第42話:神の意志
フード被りこちらを見ている、間違えるわけがない、お伽噺の妖精だ。
「イザナミ、どうするのさ?」
問いかけるルルト、ここでの答えなんて決まっている。
「迎え撃つぞ!!」
と俺は馬に鞭に打って、その場を後にした。
「いやいや! 迎え撃つのだろう? 逃げてどうするの!?」
「今日一日かけて、ウルリカを観光してな、神聖教団の本拠地から少し離れた場所に開けた場所があるんだよ」
「は? いやいや、でも……」
とルルトが後ろを振り返る。
「……追いかけきている? 駆け足で?」
馬を操作しながら振り返ると不審者は俺たちを間違いなく追いかけてきている。
馬車は荷台を引いており、そこまでをスピードを出せる作りではない、それでも舗装されている道ならそれなりのスピードを出すことができるが、ここは未舗装の道だ。時には真っすぐ、時には曲がって、逃走する馬車にぴったりと付いてくる。
「ルルト、いつもの奴を頼む、メディにバレなようにな」
頷くルルトだったが入れ替わるようにウィズが顔を出して話しかけてくる。
「神楽坂様、私は迎え撃つのは私は反対です」
「理由を言ってみてくれ」
「その前に」
とルルトに目配せして交代する、ここにはメディがいるからな。
「仮にこのまま誰にも目撃されず勝利をしたとしても、結果的にかなり派手になることになるかと思います。そうなった場合のフォローはかなり苦しいものになるかと、一言で言えば「悪目立ち」をします」
「……ウィズもう一度聞く、お伽噺の妖精の能力は人の魔法力では不可能なのか?」
「可能か不可能かと言われれば可能ですが。ただ魔法を込める魔法使い達が連携を取らないと不可能です」
「魔力を入れるのはリアルタイムってことなのか?」
「の場合もありますが、そもそも人を」
俺は発言を続けようとするウィズを制する。
「それでもいいんだけどさ、ウィズは神聖教団が現役の時に、どうして最小の軍団が最強になったかって理由は知っているか?」
俺の言いたいことが分かったのだろう、はっとした表情をするウィズ。
「確かに、魔法の使い方という点では興味深かったので実際にこの目では見ていましたが、でも、ま、まさか、あれは現在では超技術で再現は……」
「その「まさか」だったら面白いだろ? だから結論は変わらないの」
「神楽坂様! 確かにそうかもしれませんが憶測が過ぎます! そもそも私は今回のお伽噺の妖精事件について、こう考えています!」
ここで言葉を切るとウィズは続ける。
「ウルリカ側が「神楽坂様の人並み外れた力が神の力であることの確認」が狙いであると」
「…………」
確かにそのとおり、ウィズも考えていたか。
そう、つまり今回の慰安旅行の目的、ここで言う目的は俺達のではなくてゴドック議員側、つまり「お伽噺の妖精を利用し俺の力を図るために招いた」ってこと、そしてそれは十分にありうることだ。
ここで俺が人外の力を発揮すれば、おのずと神の加護を得ていることを肯定することになるからだ。
だが、それでも……。
「なあウィズよ、俺はそろそろ限界が来ていると思うんだ、どうだ?」
俺の言葉にウィズは口を結び悲痛な視線を向ける。
「……そう、でした、申し訳ありません、元々は私が」
「あ、ごめん、嫌味じゃないよ、というかむしろ今じゃお前には感謝の気持ちしかないよ」
ウルヴ文官少佐は、俺の神の繋がりについて感づいている様子だった。多分ウルヴ文官少佐だけじゃない、他の何人かは疑っているだろう。
ウルリカに来る前に話したルルトの使徒であることを公表するなんてことは、それこそ強力な後ろ盾を得ない限り遠い話ではないと思っている。
(おそらく今回のことが終われば、きっとその時がくる……)
だからこそ俺達に手出しができないようにするための後ろ盾が必要だったのだ。
そして努力なしに強力な後ろ盾なんて得られる都合のいい話はどこにもないのだから。
「神楽坂様?」
「いや、なんでも、んで俺が考えているのは、その限界のタイミングをちゃんと見極めることだよ、ただ……」
