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第37話:神聖教団の最大の謎、アーキコバの物体と邂逅!


 俺とフェドは、盛り上がっていた女性陣に都市博物館に行くことを告げると2人で都市博物館にやってきた。


 都市博物館とは、歴史的経済的に重要な都市には必ず設けられており、様々な目的の下に展示物が並べられている。


 芸術品だったり、歴史ある工芸品だったり、公共の施設だから安い入場料で誰でも入れる。特に首都の博物館は凄い大きく一日いても飽きなかったし、何度も足を運んだものだ。


 とまあそれは置いといて、都市博物館は都市の最も中心に位置している、扱いが軽いとはいえアーキコバの物体から作られたウルリカ都市らしい。


 もうすでに夜で辺りは暗い、現在は時間外のため閉館中、正面からは入れないので、フェドの指示通りに裏口に回るために敷地内を歩いていると。


(……ん?)


 敷地内の角になにやら話し声と人影が見えてそちらに視線をやると……。


(……憲兵?)


 うすぼんやりだが光に照らされているけど制服姿で分かる。

 しかも、あれはひょっとして、肩についているのは大尉の階級章か、だが制服が修道院ではない上に年もベテラン、つまりタキザ大尉と同じ、たたき上げの将校、現場指揮官クラスだ。


 政府指定遺物であるアーキコバの物体は憲兵が常に警戒しているのは知っている、別に不自然じゃないし、幹部だって巡視にぐらい来るだろう。


 まあ早々に何かあるとは思えないが、少し雰囲気がおかしいぞ。


(相手の男は誰だろう……)


 相手の男は慌てて手を振って何かを釈明しているように見えるが、釈明するだけすると相手の男は勢いよく一礼して博物館の中に入っていった。


 取り残された憲兵は何か考え込んでいる様子だったが、渋々と言った様子で踵を返して闇夜に消えていった。


「なんなんでしょうね? 何か揉めていたみたいですけど」


 フェドも見ていたのだろう、小声で話しかけてくる。


「憲兵もそうなんですが、それよりも相手の男が誰なのか気になりますね」


 俺の言葉にフェドはポンと手を叩く。


「ああ、誰もなにもあの人は……」


 と言った時だった。


 裏口が急にガチャリと開くと中から小太りの、まさに先ほどの男が出てきた。


 男は俺の顔を見ると輝かせながら、手を思いっきり強く握る。


「お待ちしておりました! 貴方が噂の神楽坂文官中尉ですね!?」


「へ? あ、は、はい」


「これは噂にたがわぬ知性溢れるお顔! あ、申し遅れました私、都市博物館の館長をしておりますムージと申します。ここ都市博物館はアーキコバの物体が発見されてから歴史を持つ由緒正しい場所であります、その中で、我が都市博物館ではアーキコバの物体がメインの展示物でして、それこそ発見以来その保存状況が日誌が全て記録されているのですが、おーっと、そういえば神楽坂文官中尉は、ゴドック街長より臨時研究員として派遣されてきたのですね、ならば既知のこと! それにしてもお若いのに才能を認められるとは凄い限り! これはひょっとしたら謎が解明とまではいかなくても進展するかもしれない! いや~、そうなればそれだけで大功績ですよね、その時の館長が私、これはこれは光栄の極み、私が歴史を名を残せるのは貴方方優秀な人材たちのおかげですよ!」


 握手をしながらぶんぶんと手を振り、ひたすら笑顔で話し続ける館長。


「そ、そうですか、私なんて、ラッキーなだけですよ」


「またまたご謙遜を、いえいえ、館長の職について、いやつく前からも修道院出身の何人もお会いしたんですけどね、あっ、ここは2等都市ですから、毎年修道院出身の武官と文官が配属されてくるんですけど、本当に才能がある方は全員が謙遜するんですね、これは本当に有能な人間は余裕があるからこそなのでしょう、私のような2流の人間は、ちょっとした功績でも自慢しないと駄目なのですよ、アーキコバの物体は謎に包まれておりますが、いずれはそういった有能の方のおかげで」


