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第33話:エピローグ ~××にての話~


 群雄割拠の戦国時代、当時弱小国であったウィズ王国にすい星のごとく現れた国王。


 彼は戦国時代を統一し、王国を主神であるウィズ王国と改名、初代国王として、後に王立修道院の建物を拠点として中央政府を設立、王国の基礎を作り上げた。


 戦国時代からそれぞれの得意分野で国王を支え続け、ウィズ王国が創立された時に、初代国王、この時は教皇も兼ねていたが、その直属の重臣たち24名。



 後世、彼らは原初の貴族と呼ばれる存在となる。



 とはいえ時の流れの中で国力が大きくなるたびに、貴族の定義や形態も様々に変化を遂げる。結果原初の貴族の中でも没落したり、血が絶えて断絶してしまったり、貴族の地位を自ら退いた人物もいた。


 そして現在、原初の貴族は12門のみが続いており、数は半分にまで減っていたもののの、長い時を生き抜いてきた原初の貴族の末裔たちは王国に絶大な影響力を持っていた。


 そして原初の貴族の末裔たちは、偉大なる先祖の名前を自らのミドルネームに使い家名として、名前だけではなく誇りも受け継いでいる。


 原初の貴族の1人、サノラ・ケハト。彼は初代国王の下で会計責任者、つまり財布の管理を担当していた。


 彼は王国建立以前より、王国の金についてはそれこそ清廉を通り越して潔癖、金を扱うが故に他の貴族たちと必要最低限の接触以外はしないほどに徹底していた。


 金は人の欲望の権化である、故に金を扱うは常人離れした精神力が必要である。というのはサノラ・ケハトの持論であり、その持論はそのまま彼の地位と誇りを受け継いだ者たちも脈絡と受け継がれ、現在に至るまで金銭絡みの汚職は一度として起こしていない。


 そのサノラ・ケハト家の現当主は自らの机に座り本を読んでいた。


 爵位服に身を包み、モノクルを左目にかけ、上品に整えられた口ひげに、すらりと伸びた手足、年は50代前半程度の男性だ。


 当主は本を読んでいる……が一向にそのページは進んでおらず、興味は本の内容ではなく、何か別のことを考えているのは見て取れる。


 その時、部屋にコンコンというノックが木霊し、それで我に返ったかのように顔を上げると「入れ」と呼びかける。


 中に入ってきたのは初老の男性の執事、部屋に入ると恭しく一礼する。


「当主様、坊ちゃまがお戻りになりました」


「……そうか、こちらに来るようにと伝えろ」


 男性の執事は黙礼して、そのまま部屋を後にした。


「…………」


 執事の言葉を聞いた瞬間、本を閉じて机の上に置くも、手が世話しなく動き、その動きに気付き、誰もいないにバツが悪そう誤魔化すようにパイプに火をつけふかす。


 少しの時の後、再びコンコンと遠慮がちに入ってくる。


「……入れ」


 努めて冷静に放った言葉に呼応して入ってきたのは、年は10代後半から20代前半ぐらいの当主の息子だった。


 彼は何処か紅潮した顔で、その理由が自分に会いに来たことを楽しみにしていてくれたことを当主は理解する。


「ただいま戻りましたお父様!」


 はっきりと、自分を見据えての言葉ではあったものの、当主は表情を変えず目を閉じて、そのまま視線を伏せる。


「よくもどった……」


「はい!」


「…………」

「…………」


 少しばかり沈黙が支配する、当主は伏せた視線を息子に戻すとこちらに発言を期待していることが分かる。


 当主は少し考えて、息子に対してこう言った。


「少し早いが、夕食を用意してある、どうかね?」


「はい!」



 息子にとって父親は幼いころからの自慢の父だった。


 もちろん父親は貴族であり、立場がある以上良くも悪くも様々な噂が入ってくる。


 そのほとんどが誹謗中傷といった侮辱する内容ばかりだが、父それに怒るどころかむしろ利用するような胆力と、負の部分全てを包括したような振る舞いに憧れて、将来の自分の姿に照らし合わせていたのだ。