俺は鞭をふるいながら後ろの妖精を見る。
「ただ俺は案外、ウルリカ側の意思は介在していないじゃないかって思っている」
「って、何故です!? 根拠を示してください!」
「勘」
「は、い?」
ウィズ、口を開いたまま固まる。
「こいつはこうなったら聞かないよ、んでこいつがやたら確信持って勘だって言うときは、根拠はないけど意外と馬鹿にできないよ」
御者台の傍で聞いていたであろうアイカのフォローが入りウィズが渋々納得する。
「分かりました、一応周囲の警戒はします」
とルルトが顔を出して神石を差し出してくる。
「サンクス、ルルト、こう、相手の能力とか分かったりは出来ないのか?」
「出来ないよ、そんな万能な厨二設定は無いね」
「それをお前が言うなよ、っと」
丁度拓けたところに出たところで手綱を引っ張って馬車をとめる。
「よし!!」
馬車から俺とルルトとウィズが馬車から飛び出し戦闘態勢をとる。
「アイカ、すまん、このまま憲兵の詰所に行き連絡を頼む。セルカ、後を頼む、メディも巻き込んで悪かったな」
「大丈夫なんですか~?」
「俺とフィリアの強さは知っているだろう? 頼むぜ!」
とアイカが御者台に乗り、鞭をふるうと馬車はその場を後にして。
俺達3人と妖精が対峙することになった。
「さてルルト、もしお前が戦うとしたらどの程度手加減できる?」
「うーん」
ルルトはじっと見つめる。
「勝つのは簡単だけど、消滅させちゃうね」
「ウィズは?」
「ルルト様と同様です」
「……「やっぱり」か」
「神楽坂様?」
「いやなんでも、ルルト、アイツを倒すレベルの加護の力に俺は耐えられるのか?」
「大丈夫だよ、ちゃんと君の体は耐えられる、使徒と神の関係は相性抜群なのさ、だけど」
再度ルルトは妖精の方に視線を向ける。
「ケガをすれば普通に痛いし、使徒は不死身ではあるけど不死ではないからね、いざとなったら、神の力を使って相手を消滅させる、それを覚えてほしい」
「分かった、さて、こっちの戦闘準備完了だな、妖精か、まさか本当に相見舞えるとは、ね」
お伽噺の妖精、戦闘力は憲兵の完全武装部隊をものともしないレベル、ルルトの加護を受けているのなら戦えば勝てるのだろうけど、そう簡単にはいかない。
何故なら妖精が生きている人間、つまり加護を受けた使徒って可能性もあるからだ。
まあ不自然に外れない目深にかぶったフードの時点でどっちかについては見当はついているけど確実じゃない、万が一を考えておく必要がある。
とはいえ確認の仕方はシンプル、そのための徹底した専守防衛、攻撃に意識を移すな。
向き合っていたフードの奴がゆっくり近づいて歩いてきて、俺は両手をだらりとたらして、トントンとリズムを踏む。
(あのパワーだ、掴まれたらアウト、そのまま簡単に骨をへし折られる、死なないとはいえ骨折と痛みを覚悟する、どの道「掴むか掴まれれば」正体の確認が取れる、攻撃はその後だ)
幸いフードの奴は無防備に近づいてくる。撃退するイメージを思い浮かべる。
フードの奴はゆっくりとこちらに手を伸ばしてきた。
「はあ!」
すぐにフードの奴の手をつかみ、そのまま投げ飛ばすとそのままバックステップで距離を取る。
ドスンという音と共に叩きつけられたフードの奴はすぐに立ち上がると再びこちらを見る。俺は手を開いたり閉じたり握った腕を感触を確かめる。
(無傷だぜ、これも「やっぱり」か、ならば手加減不要)
妖精はゆっくりと立ち上がる。
瞬間、ガンという音ともに弾かれるように後ずさる。
何故なら俺の振りぬいた「軍刀」がヒットしたからだ、フードの奴はそのまま弾かれる形で後ずさりする形になるが、少し動きが鈍くなる。
ちなみに当然軍刀にもちゃんと加護をかかっているから、これは神の強度を持つ軍刀になっている。
相手のダメージ確認、次は。
「ルルト! お前は「魔法」を使って相手を動かなくさせてくれ!」
「いいけど、相手が生きている可能性は大丈夫なの?」
