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第30話:断罪


 その日の夜は、居住区に家に灯りが散見的についており人気は無く、遊廓が月よりも明るく太陽よりも暗く輝く、マルスではいつもの光景だった。


 俺はその居住区をある場所を目指して歩いている。


 今日は作戦決行の日、結果準備は滞りなく終わり、口火を切るために向かっている。


 まだこの時間なら今頃残務整理をしているはずだと思って、その通りに灯りがまだともっていたので、その扉に近づきノックする。


 中から誰かを問いかける声に俺は答える。


「俺だ、神楽坂だ」


 来訪者が知り合いであることを知ると幾分安心した声答えてくれると、タッタと足音が聞こえて扉が開き。


 メディ・ミズドラが姿を現した。


「…………」


 俺の姿を見て呆けるメディ、最初は俺の姿を見てピンとこないようだったけど。


「え、え~?」


 やっと視界が定まったようで、俺の着ている服、王立修道院の制服を見て、なんであるかやっと理解が及ぶ。それでもポカーンとしているメディに俺は自己紹介をする。


「すまない、無職ってのは実は嘘でね、第5等都市議会議長兼ウルティミス駐在官ってのが俺の肩書なんだよ」


「は、はあ……あの」


「風邪気味で体調が悪くてな、時間外で悪いがちょっと診てもらいたいんだ、いいか?」


 俺の雰囲気に何処か圧倒されながらも、おずおずと俺を中に案内する。


「カリバス伍長は?」


「え、えっと、今日は夜の見回りをするとかで、奥で仮眠をとってますよ~」


「そっか、なら挨拶は控えるとしようか、メディ頼むよ」


 ずうずうしくも患者席に座る俺を見ると、メディは自分の椅子に座り、ぎこちない様子で診療を始める。

 それはいつもの流れ、問診をして体に手を当てて魔法を体の中に流し、体の不調を調べる。


「疲れによる風邪です、だいぶ根を詰めていたみたいですね~」


 メディは、診療を終えると薬だなの中から複数の薬を取り出す。


「この薬を1週間分出しますね~、抗生物質と胃腸薬ですよ~」


 俺はメディが出してくれた薬を、机に置いた薬をじっと見つめる。


「あの、神楽坂さん?」


「メディ、この薬はどこから仕入れているんだっけ?」


「え、え、前に言ったとおり、ロッソさんからですよ」


「なるほど、この薬代は仕入れにいくらかかっているんだ?」


「そ、それも前に、話したとおり、タダで」


「……そうか」


 と続きを言おうとした時だった。


「か、神楽坂中尉!?」


 仮眠から覚めたのだろう、そして診療室から若い男の声が聞こえるからだろうか、慌てて寝間着姿のまま出てきたカリバス伍長だったが、俺の姿を見て二度仰天したようだった。


「な、なんのつもりだ?」


「なんのつもりというか、まあいるのなら都合がよかったですね」


「な、に?」


 俺はメディが処方してくれた薬の、抗生物質と称した薬を持ち、メディに言い放つ。



「メディ・ミズドラ、違法薬物エテルム所持の現行犯だ、よって身柄の拘束及び診療所の家宅捜索を行う、それと同時にここは憲兵の管理下に置かれる」



「え、え?」



 まったく事情が呑み込めていないメディに、呆然と立ち尽くすカリバス伍長。


「ちょ、ちょ、ちょっとまて! な、何かの間違いだ、これ、これが、エテルムだというのか!?」


「既に鑑定済みです、間違いなく」


「そ、そんな……」


 がっくりと膝をつくカリバス伍長。


「カリバス伍長、まだ終わってません、貴方にもマフィアへの情報漏えいの容疑で既に司法長官の名の下に拘束許可が下りております」


「ま、マフィアへの情報漏えい?」


 俺の見据える。あの時、俺がロッソファミリーに向かった時、問い合わせた時に俺の情報をロッソファミリーに渡したことだ。


「…………」


 絶句するカリバス伍長を尻目に俺は、扉を開けて中に呼びかけると、外で控えていたアイカ、ルルトが部屋の中に入ってくる。


「カリバス・ノートル武官伍長、理解されていると思いますが私への情報漏えいはただの端緒に過ぎません。贈収賄を始めとした貴方には様々な嫌疑がかけられている、懲戒免職は免れないと思ってください、フィリア武官軍曹、連行をよろしくお願いします」


