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第23話:メディ・ミズドラ・前半


 遊廓都市マルス、遊廓の一点特化都市、そこを牛耳るマフィア、ロッソファミリー。


 反社会的勢力の説明は細かくなるのは割愛するとして、ロッソファミリーの本拠地は、遊廓の建物の別に建てられている。


 まあ確かに強面たちが店の中にいては情緒もへったくれも無い。


 マルスについて何より大事なのは支配構造を知ることだ。一見して地味だが窓が少なく、あっても小さく作られており、材料も丈夫さを優先して作られている。


 入り口には2人ほどの強面が門番をしているが。俺は堂々と正面から入るが何の障害もなく入れる。


 認識疎外の加護は本当に大したものだ。「存在を認識しつつも気にしない」というのは、前回のウィズの件で自分がやられて分かった。しっかりと俺姿を認識しているのに素通りだものなぁ。


 ただ神石はルルトが込めてくれた加護の力に対して任意にオンオフができないのが欠点だ。その加護を解くためにはこの神石のペンダントを外すか、ルルトに力を込め直してもらわなければならない。


 だからルルトを連れてきても良かったのだが、まあこれは俺のわがまま、1人でじっくりとやりたいようにやりたいのだ。


 事務所内を歩くが意外と普通だ、常に脅したり暴力沙汰を起こすわけじゃないのか、まあそれはそうだよな、無意味に起こす必要もないだろう。


 事務所内を歩き会話を聞いているだけで、色々な情報が分かってくる。まず揉め事については高級遊廓では1年に数えるほどで滅多に起こらないのだそうだ。


 一般遊廓の方が酒が入る分それなりの数がある事、後はその際に誰を締めあげたとかそういった武勇伝が並ぶ。

 後は顧客たちの性癖なんてのも商売のタネになるからその話題にも上るが、中には胸糞悪い話もあったりする。



 俺がマルスの話を聞いた時に感じた疑問点、それはロッソファミリーに対抗勢力が存在しない点だ。



 対抗勢力というのは良くも悪くも自身の問題点を先延ばしにする欠点があるが組織にまとまりをもたらすし、競争能力を生み出す。


 だが同種の対抗勢力がない組織は社会的、反社会的を問わず腐敗する、これは人が人であるが故の業のようなものだ。


 そして腐敗した組織がやることは一つ……。


「頭目と副頭目の話し合いは、決裂、元に戻らないって話だぜ」


 頭目であるロッソと副頭目のセレモの派閥争いはかなり深刻化しているようで、既にこの事務所には頭目派の連中しかいないらしいく、副頭目派は、別の事務所に構えているらしい。


 しかもロッソマルベルは、自分の執務室を建物外の秘密の場所に移しているらしく、本人はそれを知られることを嫌がるのだそうだ。


 抗争勃発のために事実上組織が二つある状態であり、組織維持のために資金が必要であり、下っ端達は相当に割を食わされている状態、だから抗争に発展したとしても、その手足となるべく兵隊であるこいつらにまったく士気がないどころか。


「いざ抗争ってなったら、俺は抜けるぜ」


 これは構成員の言葉に同調する面々。再び始まる頭目への悪口、特に上納金を頭目とダブルで納めることについては全員が不満を言っていたが、それでも自分たちが我がもので振舞えるメリットの方が大きいからと納得はしていた。



 そう、腐敗した組織がやることは自ら敵を作り、自ら破滅の道を歩むこと。



 エテルムについては、流通させている事実はロッソファミリー達も認めているものであるが、彼ら自身も流通ルートは把握してない、だからこそ自分たちの中にも中毒者が出ているのだから。



 続いて俺が向かったのは、その建物の周りにある居住区、つまりここに勤めている遊女を含めた従業員たちのねぐらだ。


 一応あの後アジトの事務室内に大事な資料が歩かないかは探してみたが、大事な資料はそのロッソ・マルベルの執務室に全て保管しているらしく、簡単な名簿や上納金の帳簿とかそういったものだけだった。


 それにあまり派手にやりすぎることもできない。気にされないだけで気にされるようなことをすればへたすると認識されてしまう恐れがある、というのはルルトの弁だ。


 使い勝手が悪いように思えるが、仮に神のレベルにまで認識疎外をかけると存在そのものが消失するのだから恐ろしい。


 マルス都市の居住区は、建物の正門から見て裏に設置されており、平屋の建物が並ぶ。ロッソファミリーの幹部クラス、そして高級遊女や楼主クラスはあの巨大な建物内に住居を構えているらしいが、その他大勢はここに住んでいる。