 そんな息子と父親の食事は、息子が一方的に話し、それに無表情で相槌を打ついつもの光景。

 父親は一見してつまらなそうに見えるが喜んでくれるのは、息子だからこそ理解する。


 確かに昔から愛情を表に出すタイプではない、それは感情を見せると付け込まれる世界に生きているから冷淡に見えるだけで、時折見える優しい眼差しを理解する。


 子供にとって自分が親に愛されているかなんて理解できるし、父親はそういう意味では非常に不器用であることも理解していた。


 そんな話をしながらの食事は、食事を全て食べ終わったところでひと段落ついた。


「お父様、私の好物ばかり、ありがとうございます」


「……うむ」


 そう、小さいころから特別な日には、自分の好物ばかり用意してくれて、プレゼントまで用意してくれたこともあり、そんな楽しい思い出がよみがえる。


 まだまだ話したりないがどうしようかと思っていた時だった。


「食後の……」


 突然出てきた言葉に息子は首をかしげてしまうが。


「甘いものも用意してある、どうかね?」


 この言葉に、最初意味が呑み込めなかったが、


「はい!」


 自分との会話を続けたい父親の表現であることに気付き、息子はと元気よく頷いた。



 父親が用意してくれたデザートは3品、その1品をなるべく時間をかけながら、自分のことを話している。


 デザートそれぞれに合うように飲み物も用意し、話してのどが渇き、飲み物で潤しながら話を続ける。


 その息子の姿に、無表情だった父親は


「お前は、私の後継者だ、それを、嬉しく思う」


 と穏やかな笑顔と言葉をかけてくれた。


 数少ないが、その後継者としての自負を持ち、ウィズ王国での最高の結果も出してきて、それを認められたことに。


「私はまだまだです、これからも頑張ります!」


 と満面の笑みで応える。


 その楽しい時間もそろそろ終わり、3品目の最後のデザートを女性使用人が運んできてそのまま飲み物と共に給仕される。


 父親は息子と話を聞きながら嬉しそうに飲み物口に付ける。


 そのままグラスをテーブルの上に置き、人差し指で傍に控えていた女性使用人を手招きして呼び寄せる。


 その手招きに応じて近寄る使用人。



 そのまま当主は飲み物の入った瓶を掴み、思いっきり使用人の顔面に向かって打ち下ろした。



「っぎゃああぁぁあ!!!」



 ガン! という凄まじい音ともに、いきなり何をされたか分からず、次の瞬間に理解し、襲ってくる激痛と目もくらみまともに立っておられず、女性使用人はのたうち回る。


 それにまったく興味を示さず、静かになるまで待つ当主は、顔面を抑えながら、泣きながら寝転んでいる女性使用人の髪を引っ張ると「ああ!!」と悲鳴に近い声を出しながら顔だけ持ち上げる形となる。


「このデザートに合い、かつ息子が好きな飲み物は45番の瓶ではなく、54番だ。息子は既に家を出ていないが、だから覚える必要が無いから忘れたのか?」


「も、もうしわけ、ありま、せん……」


 まだ痛みに耐えているせいか、顔面を押え、絶え絶えに謝罪するメイド。


「お前は貧民街出身、故に同情をもって助けてやったのに、息子とのひと時を邪魔するとはいい心がけだな?」


「そんな、つもりは」


「お前達姉弟の生活費と学費を出してやっているのは誰であるか忘れるな? その対価として、お前を買い取ってやったのだぞ、お前の価値には不相応な対価でな、ほら、感謝の言葉はどうした?」


「あり、がとう、ございます……」


「……ふん、今日の私は機嫌がいい、息子とのひと時を邪魔した罰は、これで始末をつけたものとする、下がれ」


「は、はい……」


 腫れあがった顔面を隠す余裕もなく、おぼつかない手つきで食器を車にのせ、ふらふらに、傍にいた同僚たちに付き添われながら食堂を後にした。


 バタンと閉じられた扉、そこには再び息子と父親の2人だけになる。


 一連の様子を見て、息子はこう思った。


(流石お父様だ……)