「ま、待て中尉! …………」


 抗議するカリバス伍長であったが、ガクンと膝から崩れ落ちる。


 傍らにはルルト、「魔法」をかけられて意識を失ったのだ。崩れ落ちる前に肩で担ぎ上げると診療室の扉へと向かう。


「ま、まってぇ!!」


「…………」


 メディの悲鳴に似た呼びかけに、ルルトは振り向くことは無いが歩みを止めるたが。


「フィリア武官軍曹、俺は止まれとは命じていない、そのまま連行しろ」


 冷たく言い放ち、ルルトは無言で頷き、そのままカリバス伍長を担いだまま扉の外へと消えた。


 それを確認した俺は再びメディに話しかける。


「メディミズドラ、人の心配をしている場合ではないぞ、分かっているのか、お前がエテルムの流通に一役買っていたんだぞ」


 にべもなく言い放つ俺の言葉にようやく、この状況が冗談でも何でもないことを知り……。


「お母さんと、幸せだった場所で……」


 自分の善意が分かっていたからこそ患者も自分を信用してくれていたはずなのに。


「お母さんが、病に倒れたから、そのために」


 自分が善意でやっていたことが全て……。


「私は、精一杯やったのに、精一杯やったのにな~」


 座り込んでポロポロ涙を流す。


「ひ、どい、ひどい」


 言葉が続かなくなり、蹲りそのまま止まらない涙を拭う。


 そのメディにアイカが近づき、立ち上がるように促す。


「私はアイカ・ベルバーグ武官少尉です、貴方の取調べは私が行います、悪いようにはしません、来てください」


「…………」


 呆然としながらも、、、まだ俺に助けを求めるような視線を送るメディ。


 だが俺は何も答えない、そのまま冷たくメディを見返すだけだ。


 肩を貸される形で、アイカに連行され隣を通り過ぎて外に出て……。



 メディの診療所には俺だけが残されることになった。



「…………」



 しっかりしろ俺、まだ終わってないぞ。


―――


 ここはマルスの外壁、門番の詰所、正門に詰めているのはロッソファミリーの構成員6人、2人が交代して番をしている。


「これで全員か、間違いないな」


 小隊長である曹長は部下に身元確認を指示し、無事に全員確保のしたことを確認する。


 彼らは外で控えていた憲兵小隊、壁の外に控えていた時にアイカから、メディミズドラ及びカリバスノートルの確保、それに伴うエテルムの確保に、流通に対してのロッソマルベルからとの言質を受けて動き出したのだ。


 その小隊長の横にタキザ憲兵大尉が昏倒したロッソファミリー6人を一瞥する。


「それにしても、まさかロッソファミリーに強硬手段が取れるとは思わなかったな」


 思えばこいつらには、街長が構成員だったおかげで空振りばかりもいいところだった。エテルムの流通を知っても尚、動けない自分達に歯がゆい思いをしていたのだ。


 憲兵が動けないのは証拠がないから、裏を返せば証拠があれば動けるということ、そして相手が反社会的勢力なら、それがより強く動けるという事だ。


『つまり、証拠さえあれば、それこそ暴力すら許可されるってことです』


 そう、アイカの同期である神楽坂はそう言い放った。


 ここでいう証拠とはエテルムのこと、マルス内部に潜り込んだ神楽坂は見事にそのありかを突き止めた。


 そして自分たちが先遣隊としてマルスに乗り込み、流通の容疑者であるメディミズドラの確保とエテルムの確保、そしてロッソが流したという言質を取るから、それを理由に強硬突入をしてほしいという事だった。


 証拠があれば可能、だが本当に実現可能なのか、エテルムの確保の報告を聞くまで半信半疑だったが、神楽坂は先遣隊として役割を見事に果たした。


 メディはアイカが連れてきて、カリバス・ノートルは、不思議な雰囲気を持った武官軍曹が連れてきたものの、俺たちに手渡すとすぐに何処かへ消えてしまったが、メディミズドラは護送馬車の中でアイカが取り調べを続けている。


 タキザ大尉は門番を2個小隊に任せると、残りの部下たちに命令する。


「いいか、訓練のとおりにやれ、我々の目的は頭目であるロッソマルベルと副頭目の事務所の制圧にある、それが最優先だ。予定どおりロッソの確保は俺が指揮する、第1、4小隊は俺に続け、副頭目への確保は第3、5小隊は続け第一副隊長に続け」