 かなりの大人数がいるものの


 意外なのは。


「子供……」


 そう口を告いで出てしまう。

 子供たちが遊んでいる、確か人口構成は元は建前のとおり、他の都市からも受け入れてくるが、来たところで働き口は一つしかないから、必然的に従業員だけとなる。


 少ないと言えば少ないが、一番場違いなだけに、際立っている。地面に寝ていたり、洗濯物を干したりといった日常風景も見られる。


 色々な飯場を巡り情報を収集するとまた違った面白い話が出てくる。


 ここでも漏れ聞こえてくる、ロッソファミリーへの不満もあるが、上納金というが、税金のように強制徴収だという皮肉だという事か。


 遊郭としてのほとんど住まいがここにあるようで、同時にここの生計を支えているわけか。税金とは言い得て妙、インフラ設備の他衣食住すべてにかかわることにマフィアが掌握しており、システムが作られている。


 つまり暮らしに必要な金は全て、マフィア達が用意したシステムで成り立っているわけか、これは業が深い……。



 だからこそ、俺は最初に感じた疑問と矛盾がより深くなっていた。



 さて、そろそろ戻るか、例のセルカ司祭の「ツテ」もどうするか考えたいし、いったん戻って情報をまとめてみるかと思った時だった。


(ん?)


 ふと視線を移した先、スラムの街中をふらふらと歩いている、年は俺と同世代ぐらいか、何か荷物を持っていて歩いている女の子がいた。


「……ん?」


 右にふらふら左にふらふら、重そうに持っている荷物とバランスを取るように歩いているのだろうが、目立つ、ただひたすらに目立つ。

 街に似合わないというか、雰囲気そのものが浮いているというか、こんな子がこんなところなんで歩いているんだとか、何者なのかという色々な疑問が先立つが、何より危ないんじゃないかと思った矢先。


 彼女の姿を見ながら何やらチンピラ風の男たちがニヤニヤしながら話すと近づいてくる、こいつら確か事務所で見たロッソファミリーの人物たちだ、


 まずいぞ、このままじゃ……。


「おい、なんだお前?」



 ロッソファミリーのチンピラが俺を睨んでいる。気が付いたら、割って入っていた。



 ちなみにチンピラが俺の姿を見えるのは神石は別の場所に埋めてきたからだ。

 くそう、後で回収しないといけない、身に着けていると勝手に加護がかかってしまうし、使い勝手が悪いよなぁ。


 とはいえこのまま見過ごすのも気持ちのいい話じゃない。女の子助けるために立ちはだかるなんて、柄じゃないし、やったことないし、むしろ候補生時代はアイカに助けてもらったぐらいだからなぁ。


「?」


 って肝心かなめの女の子は俺の横でこんな顔をしているし、ってなんで本人が絡まれている筈なのに事情を理解していないんだよ。


 さて、どうするかなぁと俺は頭を掻きながらへらへら笑う。


「いやぁ、なんか不穏な雰囲気だったもので、思わず」


 言葉を紡ぐことなく、問答無用で殴られた。


「…………」


 脅し文句は使わず問答無用の暴力か……。


 俺はそのままチンピラどもを不敵な笑みで見返して。


「あ、逃げた!」


 女の子を担いでそのまま逃走したのだった。



「ぜえ! ぜえ! 疲れた! 凄い疲れた!」


 女の子を地面に降ろして膝に手を置いて肩で息する。

 神石を外しているから加護が切れているので思いっきり疲れた、本当に疲れた、女の子は小柄だし重いとは思わなかったけど、それでも人ひとり担いで逃げるのは凄いしんどかった。


 向こうもそこまで本気で絡むつもりがなかったのか、深追いはしてこなかったのが幸いだ。


 あー運動不足がたたったのか頭がくらくらする、使徒が不老不死を伴わない不死身とはよく言ったものだ、それ以外は普通なんだもの、死なないだけで変わらないんだもの。


 まあ何はともあれ無事に助けられて何より、女の子は膝に手を当てて息を切っている俺の顔を覗き込む。


「どうしたんですか~?」


「いやいや! あなた! チンピラに! 絡まれていただろうが!」


 俺の突っ込みに女の子は事得たりとした様子。


「あー、小突かれたり、軽く蹴られたりしますが、我慢していれば飽きて解放されますから大丈夫ですよ~」


「ええ~、なんだよそれ~」


 という俺の反応をしり目に荷物を再び抱えるとスタスタと歩きだす。


「ってどこ行くの!?」


「頬が赤くなっていますよ、私は医者をしているんですよ~、手当てをしてあげますからこちらへどうぞ~」


「え? こちらって、えっと、俺は」


「助けてくれようとしたのは分かります~、診療所までどうぞ~」


「は、はあ」


 そのままヨロヨロと歩く女の子の後を歩いていった。



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