第25話:調査
「はっはっは! それは災難だったね!」
ゲラゲラと笑うルルト、ウィズもアイカもセルカ司祭も笑いを堪えている。
あの後、さて帰るかと思ったところで神石を埋めたことを思い出して、散々探した挙句見つけた時には夜だったのだ。
思えばだれかに拾われたら大変なことになるよな、本当に使い勝手が悪い能力だけど。
もちろん夜になって再び集まってもらったのは他でもない、色々と確かめたいことがあったからだ、
「ウィズ、魔法って原初は神の力ってのは本当なのか?」
メディが使っていた魔法、人間が使うためには後天的な才能が無ければ使えず、亜人種は個人差があるがいわゆる「運動神経」といったレベルで持ち、ハーフは例外なく強い魔法の才能を持つ。
俺の問いかけにウィズはふむと顎を指に沿える。
「王国で使われている魔法の源流はかつて存在した神聖教団が術式を編み出したのですが、そうですね、簡単に言えば神の力の下位互換と考えれば問題ありません」
下位互換とは言い得て妙だ。確かに魔法は力自体は神の力と比べものにならないほど弱いが、その分人間の力に合わせた使い勝手の良さがある。
「教団が編み出したってのなら、どうして人間種に先天的才能が無くて、亜人種にあり、ハーフだとより高まるのはどうしてだ?」
「はっきりとした理由は分かりません、というのは神楽坂様の問いは生命の起源を問うに等しいものだと思っていただければわかると思います」
なるほど、色々推測は立てられるし、有力視される説もあるが特定には至らずということか。
「それにしても、遊廓で政治とは、公私混同もいいところだね~」
そんなことを言い出したのはルルトだ、そんなルルトの言葉を受けて俺を見ながら楽しそうなアイカにセルカ司祭も頷く。
「仕方ありませんよ、何故か男の人はそれがステータスになるようですからね」
なんだろう、やっぱり何もしていないのに相変わらず間接的に俺が責められている気がする。もう女にはわからんのだ。
「まあ否定はしないけどな、社交場としてはこれ以上ない場所でもあるし、政治的な場所でもあるからな」
「「「「…………」」」」
「って! 早く本題に入ろうよ!! ほら! 矛盾点とか疑問点とか色々と考え整理したいの! だから集まってもらったの!」
ゴホンゴホンと何度目か分からない咳払いをした後に場を仕切りなおすと、まずはアイカが口火を切った。
「神楽坂、私的には、アンタが気になるって言っていたロッソファミリーについての情報が知りたいのだけど」
「ああ、まずロッソファミリーについて、アイカの情報だと結構手ごわそうな印象を持っていたんだが」
俺は事務所での出来事を思い出す。
「想像以上に脆い烏合の衆だ」
「え?」
「王国の財界人や有力者の遊び場や政治的な場になっている所を取り仕切るのがロッソでは役者不足だぜ、しかも派閥争いで内部は分裂状態、エテルムの流通は認めていても理由やルート自体は全く未把握、結束力も強いとは言えず、自滅状態だ」
「…………」
アイカは目を丸くしている。
日本にもいる反社会的勢力だけど、こういう奴らはもっと狡猾だ、非合法活動だけではなく合法活動も行う。
自分が反社会的勢力の組織に属していると知られてもそれを利用して「礼儀正しい良い人」という印象を与えることを簡単にやってのける。
警察に逮捕された時には供述拒否権の行使に加えて「警察の捜査は違法である」と糾弾したりもする。
「んで、俺が感じる矛盾点ってのは、烏合の衆であるくせに、その周りのマルスのシステムが優れている点だ、ライフラインを握り内部を掌握、外部に対しては街長を構成員において窓口としたり……」
ここで一旦区切り続き、ふうと一息つくと続ける。
「駐在官を協力者としたりしている」
あのカリバス伍長の態度はもうそう捉えていいだろう。向こうもそれは覚悟しているようだった。
そもそも都市運営において、駐在官と街長の関係は癒着を前提する施策であるから、お互いに力を与えるってのは、いい意味で不均衡を起こすために設けられている。
