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第45‐1話:探偵役・神楽坂イザナミ:前半


「今回のお伽噺の妖精絡みの一連の事件、これについてはまず、私達がウルリカに来て、辿った経緯とそれにより判明した事実についてもう一度再確認する必要があります」


 さて、復習の部分もあるから、最初から語っていく。


「俺達がウルリカに入った時、憲兵よりお伽噺の妖精に気をつけろと忠告を受け、王立研究所に行き、アーキコバの物体に触れてその後、お伽噺の妖精と遭遇した」


 ここで注目すべきことは二つある。


・完全武装の憲兵が交戦をしていたこと。

・人間離れした能力を持つお伽噺の妖精が実在したこと。


 次に上記二つから分かったことは以下のとおり。


・憲兵にとってお伽噺の妖精は実際の脅威として捉えており特殊部隊まで投入していたこと。

・門番の文言から妖精の実在は一般には伏せられていたこと。


 この時点で気になる事があった、これは以下の三つ。


・憲兵大尉とムージ館長が何やら揉めていた。

・都市博物館内の憲兵が臨戦態勢であったこと。

・お伽噺の妖精の遭遇後、憲兵の事情聴取が都市博物館に対してに集中していたこと。


であった。

 以上のことを鑑みて以下の推測できる。


・都市運営に関して都市博物館と憲兵が協力関係にない。

・憲兵がお伽噺の妖精について都市博物館のなんらかに疑いをかけている。


 とはいえ、この時点では推測できるだけで何もできず、そもそもここに来た目的であるアーキコバの物体の解析とは関係ないから、俺たちは「善意の協力者」としてそのまま滞在を続けることになった。


「次に私は神聖教団の本拠地に行き、ウルリカ都市を巡った後、温泉に入った帰り、お伽噺の妖精に再び遭遇するも確保に成功。結果神聖教団の尖兵であることが判明、その神聖教団の尖兵は完全体が一体だけ発見されており、都市博物館の秘密倉庫に保管されている」


 さて、以上のことからウルリカで起こっていることをまとめるとこうなる。


・都市博物館の秘密倉庫に保管されている神聖教団の尖兵が、夜な夜な都市博物館を出て徘徊している。

・尖兵が動かすのは現在の技術では不可能、つまり神聖教団の尖兵は動いているというのは神聖教団の技術が今でも生きているということの証明である。


「以上が、俺たちの経緯と分かった事実を列挙したものですが」


 ここで一呼吸おいてラベリスク神に告げる。


「一番大事なのは判明した事実でもなく、俺達が辿った経緯でもない、経緯と事実の「繋がり方」なのですよ」


 俺がここで言う繋がり方とは何なのか。



「それは一連の事件を解決するためには、神の力がなければ見破れないように仕組んだことです」



「さて、その説明をする前に、貴方の正体を見破っていきましょう。難しい話ではありません、さっき言ったとおり消去法を使って行います」


「ラベリスク神、私が謎解きを始める時、「これ見よがし」に色々な姿を変えて見せてくれましたよね?」


『おや、かく乱にもならなかったですか?』


「白々しい、神の使徒なれば、あの認識疎外の加護はそもそも通用しません。おそらくは自分よりも上位神に限定されるのでしょうけど、私からすれば神の力を感じ取れるだけで、姿は全く変わっていませんでしたよ」


 これは俺の同期に扮していたウィズで実証済みだ。


『ということは、私が他人に紛れて、という線は消えるわけですね』


 ラベリスク神の問いかけに俺は渋い顔をする。


「消えるのではなく消した、でしょう?」


 俺の問いかけにラベリスク神は笑う、全く、楽しんでいるなあれは。


「同じ理由で俺の仲間である、アイカ、セルカ、ウィズ、ルルトの4名は除外、そして俺と元々面識があったメディも除外される」


「そして使徒であることを主軸にして仕組むためには、今の白々しさも含めて当然俺達、いや俺と接触する必要があり、秘密倉庫に保管されている尖兵を動かすのには都市博物館の関係者でなければならない、となると容疑者は、フェド、ローカナ、ゴドック、ムージの4名になる」


「さて、ここからが少し難しい、単純な消去法ではこれ以上絞り込めない。という状況だったんですが、ここで神聖教団の本拠地に観光に行った時、私はメディというハーフの友人に会いました」


