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第34話:ソルグリーム・ブローズグホーヴィ!!


 魔法、神の力を人の力に下位互換したもの。


 魔法を放つためには魔法言語を詠唱することにより、そして唱えられた魔法言語により体に組み込まれている魔法術式が反応し魔力が充填されたところで、目的に応じて発動、効果を生む。


 ちなみに魔法術式とは生命エネルギーである魔法を流す道のようなものだと解釈すれば問題ない。


 そして魔法術式は亜人種には先天的に備わっており、人間は備わっていないから魔法術式を後天的に体に埋め込む必要がある。


「■□△●□△▲★☆□◇◆◇☆★」


 魔法言語の響きはどこの言語にも所属しない神秘的な響きを持つものだ。


「■■□△●□△▲★☆□◇◆◇☆★」


 いや言語とは正確な表現ではない、言語とはコミュニケーションツールであるがこれは、言語ではなく、発動条件を満たすために使う、そう、唄のようなものだ。


「■□△●□△▲★☆□◇◆◇☆★」


 術式を唱え終わると、魔法術式に魔法力が充填された状態となる。


 そして……。


「ソルグリーム・ブローズグホーヴィ!!」


 掌を前に出し、その充填された魔力を穿つ!


「…………」


 当然前に出した掌からは何も出ない、当たり前だ、俺に魔法術式は埋め込まれていない。


 そしてよくあるファンタジー魔法と違って、こんな魔法の名前を言う必要はない。


 魔法言語を唱え終わり準備が終わったところで、放つ意思を持てばそのまま自身の目的に応じて効果が発動するのだそうだ、メディがそんなことを言っていた。


 ということなので今の魔法名もウィズ王国の由来云々ではなく、北欧神話からそれっぽい名前を適当にくっつけただけ。


 しかも人間に魔法術式を埋め込むのはよほどの才能を持っていない限り実は意味がない、 ルルト曰く俺に魔法の才能は「ほぼ0」らしく、仮に術式を埋め込んだとしても、指先がうっすら光る程度で懐中電灯にも使えないという。



 つまり思いっきり使えもしない魔法を使うという1人遊びをしていたのだ。



 痛い奴? そんなのは百も承知である、だから当然誰もいないことを入念に確認してある。ならばそれをどうして1人で、しかも執務室でやっているかについてなのだが……。


「魔法言語だけは本物!!」


 そう、これに尽きる。「本物の魔法言語を詠唱出来る」なんて体験だけでもかなり凄いことだ。


 思えば子供の時に漫画とかアニメの呪文なんかかっこよく聞こえてひたすら唱えていたものだ。


 異世界に来て魔法の存在を知った時には狂喜乱舞したし、魔法の才能が無いと知った時にずいぶん落ち込んだものの、使えないのに本物の魔法言語を勉強そっちのけで必死で覚えたあたり、自分でも子供のころからちっとも成長していないなと思ったがまあ男とはそういうものだ。


「でも魔法かぁ、使ってみたいなぁ。この際術式を埋め込んでみるか、うーん、うっすら光る程度でも、こう光るわけだから、別に害があるわけじゃないし、こう思いきって、名前もさっきみたいに北欧神話から光関係の名前を取る感じに、ん?」


 とここで執務室の違和感に気付き、キョロキョロと辺りを見渡す。


 あれ、なんだろう急に違和感を感じたのだろう、何が気になるのだろう……。


 と思った時だった。


「…………あれ?」


 俺の視線はある一点で止まる、その場所は執務室の扉、それが。



「…………半開きになってる」



 ちなみに我が執務室の扉の立て付けはちゃんとしている、普段から使っているから確認するまでもない。


 そして普段から誰もいない時は執務室は一応公文書もあるから施錠設備もあるし、俺も不在の時はちゃんとかけるようにしている。


 それにこんな1人遊びをしているのだ、当然に他人の目を警戒するし、何度も確認したことも覚えているから間違いなくかかっている。


 ではどうして空いているのだろう、締めたはずの扉が開いているこの謎。


 もちろん扉の鍵を開けたからこそなのだろうけど、鍵穴が壊されていないのだから、鍵を使って開けたのだと推測できる。


 そして扉の鍵を持っているのは俺だけではない。


 ああ、なんと往生際の悪い、こんなことに筋道立てて考える必要なんてどこにもないのに……。


 血の気が引く思いをしながら、そっと、そーっと近づいて、静かに半開きの扉から外を見ると。


「…………」


 気まずそうにセルカ司祭が立っていた。


(のおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!)


