は添え物だ。無論それは構わない、真実を知らしめるのに俺が一番出来ないのはこういった「影響力」だ。


 まあゴドック議員に対してはあまり策を弄する必要はない、解明の功労をチラつかせて協力を仰げば簡単になせると思ったし、セルカなら造作もないことだから一任したのだ。


 アーキコバの物体がなんであるか、神聖教団の歴史がなんであるか、それを俺達が発表してゴドック議員が後押ししてくれることこそが目的だったのだから。


 だから俺は最前列でゴドック議員の演説を聞きながら、最前列に座り、少しばかりの達成感に浸っている、論文作成は苦痛でしょうがなかったけど、これで役には立ったのかなと思う。


 両隣では論文作成者としてローカナ少尉とメディに挟まれて両手に華の状況で座っている。


「…………」


 ふと視線を移すと、横でローカナ少尉がずっと何かを考えている。


「あの、神楽坂中尉」


 隣で座っているローカナ少尉が話しかけてくる。


「なんです?」


「えっと、その…………」


 話しかけてきたものの、そのまま黙ってしまった。


 何か異変を感じているような、でもそれを言っていいのかどうかそんな感じだ。


「中尉、その変なことを聞くと、自分でもわかっているのですけど、だから変に思わないで欲しいのですけど」


 戸惑いながらと言いかけた時だった。


「それでは、受勲式にうつりたいと思います。神楽坂イザナミ文官中尉、ローカナ・クリエイト文官少尉、メディー・ミズドラさん、舞台へお願いします」


 ローカナ少尉が遮られる形で司会進行も務めているムージ館長に呼ばれてそのまま立ち上がり段取りのとおり3人並んで登壇する。


 目の前にはゴドック議員他、VIPである国学大臣と中央政府の文官将官複数人。


「君が発見した「240年に一度の解」は歴史的偉業を成し遂げ、神聖教団の真実を明らかにする端緒としてその功績は多大である、よって神楽坂イザナミ文官中尉はアーキコバの物体の解明功績により政府第6級功績、神聖教団の論文功労として3人に国学大臣賞を勲章を添えて授与する」


 将官たちは俺とローカナ少尉とメディにそれぞれ勲章をつけてくれる。ここでゴドック議員が発言する。


「今まで神聖教団は我々亜人種達への差別を増長させ、超技術を研究しながらも一種の禁忌として扱っておりました。これは私が所長も務める王立研究所の部署も例外ではありません、アーキコバ物体の解析係の部署は存在しますが扱いは軽かったと言わざるを得ません」


「街長として所長という地位でありながら、禁忌扱いに躊躇し踏み込もうとせず放置していたことは、私の失策であります、ですが今回の神楽坂文官中尉がもたらしてくれたことは運命であると考えます」


 ここでゴドック議員は俺達に視線を送る。


「ローナナ・クリエイト文官少尉は、自身が現在進めている研究が終了次第、アーキコバ物体の解析係主任に任命及びメディ・ミズドラさんを同部署の非常勤研究員、そして神楽坂イザナミ文官中尉を王立研究所の名誉研究員として迎えることを決定しました」


 ゴドック議員の発表に会場から喝采が沸き起こる。


 そしてこの学会発表の場を最後、この言葉で締めた。



「彼らはこの王立研究所は初代街長であるウルリカ・ベーシックが創設以降部署は存在していれどずっと空席だったアーキコバ物体解析係の初代研究員たちです。私は時代の証人になれたことを誇りに思います」




次回は15日から16日です。

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