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第38話:探索・前篇


――馬車の中



 王子とウィズとルルト、フメリオラは、御者台にウィズが乗る形でケルシール女学院に向かっている。


 アレアが持ってきた封書の中身はただ一つ。


 話があるので来て欲しいという内容だった。


 ケルシール女学院は、男子禁制について法整備まで敷いて、公的機関の憲兵も女性で統一している。これは原初の貴族どころか王族も例外ではない。


 その例外が、学院長の招待だ。


 よって現在は王子だけは身分を偽らずルルト達が女性使用人に扮している。


 ここまでは良い、何かあればその法整備の例外をついて内容を書かずに招待するのは予定通りである。



 だがこの封書がどのような状況で書かれた、そもそも本当にセアトリナが書いたものなのかは分からない。



 ケルシールが既に壊滅状態になって、それを笑いながらエテルムが待ち構えているかもしれない。



 しかも神楽坂から連絡が途絶えている以上、その可能性が極めて高い状態となっている。



 今回の任務で邪神が入り込んでいるのを知っているのは、作戦参加メンバー以外であれば現国王である父親と原初の貴族の当主達と教皇、つまり聖域に参列を許されたメンバーのみ。




 もしエテルムの実験の成れの果ての状況であるのなら、その事実を受け止めて動かなければならない。




「王子、見えてきましたよ」



 ウィズの言葉に我に返って、外の景色を見ると、徐々に近づいてくるケルシール女学院の障壁が見えた。


 入学式と卒業式は王族を招いて行われており、故に王子自身は何回も訪れているから、見慣れた景色だが、今回の状況が情況、緊張感が高まる。


 正門に辿り着いた時、到着を見届けて正門が開く、、。


 最初に出てくるのはここに常駐している女性憲兵だが、、、、。


 数十人が一列に並び出迎える、その最前列にはケルシール女学院の最高責任者である修道院の武官中佐の制服を着た憲兵中佐が出てきた。


 女性憲兵は、王子に敬礼をすると話しかける。


「王子、ようこそいらっしゃいました。分かっていらっしゃると思いますが、学院の敷地内に入るための手続きについて王族の例外規定は存在しません」


「理解している。存分に調べるが良い」


「それでは失礼します」


 と女性憲兵が近づいてくる。


「…………」


 当然に突然発狂して襲い掛かってくるかもしれない。


 その際はルルト神が制圧してくれる手筈となっている。


 当然に王子だって護身術の訓練は積んでいるから即座に対応できるように身構える。


 そして、、、、。


「異常ありません。ご協力感謝します」


 異常ありません、そう、今のところ憲兵達については異常は無かった。


 だが当然に「だから安心」する話ではない。


 武官中佐の憲兵が話しかけてくる。


「王子、入ってすぐに職員が待機しています」


「わかった」


「よろしく願います、正門! 開けえぇ!!」


 と憲兵の号令の下、正門が開く。


 さあ誰が来るのかと身構える王子


 そして正門が開いた先、入ったすぐ先に待っていた職員、、、。



 その人物は、王子の姿を認め、すっとスカートを摘まみ上げ、上流の挨拶をする。



「お久しぶりでございます王子」


 その人物を見て王子は発言する。


「久しぶりだなバイア、フェンイアの聖歌隊の退任式以来か?」





 バイア・ギャイヒ。


 現ケルシール女学院文化科目部長。


 元フェンイア聖歌隊の筆頭隊員。


 フェンイア聖歌隊は、ウィズ教で全体での重要な儀式にウィズ神をたたえる歌を歌う重要な職責を担い、聖歌隊隊長は枢機卿というウィズ教の最高幹部としての待遇を得られる。


 その聖歌隊の中で筆頭隊員は、隊長、副隊長に次ぐナンバー3。


 地位はナンバー3でも筆頭という地位は隊員の中で一番の実力者が選ばれる。


「息災そうでなによりだ、退任してお前の歌声が聞けなくなったのは寂しく思ったものだ」


「勿体なきお言葉です」


「お前なら副隊長や隊長も狙えただろうに」


「当時の副隊長と隊長も敬愛に値する方でした。何より私は政治に向いていません。今は後進育成が生きがいです」


 凛とした佇まい。バイアについて神楽坂はこう言っていた。



――最初は凄いとっつきにくいかと思ったんですけど、こう凄い尊敬できる人なんですよ。ただ、その尊敬できる部分が凄い分かりづらい人です。



 これはフェンイアの聖歌隊でも同様の評価で、当時の聖歌隊からは一目置かれていたが、政治をしない彼女の部外の評価は実は低かった。


 これは女学院でも同じようで、同じ歴史科目の部下やケルシール女学院の聖歌隊の隊員たちからは慕われているそうだが、それ以外から、特に生活指導も兼ねているため、生徒達からは嫌われているそうだ。


