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第39話:禁句・禁忌


 あの後、憲兵による長い長い事情聴取からやっと解放されてた。


 何気に長旅の疲れがたまっており、そして妖精の襲撃の後の長い事情聴取、気晴らしに更に温泉に入ったから、今度は襲われることもなく宿に到着したらバタンキューと寝た。


 憲兵の事情聴取は一方的に聞かれるだけで、こっちの質問にはほとんど答えてもらえなかった、それについては憲兵も申し訳なさそうにしていたけど。


 だがそれでもお伽噺の妖精について色々とわかったことがあった。


 まず自分の能力を高めることを魔法を使って可能かどうか。


 答えはイエス。


 数十メートルの跳躍も可能ではあるが、使った瞬間にハーフでも魔法力が尽きて、着地が出来ずそのまま大怪我をすることになる。


 続いて他人の魔法力を使って自分の能力を高めることが可能かどうか。


 これも答えはイエス。


 妖精レベルの身体能力を持たせるのなら亜人種なら5人、ハーフなら2人必要である。


 この場合はいわゆる人間を電池、魔法を電力に見立てて効果を継続させることができる。


 つまり俺がよくやる神の石に加護を込めるパターンと一緒、だが1日に継続させるなんてのは不可能、もって10分程度だそうだ。


 そして事情聴取を受けるうえで憲兵の疑い先も判明した。


「王立研究所……」


 臨時とは招かれていたことを知っていたのだろう、明らかに熱が入った様子で、王立研究所について必要あるのかというレベルまで事細かく聞いてきたのだ。


 同時によみがえる憲兵大尉とムージ館長のやり取り、あの憲兵大尉殿はムージ館長に対してお伽噺の妖精について容疑をかけている、と言ったところか……。


 ちなみにゴドック街長が用意してくれた宿屋は、温泉街に隣接した宿屋だった。

 これも俺が温泉好きなんてのを分かっていて用意したんだろう。そういうところがソツなくできるのは流石政治家だと思う。


 そんなことを宿屋の朝飯を1人で食べながら考えていた。


 今回の慰安旅行について特に行動に制限はかけていない、女性陣はルルトも含めて今日ローカナ少尉から貰った美容魔法の効能を確かめるとかで喜び勇んで既に宿屋を後にしている。


 それにしても妖精に襲撃されたのに、朝起きたらケロッと忘れたかのようにしている我が女性陣は本当にたくましい。


 でもお伽噺の妖精について興味はあるけど今の立場ではどうしようもない。アイカも領分をわきまえており、一切余計なことは言わず聞かなかったようだ。


 まあいいか、餅は餅屋だ、となると都市博物館にでも行こうか。昨日見れなかった神聖教団の歴史だ。



 都市博物館、来るのは2度目、あの時は時間外だから人はいなかったけど。


「今日は人がいないなぁ」


 いや今日もと言えばいいのか、全く人がいないという訳ではなく、ちらほらと人影が見えるだけだ。


 そうか、今ウルリカにいる部外者は俺達だけなんだっけ、だからここにいるのは全員都市民ってことだ。人がいないのは助かるが、どこか殺風景な印象を受けてしまう。


 すたすたと歩きながら展示物と読み物を読み進める。


 わずか数十年の歴史しかないのに結成から消滅まで歴史が詳細に残っているのは、当時の書物が膨大な量が残っていたからだ。


 それがどうして残っていたのか、それはウルリカ都市の初代街長、ウルリカ・ベーシックが関係してくる。


 生存する神聖教団の最後の末裔、彼ら一族は先祖代々から神聖教団の資料の保管を受け継いできたのだそうだ。


 しかもかなり面白いやり方を採用しており、一族といっても血筋によるものではなく後継者指名という形で後継者を指名していたらしい。


 血筋は何時か絶える時が必ず来るからという理由だそうで、生存していた神聖教団の数少ない支持者たちに後継者を指名し続けて、その最後がウルリカ・ベーシックだったそうだ。


