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第29話:作戦-0


「…………」


 俺の本拠地であるウルティミスの古城から湖に向かって伸びている木製の道、その道に腰を下ろしてのんびりと釣り糸を垂れている。

 元はここにボートでもあったのかもしれないが、未だに釣り以外の使い道が分からないが、ここで釣れる魚がかなり美味しく、釣れるとルルトが料理してくれるのだ。


「釣れますか?」


 聞き知った声に振り向くとセルカ司祭が立っていた。俺は「いいえ」と答えるとそのまま竿を上げると、エサがついていない釣り針が出てきた。


 竿をそのまま自分の脇に携えるとセルカ司祭に礼を言う。


「セルカ司祭、ありがとうございました、アキスは最大限の協力をしてくれました、結果もたらされた情報はかなり重要なものでしたよ」


「とってもかっこいい人だったでしょう? 男前の人なんですよ、先輩も中尉のことを気に入ったみたいでよかったです」


「ええ、それは嫌というほどわかりましたよ……」


 俺の様子にクスクス笑うセルカ司祭だったが。


「……中尉?」


「…………」


 俺の表情を見て何かを察したのか問いかけるが答えない俺にそのまま促すことなく続きを告げる。


「皆さん集まってますよ、執務室にお願いします」



 執務室に集まったいつものメンバー、その面々を見ながら今までの仕入れた情報を思い出し、話し始める。


「さて、今から現在の状況について説明するから聞いて欲しい」


 俺が、マルスで仕入れた情報、カリバス伍長や都市で起こした騒動の話、アキス楼主長との邂逅、その後忍び込んだロッソの隠れ家にて、帳簿を発見、エテルムが経費扱いになっていた事実まで、全てを話す。


 特にエテルムの件について全員が驚いた様子だったが、ここからが本番だ。


「さて、今から作戦を説明するが、まずはっきりさせることが一つある」


「そもそも今回はカリバス伍長から依頼されたマルスの実地調査の依頼が始まりだった、その紳士は今のマルスを何とかしてほしいという内容だったんだ。そして俺は大通りの騒動で自分のやり方をカリバス伍長に理解させ、覚悟を聞いた、結果それでもカリバス伍長は俺に任せると言ったんだ」


 ここで言葉を区切り、カリバス伍長とメディの2人に想いを馳せて、言葉を続ける。


「故に、俺もまたマルスを何とかしたいと考えている。作戦はある、だがそれは皆に覚悟を決めてほしいということになる」


 俺の言葉に全員が息を飲む、言い含めた意味が分かるのだろう。


「つまり今回は総力戦だ」


 総力戦、ここにいる全員での総力戦、これは1人の力の全てという意味。


 その全てとは1人というのは個人という意味ではない。


 その繋がり全てを使って欲しいという意味だ。


 つまり、ウルティミスも巻き込むという事だ。


 だからセルカ司祭の説得をどうするか考えていたのだが。


「中尉、まさか私が反対するなんて考えていませんよね? こんな面白そうなことなのに」


「…………」


 面白そう、本当にそう思っているだろう笑顔を浮かべているセルカ司祭。


「ありがとうございます、ノーリスクではないですが、最終的にウルティミスの問題も併せて解決と規模の拡大をと考えているので」


 俺の言葉にセルカ司祭は「規模の拡大……」とつぶやき頷く。


 それを確認した俺はウィズに話しかける。


「ウィズ、お前にはセルカ司祭の臨時秘書を頼みたい、学院の先生と並行させるようで悪いが、これにはいわゆる準備がいる。作戦決行日にも出番がある上に、その前後が一番大変なんだ。だから降臨の儀以外の日は全てウルティミスに常駐してほしいのだが可能か?」


「問題ありません、セルカ街長よろしくお願いします」


 ウィズの言葉にセルカ司祭は「ウィズ神なら百人力ですね」と頼もしく答えてくれた。


 続いて俺はアイカに話しかける。


「アイカ、作戦の中にはアイカが所属する憲兵中隊の力が必要不可欠になるから、作戦の説明の後に個別にタキザ憲兵大尉に会いたい、口利きを頼めるか?」


「おやっさんに? いいけど……」


 歯切れの悪いアイカ、おそらくは個人協力ではないと越権行為は難しいという事を考えていたのだろう。


「大丈夫だ、アイカ達に担当してもらうのはロッソファミリーの壊滅、それだけだからな」


 俺の言葉に全員が「え!?」驚く。


「壊滅、壊滅させるの?」


「そうだ」


 断言する俺、無論憲兵も何度も立ち入り検査を行っているが、街長に話を通さなければならない以上、いつも証拠不十分で終わっていたのは説明を受けたとおり。



 つまり憲兵は、証拠が無いから動けないだけで……。



 全員がその結論に思い至り、代表するかのようにルルトが問いかけた。



「イザナミ、エテルムの流通ルート、わかったの?」



 そうだ、それ以外考えられないと、全員がかたずをのんで見守る中、俺は語りかける。


「今回の件について、俺の一番の疑問は、食材にエテルムが混ぜられていた場合、それが間接的にロッソも知らずに中毒者になってしまう危険性があるのではないか、という点だった」


「とはいえ自分だけ食べるものを選定してしまっては間抜けもいいところだ、これを理由に派閥争いに使いたいと考えるのなら余計にな」


「ロッソはちゃんとエテルムを購入していたんだ。まあ仕入れ先まで書くほど間抜けはしていないみたいだが、購入したエテルムをどうやってばらまいていたのか、そして何処に保管していたのかについては分からないままなんだ」


「事実、エテルムの流通ルートは、構成員たちも遊廓の楼主たちも、憲兵でも食材に混ぜられておりいつの間にか中毒者にさせられてしまっているという見解は持ってはいた。にも関わらず、決定的な証拠が見つからないのはどう考えても変なんだよ」


「だから俺はこう考えた、ひょっとしたら無差別ではなく、手段を選んでいないだけではないかとね」


「ここで俺はセルカ司祭のツテであり、ロッソが夢中である楼主長は切れ者でね、エテルムの中毒者に苦言を呈し、間接的に情報を聞き出そうとしたんだ」


 ここで言葉を区切り俺は続ける。


「それに対して、ロッソはこう答えたそうだ」



――「君は大丈夫だからその生活を続けてくれ」



 俺は懐から複数の薬物を取り出し机に並べ、全員がその薬物に注目する。


「アイカ、この中のどれかがエテルムだ、まずはこの鑑定結果次第だが、もしクロなら作戦を決行する」


 俺の置いた薬を見てアイカも分かったのだろう。悲痛な表情を俺に向ける。


「……神楽坂」




「嫌な役は覚悟の上だ、さてこれから作戦の全容を説明する。準備期間を含めて、決行日はおそらく一か月後ぐらいになる、頼んだぜ」




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