第45‐2話:探偵役・神楽坂イザナミ:後半
子供は愛の結晶なんて表現を使われた方もする、カリバス伍長とメディの母親にしたって恋をして、念願叶って実り、メディが生まれた。
そのメディのために、愛した女が遊女という地位であるために、マフィアの犬に成り下がったカリバス伍長。
俺は子供なんていないから気持ちがわかるなんて言えないけど、でもきっと子供が助かる手段があるのなら必死で探すだろう、結果その手段が入れ墨しかないと分かったら、その子供に生きてほしいからそれを施すだろう。
そしてその想いは、神聖教団が存在した時から変わらないはずだ。
『だから最初は真実を伝えるのは彼女でもいいかなと思っていたんだよ、結果頓挫したけどね』
秘密倉庫に案内するぐらいに協力をしたものの、アーキコバが禁忌扱いとなっていたことによりお蔵入りとなった。だがその判断は結果良かったとも結論付けているラベリスク神。
何故なら、真実を知らせることとそれが認知されることは全く違う、彼女に真実を知らせても、彼女自身にその真実を広めることができない。下手をすると神の繋がりを疑われ彼女の人生に悪影響を及ぼす可能性がある。
つまり真実を知らせる相手は、神の繋がり、もっと言えば使徒であり、ウィズ神の使徒のような関係ではなく、神の繋がりがはっきりしているしている人物が適任だった。
だがこれは無理難題、この条件は神側からすれば、人間を使徒にして、その使徒となる人と身近な存在であることの二つを満たす必要がある。
だがそれは神々にとって現実的ではない。
何故なら神にとって、自分の正体を明かすことは多大なリスクを負うからだ。
下手に自分の正体を明かしたばかりに、人間の世界に顕現できなくなった神もいるほどに人の世界は一筋縄ではいかないのだ。
そんな条件に適合する人物など本当にいるのか。
長き時を生きてきたラベリスク神、そんな神と使徒との関係は……。
「貴方とアーキコバの関係なんですね?」
ラベリスク神は頷く。
『神聖教団への恐れは魔法というものについてはきっかけに過ぎません。それが爆発したのはアーキコバが私の使徒であったことなのですよ』
神聖教団への迫害、元より強く噂されていたが、アーキコバは神聖教団を守るため、そして自分が邪神ではないことと自身の潔白を表明しようとして、そして自分たちに手出しができないように狙ったらしいが結果は無残なものだった。
当然のように誰も信用せず、むしろ使徒であったことだけが信じられることになり、敵対勢力について攻撃材料を与えただけに過ぎず、しかも使徒に手を出すという事は神に手を出すという事になる。
神聖教団への迫害が凄惨を極めたのはラベリスク神もスズテ・ベーシックとして書物に残している。自業自得としての教科書として使われているが。
故に諦めの感情を持ちながら、歴史を紡いでたが状況が一変する。
それは突然感じた桁外れのな神の力、天を割るほどの攻撃、自分に向けられていないのに感じる殺意、命乞いしか手段が残されていない程の恐怖を感じる。
これほどの力だったとは、噂ではルルトは最強ではないなんて言われていて、力も普通の神と大して変わらないレベルだと聞いていたがとんでもない。
だが一方であの温厚なルルトがどうしてと思い調べるみると、ウィズに対して制裁をしたことを知り、しかもその後、ルルトがウィズと友好関係を結んだことを知る。
ウィズが最強神を目指していたのは有名な話だっだから知っていたが、そのためにウィズはルルト教徒であるウルティミスをウィズ教に改宗させようとした挙句、使徒を手にかけたのだという。
ここまで侮辱にされたにも関わらず制裁を辞めるなんてことがありうるのか、しかも制裁を辞めた理由が、偶然にも生きていた使徒が止めたからだというのは何かの間違いだと思った。
『だがそれが真実だというのなら、ラベリスク神にとって長年の想いの実現を意味することになる。だから私はなんとしても中尉に会い、真実を知る必要があったのですよ』
そのために、そのためだけに一から計画を作り上げ自身のリスクを顧みず実行したのだ、そこまでする理由は一つだ。
「神聖教団の歴史が歪められているからですね?」
俺の言葉にラベリスク神は苦々しく頷く。
『あのハーフに入れる入れ墨は、あんなのは所有物の証とか、屈辱の証なんかじゃない! アイツが死んだ自分の息子のために必死で編み出した愛情の証なんだよ!!』
「死んだ、息子……」
『そうだ、当時は亜人種と結婚なんてまだ考えられなかった、だからその子供がどうなるかなんてわからなかった、だから生まれたあの子は強い魔力を宿して生まれたけど、当然赤子だから制御なんてできなくて、結局魔力を出し尽くして衰弱死した……』