「それとロッソの事務所を襲撃する際に、分かっているな?」


 一同が頷き、正門の扉が開く。


「抵抗する者は徹底的に痛めつけろ、今まで舐めた報いをした罰を徹底的に味合わせてやれ!!」


 タキザ憲兵大尉の号令でマルスへと突入した。


――――


 その日の夜は、居住区には灯りは散見され、遊廓は例えるのなら太陽よりも暗く月よりも明るい、それがマルスの夜。


 俺はそんな、あまりセンスのない詩的なものを繰り返し頭の中で思いながら、待ち人を待っている。


 別に大した意味なんてないが、こんなことを考えていないと何処か落ち着かなく、心がざわざわするのだ。


 ここからだとロッソファミリーの事務所が意外と近くにあるから、ここからでも憲兵隊とロッソファミリーの交戦の音が聞こえてくる。まあ実際は戦いなんて呼べるものではないだろうけど。


 さて、怒号が聞こえてしばらく経つ、そろそろだ、と思った時、ドドドドとここからでもわかる足音が聞こえてくると。


「アキス! 俺だ……」


 という声と共にロッソマルベルが、隠れ家に姿を現した。


 だがロッソマルベルは、部屋の中に入った瞬間に固まってしまう。


 それは部屋の中にいたのが俺がいたこともあるが。


 その傍にアキスが立っていたからだ。


 事情が呑み込めていないロッソだったが、アキス悪びれもなく言い放つ。


「ごめんね、アンタのこと利用させてもらったんだ」


「……え?」


 ここにロッソがいるのは、タキザ憲兵大尉には「ロッソマルベルだけは逃がす」ようにお願いしてあった。


 もちろん隠れ家のこととエテルムの仕入れがここにあることをちゃんと伝えてある、つまりはよく知られているロッソを泳がせた形だ。


 そのために、俺が取った作戦は。


「なに呆けているのさ? まさか本当にアンタに惚れていると思ったの?」


 アキスにおびき出しを頼んだ。彼女の誘いならロッソが誘いにホイホイ乗ってくるのは確認済み。


 だが単に誘うのは不安だったので、憲兵突入の直前にわざと憲兵突入の情報を流してもらい信用を勝ち得る。


「私が本当に惚れているのはね」


 アキスはすっと俺に寄り添う。


「この男だよ、ロッソにたらしこまれてくれなんて、ひどい男……」


 それだけで良かったのだったが、アキスは「何かあれば一緒逃げてあげる」と手管を使ったのは驚いたが、そうとう辟易していたらしい。


 熱を上げていた女にこっぴどく振られた上に……。


「残念だったな、ロッソ」


 嘲笑されれば、次にどうするかなんて考えるまでもない。


「き、き、きさまぁああああ!!!」


と激高して飛び掛かってくるが。


「ぎゃう!!」


 掴みかかったロッソをそのまま軍刀で鞘に納めたまま顎を打ち抜いて一閃する。


「ぐう、ああ」


 地面に転がされるロッソであったが、勢いは衰えず、頬を抑えながら怒鳴り返してきた。


「エテルムの主犯はメディって女医なんだ! 奴は薬棚を普通の薬に混ぜて保管しているんだぜ! 知らないのか!?」


「メディはとっくに身柄を既に拘束中だ」


「な、なら! 俺の無実は証明される! 早まったな! 今の暴力行為は立派な犯罪だ! エリートの道が閉ざされるってわけだ!」


「悪いが、アナズリ文官大佐から薬を仕入れてお前が卸しているのは分かっている、この中にあった」


 俺は一冊の帳簿を見せる。


「これで確認済みだ」


「確認って」


 ロッソはアキスに視線をやり、アキスは微笑む。


 本当にアキスに捨てられたのだと、今更理解が及ぶロッソに対して俺は続ける。


「つまりエテルムが公に出た時、その責任を全てメディに押し付けるつもりだったってことだ。そのためにお前はメディの衣食住や医者としてかかるすべての金を援助し、しかもカリバス伍長に貸しを作る形で保険をかけておいたってことだ」


