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第44話:物語の舞台へ!


 セルカと別れた俺は、早速都市博物館に来た。ちなみに行くことは協力を申し出た時にムージ館長に伝えてあったから段取りは早かった。


「いや~、色々黙っていて申し訳ありませんでした神楽坂文官中尉、本心は協力したいのはやまやまだったんですよ、ですが私1人の判断ではどうにもならなくて、それもですね私の持論として責任者と言えど、責任取れることは取りますが、取れないことについては」


「分かりました! わかりました! 別に隠蔽を暴くことが目的ではないのです! 今はアーキコバの物体の解析のために動くことが大事なのですよ!」


「……そうなので?」


 わざとらしく首をかしげるムージ館長、この人は……。


「というより、隠蔽云々はそれはそっちで適当にやってください、って意味です、ただし知っていることは全て話してもらいますよ」


「はいはい、わかりました、ゴドック議員からも言われておりますので、といっても私が知っていることなんて、あの場でセルカ議員、じゃないですね、神楽坂文官中尉の推察通りなんですが……」


 とここで話し始めるムージ館長。


 一番最初は、なんてことはない、館長の業務の一つに夜の各扉の施錠確認があるのだが、秘密倉庫の鍵が開いていることに気が付いたことがきっかけだったそうだ。


 あまり言える話ではないが、施錠忘れは時々あるそうだ。そしてこういった場合は中に不審者がいないかどうか確認しなければならないらしい。


 いくら警備を厳重にしたところでこういったヒューマンエラーで全てが台無しになると愚痴を言いながら秘密倉庫に入ったムージ館長であったが。


 中に入った瞬間におかしいと思ったらしい、恐る恐る秘密倉庫内を見回ってみたところ尖兵が保管されていたケースから尖兵がなくなっていたのだという。


 慌てて周囲を探すも当然無し、すぐにゴドック議員に報告するも、その日は夜遅かったので明日改めて探すということになり……。



 明日見回った時にはケースに収まっていた。



 意味不明、誰かが研究のため持って行ったのかと思ったが、あるのならばいいとそのままロクに事実確認もしないで解決としたらしいが……。


 その日から尖兵が無くなり、そして戻るという事件が頻発するようになって、同時にお伽噺の妖精が出たという目撃証言が多数聞かれるようになった。


 まさかと思いムージ館長は張り込みを開始するも、まるでこちらの動きが分かっているかのように、自分が張り込みしているときは動かず、していない時に尖兵は無くなり、妖精の目撃が連続して出ることになる。


 そして証言内容の人間離れした動き。


 最初は誰かが勝手に持ち出しているのかと思った、そもそもあの神聖教団の尖兵は動かせない、そんな技術は無いのだから。


 だが目撃証言のその並外れた動きは神聖教団の文献に記載されている尖兵の能力のとおりだったのだ。


 となれば大変なことになる、これはいかんとゴドック議員に報告したところ、対策を考えるとだけで事態が進まず、焦りが募ったところで憲兵の特殊部隊がウルリカで動いているという情報が入った。


 真偽は定かではなかったが、憲兵大佐より、秘密倉庫の立ち入り許可の申請があったことが決定打となった。


 お伽噺の妖精を見たというぐらいで憲兵が特殊部隊を動かすわけがない、となれば簡単なこと、どうして気が付かなかったのか、都市博物館の警備はアーキコバの物体がある関係上憲兵が常駐して警備をしている。


 となれば、尖兵が自律行動をしており、それが憲兵に見られたということを理解した。


 だが時は既に遅し、今更すべてを知っていましたでは隠蔽の事実がばれる、特に強権的なゴドック議員には敵も多い、今更対処できない状態だった。


「こんなところですな」


「…………」


 確かに大方一致している。


「他に何か聞きたいことがありますかな?」


「張り込んでいると言っていましたが、入室記録とかと照らし合わせて容疑者はいるんですか?」


「いません、というか、王立研究所の職員ならば申請すれば鍵を借りられます。利用時間帯に制限はありませんからな。職員によって夜の方が捗るという人物もおりますし、そういう意味では全員が容疑者ですよ、だから毎回施錠確認をするのです」


