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第41話:邂逅


 入れ墨、日本ではどうしても反社会的勢力のイメージが強く芸術的価値は認められる一方で様々な社会的制約が課せられる。


 一方のウィズ王国では、日本ほどでは無いが呪術的な意味合いの他は、ハーフにだけ施されるこの入れ墨の存在のおかげでイメージは良くない。


 そんな認識の差はあれど、入れ墨の痛み変わらない。


 ちなみに入れ墨を手彫りで入れるなら、気が遠くなるほどの痛みが襲うため大の大人がさるぐつわを嵌めた状態で、一日二時間が限度。全身に入れる場合にはそれを1年かけて行う。


 目の前にいるメディの肩から背中の膝上当たりまで、幾何学模様の入れ墨が施されている。


 資料でしか見ることができない、屈辱の証だ。


 この入れ墨は赤ん坊の場合もあって、数時間で終わるとはいえ、生まれたばかりの赤ん坊に入れ墨を入れるという絵面には相当にえぐい光景だ。


「生まれたばかりですから、痛いとか辛いとか、全く覚えていないんですけどね~」


 という俺の想いの裏腹にこともなげにいうメディ。


「そういう意味では、生まれた時の方がよかったですよ~、今だったら泣いちゃいますね~」


 泣いちゃうって、まあ、確かに涙が出るぐらいじゃすまないと思うが……。


 でも生まれた時の方がよかった、か……。


 メディはすっと、俺の心臓付近に手を置くと意識を集中し、メディは魔法言語を唱える。


「●×▲▽■□◆◆□▼」


 そういえば前に回復魔法をかけてもらった時、当然に服を着ていたからメディの体がオーロラ色に包まれたとしか理解できなかったが、今回は魔法の才能が無い俺でも凄くよくわかる。


 魔法言語が発動鍵で、幾何学模様の入れ墨が制御のための道、その幾何学模様に沿って、オーロラ色に入れ墨が輝き、それが流れるように手に集中し、そのまま俺の体を魔法で包まれる。


「綺麗だ……」


「え?」


「あ! ち、ちがう! ごめんつい!」


「いいですよ~、別に悪い気はしませんから」


 気にしていないそぶりのメディ、いや、これは本当に凄い。


「…………」


 屈辱の証とまで言われる入れ墨を、あっさりといういい方は失礼だよな、でもそれを俺に見せるメディ、となるとひょっとしたら俺と一緒かもしれない。


「なあメディ、聞きたいことがある」


 意を決してメディに問いかける。


「やっときましたね~、どうも何かに遠慮していると思ったんですよ~」


 だそうだ、こういってくれるのはありがたい。


 メディへした質問、これはずっと引っかかっていた違和感に対しての答えなのだけど、ウルリカでは出来ない質問だ、この質問が出来るのはメディ以外いない。


 俺がした質問に対してメディは驚いたものの、その後に嬉しそうな顔をしてくれた。


「神楽坂さんと一緒ですよ~」


 やっぱりそうか、ここで回復魔法をかけ終えて、入れ墨にすっと触れるメディ。


「魔法の使い方を学ぶ上で、私も同じことを思いましたから~、だから、王立研究所によく足を運びましたし、そこで職員さんと仲良くなって、色々教えてもらったんですよ~」


 メディは在学中神聖教団に興味を抱き、熱心に勉強していたらしい、そして学校で研究発表会をしようとしたらしいが、結局アーキコバ・イシアルのことで、地元の学院生たちに反対にあい、結局断念したそうだ。


 その答えを聞いた俺はさらに続ける。


「ならばあと一つ、聞きたいことがある」


「どうぞ~」


「一つ目はお伽噺の妖精についてだ、妖精はいると思うか?」


 俺の問いかけにメディは首をかしげる。


「いるんじゃないですか~、みんないるって信じていますから、迷信でも~」


「違う、そうじゃない、現実として実在するかって意味だよ」


 俺の言葉に再び首をかしげるメディであったが。


「ああ~、そういえばウルリカに入る時に憲兵さんから言われましたね~、でもいるわけないですよ~」


「……そうか」


 納得できる話だ、お伽噺の妖精は子供の言い聞かせるものであり、大人になっては無縁なものである、これは普通の話……。


「……ん?」


 ちょっと待ってよ、今気づいた、今までのメディとの会話に明らかに変な場所がある。

 思い出せ、そんなに難しい話じゃない、メディの質問で聞かれておいて「?」と思ったことだ。


――「そういえば、ウルリカ都市にはなにしにきているんですか~?」


 そうだ! これだ! これは明らかにおかしい!


