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第35話:神聖教団・アーキコバ・イシアル


 魔法、神の力を下位互換したもの、神の絶対の力はないが人の身に合わせた使い勝手の良さを持つ。


 その魔法の起源は定かではない。


 しかし人間が魔法の使う起源ははっきりしている。


 ある人物が編み出した魔法術式、これを人に埋め込む形で使うことができたのが最初だ。


 そのある人物とはアーキコバ・イシアル、現在主流で使われている魔法術式の創造主。

 ラベリスク神という神の使徒であったことが有力視される人物であり、それ故か魔法術式を持たないにも関わらず類稀な魔法力を持っていた。


 そんな彼は、亜人種達と村と隣接していた人間の村で生まれ育ち、二つの村は表立った交流は無かったものの、アーキコバは、秘密裏に亜人種達の村で魔法の腕を磨くことになる。


 そのうち彼はその高い魔法力を磨く上で今後人間社会にとって欠かせないものとなると考えるようになった。


 そしてアーキコバは、志を同じくした人物を集めて神聖教団を結成した。


 神聖教団はラベリスク神を主神として、団長がアーキコバを勤め、組織運営に必要な作業を幹部達がそれぞれに請け負うことになった。


 当時はまだ結成時の14人のみ、彼は団長ではあったものの、役割は研究者であり、その分野で非凡な才を発揮した。


 その才に惹かれて徐々に組織の規模を徐々に拡大していく。


 アーキコバは研究の過程で彼はいくつもの傑作を生みだしてきた。


 その中で一番の最高傑作は、いわゆる概念に近かった亜人種に存在していた魔法術式を顕在化し理論に落とし込むことに成功し、人為的に魔法術式を埋め込むことが出来るようになったことだった。


 この発明により人でも魔法が使えるようになり、亜人種クラスの魔法の才能を持つ人間も少ないながらもおり、魔法はそれ以降、人間にとって身近な存在となった。


 という訳にはいかなかった。


 そもそも魔法が使えない人間が下位互換としてとはいえ神の力を人為的に使うというのは、神に反逆する行為として当時存在していた周辺の勢力から尋常じゃないほどの迫害を受けた。


 この世界での神の存在、そして魔法術式が亜人種にしか備わっていないとあれば、当時からすれば無理からぬことであったと言える。


 周辺の脅威に対してアーキコバは自衛の手段として、集団としては脆弱であった亜人種達を傘下に入れて魔法力を確保。

 そして魔法を「魔法科学」として応用し、結果当時最小規模でありながら最強の集団を作り上げ、大陸を席巻することになった。


 アーキコバはあくまで自衛の手段としての武力ではあったが、その最強の集団が元よりあった亜人種達への偏見と、魔法の有効性と発展性の証明が魔法を使えない人間に対して同時に恐怖を生むことになる。


 更にアーキコバ自身が使徒であるということ、その背景にいるラベリスク神が今で言う「邪神」ではないかという憶測を生み、迫害は苛烈さを増し、結果神聖教団は四面楚歌状態となった。


 アーキコバは自分にその意思はないと主張するが戦争は終わらず泥沼化、数十年も続く終わらない戦いに徐々に神聖教団も力を失い、仲間を失い続けたアーキコバは徐々に精神をむしばみ、暴走を始める。


 その一つが「強い魔力を「強制的に引き出す」魔法術式」の発明。


 元々魔法適正がない人間について、戦いに勝つために強力な術式を無理矢理組み込み、強引に使えるようにした結果、強い力を使えるようになったものの神の力に耐え切れず人格崩壊を起こす人物が続出するも、それでもなお強硬に術式を埋め込み続けた。


 それでも神聖教団への攻撃は続き、アーキコバはついに最悪の解決手段を打ち出した。



 それが亜人種のハーフを強制的に作り出すこと。



 亜人種と人間のハーフは強大な魔法の才能を持って生まれることに目を付けたアーキコバは、傘下の多数の亜人種達と神聖教団の人間たちと「強制交配」させ、兵力を増強する手法を採用したのだ。


