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第39話:探索・後篇


「そして目覚めた時、私室にいて、あのメッセージを読みました、そして王子に手紙を出したのです」


 と話し終える。


 色々と聞きたいことはあるのだろうが、セアトリナは黙っている。



 セアトリナが語った彼女、つまり邪神の名前……。



「神楽坂の推論は当たっていたか」


「え?」


「彼女が邪神であると報告があった」


「え、え、ということは、満足したって、、」


「つまり、神楽坂は彼女が邪神であることを告げたのだろう」


「そんなことをしてどうなるか!!!」


 と一瞬激高した後、がっくりと項垂れる。


「し、失礼しました、いえ、こうして今私、いえ私たちは無事ですから、なるほど、感謝せよとは、そういう意味なのですか」


 無事、その言葉を額面どおりに受け取るのはまだ早いが、王子は言わない。


「セアトリナ、神楽坂は何処にいる?」


「え?」


 キョトンとした表情を向ける。


「この話の流れだと、神楽坂を探すと思うが、探していないのか?」


 と告げた瞬間に、こめかみを抑えて、焦って立ち上がる。


「あ、あ、王子! 私は! この認識の誤魔化された方は、ヒネル先生の時と、となれば!」


「落ち着けセアトリナ、お前の体は調べてある。神の支配下にはない、認識を誤魔化されただけだ」


「そ、そうなのですか」


「そうだ、神と接触すると「よくあること」だ。私も経験している」


「……は、はい、そ、そうだ、お、王子! 学院は!?」


「それを切り出そうと思っていた、だから活動の自由を認めろ、見つからないようにする。その活動方法については詮索無用だ」


「……はい」


 堪えている様子。まあ無理もない、一方的に巻き込まれて何も知らされず振り回されているのだから。


「もう一度聞く、神楽坂は何処にいる?」


「……分かりません。サクィーリアの継承式の時に見て、引継ぎを終える日までは見てましたが、それ以降は」


「わかった、それと何回か訪れてはいるが、学院の地理に明るくない。よって口が堅く信用できる案内役が欲しいが」


「はい、それでしたら」


 と内線で手配をすると、コンコンとノックをする音が聞こえて、中に入ってきた女性職員が挨拶する。


「お初にお目にかかります!! 歴史担当のルウ・ギーダと申します!!」


 と溌剌とした様子で現れたのであった。


 ルウ・ギーダ。


 歴史担当であり、神楽坂の指導役であり、徒手格闘部の顧問。



――「裏表が無くて好感が持てる人ですよ。一見して清楚系のお嬢様なんですけど、徒手格闘の達人で、首都で痴漢に遭った時、相手の骨を数本折って憲兵に突き出して、それを大いにセアトリナ卿が喜んだとか」



 そんなルウはガチガチに緊張している。


 彼女に王子は問いかける。


「案内役感謝する。目立つが故に動線を理解しているものが必要だった。短い間だがよろしく頼む」


「よろしくお願いします!」


 ルウに頼んだのはガイドのみだ、生徒達は上流が多いため、自分の顔は完全に割れている。しかもお忍びで来ているからバレたら色々詮索もされるだろう。


 だから動線を理解している彼女の協力が必要だった。調査の過程でルウは何も聞かない、何も聞くなと厳命する。


 自分たちのやる事は二つ。


 神楽坂の安否とケルシール女学院の安否。


 前者は、自分とルルト。


 後者は、ウィズとフメリオラが担当していた。


 ルウには簡単に案内だけを頼む。


 そして案内後、礼を言って、王子は確認する。


「お前は神楽坂と交流があったが、神楽坂は息災か?」


 その問いに、ルウは。



「はい、元気ですよ! 今頃休暇を取ってリフレッシュしていると思います!」



「……そうか」




――貴賓室




 ガイドを終えた後、ルウに礼を言って別れると王子達は女学院の中にある招待客用の居室にいた。


 今は、昼休憩中、学院内に生徒達が行き交っているから、外には出られない。


 この時間を利用して神楽坂はある人物と会っていた。



――彼女は政治力よりも世渡りに長けています。周りは大人びていると言いますけど、年相応に過信し年相応に策に溺れて年相応に幼い、だけど未熟ではありません。先ほど言ったとおり世渡りの能力は素晴らしい、セアトリナ卿の秘書としては間違いなく優秀であるかと思います。