 彼は王国傘下に入り、王国に魔法研究についての全面的な情報及び技術提供と引き換えに閉鎖都市を認めさせ、彼は役割を終えたと判断したのか後継者を指名することなく年老いて最後は穏やかに鬼籍に入ったという。


 ベーシック一族はスズテ・ベーシックから神聖教団の活動を詳細に記録しており、原典は今でもウルリカ都市の機密倉庫に保管されているそうだ、他にもアーキコバ・イシアルが残した論文の原典もあるそうだ。


 ここで面白いのはその原典にアーキコバの物体の記載が一切触れていない点だ。


 神聖教団の終末期は、内部でかなりゴタゴタしていたらしく、原典でも判然としない内容がつらつらと書いてあるだけらしく、混乱している様子が見て取れるそうな。


 ならばどうしてこのアーキコバの物体が神聖教団の者とわかるのか、それはウルリカ・ベーシックが口伝によってのみ伝えるように先代から言われていたから、という根拠ともいえないのが根拠だ。


 だからこそこの物体が終末期に作られたというのですらあくまで憶測、記録にないのは記録に残すまでもないものかもしれないが、口伝でわざわざ伝えるとなると価値があるかもしれない、といった堂々巡りだそうだ。


 本来なら、機密倉庫に入って色々と原典と考えたが。


「中に入れないんだよなぁ」


 立場は臨時研究員とはいえお客様、取り扱いが難しいものも多いからという理由で許可が下りなかったのだ。


 付き添いでもと言ったが、立ち入りは許可された人物しか入ることができないらしい。


 まあ俺はウィズ王国の公用語しかわからないから、でもアーキコバの直筆の論文なんて確かに素人に触らせるわけないよな。


 つらつらと展示物を見ると、神聖教団の隆盛の項目にうつり、何故当時最小の教団が最強となったのかについてだが……。


「これはこれは! 神楽坂文官中尉じゃないですか!」


 都市博物館を歩いていた時に響く、振り返らずともわかるこの大きな声よ。

 振り返った先にはやっぱりムージ館長がそこにいた。


「早速調査ですか! いやぁ出来る人物はまずは行動も早いもので、仕事が早い人間というのは時間の使い方まず」


「あのムージ館長!」


 遮るように話しかける俺にムージ館長ははいはいと頷く。


「おっと、つい、なんでしょうか?」


 えーっと、えーっと、特に何か話題があるわけではなかったけど。


 あ、そうだ、折角館長がいるんだ、肝心かなめなことを聞けばいいのか。


「あのアーキコバ・イシアルについて館長の見解を教えて欲しいのですが」


 これ、思えばウルリカ都市に入って、その話ってしたことがない、館長は専門家ではないようだが、それでも何かしらの見解は持っているのだろう。


「…………」


(え?)


 ムージ館長は真面目な顔をしていた。いつもの饒舌ぶりはどこへといった具合に黙って俺を見ている。


「神楽坂文官中尉、ここは神聖教団の歴史があるからこそウルリカ都市は成り立った経緯があります。ですが同時に神聖教団の長である、アーキコバ・イシアルが亜人種に何をしてきたのか、理解をしておられると思います」


「そういった複雑な事情は今でも影を落としているのです。故に、アーキコバはウルリカでは一種の禁句にもなっているのです。ウルリカがウィズ王国の傘下になった時も、相当に内部反発があったようですし、今でも「侮辱を受けながらへりくだった」と反発する者もいます」


「神楽坂文官中尉の立場は理解しています、ですが余り大っぴらに色々な人に聞かれるのはお勧めできませんよ」


 といつもの早口ではなく、ゆっくり語りかける「ドワーフ」であるムージ館長。


 まさか釘を刺されるとは思わなかった、つまり禁句であり禁忌ってことか……。


 となると、あの人の立場はどうなるんだ。


「館長、ならばアーキコバの物体の解析係はどういった立ち位置になるんです?」


「……元より実績があげられないような課ですし、とはいえ建前上は必要だからですよ。そしていつの時代にもそういった禁句を理解しないで研究しようとする変わり者がいるのです。今はフェド文官兵長がそうですか、まあ彼は仕事は出来ないですが、いつも楽しそうだからいいのではないですか」