 なるほど、理にかなっているな。


「ありがとうございます、それと「約束の物」と都市博物館の内容物の閲覧について無制限の許可の件は?」


「はいはいどうぞ」


 と一本の鍵を手渡される。


「マスターキーです、ご自由にお使いください」


 あっさりと手渡してくれた。いや今更ゴネるとは思わなかったけど、何か言ってくると思ったのだが。


「マスターキーは、館長の私が予備含めて2本持っております。そのうちの一本ですので、なくすと大事になります。おそらく、中尉の問いかけに対して私が何か言うよりも、実際に調べていただいたほうがいいかと思います、疑問点があればその都度お答えしますよ」


「ならムージ館長、2本のマスターキーについての保管状況はどうなっているんです?」


「1本は常に私が携帯しています。もう1本の保管場所についてはご容赦を、情報の無条件提供は存じておりますが、このマスターキーは私の責任になるので」


 と「貴重な遺物が多いので取り扱いは本当によろしくお願いしますよ、ではでは」と立ち去るムージ館長。


 大事なことは言わない、その代わり責任を一切「押し付ける」ってことか、やっぱり凄いな、あの人、ゴドック議員が傍に置きたがるのは分かるような気がする。信頼も信用も出来ないことを信用できるってのは何気にでかいからな。


 まあ願っても無いことだ、あの館長相手に1人で行動するのにどうしたらいいかって頭を悩ませていたから渡りに船だ。


 俺は開館時間ではあるがいつものとおり誰もいない都市博物館を巡る。


 それにしても、今回のひょんなことから始まった慰安旅行、神聖教団の謎に迫るなんて男ならば心躍りロマン溢れる魅惑的な言葉だ。


 その時は、こんなことになるなんて思いもよらなかったし、アーキコバの物体に触れて歴史ロマンスを夢想しながら、1週間が終わるものだと思っていたのだ。



 だが結果俺は「巻き込まれる」ことになったのだ、ラベリスク神の意思によって。



 俺は展示スペースから職員用の扉から中に入り事務室に向かう、秘密倉庫は誰が出入りしたかを把握するために事務室を抜けないと辿り着くことはできない配置になっている。


 俺は事務室の人に挨拶をする。話は通してあったようで「話は聞いていますよ」と特に確認されることもなく抜けた先、秘密倉庫の扉があった。


 扉自体は普通だが、やたらゴツイ鍵がかけられている。俺は館長から持ったマスターキーを差し込むとゴツイ外見に関わらずあっさりと開錠することができた。


 鍵穴に何か修理をしたようなものは無い。確か、秘密倉庫に入るためにはマスターキーを使用することの他、申請して鍵を借り受ける必要があるそうだ。


 ここは都市博物館が出来た当初からずっと都市博物館の資料が保管されている。思ったよりも広く少しばかりかび臭いが、流石公的機関、書類はちゃんとまとめられているし、種別ごとにちゃんと保管しているのは助かる。


 まだ時間はあるから、目的のもの以外も見てみる。


 秘密倉庫のメインは神聖教団の尖兵が保管されている木箱だ、当然のことながらここにはない、だが人型に凹んでいる布が逆に存在感を放っている。


 他にも神聖教団の魔法写真も数少ないが保存されており、過ぎ去りし日を伺うことができる。統一戦争時代を潜り抜け、風化しないでここまで残っているのは歴代のベーシックの賜物だという。


 ベーシック一族、神聖教団を語り継いだ者たち、一族という名称を使っているが実際は血縁関係はない、そして一子相伝なんて表現していいか分からないが、指名制によって受けついてきた人たちだ。


 ここに保管されているものの8割がベーシック一族が保管していたものだというのだから筋金入りだ。


 えーっと、そろそろとばかりに目的の物は確かここら辺に……。


「あった」


 俺が手に取ったのはアーキコバ・イシアルの手書きの論文だ。


「さてと、俺の勘が正しければおそらく……」


 俺は手袋をしてゆっくり取り出すとパラパラと丁寧にめくる。


 元より何が書いているかなんてわからない、俺はウィズ王国後しかわからないし、そもそも神聖教団はウィズ王国創立の前だからだ。


 だが問題はない元より何が書いてあるのかを知りたくて開いたわけではないのだから。


 俺は論文を元あった場所に戻すともう1人が書いた論文を読み一読すると棚に戻す。


 天才か、世の天才と呼ばれている人たちは天才と呼ばれることを嫌うという、だけど天才なんて言葉は俺とは縁のない話だからピンとこないが、やっぱり天才を表現するのは天才という言葉以外は相応しくないと思う。