 ただその高潔は姿勢はセアトリナ卿に認められ、現在ではケルシール女学院の上級幹部に名を連ねている。


 そんなバイアと雑談をしながら敷地内を歩く、、、。



 平和、、、。



 そんな言葉がよぎる。


(【王子、バイアから神の力は感じないよ】)


 とは使用人に扮したフメリオラ。


(【王子、少し見て回ってみましたが、全員、普通に授業を受けていますね】)


 とウィズが話してくる。


 まだ予備段階、油断は解かない。


 バイアと雑談を続けたのちに後見えてくる。


 ケルシール女学院の校舎だ。



――学院長室



 校舎内は、以前訪れた時と本当に変わらない。人の気配と何処か厳かな雰囲気のいつものケルシール女学院だ。


 バイアは、学院長室前まで案内すると、コンコンとノックをする。


「バイアです、お連れしました」


「入りなさい」


 と返事が聞こえたところで、再び上流のお辞儀をするバイア。


「学院長より、密談をする故、案内のみでよろしいという指示を受けております。それでは失礼いたします」


「ああ、またお前の歌声を聞かせてくれ」


 と学院長室前を後にするバイア。


 バイア異常はないようだが、セアトリナはどうなのか、、、。


 重厚な扉があいた先、、、。



「お呼びだてして申し訳ありません、王子」



 と口調こそ普段どおりではあるが。




 顔面蒼白なセアトリナが出迎えてくれた。







 よく見ると顔面蒼白なだけではない、冷や汗をかいているセアトリナ。



 彼女の感情は恐怖に支配されている感情。



「…………」


 王子は、覚悟を決める。


「……王子、私の自宅へとよろしいでしょうか?」


 自宅、セアトリナの自宅は複数持っており、そのメインが校舎の最上階に構えている。


 セアトリナの案内の下、王子と使用人に扮したままの3人が付いていく。


 扉に触れるセアトリナの手が震えている。


 その震える手のまま、扉を開錠して、、。



 玄関ホールの先に入った時、、、、。



 その恐怖の理由があった。



 それは邪神からのメッセージ。





――神楽坂に感謝せよ






 と壁一面に。





 赤い血で書かれていた。







「…………」


 赤い血、、、。


 王子は目を閉じて、感情を抑制する。


 セアトリナも王子の言葉を待っている。


 そしてフメリオラに目配せをしてセアトリナが邪神の影響下ではないことを確認する。


「セアトリナ」


「はっ」


「まずは、この部屋を調べる。調査方法は極秘であるが故に、お前は学院長室で待機、その後事情聴取をする」


「仰せのままに」


 と一礼してその部屋を後にした。


「さて、フメリオラ神」


「はいはい」


 と、文字の一部をヘラで落としてアーティファクトの中に入れる。


 これは、要はDNA検査で、あらかじめ登録しておいたものと一致するかどうか判明する。


 時間はわずか1分程度で結果が出る。


 そして1分後。



 少し険しくなったフメリオラの表情を王子は見逃さなかった、、、。




「神楽坂の血だね、、、」




 無情にもそう告げるフメリオラ神。


「……全ての文字に対して、鑑定をしてくれ」


 半分祈るような王子の言葉、、。


 もし、全部が神楽坂の血だったら、、、。




 致死量の血液が使われて書かれていることは誰の目にも明白で、、、。




 結果、全ての文字の鑑定結果が神楽坂の血だという結果だった。







「待たせたな、セアトリナ、すまなかったな、お前の私室なのに」


「お気になさらず」


 調査内容については何も聞かないセアトリナ、緊張感をはらんだ王子はふうと一息つくと。


「まずサクィーリア継承式の翌日から話をしてくれ」


「はっ」


 当然その質問は想定していたのか、よどみなく返事をするものの。


「とはいえ、話せることは余り無いのですが」


 セアトリナは話し始める。