だがマルスには不均衡が起きていない、はっきり言ってしまえばマルスとウルティミスと一緒、俺たち駐在官側と協力関係にある。
「イザナミ、その矛盾点ってのは、例の文官大佐殿の後ろ盾のおかげなんじゃないの?」
ルルトの質問に俺は考える。
確かに大佐クラスとなれば、王立修道院出身でも全員が到達できる立場じゃない。確かにバックとしては申し分なく、取り仕切る役としても大丈夫なように見えるが……。
「……どうもピンとこないんだよなぁ」
はっきり言えば文官大佐にそこまでの権力があるのか疑問だ。
例えば前回の相手であるロード大司教、階級は文官中将だ。
中将という階級は、文官同期の中で約1名、武官同期の中では約2名しか到達できない地位、ウルヴ文官少佐のように全て第一選抜で昇任しても保証なんてどこにもないぐらいの地位、ウィズ王国では「準」が付くとはいえ貴族として扱われる地位だ。
だが中将だから何でもってわけじゃない、あの一流の政治家でも、教皇選という名目を使って無理を通す形で動かしていた、そう甘い理由じゃ通らない。
「イザナミさ、ロッソがバックについているメディってのも怪しいと思うんだけど」
アイカの言葉だが俺は頷きかねる。
「うーん、そんな感じに見えないというか、嘘がつけないタイプというか……」
そんな歯切れの悪い俺の言葉に再び。
「好きだよねぇ~、イザナミも」
「アイツ巨乳好きだから、多分そのメディって女も巨乳じゃない?」
「まあまあ、男性は女性の嘘が見抜けませんから、特に中尉は騙されやすそうですね」
「神楽坂様、巨乳が好きなんですか?」
「うるさいうるさーい!! 巨乳好きとかないから!!」
俺の抗議にアイカは「はいはいわかったわかった信じる信じる」とまるで信じていない様子で続ける。
「……んで、つまり何がいいたいの?」
以上のことを鑑みて出る結論は一つだけだ。
「もう一つ俺たちが知らない勢力がある、このマルスの均衡を果たしている正体不明の勢力がな」
俺の言葉に全員が驚きを通り越してポカーンとしている。
まあそれはそうだろうな、突拍子もないことはこっちも十分に承知しているし。
「あてずっぽうってわけじゃないぜ、このシステムを構築するのに1人じゃ不可能なんだよ、文官大佐1人じゃ無理だ、そのくせ文官大佐以外の名前が出てこないのが気になるってのがその理由だ」
そんな俺にアイカが話しかけてくる。
「……アンタって方面本部会議でもこんな感じなの?」
「まさか、というかこんな事言えるわけないじゃん、適当マイペースだよん」
ウルヴ文官少佐も、俺のこういうところに小言を言いたくなるのだろうけど、ある意味あの人を見て自分のやり方に自信を持ったのだ。
俺の言葉にそういった意味も全部理解してアイカも苦笑いするが、ルルトはこういった。
「イザナミは自分のやり方を通せばいいさ、少なくともボクは応援するよ」
とのこと、そうなのか、そう言ってくれるのは素直に嬉しい。
「ありがとな、んで、ルルトの言う俺のやり方ってのは何なの?」
「それはもちろんある時は意地悪く、またある時は卑怯に、またまたある時は姑息に、特になんといっても悪知恵がピカイチなのデデデデデ!!」
「うるさいよ! そういうとなんかすごい小物みたいじゃないか! 一応色々考えているの!」
バチンと頬から手を放すと「痛いなぁもう」とさするルルトに話しかける。
「ルルト、悪いが神石にもう一度認識疎外の加護と武力の加護を込めてくれないか?」
「いいけど、まだ何かするの?」
「…………」
「イザナミ?」
「ちょっと確かめたいことがある」
「何確かめたいことって?」
「…………」
黙っていて答えない俺に全員が怪訝そうな顔をしている。
「確かめ終わるまでその間は頼む、アイカは引き続きロッソファミリーの情報収集、セルカ司祭はもし会議で街長と接触する機会があれば更なる情報収集をお願いします。ウィズは出来れば教会から活動報告みたいなのが見ることが出来ればそれを頼む」
俺の指示に一応頷いてくれる。
俺は再びルルトに神石での力を込めてもらうと、そのまま飛び立った。
次回は29日、30日の夜ころです。