 そのまま地に足がついているのに、地面から落ちていく矛盾した感覚、表情を崩さず、ぶるぶる恥ずかしさに震える。


 うそ、うそだろう、見られた、この1人遊びを……。


「お、お、お、お早いお帰りですね、えっと、確か、帰りは明日だと……」


 自分でも声が裏返っているのかそれともちゃんと喋れているのか掠れているのかわからない。


「そ、それが、大事なお話があったもので、報告がてら懇談会が終わったらすぐに帰ってきたんですよ」


 頭で思い描いたことは伝わったわけだからちゃんと言えたのだろう、多分。


「そ、そうなんですか~、えっとじゃあすぐにでも是非お話を伺いましょう! どうぞどうぞ~」


「し、失礼します」


 と別に案内する必要もないに案内する俺に、断る必要もないのに、俺の後に続くセルカ司祭ではあったが。


「あ、あのっ、中尉!」


「……………………なんです?」


「ウルティミスの子供たちもあんなふうに魔法言語で遊んでいるんですよ!!」


「うわーーん!!! 知ってるよーーー!!!」



 さて、いつもの状況説明から入ろう。


 まずウルティミス商工会について。


 連合都市誕生した後、ウルティミス商工会はマルスと共に経済活動を開始、ロッソファミリーが外部の取引先についてクリーンを貫いていたものの、管理は極めてずさんであるため合法的にぼったくられている状態であったため、そのまま関係を破棄する形で、契約を再締結した。


 結果、こちらも合法的にマルスの経済流津を独占することに成功し、ヤド商会長主導の下、取引先とも良好な関係を構築するに至る。


 それをもってセルカ司祭はマルスのライフラインのパイプを会社として立ち上げ代表に就任、ウルティミス・マルスの人員両方に雇用先を構築、双方に人員を配置することで都市民たちに交友関係の構築を狙う施策を打って出る。


 マルスという特殊な都市である以上トラブルが予想されたものの、いわゆるウルティミスは遊廓運営に関わらない立ち位置は維持していたころから、ロッソファミリーの影響を受けているものは意外なほど少なく、概ね成功、これはアキスとセルカの関係によるものが多い。


 そして同時に私立ウルティミス学院に、マルスの子供たちをウルティミス学院に学費もタダで編入させ規模を拡大、ルルト教会の傍に平屋である物の校舎を建立、そこで教育を施しており、双方の人材育成に力を注いでいる。


 セルカ司祭が学院長を勤める傍らウィズが主要教職員としてフル活動状態となっている。


 その今力を入れている教育も、成果が試される時が来ている。セク・ランダムが来年修道院の文官課程を受験、大イベントが控えている。

 本人も相当に努力をしているようで、不可能ではないが無理、というレベルから、今では7割ぐらいまでもっていっているそうだ。


 セクがウィズに熱を上げている、というのは聞いたので俺から出来ることとして、ウィズに主神としての活動は受験が終わるまで降臨の儀だけにしてもらい、放課後セクの受験勉強を個別に見てもらったりしてもらったりと色々協力をしてもらっている。