 メディとの邂逅、その後のこき使われたことは置いておくとして、俺はここで彼女のある文言に疑問を抱いた。


――「そういえば、ウルリカ都市にはなにしにきているんですか~?」


 これは明らかにおかしい、俺は話の流れから「ローカナ少尉とフェド兵長あたりから聞いた」と思い込んでしまったが、そもそもフェド兵長は、ローカナ少尉の仕事の手伝いをしていて、私がここにいることを知れば、彼女は自分がどこにいるかを聞いたことになる。


 俺がここにいることについて彼女はこう言った。


――「中尉がここにいると研究所の人に聞いて~、暇していると聞いたので折角だから一緒にと思って~、先生に頼んだのですよ~」


 つまり、自分の居場所を知っておきながら、自分が何をしているのかわからない、ということになるのだ。


「だから俺は彼女に聞きました、俺がここにいることを誰に聞いたのか? 彼女はこう答えました」



「ギドス・サノリナ文官曹長だと」



 しんと静まり返るがラベリスク神は表情を崩していない。


「彼はメディが学院生時代に仲良くなった王立研究所の職員の名前です。神聖教団を調べるにあたり好意的に接してくれたようで高等学院の自由研究の際は「社会見学」と称して秘密倉庫にも入れてもらったこともあるみたいですよ」


「ただ私にとっては誰それって感じですよ、そんな人物がどうして俺が神聖教団の本拠地に行ったなんて知っているんでしょうか」


「ならば調べてみればいい、私は事務室に行き人事記録ファイルを調べました。結果確かに存在しました、ギドス・サノリナ文官曹長、王立研究所所属、そして」



「すでに定年退職して、生まれ故郷の辺境都市に戻りウルリカにはいない、そんな彼の現職時代の所属は」



「アーキコバの物体解析係」



 そして俺は一冊の冊子を取り出す。それをみて初めてラベリスク神は目を見張った。


『ひどいね、人の日記を勝手に』


「おや? こういいましたよね、ここにある物は自分の許可は必要ないから、好きなだけ調べていいと、だからその文句はお門違いですよ」


 苦笑するラベリスク神をよそに日記をパラパラとめくる。


「床下にある日記の置き場は、思ったよりも広く、そこには、すべて同じ筆跡でぎっしりと書き込まれた数千冊の日記が置いてありました。人には長すぎる時をずっと記したものが、昔はギドス・サノリナと名乗り、今は……」


 ぱたんと日記を閉じて、ラベリスク神を見る。


「今はフェド・ラスピーギとして」


 俺はラベリスク神、フェド・ラスピーギに言葉を放った。


『……お見事』


「いいえ、まだです」


『え?』


 やっと呆けた顔をした、思わず嬉しさで顔が笑ってしまう。意図に沿うばかりじゃ芸がない。



「神聖教団の末席スズテ・ベーシック、彼から連なるベーシック一族、その最後の末裔でありウルリカ都市初代街長であるウルリカ・ベーシックまで、それが貴方だラベリスク神」



 ラベリスク神は驚いたようで立ち上がり、はっとする。


『そうか、機密倉庫に保管されている私が書いた論文を読んだのか、だけど、何故?』


「おや、嘘はつかないので?」


 ニヤニヤと俺の問いかけに虚をつかれた顔をするラベリスク神。


『……さっきのとおり、潔く認める方の犯人が好きなのですよ』


 今度はじっと説明を聞くわけではなく、説明を求めるラベリスク神。


「これもまた話すと長くなる、まあ貴方が尽くしてきた時間に比べば瞬きに近いものでも、人の身では長いのですよ。さてまずラベリスク神が人として紛れていると確信を持ったのは、これは神聖教団の尖兵を確保した時です。同時に貴方の意思が何処にあるのか、1回目と2回目の遭遇から確保までの状況を説明するのが分かりやすい」


 お伽噺の妖精について門番の憲兵はこういっていた。


――「万が一遭遇したら逃げてくださいね、目撃者の証言によれば逃げれば追いかけてはこないようですから」


 だがあの時、逃げる俺たちを神聖教団の尖兵は追いかけてきた。しかもあれだけの跳躍力を持ちながら、本来追いつくのもたやすい筈の荷台を引いた馬車のスピードに合わせて追いかけてきてくれた。