「…………」
『アイツはこの世の終わりというぐらいに凄い悲しんで、でもそれを乗り越えて、自分の息子の二の舞は駄目だと、その決意から編み出したのが入れ墨の術式だ』
『だが後世亜人種への差別のプロバガンダに使われて、それが定着して、だけど刻み込まないと衰弱死するからって理由で無理矢理入れさせられる屈辱の証とまで言われて、アイツの想いまで改ざんされだんだ!!』
堰を切ったように想いを吐き出すラベリスク神。
「……そのために貴方は」
『アーキコバとの約束なんですよ。「自分の想いと魔法が人を不幸にするときがきたのなら、それを正して欲しい」って、正すときにもし歴史を託すにたる人物がいるのなら託してほしいって、アイツはそう言って眠りについたんですよ』
ここでラベリスク神は、神聖教団の本拠地である大講堂から歩き出す。
『だから貴方に賭けます、だから行きましょう、付き合ってくれますね?』
「付き合ってくれますねって……」
『おや、貴方はどうしてここに来たんでしたっけ?』
●
都市博物館に入った瞬間だった、増幅するラベリスク神の力。
『博物館に人がいなかったり、温泉にいなかったりしたのは、この力を使いました、ルルト神とウィズ神に気が付かれないように細心の注意を払いながらね』
ラベリスク神に連れられて、アーキコバの物体が保管されている別館に辿り着く。
「…………」
門扉の前で立っている憲兵は催眠術でもかけられたようにぼーっと立っている。ラベリスク神は、その憲兵の前に立つ。
『セークだ』
「おつかれ……さまです」
常駐している憲兵2人はゆっくりと敬礼する。
『見張りご苦労、疲れているだろう、休憩室に行き、休憩を取れ、変わりは私がやる』
「……で……ですが」
『命令だ、部下を休ませるのも上司の仕事だからな』
「……はい……ありがとう……ございます」
憲兵はゆっくりとした足取りでその場を後にする。
「……なるほど、厳重警戒中の憲兵が「目撃証言」だけなのは変だなとは思いましたが」
『あまり多用したい方法ではありません、アーキコバも嫌ってましたよ、洗脳まがいなことはするなってね』
「……アーキコバはどうして洗脳を嫌ったのです?」
『人は神の力に抵抗できないからです。人が人を洗脳するのならば手段として捉えることはできる。だけど神の力による洗脳は手段ではなくただの自己秩序の崩壊に過ぎないと言っていましたよ』
「…………同感です」
『……神楽坂中尉』
ラベリスク神は続きを話すことなくそのまま無言で別館の扉を開ける。
中には最初に見た時と同じ、アーキコバの物体がそこにあった。
「そうか、ここが、そうなんですね」
『はい』
ラベリスク神はアーキコバの物体の前に立つと手をアーキコバの物体にかざす。
すぐに変化は訪れた、手を中心に波紋が広がり、そのままその波紋が長方形の形に変わり、高さ2メートル程度の穴が音もなく開いた。
「…………」
こんなにもあっさりと、発見以来謎に包まれていたアーキコバの物体が、こんなにも。
『自室の鍵を開けるのと同じです、カッコいい演出が必要でしたか、神楽坂中尉?』
「男の浪漫的には必要ですぞ」
『ははっ、ならば次からはそうしましょう』
ラベリスク神はそのまま、言ったとおり自宅に入るようにアーキコバの物体の中に消えた。
その姿を見送り一呼吸置いた後、続いて俺もアーキコバの物体の中に入った。
●
「わあ~」
と感嘆のため息は最初は誰の物だと思った、俺は息を忘れて見入ってしまった。
俺が中に入ったあと出入口が消えて、その代わり壁に込められた光が輝いて、中の光景が見えて出てしまった。
入った先の1階は、ほとんどのスペースが神聖教団の全体地図が展開していた。
それもただの地図じゃない、魔法をホログラムの応用で出現させて、好きなところを好きな場所でクローズアップして見れる。
神聖教団の本拠地を中心に円形に並んだその地形、失われた古代都市、見惚れているとラベリスク神は地図を手慣れた様子で操作するとある一つの建物をピックアップする。
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と判読不能な文字が出てきた、なんて書いてあるのだろうと思った時だった。
『ここの野菜料理が美味い!』
「…………」
びっくりした俺を見て微笑むラベリスク神。
『ここでよくアーキコバと飯を食べたものです』
「…………」
