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第30-1話:吸収①


 突然楼主達に下された非常招集。


 遊廓と言えど丑三つ時は既に「コト」も終わっており静かであったため、気づかれることは無かった。


 だがこの時間での非常招集はそれだけでもただ事ではなく、にも関わらず招集をかけた楼主長からは「来るまで待て」という指示のみであり、楼主達は不安を募らせていた。


 故に当然、ただ座して待っていたわけではない、楼主達はそれぞれの部下に何が起こっているのか調べさせた。


 結果ロッソファミリーの事務所が憲兵達に乗りこまれてという情報は既に入手ずみ。ここで楼主達のすることは、その襲撃の事実を気づかれないようにすること、今日もまた国の有力者が客として来ているからだ。


 不満は山程あり、敵に回すと厳しい相手であったため従うほかなかったものの、そのロッソファミリーがいきなりいなくなったと告げられれば、日ごろどのような感情を持っていても不安が先行する。


 一見して静かな遊廓ではあるが、このように裏では激しく動いていた。


 とはいえ、楼主達はまだ信じきれないでいた、憲兵はロッソファミリーに何度も立ち入りをしていることは知っているが、この街のシステムの中ではどうすることもできず、いつもとんぼ返りをしていたのだ。


 だが今回は予告なしで武力行使をしたらしく、どうしてそこまで踏み切れたのか、理由については皆目見当がついていない状態だった。


「楼主長!」


 楼主の一人の発言により、一斉に会議室に入ってきたアキスに注目が集まり、今回の召集の真意を問う声が出てもいいはずなのだが、そのまま絶句している。


 理由は、彼女が自分以外にもう1人の人物を連れてきたからだ。


 楼主達全員その人物に見覚えは無い、だが今回の件に無関係であるはずがない、このタイミングで登場するのだから重要人物には違いない。


 それを理解した楼主達はアキスの言葉を待つしかなく、視線の意味を理解してアキスは席に座らず「待たせてすまない」と前置きをして話を始める。


「既に皆にも情報は入っていると思うが、憲兵がロッソファミリーを襲撃、ロッソファミリーは壊滅、私もこの目で確認した、頭目のロッソがボコボコにされていたぞ」


 アキスの発言に全員がざわつく。


「楼主長、どうして憲兵は」


 アキスは楼主の言葉を手で制する。


「落ち着け、今我々が置かれている状況について考えれば、憲兵がどうして予告なしの武力襲撃に打って出ることができたのかについてはさしたる問題ではないのだ。我々にとって緊急の課題は別にあるだろう?」


 アキスの言葉に楼主達はお互いに顔を見合わせる。


「ロッソファミリーが、物資の一元管理を始めとしたライフラインを担当していたわけだが、壊滅によりそれが突然いなくなってしまったのだ。ロッソがどんな管理をしていたのかもわからない、つまりこのままだと数日中に遊廓が機能不全を起こすということだ」


 ここでやっと理解する、機能不全を起こす前にしなければならない課題の解決のために、アキスが連れてきた人物が今回の事件に対して重要な役割を担っていることに。全員のざわつきが治まったのを見計らってアキスは続ける。


「今回のロッソファミリー壊滅に際し、街長もロッソファミリーの構成員であることが表ざたになり都市運営法により判明時点で停職、まあ強制罷免は免れないだろう、いずれにしても現時点で街長は空位にあるわけだ」


 アキスは、無言で連れてきた人物に場を譲ると、その人物は楼主達に呼びかけた。



「皆様初めまして、私はウルティミス街長、セルカ・コントラストです。このたび、都市運営法に則り、マルスの街長に就任することになりました」


 街長の臨時選出について。


 様々な事情の中で街長が選出できない場合についての規定がどのようになっているか。


 これは同等の都市議会議長権限により代行を立てることができる。代行は議長より指名を受けて承認された時点で街長としての権限を有することになる。


 そして代行者が立てられたのち、2週間以上街長が選出されず、適格適任が認められた場合には、そのまま議長が方面本部に上申し、街長として正式に就任することが認められ、その際の後見人は議長となる。


 セルカは発言をする。


「結論から申し上げれば、ロッソファミリー壊滅に伴い、先ほど楼主長が申し上げたそのロッソファミリーが担当していた部分をそのままウルティミス商工会が引き継ぐことになりました。既に段取りは組んでありますので、数日中に全ての手筈が整う算段です」