 少し悪意を含んだ言葉。なるほど禁忌に触れるってのは、あまり軽く見てはいけないのか。


 と同時にあの憲兵達が熱心に聞きたがるのが理由がやっとわかった。部外者の俺達なら遠慮なく突っ込んで聞けるからか、職員の、それこそフェド兵長やローカナ少尉とかムージ館長とかにまで話が及んだのはそのせいか。


「っと、失礼しました、ゴドック議員に呼ばれていますので~」


 とバツが悪くなったのかいつものとおりの調子に戻ると別館から姿を消した。


 俺はアーキコバの物体を一瞥する。


 閉鎖都市ってのは、政治的重要性という理由だけではなくが歴史的にも閉鎖都市としてする必要があったからとは聞いていたが……。


 そんな複雑な思いを抱えながら別館を離れ都市博物館を後にする。


 次に向かうのは件のアーキコバの物体解析係、色々と考えることが増えたなと、と思って、解析係の部屋に入った時だった。


「フェド君、貴方はやれば出来ると思うの」


 その部屋の中でフェドはローカナに正座させられていた。


「他の人が貴方を悪く言っているのは知っている、だけど私はそうは思わない。あなたには何か光る物を持っている、個人的に非常に買っているのよ、これは嘘じゃないわ」


「はい、すみません」


 説教されていた。


「他人に左右されないのは貴方の美徳だけど、それだけじゃダメなの、一回でいいからアーキコバの物体について成果を出してみて、幸いにも今は神楽坂文官中尉も来ている。あの人自身もだけど、特に周りの人物たちの評価も耳に届いているわ、折角だから精いっぱい頼って研究してみてよ」


 ここでフェドと目があい愛想笑いをしてきた、ローカナ少尉もつられて振り向くと俺に気付くと丁度良かったとばかりにズイと迫ってくる。


「神楽坂中尉からもよろしくお願いします! フェド君はやればできる子なんです! 特に中尉とは波長が合っているみたいですしよろしくお願います!」


 と力強く約束される形で「セルカさん達が待っていますので」と後にした。


「いやぁ~、みっともないところを見せてしまいましたね」


 とバツが悪そうに頭をかくフェドであったが、そうだと思い出したように話しかけてくる。


「って災難だったみたいですね、もう噂になっていますよ、お伽噺の妖精に襲われるなんて」


「いやあ、向こうが逃げてくれたおかげでなんとかなったんですよ、公僕でありながら情けない限りです」


「いやいや、それを言うならボクだって、って女性陣は大丈夫だったんですか?」


「ははっ、女性陣ですか」


 鼻で笑う俺はローカナ少尉の出ていた扉を見る。


「ローカナ少尉の美容魔法に駆り出されているかと思いますよ」


「……たくましい、ローカナさんもそうだけど、こう守ってあげたくなるような女子はいないものですかね」


「ホント、いないものですかねぇ~」


 うんうんと頷きあう。まあさ、か弱い乙女なんてのは所詮男の幻想であることは分かっているんだけどさ、男としては寂しい訳さ。


「んで、兵長、研究の件についてなんですけど、ローカナ少尉も言ったとおり何か手伝えることがあればやりますよ」


 俺の言葉にあははと空笑いをするフェド兵長。


「正直、することないんですよね、俺も普段日記を書くぐらいしかやることなくて」


「日記って、業務日誌のことですか?」


「いやぁ、業務日誌というよりも個人的な日記のようなもので、見られるのは恥ずかしいのでここの床が蓋になっているんですけどね、この下にしまってあるんですよ。地味ですけどその日その日を記録するって面白いのですよ、その時に自分がどう思ったのかなんて、ふとした時に読み返すと面白いんです。例えば「今日はローカナさんの化粧のノリが悪い、近づかないようにしよう」と書いてあるのを見た時には自分で笑っちゃいました」