 だがセルカ司祭の秘書的役割も果たしていたウィズが離れることによりセルカ司祭の仕事が膨大な量になっている筈なのに、疲れどころかウキウキしている様子だったものの。


「ふう……」


 と疲れているのか定期報告を終えたセルカ司祭から自然とため息が漏れた。


 だろうな。辣腕ぶりは知っているが、流石に業務量が目に見えて多くなってきている。


 出来れば秘書がいればいいのだろうけど、連合都市の重要情報を握ることになるから自然と信用ある人物に限定されるが、適性を持った人物がいない。


 元よりウルティミス商工会も余剰人員がいるわけではないし、そもそも自分の父親の人物を秘書として使うのはやはりやりづらいらしい。


 そんな疲れた様子のセルカ司祭を見て自然と声をかけてしまう。


「ここらで、こうパーッと、旅行とか温泉に行きたいですなぁ」


「旅行と温泉、ですか?」


「元の世界にいた時は旅行が趣味だったんですよ、まあ金がないから貧乏旅行だったけど、ぶらりと訪れた観光地でも何でもない場所にちょっとした歴史もあって、なかなかにロマンを感じるのですよ」


 当然メインとなる観光名所を巡るのは楽しい、観光地用にカスタマイズされているし訪れやすい。


 だから最初はメインとなる観光地を訪れて、次はそこら辺の地元の神社や名跡を訪れたりする。地元の人も全くいない場所だったりするけど、でも誰にも邪魔されずに時間を過ごせるってのは結構な贅沢だ。


「…………」


 旅行という俺の言葉を聞いてセルカ司祭が何かを言おうとした時だった。



「そういえば修道院時代、休日といいえばアイカと遊ぶか首都観光してたよね」



 ここでルルトが現れる、今日は確か自警団の武芸を教えていたはずだ、終わったのか。


「まあな、けど休日だけじゃ旅行もできないから、近場だけだったし、何気に卒業した後も今まで激動の日々だったわけだからな。それでも歴史を調べるだけでも面白かったよ、だから修道院時代は王国史だけは得意でさ、平均点取ってたんだよね」


「得意なのに平均点……」


「うるさいな! というか、みんな頭は滅茶苦茶いいんだよ! 勉強についていけなかったのは事実なの!」


 あのモストだって嫌な奴だったけどその集団の中でも頭は本当によかった。記憶力も抜群、計算力も、そして隠れて努力もしていた。

 だから単純に能力では俺よりも断然上なのは認めるところだ。


 だが小さすぎる器がそれを全て台無しにしていた、一つの欠点であそこまで損をするのは珍しいしもったいないと思ったものだ。


 という俺は善意の忠告つもりだったが、モストは馬鹿にされていると思うらしい、よくわからん、まあ貴族の俺が平民にって感じなんだろうなぁ。


 というか、ルルトとセルカ司祭がいるのならちょうどいいか。前から大事なことを話そうと思ったことがあった事を思い出してルルトとセルカ司祭に話しかける。


「そういえば、ルルト、セルカ司祭も聞いて欲しいですけど、一応大事な話」


「ん? なんだい?」



「万が一の時は、お前の使徒だって公表してかまわないか?」



「それは駄目です!!」


 ルルトの代わりに答えたのはセルカ司祭だった。


「やっぱりそんなことを考えていたのですね! 中尉は異世界人だから知らないのです! 使徒であることがどういった意味を持つのか!」


 人間世界での通説は、神が使徒を作るというのは神もとてつもない力を使い作ることになっている。 


 だが真実は、微小の神の力の加護をかけ続けるだけで、いくらでも使徒を作ることができる。


 しかしウィズ王国では使徒は教皇1人だけしか存在していない。


 どうして1人しか作らないかというと「ありがたみ」を持たせるためにウィズが使っている戦略の一つではあるが、ここで生活をしていると理由はそれだけではないという事は分かった。


 例えば俺がルルトの使徒であることを公表すれば、神の数だけ使徒の数がいるという結論に容易にいきつく。


 そしてリスクを伴わないことも知れ渡れば、悪しき考えを持っている人物がそれこそうようよ寄ってくることも予想できるが、俺に対して容易に手出しはできないことになる。


 何故ならルルトはウィズと友好関係を結んでいるから俺への手出しは神にとって反逆と捉えられてしまう可能性があること、そうでなくても人が神に逆らうというのは常識では考えられないことだし、それだけで相手に恐怖を与えることができる。