 そして俺たちは人気のないところで馬車を停止させ、俺とルルトとウィズの3人で降りて、他は応援を呼ぶようにその場を下がらせた。



 そして尖兵は、その場を後にした馬車ではなく、俺達3人に対峙することを選んだ。



 感じられる明確な意思、ならばこの2度目の遭遇は果たして偶然なのか、待ち構えていたのではないのか。


 一番最初に遭遇した時も、憲兵との交戦という言葉は正確ではなく、憲兵が仕掛けてきたからこそ「応戦」したという事が正しいのではないのか。


 それが俺たちの近くで起きて、俺達に対峙したが人の気配を察知し、その場を「派手」に後にした。


 つまり1回目も2回目も尖兵は俺たちが目的ではないのか。


 しかも馬車がその場を後にしてアイカ達の安全を確保されて、ルルトとウィズに尖兵はまるで物語の悪役のように俺たちの準備が整うまで待ってくれた。


 そして確保時相手が使徒である可能性も視野に入れていたから重傷を覚悟していたものの、向こうの攻撃は一気に距離を詰めてきたとはいえ、手を伸ばしてきた程度、攻撃とはとても言えないものだ。


 だが当然の如く人の力では無理だ、特殊部隊ですらも歯が立たない程の戦闘力を持っているのならば、確保には神の使徒であり、かつ加護を受けてなければ不可能。


 その証拠に上位神が尖兵を確保をしようとすれば消滅させなければならないように調整をもきちんとしている。当然です、尖兵は元々人の世に作られたものでだから、アーキコバの物体も同じ理屈で存在していたのだから神の力を借りなければ無理なのだから。


 つまり……。



「神の力を借りなければ確保できない程の力にして、俺の力を計る事。それを確認した後に自分の正体をさらし、神聖教団の超技術が今も現役であることを知らしめることが目的であったのですよ」



 これが俺の大事だと言っていた、繋がり方だ。


「つまり、俺が神と共にあり、神の使徒であり、神の力を借りているということを、確認したかった」


 そうあの時のウィズの読み「俺の力を図るため」とはそのとおりで、「主語だけ」が間違っているのだ。


『私のその意図を見抜いて、わざとルルト神とウィズ神をあの場に残したのですか』


「ええ、俺の温泉好きと観光好きなのを利用して誘導して、私が何処にいるのかを常に把握していたんです。その証拠に住民の憩いの場であるはずなのに、特段遅い訳でもない時間帯に何故か1人もいなかったお膳立てまで、ね」


『そこまで? ルルト神とウィズ神には気付かれないはずでしたが』


「逆にラベリスク神がそうしたおかげで、神の介在があったとウィズも警戒していたにも関わらず、貴方が潜り込んでいることを知らせたときに「驚いたこと」がヒントにもなったのですよ」


『…………』


「これで確信しました、そして一連の流れはどう考えても出来すぎだということに。それこそ何かに導かれるかのように、そしてその「出来すぎた流れに気付くのかどうかと試されていたこと」に」


「今回のお伽噺の妖精事件は、神の力を持っていることとそれ以外の私の能力を試すために貴方が創った推理物語なんですよ。その物語を構築するうえでの「主役である探偵役」に配置されたのが俺だったのです」


『…………』


 じっと聞いてくれているラベリスク神。


「そして話の核心、何故こんなことをしたのか、悠久の時を神の力を使いながら、巧妙に自分の素性を隠して、神聖教団亡きあと、陰でずっと支え続けていたのに……」


 俺は神聖教団の結成メンバーが刻まされた石碑をなぞる。


「ウルリカに来て以来、色々な人の話を聞いて、俺の中にアーキコバについてある違和感があったんです。だけどアーキコバ自体が禁句扱いされていたため聞くこともできなませんでした」


「そんな時にここで貴方が「可愛がっていた」メディに出会った、いえ正確には貴方によって出会うことになった、メディがここに来ること自体を知っていたのかどうかまでは分かりませんが、貴方にとっては彼女がここに来るのならどうしても会わせる必要があった」


 ここで言葉を区切り続ける。


「何故なら彼女は、俺と同じ疑問を持っていたからです」


 神聖教団の本拠地でメディと出会った時、誰に自分のことを聞いたことの後に、メディへの最後の質問はこれだ。



――「その入れ墨は、強制配合といった人体実験の産物ではなく、むしろ愛し合った人間と亜人種との間に生まれた子供を守るために、助けるためにアーキコバが編み出したものではないか?」



『…………』


 目を閉じて、思いを馳せるようなラベリスク神。


「ラベリスク神、貴方の要望を教えて欲しい、貴方の力になれると思います、そのために貴方はここまでのことをしたのでしょう?」


『…………』


 黙っているラベリスク神。


『……メディは』


 ポツリと語り始める。


『自分の全身に施されている入れ墨を見て、それを「愛情」と捉えたいた。変わった子けど芯がしっかりしている子だったよ』




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