「あ、あの! 今日はよろしくお願いします! これからフェド兵長と見学しなければならないので!」


「あー! 私としたことがこれは失礼、今日の主役ですからね、今後もとよろしくどうぞ~、お! それとフェド殿! ローカナ殿によろしくお伝えください!」


 と「終わればそのまま帰って問題ありませんよ~」と手をひらひらさせながら事務室に消えるムージ館長であった。


「す、すごいな」


 思わず漏れた言葉にフェドが笑う。


「2等都市の都市博物館館長っていえば、あれでもこの都市の上級幹部なんです、あんなしてますけど、とにかくミスなく仕事をするそうですよ、だから管理者向きですね」


 確かに、館長に求められるのは研究技能ではなく、今フェドが言ったとおり、ミスなく物事を回し、人の間の調整するのが仕事だ。


 とここまで考えてふと先ほどの光景を思い出す。


 憲兵と何を話していたのか気になるが、あの様子じゃ聞いてもはぐらかされるのがオチだな、そういう部分は手ごわそうだ。


 まあいっか、今はアーキコバの物体が最優先、俺たちは裏口から事務室を通り抜けて踏み入れる。


 閉館中とあって当然人はいない、展示物も薄暗いから読み物も読めないけど、神聖教団を中心となって展示していており、当時のちょっとした小物まで展示されている。


 一度ちゃんと見学したいよなと思いながら、都市博物館を歩く。こういう特別な時間に歩くってちょっとウキウキドキドキするよね、それこそゴドック議員様々だ。


 そんなことを考えながら歩いていくと、向こう側からコツコツと複数の足音が聞こえてきた。誰だろうと思ったら制服姿のシルエットで憲兵だと分かる。


 歩いてきた向こうも俺に気付いたなと思った時だった。


「「っ!!」」


 暗闇で良く見えず不審者だと思ったのか、柄の剣に勢いよく手をかけて抜刀した。


「そのまま動くな! 誰だ!?」


「え? え? え?」


 戸惑う俺に隣でフェドが叫ぶ。


「怪しい者じゃないです! フェド・ラスピーギです!」


 びっくりした様子で応えるフェドに2人の憲兵はゆっくりと近づく、目を凝らしてフェドの姿を確認したのだろう、ようやく警戒を解いてくれた。


「失礼、フェドさんでしたか、そちらの方は?」


 不審な視線のまま問いかける憲兵にフェドが答える。


「神楽坂イザナミ文官中尉ですよ、臨時研究員として、聞いてませんか?」


「ああ、そういえば今日からでしたね、神楽坂文官中尉、失礼しました。ここは政府指定遺物がある場所ですので、ご理解を戴けると助かります」


「いえ、その、お仕事、お疲れ様です、頑張ってください」


「ありがとうございます」


 俺の返答にそう笑顔で応えると、憲兵2人はそのまま通り過ぎた。


「…………」


 後ろを振り返り、憲兵達を見る。


 都市博物館は、ムージ館長が言ったとおり、アーキコバの物体の保管庫として歴史が始まり、今でもその役割を担っている。

 得体のしれないものであることは確かなので、ああやって憲兵が常駐している。


 だけど兵器なんて説もあるから、この都市博物館、中でもアーキコバの物体が保管されている別館は相当に丈夫に作られているそうだ。


 とはいえアーキコバの物体自体、超技術でできているから、もし暴走でも始めたら役に立たないなんて皮肉を込めて言われている。


 まあとはいえ、そんな時は幸いにも来てない、発見された当時から何もない。ここを拠点に都市が出来上がるほどに。


「どうかしたんですか?」


 フェドが問いかけてくる。


「いや、憲兵がピリピリしているのが気になるんですよ」


「ピリピリって、それはそうですよ、さっきは扱いは軽いって言っちゃいましたけど、アーキコバの物体は政府指定遺物、何かあれば責任が問われますから」


「だから気になるんですよ、憲兵達にゆるんだ様子がないのが」


「え? いや」


 続けようとするフェドを遮る形で俺は話し始める。


「いくら政府指定遺物とはいえ正直、そう滅多に何かあるなんて思えない。気が緩んで当然なんですよ、というより憲兵だって人間なんですから、緩むときは緩まないとそれこそいざという時に消耗してしまい、動けませんでは話にならない」