 使用人に罰を与える時に一切の容赦がなかった。


 自分自身も跡取りとして、自覚を持ち奮闘する日々を過ごしているが、あそこまで徹底しては出来ないと、改めて尊敬の念を持つ。


 当主は、メイドを一瞥することすらせず、そのまま息子を見据えて話し始める。


「我々の権威や威光を利用しようとするものは大勢いる。自覚すればまだしも、無自覚な愚か者の方が圧倒的に多い、甘い顔をすれば付け上がり、身の程をわきまえず、それが当然だと錯覚する。故にこういった定期的に躾けをする必要があるのだ」


「はい! 勉強になります!」


「よく覚えておけ、我々に近づく人間は二つに分かれる。最初から害虫であるもの、最初は益虫であったが、後に害虫になる者。前者は論外、大事なのは相手が害虫か益虫かであるかの判断、そしていつ害虫に変化をするかだ、その時期を見誤らないようにするのだぞ」


 その言を実現させてきたからこその重みに息子は身が引き締まる。変わらずの父親の姿に嬉しさを隠し切れない。


 だからこそ幼いころから見てきたからこそ父親の動作に少しばかりいつもとは違う所作が入っていることが分かる。


「……お父様、何かあったのですか?」


 当主は驚いた顔をする。「お前にはわかってしまうか」と見破られてしまったのに少し嬉しそうな声をだしつつも、直後に表情が引き締まる。



「……神楽坂イザナミは、お前の同期だったな」



 父親が突然出してきたまさかの名前に、モスト・グリーベルトは驚く。



「は、はい、そうですが……」


「どのような人物だ?」


 なぜ父親が神楽坂をと、問いかけるより前に父親の質問が先行し、質問の答えを考える考えるモスト。

 無論モストにとって、神楽坂の評価は決まっている。


「そうですね、無能を絵に描いたようなやつでして、それこそこちらが寛大な顔を見せてやったと思えば付け上がり、身の程をわきまえない、お父様がおっしゃった最初から害虫である、といった類の者です。真の無能とは無能という自覚がないこと、事実修道院で最下位を取り辺境地に飛ばされても危機感が全くなく、あきれ果てるやつですね」


 モストの言葉に、当主は「最下位…」と口の中で呟く。


「最下位など狙って取れるようなものではないだろうに、大方ロード大司教にも目を付けられていたか……」


 そのまま葉巻に火をつけると目を閉じ、何かに思考を巡らせる当主。

 その様子を見ながら、モストは邪魔をしていいものかと悩んだが、好奇心が勝り、当主に話しかける。


「その、どうしてお父様が神楽坂を?」


 息子の問いかけに当主は目を開けて、首を振る。


「なに、なんでもないさ、些細なことだ、害虫を一匹思わぬ形で駆除をしてくれたのでね、礼を言わねばなるまいかなと、そう思った次第だよ」


「…………」


 口調こそ穏やかではあるが、その中に込められている感情、敵意……とは似ているような全く違うような、読み取れないことに不安を覚えたモストは再度話を続ける。


「お父様、お耳に入れたいことが」


「ん? なんだ?」


「その、奴は無能ですが、妙に鼻が利くというか、小賢しいというか、外国人であるが故の常識知らずに振り回されるかもしれません、私も一度被害に遭っていますから」


 少し焦った様子のモストに


「ありがとう、我が息子よ、気を付けることとしよう」


と安心させるように微笑み。



 ドクトリアム・サノラ・ケハト・グリーベルト侯爵は再び息子との会話を楽しむのであった。




無事3章終了しました! ここまで読んでいただきありがとうございます!


次は20日におまけを投稿します!


二つ目のおまけは現在どうしようか考え中、今続いて第4章のプロットを練っている最中です!


投稿しましたらお付き合いいただければ嬉しく思います!


もしよろしければ感想や評価をいただければ励みになります!

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