 サクィーリアの世代交代。


 その際のセアトリナの仕事は、旧生徒会役員の秘書登録だ。


 一口に登録と言っても、やる事は沢山ある。


 勇退した旧生徒会役員達は、卒業まで末席とはいえ一時的上流に名を連ねる訳だから、原初の貴族を始めとした有力貴族との挨拶をしなければならず、その挨拶だけで7日間ほどかかる。


 まず挨拶の前段階として有力貴族の当主と貴族以外の有力者への手紙を執務室でしたためている。


「…………」


 邪神のことが頭から離れることはない。


 だが通常業務は続けなければならない。


 それが神楽坂の指示でもある、何があっても絶対にルーティンを崩さないでくれと、崩すことは邪神の不興を買うことに繋がると。


 その神楽坂の指示で思い出す。


(ヒネル先生、、、)


 既に犠牲者が出ている。


 それもただの殺され方ではない



 ボール状にするという虐殺。



 詳しい状況は神楽坂からは何も聞いていない、いや、なにも聞けない。絶対服従をすると伝えられたため犠牲になったとだけしか知らない。


 だが何も知らないというのは不安だ。


 神楽坂の仲間は、何も知らせない人に何も知らない状態で尽くせるのか、、、。


 コンコン。


「ひっ!!」


 思わず悲鳴をあげそうになるが、そのまま抑える。


 威厳を保たなければならないと少し息を整えた後、誰が来たの問うと返事が返ってきたので「入りなさい」と中に入れる。


 それにしても、この時間に何の用だろうと思う。




 彼女が執務室の中に入り、、、、。




 ざあ、と頭の中に一瞬砂嵐が、、、、。



 目の前にいるのが誰なのか、、、わかる。



 セアトリナは教職員、生徒全ての顔と名前を憶えているのだから。



 誰かが分かる……、誰かが……。



「え、、、、」



 誰か分かるのに、、、、。



 何故、、、、。



 目の前の人物を、、、、。



「っ!!!」



 これは本能と言っても、過言ではなかった。



 そのまま立ち上がり、セアトリナは逃げようとして。



 ガン! と掌で口を覆われる形で壁に叩きつけられる。



『騒ぐと殺す』



 頭の中で響く神の言語。


 怖い怖い怖い怖い怖い。


 ヒネルの遺体。


 ボール状の遺体。


 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!!!


 恐怖に染まるセアトリナを見て邪神の目が嗜虐的に染まる。


「がっ、ぐぐあ」


 グググと体が歪む音がする。


(死ぬ! 死ぬ!! 死んでしまう!!!)


 メキメキと体が軋む音がする。


 死を意識した時、、。


 パッと突然開放されて、その反動で地面に尻もちをつくが。


「っ!! ~っ!!」


 口を必死で閉じる。


 その姿を見て邪神が高笑いを始めた。


『あはは! なるほどなるほど、騒ぐと殺すと言ったのは私だ。恐怖に染まりつつも、必死に理性を保ちつつの判断。なるほどなるほど、騒ぐと殺すことと騒がないと殺さないことは同義ではないが、まあいい、機転は見せてもらった』


 邪神は、ぐっと片手でセアトリナの顎を掴み引き寄せる。


『私は今、とても上機嫌だ、だから殺さないでおいてやろう』


 邪神は、満足気に微笑む。


『っと、ここに来た理由を言っていなかったか、大した用ではない。挨拶にあがろうと思っただけだ。「エンディング」に非常に満足した、だからこのまま立ち去ろう』


『最後にお前に対して私からメッセージがある。どう捉えるかはお前次第。王子を呼び、好きなだけ調べればよい、ああそうだ、お前にも一つだけ感謝がある』



『お前の娘の未熟さ、無能は劇のスパイスになった、カッコいい先生の姿が見れて、ありがとう』



 と、頭に手をかざすと。


 そこでセアトリナの意識が途絶えた。



:後篇へ続く:


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