ラベリスク神は、その他にもアーキコバの奥さんの実家も教えてくれた。アーキコバは奥さんに一目ぼれして、付き合うとかすっ飛ばして結婚させてほしいと直談判しに行って、つまみ出されて、最終的には奥さんが根負けする形で結婚を了承したという。
結婚した後も奥さんにベタ惚れしていたくせに、研究に没頭しすぎたせいで追い出されそうになったのを一緒に謝りに行ったり。
その他にもアーキコバとの思い出を語るラベリスク神は本当に楽しそうで……。
そうか、ここは思い出なんだ、アーキコバとの。
次に向かうは階段を上がった先の2階。
そこは周りを魔法で保存するデジタル本のようなもので囲まれた一室で、その囲まれた形で中央に存在するのは……。
「棺……」
不思議な色をした棺を見て吸い寄せられるように中を覗く。
「…………」
中にはミイラが横たわっていた。
これが誰かなんて聞く必要はない。
「アーキコバ・イシアル、最期はどうなったか不明だと聞いていましたが」
『こいつに頼まれたんです、この時のためにね。まあこれが功を奏して、神聖教団が解散を宣言し同時に行方不明になったことで、相手側がアーキコバの復讐を恐れて解散で良しとしたのだから、皮肉としか言いようがないですが』
ラベリスク神は、魔法科学を操作すると二つ椅子が出てきて、俺とラベリスク神は体面で座る形になる。
『ここは神聖教団が解散した後、死ぬまでアーキコバが滞在した場所です。彼は解散したから良しとしたことを知ると仲間たちのために、本当に死ぬまでここから出ることなく生涯を閉じた。神聖教団の真実の歴史を紡ぎながら、ね』
ここで手を上げると1冊の記録が手元に舞い降りる。
『アーキコバの神聖教団解散のきっかけとなった事件は、歴史が記す神聖教団の終焉の部分にあります』
『現在の史実では。神聖教団は、四面楚歌となり暴走したアーキコバ・イシアルに内部離反者が続出したことから空中分解し自滅、と語っている。だが真実は違います』
ラベリスク神はページを開くと、本の上に幾何学模様が浮かび上がる。
『これは俺とアーキコバが初めて出会った時にアーキコバが完成させたもの、これを埋め込めば誰でも人の身でありながら亜人種のハーフを超える魔力を引き出せる「失敗作」です』
「失敗作?」
『人の身で馬の速さをで走らせるようなもの、そんなことをしたら体がどうなるかは言うまでもないでしょう。神聖教団の末期、周りは敵ばかりでいよいよという時、アーキコバが止めるのを聞かず全員がこの模様を埋め込み、次々と戦場に散っていったのです』
『それでアーキコバは、解散を宣言したのですよ』
そのまま閉じると再びその書物はアーキコバの手を離れ本棚へと戻る。
『さて神楽坂文官中尉』
すうを息を吸い、万感の思いを込めて俺を見つめるラベリスク神。
『これを貴方に託したい』
ラベリスク神の想い、それは歪められた神聖教団の歴史を正して欲しいという願いだ。
「…………」
この願いを叶えるか叶えないか、そんなものは決まっている。
「作戦があります」
俺の言葉にパッと表情を輝かせるラベリスク神であったが。
「ただその前に一つ教えて欲しいことがあるのです、ラベリスク神」
突然の強い口調にそのまま表情が固まる。
「ずっとずっと考えていたことがあって、もし貴方とこうして話すことができたのなら、俺の中の大事なことに対しての答えを、教えて欲しいと思ったのです」
俺の言葉に覚悟を感じたのだろう。
俺の覚悟を感じ取り直後にはっとした表情をするラベリスク神であったが、俺の言葉にラベリスク神も言葉を挟むべきでないと思ったのだろう。俺の問いかけに今まで抱えていた想いや葛藤をラベリスク神は精いっぱい答えてくれた。
「ありがとうございました、ラベリスク神、さて次はこっちの番ですね」
思いのたけを吐き出した後、俺の想いが分かるのか痛切な表情をするラベリスク神。
『神楽坂文官中尉……』
「既に覚悟の上です、さて一度外へ行きましょう、細かいことを話しあわないといけませんから」
『? ここの方が密談には向いていると思いますが』
ラベリスク神の言葉に答えず、1階に降りてアーキコバの物体の出入口に近づき、戸惑いながらも後についてきたラベリスク神はアーキコバの物体の出入口を開いてくれた。
『え?』
俺と一緒に外に出た時に立ち尽くするラベリスク神。
何故ならルルト、ウィズ、アイカ、セルカが立っていたからだ。
「私の仲間達です、頼りになるんですよ、出会った時からずっとね。そうだラベリスク神!」
手をパンと叩いてラベリスク神に話しかける。
「作戦名、考えたんですよ」
『作戦名?』
その場に似つかわしくない明るい俺の言葉に呆けるラベリスク神。
『240年に一度の解、です』
次回は12日か13日です。