「さっき投げ飛ばした時に確認した! だから大丈夫だ!」
「分かったよ、◆□□■★★☆●◎○」
ルルトが魔法言語を唱えるなんて結構レアな光景。ちなみに魔法は神の力の下位互換ではあるのでルルトもウィズも普通に使える。
ルルトは手を妖精に対して手をかざす。
「ソルグリーム・ブローズグホーヴィ!!」
放たれた魔法はそのままビシッという音と共に妖精を拘束する。
魔法とはいえ使う相手は神だ、ただ使えるだけじゃなく、魔法の極限を見せてくれる、ギギギと明らかに負荷がかかっている、凄い、魔法に落とし込んでも、ルルトが使えばこれ程に出せるのか。
当然、後で思いっきりお仕置きをしてやろうと心に決めたのだった。
●
ギギギ、ギギギと地面にのたうちまわるような動きをする妖精。
ルルトに魔法で拘束させた後、結果的に俺が最後の仕上げとしてしたのは、いわゆる「レベルを上げて物理で殴る」だ。具体的には機能部位の破壊、つまり腕と足の関節部分の破壊して動きを封じる。
まだ力が残っている状態ではあるものの、これでは動けない、となればそのまま……。
「……おっ」
力が切れたのが分かり、そのまま動かなくなった。同時に不自然なまでに外れないローブだったが、そのままめくれて顔面をさらしている。
お伽噺の妖精を見下ろす俺にルルトがしゃがむとツンツンと妖精を突っつく。
「人形、かな? だよね?」
ルルトがひょいと持ち上げる、重さはあれだけの重量感がありながら、20キロ程度、力のある男なら片手で持ち上がる。
「人並み外れた力、神の加護を得た状態での攻撃がダメージを与えるが衝撃効果のみ、「文献」と一致するのだな」
「イザナミは、これが何なのか知ってるの?」
「神聖教団の尖兵だ」
「神聖教団の、尖兵?」
オウム返しで聞いてくるルルト達に説明する。
神聖教団が最小でありながら最強である理由の最大の一つに、人員を人形で補ったことである。
単純作業を人形に任せ、農業に従事させ食糧問題も解決したものであるが、複雑な動きを可能にした「尖兵」と言われるこのタイプは最高傑作の一つとしてされており、「死を恐れない無敵の軍隊」なんてお決まりフレーズを本当に実現させてしまった。神聖教団が存在した時、これが数え切れないほどあったそうだ。
尖兵の最も優れた部分は、複雑な動きと「高性能な電池」を搭載した点にある。魔力をフルに注入すれば最長でなんと一か月の軍事行動が可能になる。
この尖兵の存在は単純な強さだけではなく相手をする側からすれば、自分は命を懸けているのに相手はいくらでも替えが聞く無機物ともなれば、士気を大幅に下げることも可能だ。
「知っているか? ちなみに神聖教団の尖兵の完全体は一体だけ発見されていて、普段は都市博物館の秘密倉庫に大事に保管されているのだぜ」
「……神楽坂様、確か憲兵と館長が揉めていたとおしゃっていましたね?」
「そこだ、これは面白くなってきやがったぜ」
「でも話しますか? あの館長、柔和な印象と違い腹黒い感じがするんですが」
「ふふん、別に難しく考える必要はない、何事も一番効果的なのは正攻法なんだよ」
「正攻法?」
「ねえ、イザナミさ」
ウィズとの会話に割り込むようにルルトが問いかけてくる。
「いろいろ気づいているみたいだね、その感じだと」
ウィズがびっくりして俺を見る。
「流石相棒、だけど推論、想像が多くてな、だが今一つだけ確実に言えることがある」
俺の言葉に2人が注目する。
「ラベリスク神が人間として紛れ込んでいるぜ」
「「え!?」」
驚いた様子の2人、これでまた一つ分かったな。
「誰なのかは見当ついているのかい?」
「まだ何となくという程度、だから今のことは他の誰にも言わないでくれ、というわけで……」
ここで深夜であるにも関わらず、蹄の音、つまり馬車の一団が到着するのが見える。
「まずは都市民の義務を果たさないとな、それが分かれば、いよいよこっちから仕掛けるぞ」
次は、3日か4日です。