 つまり一言で言うと、ルルトやウィズを後ろ盾とするものだ。


 こうすると一見していいことしかないように思えるがそうではない。


 例えばゲームの対戦相手が「俺はチート使う、そっちは禁止」というアンフェアなルールを強制的に飲まされた挙句、勝負で敗北したとしてもそれが「フェア同士で戦った時の勝利と等価値」と扱われるとすれば俺に向けられる感情は推して知る。


 仮に本当にフェアな条件だったとしても、そんなことを信じろという方が無理な話だ。


 そしてそれを神々が分かっているからこそ、使徒は容易には作らないようにしているのだろう。


(だから俺が使徒であることを公表したとき、本当にウルティミスに危険なことになったら、俺だけを被害に被るようにすればいい)


 当然、こんなことはセルカ司祭はもちろんルルトにも言えないけどな。



「中尉、いざとなれば日本に帰るとか、そんなことを考えてますね?」



「っっ!!」


 これにはルルトも意外だったのか凄い勢いで俺を見る。


(ばれてたのか……)


 俺の表情を見て事実だと思ったのか、セルカ司祭は厳しい表情を向ける。


「1人で全て犠牲になるつもりなんですね、そんなことを誰が頼んだのですか、そんなことをして何になるのです! 私は中尉の仲間ではなかったのですか!?」


 最後詰め寄られる形となったが、俺はセルカ司祭に目を合わせることができない。


 「逃げる」と「戦術的撤退」は責任の有無においてその意味は違う。だから俺は逃げる訳ではないが、そうも言ってられないのだ。


「セルカ司祭、神が使徒を量産しない理由、そしてウィズのように施策を取っている理由は」


「そんなことは分かっています! もし何かあれば私が貴方を守ります! ご心配なく!」


「…………」


 守りますか、まさか女の人に言われるとは思わなかったが、言われてみると複雑、まあ思ってくれるのは嬉しいという変な感じ。


 だからこそセルカ司祭の言葉だったが……。


「構わないよ、イザナミに任せるさ」


 あっさりとそう答えたのはルルトだった。


「ルルト神!」


「ははっ、ルルト神って久しぶりに呼ばれたね、でもセルカ司祭、ボクがウルティミスのために出来ることはそれだけなんだよ」


「それだけって!」


「神は人の世に出来ることは少ないのさ、神の理と人の理が違いすぎるからね。だから色々と悔しく悲しく思いもたくさんしてきたのさ、それに究極的にボクがしたことは、異世界からイザナミを連れてきたことだけだからね」


「そ、そんなことは」


「あるよ、それと知ってるかい? イザナミの世界じゃ、神は「全知全能」なのだそうだよ。その代わりどれだけ祈りを捧げても救われることもご利益を受けることも無いけどね。まあ人間にとってどちらがいいのかは分からないけど、だから、ボクはイザナミのことを信じて、助けてと言われたら全力で助けるのさ。もちろんそれは相棒であるイザナミはもちろんなんだけど」


 すっと、あまり見せたことのない優しい顔をしてセルカ司祭を見る。


「セルカ司祭だって入っているんだよ。ウルティミスで生まれてウルティミスのために生きていてウルティミスを大事にしている。そんな君だからこそ、願いをかなえてあげたいと思って、リスクを冒してでも異世界からイザナミを連れてきた。ボクは神だけど、セルカ司祭とは仲間だと思っているよ」