 アイカやタキザ大尉がそうだ。

 事件の無いときはまったりしているが、いざという時にはロッソ壊滅作戦のようにその威力を存分に発揮する。


「それなのに、あれではまるで……」


 と、ここまで語ってフェド文官兵長はびっくりしたように俺を見ていたことに気が付いた。


「な、なんちゃって~、ボク推理小説が大好きで~」


「へー、流石修道院出身、頭の回転と目の付け所が違うんですね」


「いやぁ、頭の回転はむしろ遅い方なんですけど、ねぇ、げふんげふん」


 いかんいかん、つい、やってしまった、少しは抑えないとな、釘を刺されたばかりだし。


 とここで本館から別館に通じる道へ出るため外に出る……。


 出た瞬間に目に映る光景に俺は立ち止まってしまった。


 都市博物館から一本の橋が伸びていて小さな小島に繋がり、小島に建てられた建物が月明かりに照らされて幻想的な雰囲気を醸し出している。


 あれアーキコバの物体だけに設けられた場所である都市博物館の別館だ。


 フェドに先導される形に橋を渡って、大きな扉の前につく。


「……ゴクリ」


 ピリピリとした憲兵にあてられてしまったのか、こっちまで緊張してしまった。


 鍵はかかっていない、扉に手をあてて、重たい抵抗がある扉が開いた先に……。


 アーキコバの物体があった。


「うおおぅぅ~~」


 自分でも間抜けだと思う空気が抜けたような声を出してしまう。


 一辺が5メートルの完全な立方体、どのように表現もしようがないから「物体」と表現するしかない漆黒の存在。


 アーキコバの物体は神聖教団の末期に作られたもので、魔法に常にコーティングされた状態であり、作られたどのような目的なのかは一切不明、これが土なのか金属なのかそれすらも分からないのだという。


 当時神聖教団の最先端技術の結晶、末期と言えば終末的な響きではあるが、一番技術が進んだ時期でもある。


 存在理由はさっきも触れたが兵器ともいわれているし、ただのオブジェに過ぎないなども言われており、玉石混合、確定には至っていない。


 それにしても凄い存在感だ、変な表現かもしれないが、生きているって感じがする。ずっと視線を奪われてしまって、目が離せない。


「触ってもいいですか?」


「構いませんよ」


 もちろん一般見学者は触ることはできない、俺は腰位の高さのスロープを乗り超えて近づいて、人差し指だけで触れる。


「凄い……」


 この存在感というか、不思議な、鉄のようにも感じるのに、土を触れたようにも感じる、独特の質感、そして触れた先から広がる波紋、これは……。


「アーキコバの物体で分かっていることは二つ」


 代弁するかのようにフェドが語り始める。


「魔法でコーティングされていることは分かっても、それが何の魔法かすらも分からない、いくら類稀な才能を持っていても永続に続く魔法なんて人の身に作り出せないから、これは魔法ではなく神の力であること」


「二つ目はこのコーティングを解く方法、つまりアーキコバの物体にかけた神の力は人の手で解除することができることです」


 解除方法は分かっている、だがどうしてそれができないのか。


「この神の力は、いわゆる鍵穴のようなもので、その鍵穴に対応する鍵は人間の力で作ることが出来る。だが鍵を作り出した時には鍵穴が変化しており開けられない」


 つまり今この瞬間にも回答は存在するが、アーキコバの物体は絶えず変化を続けている。


「……あっ」


 何だろう、わかった、ひょっとして今……。


「今中尉が感じたとおり、人間にも変化を感じ取れるのですよ、魔法の才能なんてない筈なのに」


 魔法は魔法言語を使って魔法使いが顕現させない限り感じ取ることはできない、魔法使いにとって、魔法を使える人は使っていなくても流れを感じ取ることができるらしい、なんかかっこいい。


 これは神の力も同様、ということは。


「そう、アーキコバの物体の変化は、意図的に分かるようにしている。それがどうしてかは分かりません、まあ神の発想なので、考えるだけ無駄かもしれないですけど」


 というフェドの言葉であったが、俺は首を振る。


「んー、どうでしょう、発想自体は人間とあまり変わらないと思いますよ」


「神と人間が、変わらない?」


「神が創ったのにこんな面倒なことをする理由を考えた時に、解除鍵が人間にも作れるってことが、むしろ神の方を想定していると考えた方が自然かと」


「神の方の想定って、具体的には?」


「自分より上位の神の存在ですよ」


「上位の神?」


「神の世界では強さが序列となる。これを作ったのがラベリスク神だと仮定したときに、そう考えれば理屈に通るんです」


「つまり?」


「神が「この中にあるもの」が知りたくても、跡形も無く壊す方法しかなくなるってことですよ。つまりラベリスク神は、いえおそらくはアーキコバも含めて、これを人からも神からも守りたい意志が垣間見えます」