「…………俺の勘は正しかったってことか」


 だから想像しかできないことを、直接確かめることができるのなら、それも浪漫かもしれない。


 さて、次はと……。


 と思ったら扉がガチャリと開き入ってきたのは。


「あれ? ローカナ少尉?」


 向こうも俺のいることに気が付いたのか、ローカナ少尉もキョトンとした顔をしている。


「神楽坂中尉? こんなところになんの用なんです?」


「いえ、アーキコバの物体についてちょっと調べ物を……」


「調べものですか、よくムージ館長が立ち入り許可しましたね」


「ま、そこらへんはお得意の交渉術で、ローカナ少尉は?」


「私は美容魔法の参考論文が読みたくて来ました。美容魔法と一口に言っても歴史があるんですよ、美の歴史は女の歴史、ですからね」


 という言葉に苦笑いで返す、とここで思い出したかのように話しかけてくる。


「そういえば、またお伽噺の妖精に襲われたみたいじゃないですか、メディから聞きました、メディを先に逃がして食い止めたって言っていましたよ、やるじゃないですか」


「はは、とはいっても最終的に逃げてなんとかしましたよ、公僕がそんなことじゃいけないんですけどね」


 尖兵を確保したなんて真実は当然言えない。


 俺の言葉にクスクス笑うローカナ少尉ではあったが、丁度いいメディのことについて聞いてみるか。


「ローカナ少尉はメディと友人でありライバルだそうですね」


 俺の言葉に「懐かしいなあ」と昔を思い出すローカナ少尉。


 メディは在学時から変わり者だったらしく、とはいえそれでクラスで浮くこともなかったそうだ。なんかすごい想像できる。


「中尉、メディはのんびりしているようで、人使いが荒いので気を付けてくださいね、いつの間にかこき使われているんですよ、自由研究の論文の時にも徹夜で付き合わされたんですから」


(それは知っている)


 何度もこき使われているからな、言えないけど。


 んー、折角だからメディの絡みでもう一つ。


「ローカナ少尉、メディは神聖教団に興味を持っていたみたいですね」


 突然の俺の言葉にキョトンとしたがすぐに納得した様子だ。


「中尉、その顔を見るにアーキコバが禁句だと分かっているみたいですが、私のスタンスとしても、神聖教団の話はあまり好きではありません」


「…………」


「元より私たち亜人種に対して偏見があったことは理解しています。ですけど神聖教団の存在がその偏見と差別を決定づけたと考えています。だから神聖教団の存在を忘れることが、ある意味本当に差別が無くなるために必要なものだと私は考える。無知はよく罪のように言われるけど、私はそうは思わないから」