「憲兵は証拠がなければ動けない、それを逆手にとって、万が一見つかっても証拠品であるエテルムの保管場所はメディの診療室にしたのさ」


 俺は軍刀をブンと振り払う。


「クズ野郎が、反吐が出る」


 そのまま近づいて


「ぎゃあ!」


 ロッソを思いっきり蹴飛ばすと、両手をそれぞれの両足で踏みつけて見下ろす。


「おい! やりすぎだ! 明らかな職権濫用だ!」


「…………」


「わ、わかった、お前の言うとおりだ、素直に認めよう、しょうがない、大人しく身柄の拘束に応じよう」


「…………」


「はっ、お前らの弱い所だよな、抵抗せず素直に応じれば、王国憲法により俺の人権は制限されるが、はく奪までには至らないからな」


「…………」


「し、しらないのか、ここで俺に手を出したらこれは立派な憲法違反だぞ!」


「…………」


「や、やめ!」


 バギンという音が手から自分の体の中にこだまする。


「ぎゃぶああ!」


 再び今度はゴヅンという音が手から自分の体の中に木霊する。


「いだあああぁぁぁああ!!」


 さらに再び、ガズッという音がこだまする。


「やめてくれぇえぇぇぇええ!!!」


 さらに再びゴギンという音がこだまする。


「いであああああ!!!!」


 俺が手をふるうたびに、その音が俺の体の中に響き、相手の顔が徐々にその形を変形させていく。


 何度も何度も打ち付けるたびに体の中の、心臓と胃の中間あたりが熱く、燃えるように熱く、打ち付ける響きが俺のその熱い部分に熱を注いでいるようで、ジンジンと響き燃え上がる。


 もっと、もっとだ、もっともっともっともっと。


「っ!!」


 振り上げた腕が突然何かに握られて刀を振り下ろせず、びっくりして腕を握った人物を睨みつけるが。


 そこにはルルトが俺の手首を握りしめていた。


 確かルルトにここに来るようには指示ていないはずだけど……。


「心配して来たら案の定だね、イザナミ、それぐらいにするんだ、憎しみで人を殺すと、やめられなくなるよ」


「…………」


 気が付けばロッソの顔は原形をとどめないほどに顔が腫れあがり、息はあるようだがもう何もしゃべることは無い、いやできない状態だった。


 俺は、目を閉じて、深く息を吐きだす、殺気が消えたのを悟ったのかルルトは手を放し、俺は軍刀を束帯に納め、傍に立っているアキスに話しかける。


「失礼しました、ご協力感謝します」


 アキスに一礼する。



 俺はアキスは三つ協力を頼んだ。


 一つ目は先ほど説明したとおりロッソをここにおびき出すこと。


 二つ目はまさに今、ロッソファミリーを壊滅させたことをその目で見届けさせることだ。

 これは一つ目よりも重要度は格段に上、三つ目に繋がるための外せない前段階、ロッソファミリーを壊滅させるのは証拠があれば造作もないが、それが俺や憲兵の言だけだと「嘘ではないが信用していいものか」という印象をどうしても与えてしまうし、今後の不安が払しょくされない。


 だからこそアキスの目で、目の前でロッソをこうやって社会的に葬ったところを見せる必要があったのだ。


 そして最後の一つは……。


「見てのとおり、これでロッソファミリーは壊滅です、それと頼んだ件についてなんですが」


「……各楼主に既に招集はかけてある、だが、お前はこれから何をするつもりなんだ?」


「その件については、「責任者」に一任してありますのでそちらから聞いた方が早いと思います。制圧作戦終了をもって、責任者はマルスへ入りそちらに向かうようにお願いしてありますので」


 俺の言葉にアキスは「分かった」と応じてくれて、そのままその場を後にした。


 さて、まだ俺はやることがある、隠れ家の椅子に座ってくるくる回っているルルトに話しかける。


「タキザ武官大尉がもうすぐここに来ると思うから後は頼んだぜ、それと言っておくがこれから忙しくなるからな、一か月は休みは無いと思ってくれよ」


「はいはい、もちろん代休は取らせてもらえるんだよね? えーっと、代休取らせてくれないのは確か君の世界では「ぶらっく」っていうんだよね?」


「何がブラックだよ、つーかお前の場合は毎日が休みみたいなものじゃないか、たまには税金分働け、それと……」



「止めてくれて、ありがとな」



 ルルトは一瞬キョトンとしたが、すぐに笑顔で応えてくれる。


「構わないさ、相棒だものね」




次は11日です!

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