「メディすまない、まだ聞きたいことができた」


 と言って俺がした質問、その質問に対してメディが答えてくれた内容について質問する、これについてもメディは答えてくれた。


「…………」


 なるほど、これで違和感が解消された、やはり繋がり方が大事だ、間違いない、となれば。


「メディ、ここにはどれぐらいいる予定なんだ?」


「研究のお手伝いなのでしばらくは~」


「そうか……」


 俺は一呼吸置くとメディに告げる。



「メディ、多分、ウルリカは近いうちに激変する」



 俺の言葉に目を丸くするメディ。


「それが良い方向に進むか悪い方向に進むかは分からない、無責任な言い方は承知で言うが、俺が出来ることは起きたことに対して適切な対処を取ることだけだから。だからもしメディの力が必要な時は協力してほしい」


 真剣な俺の言葉にメディは、


「クシュン!」


 とくしゃみで応えるのであった。


「って服を着るか、悪かったな」


「おや、いいんですか~?」


「あほ、紳士とかじゃなくて節度ぐらいはわきまえているよ」


 とお互いに服を着る、メディはそのままテキパキと何かの準備を始めた。それはまるでいわゆる学校でやる身体検査と健康診断のようなもので。


「ん? なにしてんだメディ?」


「健康診断の準備ですよ~、神楽坂さん、私のバックからカルテをお願いします」


 俺は言われるがままに、生徒たちのカルテを取り出す。聞いてみたら医者の資格を持っているから、こうやってアルバイトがてら定期検診に赴くらしい。


 なるほど、だからメディが使う予定だったから鍵を開けておいたのかという事か。


 ってこの流れはやばいぞ、これはすぐに立ち去らないとこき使われるパターンだ。もういい加減学習したぞ。


 俺にはやることがあるのだ、だから帰るぞとメディに言いかけた時だった。


「神楽坂さん、ここにいる学生さんは女の子が多いですから、数字は見ないでください、エチケットですよ~」


「分かっているよ、任せろメディ」


 テキパキとカルテを揃えて手伝いを始める。ふむ、そういえば説明会の時に参加した女子学生2人は美人さんだったな。


 言っておくが下心などない(断言)、だが女子の健康診断って、男にとってはそれこそ閉鎖都市であることはわかるだろう(まるで伝わらない表現)。


 スケベな目線はご法度、あくまで事務作業として淡々と進める、メディではないが、これがエチケットだ。


 それに今は表情は平然としているものの……。


(すごい存在感だった! 凄い存在感だったよう!)


 もう凄い! おっぱいの存在感が凄かったの! メディごめん! 本当にごめん! 凄い助かったし、勇気がいる行為だったろうから感謝しているのは本当なんだけど! エロ本やエロ動画で興奮してたのがバカみたいなの!


 男にとっておっぱいとはまさにアーキコバの物体であり、男がどうしておっぱいが好きかという問いには生命の起源を問うに等しいことである(意外と伝わる表現、男限定)。


 ああ、どうして神は男をおっぱいに弱い生き物に作りたもうたのか!