「……分かりました、ありがとうございます」


 少し重たくなった空気……であったのだが。


「フェド君、行くよ」


 という声と共に後ろからテクテクと山のような資料を持ったフェドが出てきた。


「はは、どうも、中尉」


 バツが悪そうなフェドであったものの。


「本当に仲いいですよね」


 という俺の言葉に。


「はあ!? 何言っているんですか!? そんなわけないじゃないですか!!」


 と顔を真っ赤にして思いっきり過剰反応するローカナ少尉を見て少し和んだのであった。



 さて、俺もここには用は無い次に向かうは事務室……なのだけど閉鎖都市の秘密倉庫なんて二度と入れるか分からないから、たっぷりと堪能したのだった、ビバー。



「すみません、ちょっと見せてもらいたい資料があるんですけど」


 2人を見送ると、俺も少し後に秘密倉庫を後にして、次に用事があるのは秘密倉庫の近くにある事務室だ。


 俺の問いかけに「?」を浮かべる事務職員さん。


「はあ、館長より言われていますからいいですけど、ここになにかあるんですか?」


「ごめんなさい、大事な事なので」


 という言葉に何とか納得してもらうと、欲しい資料を告げて収納されているロッカーまで案内した貰い、鍵を開けてもらった。


「どうぞ、一応部内の資料なのでここ以外の持ち出しは禁止でお願いします、終わったら声をかけてください」


 俺は礼を言うと資料を引っ張り出すも。


「っと、これって現年度か、ならここにはないよな、となれば……」


 えっと、あの人がいたのは確か……。再び事務職員さんに声をかけると、面倒そうな顔をされたものの隣接してる倉庫に案内してくれた。


 目的の人物がいたその年度を告げると再びファイルを選んでくれて、再び礼を言って元の席に戻る。


 パラパラとめくっていると……。


「あった」


 あっさり見つかった、俺の目的である「人事記録ファイル」は、前に見たアナズリ文官大佐の時と同様、顔写真と履歴が記録されている。


「ギトス・サノリナか……」


 あの人が言っていた王立研究所の人物だ、履歴を確認した後ファイルを戻す。


「さて、次が最後だな」


 次に俺はある場所へと向かう。


 その場所には誰もいないのは分かっていたけど、今度は許可は既に取ってあるから目的の冊子はスムーズに見つかり、中の文を読み「確認作業」が終わった。


 俺は冊子を元にあった場所に戻して一呼吸つく。


 後は一つだけ、ある人物に協力を仰いで全てが終わり。


 さてとその後は……。



「ラベリスク神に会いに行きますか」




 よくある展開、正体を隠していた人物が正体を暴かれた時、その人物が主人公にこう問いかける。


――「いつから気が付いていた?」


 そして主人公はドヤ顔でこう答える。


――「最初からだ」


 と、これはカッコいい。


 まあ「最初からだ」とまではいかなくても、こんな感じからでも始まる。


――「一番最初、おかしいと思ったのは……」


 という具合に説明を続け、それに対して違うと嘘をつき相手は反論する、それを一つ一つ論破し、そして最後にとどめを刺す。


 そんな名探偵たちは男の俺から見てもカッコいい。


 例えば名探偵の孫は普段は馬鹿でスケベだがいざという時には身を挺してヒロインを守り、卓越した推理力をもっと犯人を追い詰め、その能力を知る人間すべてから一目を置かれ頼りにされている。


 例えば悪の組織に子供に戻ってしまった名探偵は、顔も頭も運動も全てよしの上に女にもモテて出来ないことは無いという冗談のようなスペックを持っている。


「だけど現実にはこうはいかない。実際はむしろカッコ悪いばかりですよ」


 正体を見破るどころじゃない、例えば教皇選絡みのゴタゴタの時、同期に扮していたウィズに全く気付かず、ウィズ本人の目の前で目的まで見破ってしまいその結果殺されかけた、いや殺される羽目になった。


 結果助かったが、助かった理由は神の加護を受け続けた結果使徒になりかけていたからというもので、結局運に過ぎなかった。それこそ名探偵たちが活躍する劇でフラグ立てまくって死ぬモブ役の如く。


「身を挺してヒロインを守るなんてとんでもない、実際はヒロインに守ってもらうばかり、顔も頭も運動も普通で、卓越した能力は全て神から無償で借り受けたもので「ズル」をする、自分で言って凹んできますね、ねえ……」


 俺は目の前にいる人物に話しかける。


「ラベリスク神」


『…………』


 ラベリスク神は、長々と前口上を述べる俺に口を挟まずちゃんと聞いてくれた、ラベリスク神は笑みを絶やさずこう返してくれた。


『なるほど、となるとここは君の言ったとおり、違うと嘘をつき、反論しようか』


「ははっ、ありがとうございます」


『では始める、私はラベリスク神ではない、神の力を少しかじったのなら、容疑者という言葉自体がチープだよ』


 そう言い終わるとラベリスク神はセルカの姿へ変わる。


『と、こんな具合に姿を変えられる、それこそ』


 次はフェドの姿に、


『性別も関係なく』


 今度はゴドック議員の姿に。


『年齢も関係なく』


 メディの姿に変わる。


『種族も関係ないのですよ~』


 すっと元の姿に戻るラベリスク神。


 当然今の減少も理解している、先ほど言ったウィズが俺の同期に扮していた時に使っていた認識疎外の応用だ。


『君の隣にいる人物は本当にその人物なのか、今目の前にいる人物は本当に本人なのか、神がそれが可能なのは、君も知ってのとおりだよ』


 さて、向こうの先制攻撃はこれで終わりだ。


「私なりに色々と考えてきたんですよ、どうやって犯人を追い詰めるのか。貴方の正体は消去法で割り出すことはできますが、それでは「意図に外れる」ので、最初からゆっくりと語っていくことにしましょう」


 さあ、始めようこれは推理「劇」なのだから。





 一応、お伽噺の妖精が誰なのか、その根拠は全部提示できていると思います。多分、おそらく、きっと(笑)。

 容疑者はラベリスク神の言うとおり「神楽坂以外の全員」です。

 次の更新は9日か10日です。

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