「っ、ルルト神……」


 セルカ司祭はきゅっと口を結ぶと涙ぐむ。


「わ、私も、その、仲間だと、思っています」


「ありがとう、今後色々とあるから、これだけは言っておかないと思ったんだ、言えて何よりだ」


 ルルトの言葉に、目じりを拭うセルカ司祭。

 ウルティミスの神とウルティミスの民、俺なんかには全く分からない重さがあるのだろう。


 そのルルトの言葉でセルカ司祭も覚悟が決まったようだった。


「中尉、人身御供になるなんてことは反対です、ですが私も中尉の仲間として、その時が来たら全力で助けます。だから中尉も私を助けてくださいね」


「もちろんです、とはいえ、そう滅多にあることではないと思います、何かあればというレベルですよ」


 そういう意味においては現状を認識させてくれたウルヴ少佐には感謝している。


 俺自身1人じゃ何もできない、1人だったら逃げていたかもしれないけど、頼りになる仲間がいるのだから。


「それと、中尉、敬語、辞めませんか?」


「え?」


「思えば仲間同士で唯一敬語なのは私です、駄目ですか?」


 意外な提案、ではないのかな、ある意味最初お互いに腹を探り合う仲だったから、なんとなくずっと敬語を使い続けてしまった。


 確かに、仲間同士で敬語は変だよな、だからもちろんオーケーだ。


「あ、ああ、もちろん、だよ、えっと、セルカ……さん?」


「呼び捨てで」


「セ、セ、セルカ」


「はい、よろしくね、イザナミさん」


「あ、こっちも「さん」はいらない、呼び捨てで」


「私は呼び捨てにされるのはいいけど、するのは嫌いなの、だから駄目」


「は、はは、わかった、じゃあ、それで……」


 ううむ、なんか最初の展開からずいぶんと甘酸っぱいことになったが、なんかこうこそばゆいし、恥ずかしい、セルカも一緒だったようで、俯いている。


 とルルトがポンと肩に手を置いた。


「数時間ほど席をはずそうか? ああ別に一日でも構わないがデデデデデデ」


「辞めーい!」


 俺とルルトのやり取りにセルカはくすくす笑った後、一息ついたところで、セルカ司祭は何かを思い出したようだ。


「そうだ、こちらも大事な話があったんです、って、ゴホン! 大事な話があったの」


 まだセルカ司祭も慣れていないようで、誤魔化すように咳払いをする。ああ、そういえば、最初そんなこと言っていたな。


「えっと、イザナミさんは、アーキコバの物体って知ってる?」


「もちろん知ってるよ! ウィズ王国が誕生した統一戦争より遥か前、人類に初めて魔法をもたらし、当時の最小であり最強の国家を作り上げた神聖教団の長、アーキコバ・イシアル! その彼がラベリスク神という神と共に創ったとされる一辺が4メートルの謎の漆黒の立方体! 王国成立以前の物であるにもかかわらず、現在でも解明できない、まさにオーパーツ! 中には超技術の古代兵器が隠されている噂もあり、今でも現役で稼働していることから、何かの目的があると言われていますが分かっていない。存在しているだけでそれが何なのかそれすらも特定に至っていないから物体としか表現のしようがない、2等都市ウルリカにある王国指定遺産の一つ!」


「そ、そう、そうなの?」


「そうなの! ずーっと、ずーっと前から一度は観光に行ってみたかったけど、許可を得た人物以外は立ち入りが制限されている閉鎖都市、残念ながら修道院の威光も全く通用しない。聞いた話では都市の雰囲気が清涼感がありながらどこか退廃的で刹那的な雰囲気を持っているとか!」


「は、はは……」


 ひきつって笑うセルカにルルトが優しく手に肩に置く。


「イザナミが大分うざい感じだけど生暖かい目で見てね」


「うざい言うな、お前は何もわかっていない! いいかルルトよ「異世界!」「魔法!」この二つのキーワードは、異世界ファンタジーに欠かせない要素なんだぞ! しかもこう閉鎖都市とかもうこのワードがもう! ちなみにどうしてそんな閉鎖都市になったかというとこれは神聖教団の歴史がそのまま現在も生きている証拠で」