 元より半端ではない魔法才能を持って生まれるハーフであるがゆえに、強力な魔法術式にも耐えうるためだったものの、外道の手法に内部からも離反者が続出、結果神聖教団は空中分解して「消滅」することになった。


 消滅した神聖教団の主要幹部たちは散り散りになり、アーキコバ自身が最期にどうなったのかわかっていない。


 神聖教団が空中分解しアーキコバが行方不明になったことで、魔法が人間から亜人種達に戻ったことで迫害の熱は収まり、そして神聖教団の本拠地として使われた場所は、神聖教団消滅後、生き残った亜人種達に受け継がれることになった。


 古代文明は終焉が判明しないものが多い中、いわゆる自らの力と時代の両方に振り回された終焉を迎えた神聖教団の負の歴史は他山の石として現在でも教訓になっている。


 そして皮肉なことに神聖教団が残し、亜人種達に受け継がれた魔法科学の遺産は、魔力向上の他、ただの力に過ぎなかった魔法も神聖教団の研究成果をもとに様々な用途に使えるようになり、現在では、アーキコバ・イシアルの言ったとおり人間社会から外せないものとなっているのだ。


 その後、一切の交流を断つ形で存在し続け、統一戦争時代に突入したとき、中立を宣言したものの、ウィズ王国誕生と同時に神聖教団の結成時のメンバーの末席、スズテ・ベーシックの末裔ウルリカ・ベーシックがウィズ王国の傘下に入ることを表明。


 これは「無血戦争の勝利者」として彼の名前を取り、名付けられたウルリカ都市は現在も王国の主要魔法都市として、そして閉鎖都市として現在も技術が受け継がれ、発展に尽力している。


 これが、神聖教団の歴史だ。


 俺は馬車の中で資料を閉じて、馬車の窓から景色を見ながら物思いにふける。


(人間の残酷さと愚かさ、だけどそれを善悪で割り切れない歴史、そこに惹かれるんだよなぁ)


 俺のこの感情ははっきり言ってしまえば不謹慎なのだろう。


 だけど接待とはいえその歴史に触れることができるのは素直に嬉しいし、しかも観光ではなく臨時研究員として迎えられるため、部外者には見せないところも見学可能という事もあって非常に楽しみでもあった。


 ちなみに馬車にはいつものメンバーが乗っている。


 ウィズに声をかけた結果二つ返事で了承、アイカもちょうど担当する事件がなく、おやっさんが再び出張扱いにしてくれたらしい。なんだかんだでカイゼル中将もタキザ大尉もアイカに甘い。


 んで2日前にウルティミスを出立した、そろそろウルリカに到着するころだと思った時、都市の外壁が見えてきた。


(見えてきた! 閉鎖都市ウルリカ!)


 閉鎖都市。


 ウルリカ・ベーシックがウィズ王国の傘下に入るにあたり唯一の条件がこれだった。


 亜人種達にとって屈辱の歴史で培われた技術を使うことで、統一戦争時代も耐えることができたものの、これは外部からの未だに根強い亜人種達への偏見と迫害を恐れていた結果だとして、居住や移住、観光にすら制限が付けたのが始まりだった。


 と冷静に解説しつつ……。


(閉鎖都市、ああ、厨二心が疼く言葉よ)


 自分でもバカだと思う、失礼なのも理解している。俺がいた世界にも閉鎖都市はあるが、業が深いなと思いつつ、それを見る時のワクワクとした好奇心は抑えきれないものなのだ。


「なんかイザナミ、かっこつけてない?」←ルルト

「ああ~、パパと兄貴もさ、突然スイッチが入ったかのように時々ああなるんだよね」←アイカ

「そういう時はどうしたらいいの?」←セルカ

「放置、今絡むと男の浪漫がどうとか言ってくるから」←アイカ

「「「やだぁ」」」←他3人


 やだぁとか言うな、そもそも女に男の浪漫なんぞ理解できないのだ、それはしょうがないことなのだ。


「今の神楽坂になんか言っても「女にはわからない」とか言い出すだけだよ」


「「「めんどくさっ!」」」


「…………」


(ふん! 女にはわからないのさ!!)