 自分より上位の神に興味を持たれなければそれが一番いい、そして存在を知っても「壊すまでもない物」と認識されればいいけど、中を見ようとされるのは好ましくない。


 例えばルルトなら、力で解決しようとするから、最終的に壊すことを選択するだろう。

 例えばウィズなら、知略で解決しようとするから、最終的に開けられてしまうだろう。


 だが人間に「なんとかなる」と思わせることで人間に注目を集めるようにした。

 当然神の力のご利益は人間は欲しい、故に研究対象となるし、現に政府指定遺物になった。


 結果仮に壊すにも神によってつくられた物だから神の力を使わないと壊せないから、結果派手にしなければならないし、そんなことをしては自分が人間に注目されることになる。


「つまり存在を秘匿して顕現する神にとって、アーキコバの物体は手間がかかりリスクもかかるものです。つまり中身に興味を持った神に「そこまでする価値もない」と思わせることで、手が出せない存在となったのですよ」


 俺の言葉に感心したのように頷くフェド。


「はー、神に近い位置にいるという噂、正直眉唾だって思ってましたけど……」


「え!? ま、まあ、何度も言ってるんですけど、ただ橋渡しです。それに、我が祖国の日本は、神は人の上位にあれど、八百万の神々と、えっと、ここでは「たくさん」って意味で、全ての「もの」に宿り身近で普遍的な自分の隣にいる、という考え方をするのですよ」


 早口での俺の説明に、フェドはふんふんと頷く。


「それは、失礼ながら、えーっと、「特別」な考えを持つのですね」


 フェドの特別という選んだ言葉に苦笑してしまう。まあ無数の神を信仰しているなんて言ったところで、俺のいた世界だって他国は理解できない概念だ。


 ルルトに異世界に連れてこられた時、「無神論者」とは言わないでくれなんて言っていたが、元いた世界だって無神論者なんてのが平然とまかりとおる日本の方が「特別」な考えだ。


 とはいえ危ない危ない、つい身近に神がいて普段から加護を使っているから鈍くなってしまうが、この世界でも神の御利益を受けるのは「奇蹟」なのだから。


 んで、こうつらつらと述べてみたものの……。


「正直、手に負えませんね~」


 が結論だ。色々言ったところで言っただけで終わり、長年研究されて謎なのだから、分かってはいたものの俺の素人の考えで手に負えるものではない。


 ちょっと残念、まあでもいいか、1週間あるんだからノンビリとすればいいし、閉鎖都市に入れるなんてめったにないチャンスだから色々と観光しないとな、ってそうだ。


「フェド兵長、研究も兼ねて色々と観光しようと考えているんですよ、何処かいい場所あります?」


「んー、いい場所ですか、この時間だとさっきローカナさんが温泉があるって言っていたですけど、ここの温泉は本当にお勧めですよ。特にお勧めなのは都市北西部にある石灰棚の温泉、美容にいいという意味だけではなく、景観も美しい温泉なんです」


「温泉、いいですな。丁度長旅で疲れていたし、仕事なんてとっとと終わらせて行きませんか?」


 とフェドを誘うも「う……」と口ごもる。


「あれ、何か予定でも?」


「予定というか……」


 とタイミングよくここで別館の扉が開き、ローカナと我らが一行が入ってきた。


「ここにいたのねフェド君! 手伝って! 魔法石の件、みんな協力してくれるみたいだから! 人数分を明日までに作らないと!」


「…………」


 えー、俺達は一応アーキコバの物体の調査に来たはずなのに。


「はは、見てのとおりローカナさんの手伝いが、ね、やることないって思われているんですよ」


「くうっ!」


 不憫、扱い軽い。と思っていたらアイカが話しかけてくる。


「ほら、神楽坂、私たち温泉行くけど、アンタはどうするの?」


「ああ、俺も温泉に行くけど、あのー、ほら、ね?」


 ここに俺たちの目的の物があるんだよ、という視線を送ったがアイカは一瞥する。


「ああ、思ったよりもでかいね、まあ明日改めてみるよ、というよりも温泉! ここって美人の湯なんだって!」


 思ったよりもでかいって、コウテイペンギンの感想じゃあるまいし。


 自分的には凄い感動したのにどうしてこう、と思ったら横からフェド兵長の声が聞こえてきた。


「神楽坂中尉、滞在中は解析係にあるものだったら、私の許可なんていらないので好きな時に好きなだけ調べてくださいね。あそこはアーキコバの物体の資料室をそのまま部屋にあてがわれたものですから」


 と女性陣のリアクションに動ぜず、ローカナにズルズル引きずられながらその場を後にする、フェドに敬礼。



次回は18日か19日です。

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