 先代サクィーリアであるフィオ、彼女含めた生徒会役員達だ。


「協力感謝する」


 王子は事情聴取を打ち切る。


 教職員からの話、生徒会役員からの話。


 これもまた、特に異常は認められなかった。


「フィオ・コールシ」


「はっ!」


「神楽坂は、どうだった?」


 漠然とした言い方だったが、何かを察した様子で、


「凄い殿方だと思いました。私の人生であれほどの敗北を経験したことはありません」


 と王子を見据えて答える。


(幼いか、、、)


 神楽坂の言葉がよみがえる。なるほど、こういうところか。


 そして最後、定番となった質問をする。


「神楽坂は息災か?」



「? はい、今は休暇を取りリフレッシュされています。旅行が好きだとおっしゃっていたので」





 フィオ達が立ち去った貴賓室。


 未だ神楽坂の安否は分からないこの状況。


 だが一つだけ朗報があった。


「フメリオラと調査した結果、邪神の影響下には無いと判断していいです」


 ウィズはフメリオラを連れて、生徒達や教職員等を徹底調査、結果、所謂「認識を誤魔化された」形跡はあり、邪神の記憶が不自然に排除されていたものの、神が介在すると発生する「いつものこと」といったレベルだった。


「敷地内からエテルムの気配も完全に消えているね。これは立ち去ったと判断していいだろうね、もちろん、それだけだと不安だろうから「魔除け」も設置しておいたよ」


 とはフメリオラだ。


「そうか」


 神々の結論なら信用できる。



「最悪の事態は避けられたか」



 つまり一番最初で想定した事例のベター、つまり「神楽坂の安否は不明だが、邪神の影響は排除」という以上は確定という状況になった。


「フメリオラ神、アーティファクトを使っても神楽坂は見つからないのか?」


「そうだよ、おそらくその為のアーティファクトも使っているんだろうね」


「敷地内の中にいるのか?」


「それはいるよ」


 と断言する。


「言ったでしょ? 特に神楽坂とは所在の確認は最優先事項として打ち合わせを重ねたんだ。神楽坂の体に埋め込んだアーティファクトは、細かい座標までの特定は妨害によってできないけど、当然にそれも想定してあるさ。敷地内に反応を示している。だから神楽坂はいることに間違いない」


「繰り返すが神楽坂の体の中に埋め込まれたアーティファクトは」


「これもまた私じゃなきゃ取り出せない。無理に取り出そうとしたら、神楽坂は死ぬし、その時は私が知ることができるようになっている」


「…………」


 反応がある、だがそれは「無事」であると同義ではない。


 神楽坂が無事なら、今まで姿を見せないことがその証左。


 いや、焦るな、焦れば邪神の思うつぼだ。


(神楽坂の言葉を借りるのならこれは「ゲーム」だ。だから必要なイベントをこなす必要があるという事だ)


 次に行くところは当然決めてあるし、段取りも済ませている。


 その時に、チャイムが木霊する。


「さて、時間となったな」


 はやる気持ちを抑え立ち上がる。


 今は夜の自習時間となっている。生徒達の所定の場所からの移動が禁止される時間帯。



 王子の目的地は、、、。



 生徒会室。



――生徒会室



 王子は、生徒会室を訪れる。


 中にいたのは生徒会役員が出迎えてくれる。


 既に来訪は伝えてあるから動揺する様子はない。それどころか流石生徒会役員、上流の流儀をもって出迎える。


「お初にお目にかかります。私が当代サクィーリア、ラミナ・ギクスです」



――ラミナは、所謂人気者を計算で出来る人物です。そういう意味においてサクィーリアには向いていると思います。人当たりがよく、フィオほどの腹黒さはないものの、政治家としてはこれから判断されるでしょうね



「神楽坂より話は聞いている。今回は挑戦した人物全てが達成したようだな、見事だ」


「恐れ入ります。ですが私1人では達成は出来ませんでした。聖歌隊の仲間がいたからです、そしてそれは、、、」



「副会長、ホル・レベッツも一緒です」



 と隣に控えているホルに話しかける。



――ホルは、彼女こそ大人びているというか、しっかりしている子ですね。男勝りというか、本人は自分で可愛くないとか言っていますけど、人間性は信用できるかと思います。



「私自身も、馬術部の仲間がいなければ達成は出来ませんでした。そして今、同じ荘厳の儀に挑戦し達成した同じ仲間として得難いものを得たと思っています」


 はっきりと言い放つ生徒会役員2人。


――私が凄いなと思ったのは、お互いがライバルでありながらお互いの功績を祝福できたことです。簡単にできることではありません。思えばケルシール女学院のレベルの高さを一番感じた瞬間でした。お互いに足を引っ張り合うことに何の意味もなく、害しかもたらさないのですから。