「あ、あの! イザナミさん!」


「っと失礼、んでアーキコバの物体がどうしたの?」


「えっと、実は、先の王国議会でウルリカの街長であるゴドック議員と知り合いになったのだけど」


 ゴドック議員……って全然知らないけど、ウルリカの街長と言えば2等議員、王国議会では大規模都市の街長を超える「大物」と言っていい人物だ。


「ほほーう、流石セルカ、早速コネクションを作ったのですな」


「いえ、それが向こうから接触してきたのよ」


「……へえ、向こうから」


 それは面白い、閉鎖都市の街長が、と一旦考えるのは置いておいて、セルカ司祭に続きを促す。


「そのゴドック議員から、アーキコバの物体の遺跡調査依頼が来たの」


「……はい?」


「ゴドック議員曰く「神楽坂文官中尉は神聖教団に詳しいから是非」という内容ね」


「…………」


 アーキコバの物体の遺跡調査依頼、期間は1週間、しかも書類上は「正式な仕事の依頼」になるので滞在費を含めた経費は全て向こうもちだそうだ。


 というよりも研究職は別枠採用となっているはずだし、そもそもこの話が俺のところに来る意味は分からない、いやこれは……。


 気が付いた俺にセルカは頷く。


「そのとおり、つまりは接待、連合都市誕生の立役者である私達に興味がある、とはゴドック議員の弁よ」


 だそうだ。


 つまり向こうは俺の好みをちゃんと調べた上で接触してきたという事か、とここで色々考えることはできるが……。



「まあ、そんなことはどうでもいい」



「え!?」


「つまり、今回俺に下されたミッションは閉鎖都市ウルリカに存在する神聖教団の最大の謎の一つ、アーキコバの物体の遺産の調査ってわけだな……」


「ま、まあ、そういうことに、なるけど」


 やばい、やばいよ、これ、これ。


(すげー厨二心が疼くんですけど!!!)


「キタキタ! ついにキタ! 魔法を始め、中世の街並み、貴族とか王国とか格差とか、異世界ファンタジーのテンプレてんこ盛りなのにやっていることはファンタジーどころか政治抗争に巻き込まれたり、他の都市乗っ取るとか裏社会的なことばっかり! そんな中に舞い降りた初めてのファンタジー要素じゃないか! くうぅ!」


 俺は手を組んで天を仰ぐ。


「おお、神よ、感謝します」


「いやぁ~」


「お前じゃない!」


 そんな俺の様子を見て呆然とするセルカ。


「イザナミさん!」


「いいんだよセルカ、裏ってのは読みすぎるとドツボにはまるものだよ、だから考えても無駄なの」


「だけど!」


「俺が真剣にやることは、起きた事象について分かる時にきちんと分かる事、起きたことに適切な対処をすること、この二つだけは真摯にひたむきに、それだけでいいのさ」


 俺の言葉にセルカは何も言わない。俺は「辛気臭くなってもしょうがないよ」と続ける、別に正直これは悪い話ではないのだ。


「つまりは今回はタダで慰安旅行というわけ! ウルリカは温泉も素晴らしいって聞くし! 折角だから、楽しまないとなぁ、さてさて、となるとアイカとかウィズにも声をかけないとな、皆で都合がいい日を合わせて行こうぜ!」


 とウキウキ気分で準備を始めようとしたとき、俺の腹の虫がグゥ~っと鳴る。


 おっともうそんな時間かと思った時に、ルルトが腕まくりをする。


「話もまとまって丁度いい時間だ、そろそろ昼食としようか。今日はセルカ司祭とイザナミの仲が発展したことを記念して創作料理を披露しよう」


「「おおー!」」


 パチパチと思わず俺だけではなくセルカも拍手をしてしまう。前に少し触れたがルルトの料理は凄く上手いのだ。

 適当神の癖に手間を惜しまないから味のアクセントも豊富で俺好み、いつの間にか我が部隊のコックとして腕を振るっている。


 俺達の反応に得意げなルルトは「ふふん」と鼻を鳴らす。


「さて、その創作料理なのだけどね、その名も」


 ルルトは虚空に向かってドヤ顔で手を突き出した。



「ソルグリーム・ブローズグホーヴィ!!」



 俺は無言でルルトを走って追いかける。


 無言でルルトも走って逃げた。




 ちなみに作者は子供の頃、三上博史主演の「孔雀王」の印の結び方をビデオで何度も見返しながら必死で覚えて、九字を切っておりました(笑)。


 次回は10日か11日予定です、第4章もよろしくお願いいたします。

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