「わかりますよ~、アイカも「あ、また胸の大きさが違う」って思うので、多分胸の大きさって、男が考える以上に女の人にとっては大事なんですよね」


 とヘタレトークに花が咲く。


 とはいえやることがないのか、となると俺が聞きたいのは一つだけだ。


「アーキコバ・イシアルは、ここでは禁句なのですか?」


 俺の言葉にフェドは寂しそうに表情を伏せる。


「そうなんですよ、まったく、禁句だなんてくだらない、臭いものにふたでは解決しない進まないのに、それもあって「やることがない」のですよ」


「…………」


 なるほど、根が深い、結果を出すために仕事をするなと、だから1人ってわけか。


「だからある意味で、ローカナさんのようなアプローチも大事なんです」


「ローカナ少尉の?」


「彼女は神聖教団について、正確には神聖教団が残した技術に凄い熱心に勉強しているんです。それを研究し商品化を目指している。彼女自身は神聖教団も好きではないみたいですけど、でも研究者としてのアーキコバを評価しているからこそ、熱心に勉強する、のだそうですよ」


 なるほど、色々な思いがあるのか、フェドの場合は、それでも禁句に触れて研究をしたいらしいが、結果今のような足踏み状態だそうだ。


 となると俺もやることが無くなったってわけか、どうするかなと考えているとフェドが話しかけてきた。


「ならば観光とかどうです? アーキコバの物体以外なら、神聖教団の本拠地なんかどうです? ほぼそのまま残っていてかなり見ごたえがありますよ」


「神聖教団の本拠地、いいですな」


「まあ、とはいっても本拠地はあくまでもついで、それよりも大事なことがあってですね」


「え?」


 そんな研究員としてその言葉は良いのかという言葉をニヨニヨと笑うとムフフ顔で近づいてくる。


「実はですね、昨日神楽坂さんが入ったとは別に、神聖教団の本拠地の近く、都市の北東部の外れに秘湯があるんですけどね、これが縁結びの湯なんて言われているんですけども、その理由がですね、なんと「強精効能」があるんですよ!」


「詳しく」


「ちなみにウルリカのカップル御用達、都市の外れにありますから周りには草木だけ、月明かりと街灯りの照らされたコントラストが秀逸でとてもロマンチックな場所、盛り上がったカップルは宿まで我慢できずに、ウヒヒ」


「ほほ、ほんとうなのデス!?」


 声が裏返ってしまった。


「私の友達も意中の彼女をそこで、というわけで、神楽坂中尉の本命は誰なんです?」


「え!?」


「またまた~、清楚なセルカさんに勝気なアイカさん、知的なレティシアさんに、中性的なルルトさん、どれもこれも粒ぞろいじゃないですか! 中尉も好きですよね!」


 う、うーん、そうか、そう見られるのか、そりゃあ、まあ、いい女であることは否定しないけど、なんて言ったらいいのか、うーん、どう答えればいいんだって、ここは誤魔化すしかない。


「いやいや、フェド兵長だってローカナさんがいるじゃないですか」


 と言った瞬間に顔がひきつるフェド兵長。


「はは、ローカナさんにとっては僕は弟のようなものですよ~、ボクの方が年上なのに、周りはローカナさんの下僕とか言うし、ぶつぶつ」


「まあ女が強いのは良いことなんでしょうね、んー、となるとメインの神聖教団の本拠地跡をメインに据えて、後はその近場を歩いて回って、なんとか温泉に誘いますかな」


 と観光に行くためにフェドと一緒に部屋を後にする。


「って、フェド兵長は何処に行くんです?」


「え? ああ、ローカナさんから研究論文のための資料集めを手伝えって言われたんで機密倉庫に行くことになっているんですよ」


(下僕か……)


 しっかり躾けられているフェドに敬礼。




次回は24日か25日です。

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