 王子は、神楽坂の言葉を思いだす。


 それが聞ければ十分。


 王子は神楽坂の安否を聞き、変わらずの答えが返ってきて、、。



 この場にいない人物について問う。



「生徒会役員は3名だな? 1人見当たらないが、ここにいない理由は聞いているか?」


「……それが」


 言い淀むラミナではあったが、、。


「日常部の面々と、大事な用事があるからと、それだけで、その」


「私の来訪は告げているか?」


「そ、それは、その、、」


「咎めている訳ではない、正直に答えろ」



「神楽坂先生の指示、そういえば分かると」



「そうか分かった、なれば私が出向く必要があるということだ」



「…………」


「心配するな、神楽坂とは友人だ、さて、お前達に最後の質問だ」




 実は今までで会った人物全員に神楽坂の安否の他、もう一つ質問を重ねていた。




 その質問は、、、。





「日常部の部員は何人いる?」





 これが王子の質問。




 神楽坂の安否を聞いた時と同じように同じように、首をかしげて





「? 3人ですが」





 と2人が答えた。




――日常部部室




 日常部部室、神楽坂のケルシール女学院の拠点。


 校舎よりも遠く不便になったことから使われなくなった元倉庫を改造して作られた趣のある建物だ。


 何回も報告を聞いていたが、いざ見ると感慨深いものがある。


「…………」


 ふと横に視線をやると、五右衛門風呂があった。


 これが日本の国に伝わる五右衛門風呂というやつか、丁度開けた場所に設置していて空も見渡せる。


 ふちに触れて中を見る。


「これが五右衛門風呂か、アイツから言葉で聞いてもイマイチよく分からない風呂だったが、木製の蓋を足で押し込むとはそういうことか、なるほど、アイツが好きそうだな」


 といった時だった。




「先生が好きで、よく入っていました」




「……そのようだな」




 声がした方向を振り向く。




 そこには日常部の3人が出迎えてくれた。




「お前達が日常部か、神楽坂から聞いているよ、さて、もう察しがついているだろうが、二つ質問をさせてもらう」


「一つ目、神楽坂は息災か?」


 日常部はこう答えた「分からない」と。


 そして王子は次の質問。


「二つ目、日常部の部員は何人だ?」


 その質問に日常部はこう答える。





「4人です」




と、、、。





 倉庫の中の造りは分かりやすい。一階が全員が食事でをするであろうテーブルと台所とトイレ、2階にそれぞれの居住スペースの部屋が設けられている。


 お茶を出されて一口口につける。


 目の前に座るは神楽坂の教え子たちであり愛人候補達。


「畏まる必要はない3人とも、崩して良い」


 彼女たちは、何も言わずずっと王子を見据えている。


「王子、先生より、伝言があります」


「……なんだ?」



――王子が来ることがあれば、包み隠さずすべてを話し答えてくれ



「わかった、なら続けよう、まず神楽坂の安否について」


「私達以外は全員休暇を取りリフレッシュをしているという認識をしています」


「いない仲間については?」


「みんな忘れているんです。元からそんな生徒は存在しない、といったように」


「その割には落ち着いているな」


「神が介在するとこういうことが起きる。そして今のような状態になると先生は教えてくれました。そして」




「彼女の部屋だけ入れないんです」




 王子は、使用人に扮しているフメリオラに確認する。



(これ見よがしに神の力をびんびんに感じるよ)



 とのことだ。



「分かった、我々が対処する。各自建物の入り口外で別名あるまで待機」


 日常部の面々は頷き部屋に戻る。


(思えば、神楽坂は、、、、)


 いや、何も言うまい。


 さあ、後はここだけだ。




「あいたよ、中にトラップ無し、中に入って大丈夫」




 頼む、ここにいてくれ。



 そして、、、。




(生きていてくれ!!)



 と開いた先、、、。




「神楽坂っ!!」




 直ぐ見える場所に神楽坂はいた、、、。





 十字架に手首を釘で貼り付け状態だった。





 意識はない状態でぐったりしていて、打ち付けられている所からはゆっくりと絶え間なく血が流れていて、部屋の中は血の海となっていた。





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