「セルカ・コントラスト4等議員、神楽坂イザナミ文官中尉、アイカ・ベルバーグ武官少尉、フィリア・アーカイブ武官軍曹、レティシア・ガムグリー文官二等兵」


 それぞれの身分証明書を見比べながら門番である憲兵がそれぞれ身分を確認する。


「確認しました、ご協力感謝します」


 身分証明書を返すと、馬車の点検をしている憲兵も点検終了と報告してきた。


 それにしても門番に自警団ではなく憲兵が常駐しているとは流石2等都市、閉鎖都市とあって馬車もかなり細かく点検されて、警備も厳重だ。


 点検が終わると、この門番の責任者であろう亜人種である憲兵下士官は続ける。


「ここが閉鎖都市であるとは皆さんご存知かと思いますが、そんなに構える必要はありません、原則自由にしていただいて構いません。ただ我々の都合により指示をすることがありますので、その指示に従ってもらうことになります」


「そして皆様方は今回王立研究所の臨時研究員としての身分を保有することになります。細かなことは、研究所で職員が待っていますので、まずはそちらに向かってください」


 だそうだ。


 さて、いよいよウルリカ都市に入る時だと思った時だった。



「それと、お伽噺の妖精に気を付けてください」



 突然の言葉に「え?」と、全員がキョトンとして憲兵を見つめる。


 お伽噺の妖精、聞き間違いでなければそういったはずなのだけど……。


「…………」


 憲兵の顔はいたって真面目だ。つまり冗談でも何でもなく妖精が出るから気をつけろと言ったのだ。


 俺たちが余りに不思議そうな顔をしていたのか、説明した憲兵は表情を崩す。


「すみません、この言い方ではわかりませんよね、ウルリカには、都市成立当初から子供に言い聞かせるお伽噺があるんです。地に眠る妖精が夜に徘徊して、親の言う事を聞かない悪い子供をさらっていくというお伽噺が、そしてその妖精がこの頃目撃されているのですよ」


「…………」


 地に眠る妖精が夜に徘徊する、それを見たという目撃証言。


 まあこれは普通にあるだろう。こういったものは必ず誰かが見たと言い出すものの類のものだ。俺だって小学校の時に「幽霊を見た」とか言っていたクラスメイトがいたものだ。


 そして俺も小さいころ親から似たようなことを言われたことがあったっけ。


「本来なら微笑ましい話なんですが、実際に見たという人がこの頃たくさん出てきた関係でこっちも無視できなくなってきたんですよ。ですからもしお伽噺の妖精を見つけたら逃げてくださいね、証言者によれば逃げれば追いかけてくることは無いそうですから」


「……妖精ってどんな姿をしているんです?」


 ここで憲兵は一旦口を閉じて、うーんと苦い顔をして逡巡した後に教えてくれた。


「身長は170センチぐらい、体格は痩せ型、フードをかぶっていて、並外れた力を持ち数十メートルの跳躍力を持つ、だそうです」


「……なるほど」


 前半はそのまんま日本でもよくある不審者像だ。だから憲兵も言い淀んだのだろう。


「ま、まあ、繰り返しますが、もし出会ったら逃げてくださいね!」


 まあでも不審者が出ているのは事実っぽいから、一応気を付けるに越したことは無いだろう。


「それでは説明は以上です、いい滞在を!」


 と憲兵により門扉が開けられ、俺たちはウルリカ都市に足を踏み入れたのだった。




次回は11日か12日です。

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