 セルカの言葉に全員が予想していなかったようで呆気に取られているが、その反応を理解した上で話を進める。


「故に、今後窓口は我々となります。そのために引継ぎを行いたいと思いますので、明朝より楼主達を始めとした幹部の方々にもう一度ここに集合をお願いします。私の方もウルティミス商工会の幹部を連れてきますので、まずは顔合わせですね」


「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


 ここで楼主の1人が声を上げる。


「いきなり言われても、まだ事情がよく呑み込めない、ロッソファミリーが壊滅したってのは分かったが、奴らはマフィアだぞ、ロッソの後を引き受けるなんて簡単に出来るのか?」


「問題ありません、ロッソファミリーは都市外相手における取引についてはクリーンを貫いていましたから」


「そ、そんなことありえるのか!?」


「原則として揚げ足は取りやすいところから取るもの、都市外相手の取引に不正があれば、憲兵に突き止められた時点でアウトです。そもそも莫大な利益が遊廓から出ているのに、そんなリスクを背負う必要がないですから」


 毅然としたセルカの応対に徐々に理解が及んでくる楼主達。


 そして次に思う事、そういえば、目の前にいる街長を指名したのは誰なのかと思い、都市運営法の話に及んだ時に、街長の後見は誰になるのだっけと、そこまで考えれば指名した人物について見当がついてくる。


 その空気を察してセルカが話す。


「お気づきの方もいらっしゃるようですが、私は5等都市議会議長、神楽坂イザナミ文官中尉よりロッソファミリー壊滅後の街長としての指名、行政面での事態のとりまとめを命じられました」


 神楽坂イザナミ、という名前で全員が固まる、ロッソファミリーの構成員たち相手に大立ち回りを演じ、どのような人物か試したはずが、いつの間にか挑発したあの人物が今回の件の裏で糸を引いていることを理解する。


 セルカの言葉を受けて今度はアキスが続ける。


「私自身も神楽坂文官中尉より協力を依頼されている、まあそれを抜きにしてもここにいるセルカ・コントラストとは知己の間柄でね、能力は私が保証しよう」


 淡々と話しが進めていく2人に圧倒される楼主達。


 その理由は、楼主達にとって衝撃的だったロッソファミリー壊滅が、2人にとっては「一つのプロセス」としか捉えていないことだった。


 そしてこの手際の良さは前々から準備をしていたことにも気づく。


 セルカは続ける。


「私の街長としてのスタンスは、ウルティミスと変わりありません。それは「よりよくする」です。無論いきなり出てきて信用しろ、では信用するわけがないのは理解しています。とはいえこれまでの実績が無いので、やはり信用しろという言葉以外を今は持ちません。ですから今は言葉を紡ぎます」


「特にここにいらっしゃる楼主の方々の協力無しにはマルスの繁栄はありません。故に私は何度も説明します、理解していただけるまで何度でも、です」


 全員が徐々にセルカの熱意が伝搬する。


「再度申し上げます、基本的に皆さんのスタンスには変わりありません、窓口か変わると考えていただければ問題ありません、細かな調整はアキス楼主長とこちら側から私と明日紹介しますが我がウルティミス商工会長ヤド・ナタムと進めていきましょう」


 今の話を要約すれば、マルスの行政、経済についての今後の話、治安維持に活動についてのみ憲兵が担当するという軸で話を進めている。


 ここでセルカは、持っていた資料を各楼主達分に回す。


「まずはロッソファミリーがマルスにて行っていた「事業」について、どのように行っていたか、それをどうウルティミス商工会が引き継ぐかをまとめた資料です、明日の会議までに一読をお願いします」


 その手際の良さに舌を巻いていたが、セルカと名乗った人物が、今でこそ役職は臨時の街長という事になっているが、その神楽坂イザナミにより正式な街長に就任するだろうということを理解する。


 そしてそれはウルティミスとマルスの関係の変化を意味することも。


 これであらかた話を終えたセルカは、最後にこの言葉で締める。



「中央政府の認可を待って、ウルティミス・マルス連合都市が誕生します。これからよろしくお願いします」



 セルカの締めの言葉で、はあと、やっと怒涛の展開から一旦解放されて息をつく楼主達。


 そして会議の後の楼主の質疑に個別で応えるセルカ。


 その横で、セルカを見るアキス、今回のセルカの言葉を借りるのなら「よりよく」するために、セルカが神楽坂と「共謀」してマルスに何をしたのかについて既に真意を理解しいてた。



(マルスは……)



(ウルティミスに乗っ取られた……ってこと)



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