 って、そんなこんなで準備終了、メディは椅子に座り後は生徒達を出迎えるだけだ。


 どきどきわくわく、とここで複数の足音とと共に話し声が聞こえてきて……。


「…………え?」


 聞こえてきた声のとおり、中に入ってきたのは全員男子学生だった。


「…………」


 チラッ。


「神楽坂さんを助手にしている時点で、分かりますよね~?」


「…………」


 もういい加減学習しよう俺。



 神聖教団の歴史、メディにした質問の回答、そして確かめたいこと、アーキコバが開発した魔法術式、だがその魔法術式は人間とハーフでは全く違うという事実。


 人間でありながら類稀な魔法の才能を持ったアーキコバ。


「そして、お伽噺の妖精……」


 メディにした三つ目の質問はお伽噺の妖精、彼女は「お伽噺」としか捉えていなかった、この後も同じ質問をローカナもフェドも聞ける人物は全員聞いたが、答えは一緒だった。


 思いっきり伸びをするとそのまま温泉が波打つ。


 ちなみにメディの身体検査と健康診断を終わらせた後、実は宿まで一緒だったという事に驚きながら、一緒に帰り、合流した女性陣と共に夕飯を食べて、強精効果があると評判の秘湯に来た。


 繰り返すが下心などない(断言)。


 確かに周りに音はしない、辺りは夜の帳が降りており、確かにムードがあるが、個人的には石灰棚の風呂場が好きだ。


 んで効能もそうだけど、ここでもラッキースケベを少し期待したものの……。


「…………」


 再びそびえ立つ高さ10メートルの壁。この壁にとっかかりのような(以下略)、んでこの場合も……。


「おーい、そっちの湯加減はどう?」


 と上から首だけ覗かせるアイカ。


「あー、今度は女湯の方が眺めがいいね~」


「おい、覗くなよ」


 俺の抗議ににやりと笑うと、ひょいっと引っ込んだ。


「わぁ、セルカ司祭っておわん型で憧れます~(棒)」


「ちょ! ちょ! ちょ!」


 くっ、アイカめ、またもや、ってセルカ司祭っておわん型なんだな、メモメモ。


「わぁ、メディさんも着やせするんですね~(棒)」


 ふん、それは知っているのだぜ、俺の忘れない一生の思い出メモリーに記録済みだ。思い出を噛み締めているとメディのいつもの口調が聞こえる。


「アイカさんは小ぶりで可愛いですよ~」


「ちょ! ちょ! ちょ!」


 あはは、可愛いかどうかは知らないけど、小ぶりは知ってる、メモする必要は……。


 と「しょうがないなあ」と見上げた時に冷たい目で男湯を見下ろすアイカと目が合った。


「…………」


「…………」


「今思ったこと言っていいよ?」


 そんな凍える目で見下ろすアイカに対して


「え!? なんだって!? 聞こえなかったよ!!」


 とラノベ主人公のようなセリフを叫んだのだった。



 ホクホク。


 お湯加減は最高だった、温泉に入ると自分が日本人であると感じる、確かに場所自体は街はずれで人の気配なし、少しだけ照らされた道は確かにロマンチックだ、女の人は好きそうだな。


 さて、ロマンチックは置いといて、肝心かなめな強精効能についてだが……。


「セルカって、美人だよね」


 とはアイカの弁。


「いえ、私は足が太くて、アイカさんこそ、無駄な脂肪が一切ないのはずるい、レティシアも細いのに胸が大きいとか反則」


「そ、そんな、太って見えてしまうのです、メディさんみたいに脱げば凄いのもいいなぁって思います」


「バランスで言えばセルカ司祭が一番ですよ~」


 と女性陣は腕を組んだり手を繋いだり、触れあったりして明らかに距離が近くなった、そっちかよ、そっちに発揮されるのかよちくしょうめ。


「残念だったねぇ~」


 ニヤニヤしながら御者台の隣に座っているルルトが話しかけてくる。


「うるさいな、現実は厳しいんだよ」


「それにしても、本当に人が少ないね、ボク達以外本当にいないんだね」


 御者台でキョロキョロするルルト。


「部外者は俺だけって話だからなぁ……」


 と、俺はそのまま馬車を止めた。


「どうしたの?」


 突然止めたことを不審に思ったのか少し緊張感をはらんだ様子でアイカが馬車から顔を出した。


「っ! 神楽坂!」


 馬車の前方を見た時、俺が馬車の理由が分かったアイカの言葉に呼応するように緊張が跳ね上がる



 全員が注目する先、そこにはフードをかぶった人物が立っていて……



「…………」



 その人物はずっとこちらを見て佇んでいた。




次回は30日か10月1日です。

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